スタッフ間の意思疎通が大切

 2017年2月27日~3月3日(現地時間)、アメリカ・サンフランシスコ モスコーニセンターにて、ゲームクリエイターの技術交流を目的とした世界最大規模のセッション、GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2017が開催。会期2日目の2月28日に、Game Narrative Summitのひとつとして、フリーランスのナラティブデザイナー、ミッシェル・クロウ氏による“Fade to Black? Writing and Designing Sex Scenes in Games”が行われた。

ゲームで性的シーンをどう表現すべきか? ナラティブのプロがその意義を語る【GDC 2017】_09
▲フリーランスのナラティブデザイナー、ミッシェル・クロウ氏。

“Fade to Black?”とは、いわゆる“フェードアウト”のことで、セッション名を記者なりに意訳すると“フェードアウトで表現するのか? ゲームにおける性的シーンのライティングとデザイン”ということになるのであろうか。洋の東西を問わず性的シーンの描写はデリケートな問題で(さらに言えば、ゲームに限らずですが)、それを“どう描くべきなのか?”を語ったのが本セッションだ。

 「性的シーンにはつねに恥や批判がつきものであり、ゲームの世界でも性的シーンを描写するよりも、敵をぶちのめす表現(つまり暴力表現)のほうがやりやすい」と、冒頭で性的シーンの難しさを語ったクロウ氏は、「開発チーム全体で検討して、状況をしっかりと確認した上でシーンに取り組むことでよいものが作れる」と、スタッフ間の意思の疎通の大切さを挙げる。「チーム全員が、どのように性的シーンをゲームに取り入れるかについて、合意していなければいけないんです」(クロウ氏)とのことで、デリケートな問題であるからこそ、意思の統一が必要というわけだ。そのためには、“チーム内に仲間を作る”、“スタッフから幅広く意見を求める”、“アイデアを共有する”といったことも大切だという。

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 デリケートな問題であるがゆえに、当然のこと“ストーリー上の必然性”もキモとなる。「ストーリーの流れのどこに入れるかは、全体の流れをきちんと把握し、性的シーンの重要性も理解したうえで検討すべきです」とクロウ氏。パートナーは誰か、どのようなアプローチを取るか、受諾か拒否か、性的関係を結ぶ理由など、キャラクターをよく知った上で、「なぜ、誰と、どのようなシグナルを交わして、そこに至るのかを十分に検討すべき」(クロウ氏)だという。いわゆる1本道のストーリーである“リニア”な語りならば相互の関係も作りやすいが、複数の選択肢が可能で自由度の高い“ノンリニア”な語りだと説得力を持たせるためにさらなる描写が必要になる……というのは、ゲームならではの悩みといったところだろうか。

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 クロウ氏がさらに強調するのは“多様性”だ。人が何を“セクシー”と感じるかは人それぞれ。「すべての人の性に対して、理解と敬意を持って対応することが大切です。人によって性に対するさまざまな嗜好があるので、いろいろと試してほしい」とクロウ氏。

 そして、ナラティブデザイナーならではの発言だなあと、ハタと膝を打ったのが「性の営みを経て、自分のキャラクターを育てること」との指摘。必然性を持って性を描くのみならず、「キャラクターが変わっていく様子をしっかりと表現してほしいと思っています」(クロウ氏)というのだ。人間である以上、性を描くのは自然なこと。性的シーンをへんに意識するのではなく、ストーリーなどの要請にもとづいて自然に描くことで、キャラクターがさらに魅力的に描かれ、ナラティブも深みが増す……ということは言えるのかもしれない。「性に関してのオープンで正直なライティングを期待しています」とクロウ氏は講演を締めくくった。