『バイオハザード7』がCoopを不採用にし、新たな主人公、カメラシステムを一新した理由が語られる【GCC’17】

2017年2月18日、大阪府立国際会議場にて関西圏のゲームクリエイターを対象としたカンファレンス “GAME CREATORS CONFERENCE’17”が開催された。ここでは、『バイオハザード7 レジデント イービル』ディレクター中西晃史氏による講演の模様をお届けしよう。

●根底にあるのは「楽しいと思えるゲームを作るには、楽しんで制作すること」

 2017年2月18日、大阪府立国際会議場にて関西圏のゲームクリエイターを対象としたカンファレンス “GAME CREATORS CONFERENCE’17”が開催された。ここでは、『バイオハザード7 レジデント イービル』ディレクター中西晃史氏による講演“オール・アバウト・バイオハザード7”の内容をお届けする。
 なお、このセッションはネタバレを多く含んでいるため、未クリアーのかたは注意してほしい。

ビッグフランチャイズにおける変革の意味、そのコンセプト決定のプロセス

▲『バイオハザード7 レジデント イービル』ディレクター中西晃史氏

 まず初めに中西氏は、発売から約3週間が経ち全世界の出荷本数が300万本と突破した『バイオハザード7 レジデント イービル』(以下、『バイオハザード7』)について、ポジティブな評価を多数いただいていると述べる。
 2014年に指導した本プロジェクト。『バイオハザード7』の制作を率いるCS第一開発室統括の竹内潤氏はプロダクトビジョンとして(1)ホラーにフォーカス、(2)『死霊のはらわた』(原題: The Evil Dead)がモチーフ、(3)2No Coop、(4)シリーズ関連は最後だけ、という4点を掲げる。

 なぜ『死霊のはらわた』(原題: The Evil Dead)をモチーフにしたのか。その理由には、『死霊のはらわた』舞台となる山の小さな廃屋が、『バイオハザード7』を広い世界ではなく狭い世界で展開させていくという意図とマッチしているからだ。エレクトロニック・アーツやActivisionが展開するビックバジェットプロジェクトではなく、『バイオハザード7』では小さいところを作り込んでいくこと(狭く深く)に徹したそうだ。また、システムなどを一新したいという希望もあったため、フォトリアルにして主観視点(FPS)を採用している。『バイオハザード1』~『3』は固定カメラ、『4』~『6』はTPSと、3タイトル区切りでカメラシステムが変更されているので、『7』ではまた新たにカメラシステムを変えていこうという話になったそうだ。そして、本作はシングルプレイのみで、シリーズキャラクターは登場しない。これはホラー体験に集中してもらうためであり、シリーズキャラクターがでてきてしまうとキャラクターの個性などに縛られてしまうことを懸念してのことだ。これを受けて中西氏は、「なんでもやってもいいんですね!」とテンションが上がったと言う。

 なお、上記のビジョンは突然できたわけではない。『6』の後、『7』はどのように展開していくか社内でアツい議論があり、中西氏自身も『バイオハザード』はブランドの方向性をしっかりと示したほうがよいのではないかと思っていたそうだ。
 『バイオハザード7』が発売される前、『バイオハザード』はどんなゲームなのか説明してもらうと、「ゾンビをバンバン倒していくゲーム」と昨今言われていたが、そうではなく「めっちゃ怖いけどおもしろいゲーム」といってほしいと中西氏は語る。というのも、前者のようにたくさんのゾンビを倒していくゲームはいま世の中に溢れているので、『バイオハザード7』は『バイオハザード』にしかできない体験を目指すべきではないかなと考えていたのだ。
 という訳で『バイオハザード』にしかできない体験を目標に開発企画を練る。そこで思い出したのが、初めて初代『バイオハザード』を遊んだ時はすごくインパクトがあったこと。初代『バイオハザード』の体験はどういったものかというと、

・知らない洋館に閉じ込められてしまい、何故ここにいるのかわからないまま進んでいく
・いきなりゾンビに襲われる恐怖
・生き残れるわからない、とにかく早く洋館から出たい

と情報がまったくないわからない状態で不安を煽られ、謎に対するモチベーションがあったと述べる。

 このように、初代『バイオハザード』の体験に近いものにするため、真新しいシステムやイメージの一新を図ろうとしている。敵に関しても、ゾンビを登場させてしまうと、シリーズプレイヤーは「頭を撃ったら死ぬ」とすでに理解しているので、“死霊”という新たな敵を用意してプレイヤーが「何をしてくるかわからない恐ろしい奴」というフィールを持てるようにしている。そして、もうひとつ大事なのは“館モノ”であることだ。閉鎖空間を脱出するために、弾薬を必死に集めながら、謎を解いて脱出経路を切り開いていくという感覚を味わえるようにしたと語った。

 しかし、ここまで綿密に企画を練っても、人は恐怖に慣れてしまう。とくに『バイオハザード』の場合は、恐怖の対象になる“閉鎖空間の脱出”や敵の撃破に“カタルシス”を感じるようになっているので、倒せるようになっていくと“未知の存在”から“対応できる存在”に変化してしまう。この『バイオハザード』の面白さとホラーの面白さのあいだに、ジレンマが生じてしまうという訳だ。これを少しでも除いて恐怖を持続するために、マーガレットは毒虫母さん、ジャックは折檻親父、ルーカスはサイコスリラーという別々のホラーテーマを設定している。

 また、恐怖自体の質を上げる方法として、没入感をより高めることを研究したと言う。自分が実際にそこにいて体験しているという感覚は、ホラーゲームにとってかなり優位なもの。そのため、FPS視点は『バイオハザード7』にすごくマッチしており、フォトリアルにすることでさらに没入感を高めることができたそうだ。
 主人公については、キャラクター性をあまり出さないように控え目にしている。ゲームをプレイしている人自身が大切なので、プレイヤーより前に出てでしゃばらないよう薄目に設定したそうだ。一方で、ベイカー一家など、敵は強烈なキャラクターを設定している。

 結果、今回の使用することができなかったバイオおなじみの要素(レオンなどおなじみのキャラクター、アクション、Coop、ゾンビ、ブロックバスター)。これらは恐怖にフォーカスするとなると、向いていないと考え『バイオハザード7』では除かれている。長年培ってきたフランチャイズなので、「キャラクターが好き」、「ホラーが好き」、「爽快なガンアクションが好き」と、ファンの好みのポイントすべてを『バイオハザード7』に全部詰め込むことは不可能だ。
 悩みに悩んだ末、「誰からも好かれようとすると、結局は誰にも好きになってもらえない」という考えに行き着いた中西氏。「なにをやるか決めることは、何をやらないかということを決めること」でもあると力強く断言した。またカプコン会長・辻本憲三氏も「ええもん作ったら、結果はついてくるんや」と後押しをしてくれたとのこと。開発の力を信頼してくれているカプコンは、クリエイターにとってはよい環境ではないかと述べていた。

▲海外メディアが『バイオハザード』シリーズについて「栄光を取り戻すことはできるのか。カプコンは『バイオハザード』について何もわかっていない」とネット上で言われている状況だったので、大きな方向転換は必要でもあったと述べる。この方向転換の手本となったのが、『バットマン』シリーズ。初期はシュワルツェネッガーが登場したりと王道的なアメコミ風であったが、『ダークナイト』から大きなイメージチェンジを施している。バイオハザードも同じ状況だったのだ。

開発行程の紹介

 企画が一通り整ったところで、いよいよ開発段階へと進む。とは行っても、いきなり本制作は行わず、ホラー映画の鑑賞会、お化け屋敷と心霊スポットに行ったそうだ。これは本当に嫌がるスタッフがいたそうだが、なんとか説得してつれていったと苦労話も語られたが、やはり怖い体験を与えるのに怖い体験を知らないのはまずいという考えのもと実施したそうだ。
 さらに、一部スタッフが『死霊のはらわた』を見て「どこがよいのかわからない」と意見してくるというちょっとした問題も。約30年前の映画なのでチープでB級映画らしい感じに馴染めないものもいたそうだが、「低予算でもやりたいことを実現しているそのパッションを受け取ってくれ」と説明して、チームのビジョンの統一を図ったのだという。
 チーム内で恐怖への考えを統一した後は、Unityでプロトタイプを作成することから始まる。テクスチャー、モデリングは荒いが、実際に遊べる状態にすることが大事だったそうだ。

 またプロトタイプ期間では仕様書はなるべく書かないようにし、セクションを撤廃を行っている。この撤廃の意図は、自分の仕事意外にも興味を持ってもらいたいことで、例えば「アニメーションの仕事をしていても、モデリングも多少できるとなればやってもらったほうが刺激にもモチベーション向上にも繋がる」という考えからだ。なお、セクションはなくなったが、小さいグループを作り、各グループにゴールを伝えて各々で裁量を決めるというスタイルを取って行ったとのこと。グループ分けもプログラマーとアニメーション、サウンドといった組みかたでお互いに刺激を与え、チーム力の底上げを狙っているそうで、自分の作ったものに愛着をもってもらったほうが絶対に良いものが作れると考えていると述べる。この意図は、制作チームの中に小さいインディーデベロッパーが複数存在するという雰囲気を望んでのことだ。
 しかし、小規模チーム制にした反面、マイナスポイントも出てくる。チーム分けに馴染めない人やチームごとに自由に制作を進めていたので、全体を通してみるとチグハグな状態になってしまったのだ。
 それでも、小さいインディーデベロッパーのような囚われず勢いのあるモノづくりは大切。この小規模のチーム制にして自由に制作を行わせたことによって、尖ったシチュエーションが生まれたと中西氏は語る。ここで生まれたシチュエーションは製品版に活かされているものが多数あり、その中のひとつに「いまいちインパクトが足りないから、腕を切り落としましょう!」というノリの意見で、主人公の腕を切り落とすことにしたのだとか。ちなみにこの段階では、ストーリー関連についてはまったく制作はしてなかったそうだ。

 プロトタイプ制作から1年後。Re エンジンが遂に完成し本番用プロセスの開発に進むことになった開発チーム。ここで中西氏は、昨年CEDEC 2016で一時期話題を呼んだ、例のスライドをなぜか見せる。

 どうやら、このスライドが公開されてから「カプコンの経営陣はひどい!」とネットで拡散されてしまったので、「ちゃんと説明してきてくれ」と言われたらしい(笑)。中西氏は、上記写真のスライド左側に描かれている要望は、ゲーム制作において当たり前のことだと前置きする。ゲーム業界は進歩が激しいので、停滞しては乗り遅れる。そのため、毎度こういった少ないリソースで高品質で大量のアセットを生み出すことを意識しないといけないし、業界のすべての人が求められていることであると強調する。Re エンジンやフォトリアルの技術を駆使することはいままでの制作方法を変えていく必要があり、そのためには写真左側でかかれていたミッションは必要不可欠、すなわち無視して通れないものであったそうだ。なお、『バイオハザード7』では実際にこの要望を達成することができている。

 さて話は戻り、本開発プロセスについての説明へ。本編の各チャプターでは、グレーボックス⇨1st⇨2nd⇨polish⇨QAという流れで進んで行くと説明する。写真のようにチャプターごとの流れを重ねて、かつゲーム全体の流れを五月雨式で進めているのだ。開発段階では、このグレーボックス⇨1st⇨2nd⇨polish⇨QAといった節目ごとに、改善修正をくり返えしてゲームを仕上げている。中西氏曰く、イメージとしてはバウムクーヘンのように薄く作り上げていって、何層にも重ねて完成させていくといった感じとのこと。作中ではミアとゾイのどちらに血清を打つかによってストーリーに分岐が生まれるようになっているが、これも制作途中でアイデアが生み出され採用されたという背景があると紹介してくれた。

 そして「開発者もプレイしていて怖いの?」という質問に対して、「最初は怖い思いをするが、だんだんと麻痺していく」(中西氏)そうで、製品に対して「本当に怖い仕上がりになっているのか?」と不安になってきてしまい余計な修正をしてしまうことも多々あったとのこと。そこで、社内でまったく『バイオハザード7』をプレイしていない人を対象に、反応を伺うテストプレイを数十回行っている。ここで、恐怖の度合いだけではなく、ストレスをどのくらい与えてどこでストレスを解消するようなシチュエーションを与えていくか、銃弾がない枯渇感、ユーザーを放り出してどのように目的意識を与えるかという点を客観的に確認できたそうだ。ユーザーテストがいかに大事なのかが伺える。

 いくつかの厳しい制約条件、そして厳しいスケジュールではあったが、第1開発部が制作を維持できた最大の要因は「楽しんで作る」「笑いは大事だ」であると中西氏。緊張感をほぐして能力を発揮する、そして「人を楽しませるものをつくるには、製作者も楽しまないとできないだろう」という考えが根底にあったからだ。

 最後にまとめとして中西氏は、「最初に掲げたビジョンを達成できた。クリエイターとしては充実感をもった日々を過ごしている。この『バイオハザード7』を出したことで、『バイオハザード』に対する見方が変わったのではないのかと思う」と述べ、セッションを締めくくった。

最後に、ローンチパーティ時に上映した、開発スタッフお手製の内輪用動画を見せてくれた。これが「プロジェクトX風」で、かなりおもしろかったり(笑)。