最新技術がゲームの未来を照らす

 2017年2月27日~3月3日(現地時間)、アメリカ・サンフランシスコ モスコーニセンターにて、ゲームクリエイターの技術交流を目的とした世界最大規模のセッション、GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2017が開催。会期初日の2月27日に、GDC会場からほど近くにあるホテルZettaにて、Ubisoftによるプレスイベントが開催された。本イベントの主旨をざっくりと説明すると、Ubisoftが自社で取り組んでいる最新技術をプレス向けに改めて紹介するといった内容で、(1)VR、(2)Live Games、(3)Snowdropの3項目でプレゼンが行われた。以下、その模様をお伝えしよう。

(1)豊富なコンテンツ開発で分かったVR空間の真実

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▲豊富なVRコンテンツを開発しているユーUbisoft。写真はクリス・アーリー氏。

 UbisoftにおけるVRの取り組みを説明したのは、バイスプレジデント・オブ・デジタパブリッシング クリス・アーリー氏。VRに積極的な取り組みを見せる、Ubisoftでは、HD対応のVRデバイス向けや、アミューズメント施設向け、Google Daydream向けなど、幅広いVRコンテンツを展開。「Ubisoftでは、さまざまなVRのアイデアを実験しています。これからも楽しいゲームを作れるように努力していきます」(アーリー氏)とのこと。

 プレゼンでは、アーリー氏は、それまでVRコンテンツは“動きが大きすぎると気分が悪くなる人が多い”、“短くなくてはいけない”、“非社会的なものである”と言われてきたが、「私たちの経験からそうではなかった」(アーリー氏)と断言。以前、とある調査で“ひとつのセッションは7分まで”と言われていたそうだが、Ubisoftでは目標時間を10分に設定。実際『イーグルフライト』では、73%のセッションが10分以上とのこと。また、『Werewolf within』という同社のVRタイトルでは、半分以上が30分以上のセッションだったという。さらには、「トッププレイヤーは、最初の60日間で250時間以上をプレイしていた」という驚きの数字も紹介された。アーリー氏によると、プレイヤーはVRコンテンツに「ふつうにプレイしているような典型的な大型ゲームを求めていることがわかった」という。

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▲ユーザーのVR体験時間は思いのほか長い。
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▲VRでふつうのゲームを楽しみたいというユーザーが多いという調査結果も。

 『Werewolf within』や開発中の『Star Trek: Bridge Crew』のプレイから判断してわかったことは、「友だちだけではなくて、知らない人とグループでプレイしても楽しんでいる」ということだとアーリー氏。「自分以外の者になることで気分が楽になって会話ができます。アバターになったほうがソーシャルコミュニケーションがうまく取れる」(アーリー氏)というのが、その一因のようだ。そのため、VRコンテンツの開発にあたっては、頭や胴体と声の様子、唇の動きをシンクロさせたり、ジェスチャーに合った表情になるように工夫しているという。いかにリアルに見えるかが、VR空間でのコミュニケーションでも重要になるからだ。誰かから話しかけられたら目を見て会話をしているように見えるようにしたというのも、リアリティーに配慮してのものだ。

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▲『Virtual Rabbids: The Big Plan』の開発者のおふたり。

 なお、会場ではGoogle Daydream専用タイトルとして発表されたばかりの、『ラビッツ』シリーズ『Virtual Rabbids: The Big Plan』が出展されていた。本作は、指定されたアイテムを持ち上げるといった気軽に楽しめるミニゲーム集となっている。開発者の方によると「2017年4月発売を目標にしています」とのこと。日本での展開は不明だ。

(2)ゲームがゲーマーに支持されるために必要な継続的なサービス

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▲アニー・ブロンデル-ジョイン氏。

 Live Gamesのプレゼンを担当したのは、VP ライブオペレーター アニー・ブロンデル-ジョイン氏。“Live Games”というと、不勉強な記者にはピンとこない言葉だが、ジョイン氏のお話を聞く限りでは、拡大解釈かもしれないが、ゲームの楽しみかたの幅の広がりを指すのではないかと思われる。「ゲーマーの行動は変化し続けています。かつては家でひとりまたは友だちとプレイしていることが多く、オンラインで楽しむ方はほんの一部でした。いまは、ゲームを巡るコミュニティー、“集まって楽しむこと”が重要になっています」とジョイン氏。

 そもそも“ゲーマー”とは、「ゲームを愛し、自分でコンテンツを作り、友人だけでなく世界にゲームを拡散する影響力を持つ人たち」とジョイン氏は定義。ゲームに情熱を持ってもらうために、つぎつぎとヒット作をリリースするのではなくて、オンラインイベントやコミュニケーションツール、拡張版、アップデートなど、継続してサービスを提供していくことが重要だというのだ。「ゲーマーの声を聞きつつ、同時に彼らの行動を観察してベストなコンテンツを提供すべきです」とジョイン氏は言う。

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 そんな時代だから、ゲームに対する展開も変わってくる。“追加コンテンツ”などを中心とした、ゲーマーにフォーカスしたアプローチが主流になってきているというのだ。Ubisoftでは、“Live Group”が先導して、すべてのプロジェクトで“Live Games”を推進。結果、MAU(月間アクティブユーザー)の33%の増加やセッション日数87%増加などの結果が見られたという。「これは、ゲーマーが友だちを連れてゲームに何度も戻ってきていることを示しています」(ジョイン氏)という。ちなみに、『レインボーシックスシージ』は6週連続でDAU(デイリーアクティブユーザー)の記録を塗り替え、いまも増えているとのこと。一方、『ディビジョン』は第3四半期のアクティブユーザーが500万人で、パッチ1.4の配信以降は、エンゲージメント(利用者)が150%増加したという。

 根底にあるのは、つねにハイクオリティーなコンテンツを提供すること。たとえば、『レインボーシックスシージ』では、サービスイン初年度と2年のロードマップでは、前年度に展開してきたことへの信頼があってこそ、2年目がさらに成功をみたと説明、さらに、『フォーオナー』では、シーズンごとに3つある勢力が闘うので、その度ごとに新しいプレイヤーが入りやすくなっているといった具体例がそれぞれ開示された。

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 「つねにベストで息の長いエンターテインメント経験を提供することを心掛けて、自分たちのゲームがゲーマーたちのゲームになるように努力することが重要です」と、ジョイン氏はプレゼンを締めくくった。

(3)ゲームエンジンSnowdropはさらに進化する

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▲ビョルン・リンドバーグ氏。

 Snowdropは、『ディビジョン』に使用され注目を集めた内製のゲームエンジンだ。同エンジンを開発したマッシヴ・エンターテインメント オンラインテクニカル・ディレクター ビョルン・リンドバーグ氏によると、Snowdropは「レンダリングやAIの行動などだけでなく、レベル・エディター、パーティクル・エフェクト・エディターなど、特定のコンテンツを作るモジュール(システムを構成する要素となるもの)の集合体」とのこと。コンテンツを作成したあとでテストを実施して変更する際に時間が節約できる“インテグレーテッド・エディター”を搭載していたり、開発者の便宜を第一に考えてのツールやワークフローを導入したりと、利便性が極めて高いのが特徴だ。

 Snowdropの設計思想の基本にあるのは、まずは“開発者やコンテンツクリエイターにパワーを与えること”。「むだな作業をせずに、おもしろいコンテンツを作ることに集中できるような、ベストなツールを提供する」のが目的だ。また、「見たままのものが手に入る。コンテンツクリエイターが予測する通りに作動する」、いわゆる“WYSIWYG(ディスプレイに現れるものと処理内容が一致するように表現する技術)”も重視しているとリンドバーグ氏。さらには、「開発したゲームをテストして修正するといった、反復作業時間をできるだけ短くする」ことにも配慮。あわせて、利用者や作業量の増大に応じて適応できる“スケーラビリティ”も大事だという。ゲーム開発では、コンテンツの量が膨大になったり、多人数が同時にゲームエンジンで作業する必要があるので、その対処がキモとなるからだ。

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 その後、リンドバーグ氏のプレゼンでは、Snowdropのテクノロジーの一例として、グラフィックメーカーの先端技術に対応できるようにした“レンダーパイプライン”や、『ディビジョン』で建物を作る際に活用した“コンストラクショングラフ”、雪の降る様子を表現する“スノーペインティング”などが紹介された。とくに、特定の外観を持った建物を作り、後からドアや階段を付けたり部屋を追加することが可能なゲームのためのハウジングツールである“コンストラクショングラフ”は、『ディビジョン』でオープンワールドのニューヨークを再現するにあたって、作業の効率化に大いに貢献したようだ。

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 今後のSnowdropの目標として、“Snowdropの精神に忠実であり続ける”や“Ubisoftのほかのプロジェクトからの修正点を反映しての再統合”、“テクノロジーのさらなる進化”などを掲げたリンドバーグ氏は、最後にSnowdropを使った新たなプロジェクトとして、ジェームス・キャメロン監督や20世紀フォックスとマッシヴ・エンターテインメントによるコラボ作が始動中であることを明らかにしてくれた。映像を見る限りでは、『アバター』のようだが……。映画『アバター2』が2018年には公開されるとアナウンスされていることもあり、今後の情報に期待したい。