インテリジェントシステムズの川出亮太氏が語る 『ファイアーエムブレム 0(サイファ)』や『スーパーペーパーマリオ』に見る、ゲームを作る “目的”の大切さ【GCC’17】

2017年2月18日、大阪府立国際会議場にて関西圏のゲームクリエイターを対象としたカンファレンス “GAME CREATORS CONFERENCE’17”が開催された。ここでは、『ファイアーエムブレム』などの開発元としておなじみのインテリジェントシステムズの川出亮太氏による講演の模様をお届けしよう。

●“企画にとっていちばん大事なものは?”

 2017年2月18日、大阪府立国際会議場(グランキューブ大阪)にて関西圏のゲームクリエイターを対象としたカンファレンス “GAME CREATORS CONFERENCE’17(GCC’17)”が開催された。ここでは、『ファイアーエムブレム』などの開発元としておなじみのインテリジェントシステムズ 事業開発部 シニアディレクター、川出亮太氏による“企画の考え方”の模様をお届けしよう。

▲マルスの姿で登場した川出亮太氏。サービス精神満点。

 「出落ち」と川出氏がみずから認める『ファイアーエムブレム』のマルスの衣装で颯爽と登場した川出氏は、講演の冒頭で、来場者に“企画にとっていちばん大事なものは?”という問いを投げかけた。それに対する川出氏の答えは極めてシンプルで、“目的”というもの。“おもしろいもの”や“いいもの”、“売れるもの”を作ろうとする前に、とにもかくにも“何が目的なのか?”を最初に考えるのが肝心だというのだ。

 その具体例として、川出氏が挙げたのが、自身が手掛けたWii用ソフト『スーパーペーパーマリオ』。2007年にリリースされた『スーパーペーパーマリオ』だが、川出氏は同作を開発するにあたっての“目的”を、“『ペーパーマリオ』というシリーズを確立してファン層を拡大する”、“ゲームソフトをたくさん売って利益を出したい”だったと説明。その2点を満たすために企画を考えたのだという。結果として、『スーパーペーパーマリオ』は、それまでのアクションRPGではなくて、2Dと3Dを切り替える“次元ワザ”を中心としたアクションメインのゲームとなった。“次元ワザ”を思いついたから企画を立てたのではなくて、あくまで“目的”の達成のために“次元ワザ”を考案したというわけだ。おもしろいゲームを考えるのが企画ではなくて、商品の目的を実現するのが企画。「目的に応じて、それを達成するために必要なものをひとつひとつ考えていくのが企画の仕事です」と川出氏は言い切る。

 たとえば、採用応募の企画書を見ても、“目的”の大切さはうかがえる。本来採用応募の企画を送る最大の目的は“採用してもらうこと”。そのためには自分の能力を示すことを中心にしなければならないのに、おもしろいゲームの企画書を提出してくるケースも多いという。採用応募の企画書は、ゲームのアイデアコンテンストではないというわけだ。さらに言えば、文字だけの企画書もいささか工夫が足りなくて、「企画書はある意味で、“商品”のようなものです。すごいと思ってもらわないとならない」と川出氏。わかりやすい企画書のためには、絵が得意な知人に手伝ってもらうこともありなのではないか、と川出氏は言う。

 わかりやすさということでいうと、川出氏が提出した『スーパーペーパーマリオ』の企画書は、紙ペラ3枚だったそうだ。“2Dと3Dを切り替える次元ワザ”にのみ特化されていたという。企画書は細かく説明する必要はなくて、「やりたいことがちゃんと伝わればいい」と川出氏。

 川出氏は、なぜそこまで“目的”を重視するのか。その理由のひとつとして、“少ない作業で、より質の高い仕事ができる”点を挙げる。目的を考えずに作業をした場合に比べて、目的を意識して作業した場合のほうが、少ない作業でより多くの目的を達成できる。さらに、目的に基いて作業しているために、たとえ企画そのものがダメになってもノウハウが蓄積されるため、作業そのものは無駄にならないという。

 そして、川出氏は、目的を達成するためのゲームデザインとして“引き算のゲームデザイン”を提案する。たとえば、80点のアイデアA 、70点のアイデアB、90点のアイデアCをゲームに盛り込むよりも、70点のアイデアBを切り捨てて、アイデアAとアイデアCに特化することで、アイデアの平均点が80点から85点に上昇するというのだ。思いついたアイデアを捨てるのは、クリエイターにとって勇気がいることだが、あえて捨てることによって「コンセプトが明確になる」という一面もあると川出氏は指摘する。全体をシェイプアップしてやりかたを明確化することによって、開発がスムーズに推進されるケースも、自身の経験に照らし合わせると多々あるようだ。たとえば、『スーパーペーパーマリオ』では、ストーリーなどの要請から一部後半のステージをばっさりと削除しているそうだが、そのことによって開発に必要な作業量を減らしつつ、余剰リソースを、より重要度の高い箇所のクオリティーアップに使用できたという。“引き算のゲームデザイン”は、開発リソースの効率化やゲームのコンセプトの明確化にも役立つ。ポイントは、「おもしろいかおもしろくないかでなくて、目的のための必要かどうかで判断すること」と川出氏。

 “目的”重視を前提としたコンテンツ作りとして、川出氏がつぎに具体例として挙げたのが、自身がプロデューサーを担当するトレーディングカードゲーム『ファイアーエムブレム 0(サイファ)』。川出氏は、『ファイアーエムブレム 0(サイファ)』の目的を“『ファイアーエムブレム』のブランド力をアップすること”だったと説明。ことの始まりは、2012年にリリースされた『ファイアーエムブレム 覚醒』のセールスが好調だったことにより、このブランドの勢いを維持したいという発想から企画がスタートしたのだという。当初から、「ゲームの発売と発売の数年間の空白期間にも話題を投入し、『ファイアーエムブレム』ファンをつねにホットな状態にする」という達成目的があったのだ。では、どんなコンテンツを投入すべきか……というときに、“戦略的なゲームが好き”、“キャラクターが好き”、“コレクション要素が好き”という『ファイアーエムブレム』ファンの傾向を分析して、トレーディングカードゲームが最適であるとの結論に至ったのだという。

 商品化に際してゲームデザインの前提にあったのは、トレーディングカードゲームに対する経験のあるなしに関わらず楽しめて、『ファイアーエムブレム』ファンに納得してもらえるというもの。そのため、ゲームデザインの方向性を“遊びやすくて奥が深い”、“ファイアーエムブレムらしさを出す”、“お店が商品を扱いやすい”といった点に設定。たとえば、オリジナルのゲームでは“剣・斧・槍”による3すくみの構造がおなじみだが、トレーディングカードゲームでは遊びやすさを配慮してこの仕組をあえてなくし、ゲーム中にプレイヤーが処理しなければならない要素を減らした。また、お店で行われる大会がスムーズに進行できるように試合が30分以内に決着がつくようにしたり、お店で効率的に置きやすいようにプレイシートのサイズなどもきっちり計算したというから、“目的”のための緻密な戦略がうかがえる。

 プロモーション活動なども積極的に行ったという『ファイアーエムブレム 0(サイファ)』。“目的”ということに関連して、コミックマーケットで採用された物販ブースの看板のデザイン例も興味深い。キャラクターひとりをピックアップしたスタイリッシュなデザイン(A)とたくさんのキャラクターが並び立つデザイン(B)と、どちらを看板のデザインにするかで迷った川出氏は、けっきょくは後者を選ぶ決断をした。コミックマーケットに出展する目的を考えたときに、その結論は自然に導き出されたという。コミックマーケットの目的は、“昔『ファイアーエムブレム』を遊んでいたけど、いまは親しんでいない人”や、“カードゲームはやっていないけど、『ファイアーエムブレム』は好きという方”に訴求すること。そのためには、歴代の主人公が集合した看板にしたほうが、「誰かしらにフックするだろう」と判断したのだ。スタイリッシュなデザイン案も決して悪くはないが、「正解不正解というよりは、目的に対して何が有効なのかが重要です」と川出氏は言う。

 最後に、講演を “目的があって、企画がある”、“目的を達成する手段を考えるのが企画の仕事”、“目的を明確にすることで、適切な判断ができる”とまとめた川出氏だが、締めくくりにちょっとしたオチが用意されていた。“目的”が大切とは言えど、最後に企画に求められるのは“熱意と運”だというのだ。どんなにすばらしい商材でもタイミングが悪ければ売れないし、どんなにいい企画を提出してもときにボツにされることもある。けっきょくは“熱意と運”が重要で、めげずにチャレンジするしかない。かくいう川出氏も、相当ボツを食らっているそうで、1回ボツを食らって凹んでしまう新人も多いという。「挑戦しないと成功しません」と川出氏は力強く語る。“熱意と運”のうえに、“目的”を見据えたコンテンツ作りがあって、初めて企画が成立するということなのだろう。

 講演後の質疑応答では、聴講者から「この講演の目的は何ですか?」という、いささか気の利いた質問が投げかけられた。それに対して川出氏は、「『ファイアーエムブレム 0(サイファ)』のプロモーション……というわけではなくて(笑)、会社内でも目的が明確化していないんで、無駄になってしまうアイデアや作業が多いです。若い人にとってはもったいないということもあって、こういう話をさせていただきました。ゲーム業界の発展のためです。目的は」とコメント。来場者から湧き上がった拍手から判断するに、今回の川出氏の講演の“目的”は、けっこう達成されたようです。