『The Walking Dead』をJAEPOに出展
2017年2月10日~12日に千葉県・幕張メッセにて開催された“ジャパン アミューズメント エキスポ 2017(JAEPO 2017)”。会場では、今後リリース予定の最新アミューズメントマシンが百花繚乱のきらびやかな趣きで出展されていたわけだが、海外ドラマファンにとってひときわ気になるタイトルが、バンダイナムコエンターテインメントブースの一角で試遊出展されていた。日本でも絶大な人気を誇るテレビドラマ『ウォーキング・デッド』をモチーフにした『The Walking Dead』だ。ドラマの世界観をベースに、クロスボウ型ガンコントローラーを採用した同作は、JAEPO来場者の注目をひときわ集めるタイトルだった。
[2017年2月18日午前5時30分]社名表記につき、誤りがあったため修正させていただきました。お詫びして訂正させていただきます。
同作の開発を担当しているのが、アメリカのアーケードゲーム開発メーカー、Raw Thrills(ロウスリルズ)。ロウスリルズは、今回のJAEPOにおいて『The Walking Dead』をお披露目。さらに、映画『ジュラシック・パーク』の世界をモチーフにした『ジュラシック・パーク 42インチver.』なども出展し、その存在感をアピールした。ロウスリルズのJAEPOへの出展は、同社の日本市場への注力をうかがわせるものと言える。
今回ファミ通ドットコムでは、JAEPOに合わせて来日を果たした、ロウスリルズのスタッフへの単独取材を実施。COOのアンドリュー・イーロフ氏とプロデューサーのマシュー・シアンティー氏に、ロウスリルズの詳細や『The Walking Dead』の開発経緯、さらには日米のアーケードゲーム事情などを聞いた。
アメリカのアーケードゲーム産業は、まさにルネッサンス
――まずは日本のゲームファンに向けて、ロウスリルズがどんな会社なのかを教えてください。
アンドリュー ロウスリルズは、アメリカでは高い知名度を誇るデザイナー、ユージン・シャーバスや私が中心になってシカゴで2001年に設立した会社です。そもそも私たちはずっとアーケード畑にいたのですが、1990年代に入って、多くのメーカーがアミューズメント業界から撤退してしまった。それで、ユージンと私とで、「アーケードの企業を立ち上げよう」と思ったのがきっかけですね。社名の“ロウスリルズ”のいわれは、言い換えると“Just Fun(ジャスト ファン)”です。「とにかく、楽しいことをやる」という社名です。ゲームでいちばん大切な部分は“おもしろさ”なのですが、余計なものを削ぎ落として、“Fun”に特化したものにしたいという思いが込められています。
――日本でもタイトルを展開しているのですか?
アンドリュー 2005年にタイトーから『ファースト アンド フューリアス』(映画『ワイルドスピード』をモチーフとしたレースゲーム)や『ターゲット:フォース』をリリースしていますよ。とくに『ターゲット:フォース』は、アメリカの市場では極めて評価が高かったです。日本でもそれなりに好評でした。私たちは“パンクロック”と呼んでいたのですが、「とにかくおもしろくてクレイジーな物を作りたい」ということでできあがったゲームで、市場のウケはよかったですね。以降も、“おもしろい体験を提供する”というポリシーをもとに、「信じられないくらい、こんなに楽しいものがあるんだ」とユーザーの皆さんに思っていただけるようなタイトルを作り続けています。
――手掛けているのはアーケードゲームオンリー?
アンドリュー そうです。アーケードに専念しています。
――なぜ、アーケードに特化しているのですか?
アンドリュー 私たちが考えている“ゲーム”というのは、モニターのみで完結するものではありません。全体的な経験なんです。アーケードだとモニター以外も含めた“空間としてのゲーム体験”が与えられる。私たちのポリシーにマッチしているんです。
――アメリカにおけるアーケードゲーム市場は、どのような感じなのですか?
アンドリュー アメリカのアーケードゲーム市場はまさに“ルネッサンス”を迎えています。
――ルネッサンスですか?
アンドリュー はい。一度、日本のように不景気に陥ったのですが、いまは回復しています。理由はおもにふたつありまして、ひとつはハイエンドのゲーム機が好調であること。大規模なゲームセンターが増えていて、事業の規模もどんどん拡大志向なんですね。もうひとつがレトロゲームの流れがありまして、往年の名作レトロゲームをアレンジして、ゲームセンターで提供しているんです。こちらも人気が高いです。レトゲームの流れは、お酒も提供する“ゲームバー”で展開されるケースが多いですね。
――お酒を飲みながらレトロゲームを楽しむと?
アンドリュー はい。で、人の心理としてレトロゲームに触れる人は、最初はノスタルジックな気分になって楽しいのですが、しばらくすると最新のものも試してみたいということで、ハイエンドのゲーム機も試してみたくなる。そういう意味ではいい循環ができていますね。
マシュー 古くからあるゲームのライセンスを獲得して、ロウスリルズのスタイルに合致するように調整してゲームを投入するようにしています。
アンドリュー 当社の『Space Invaders FRENZY』が、まさにそれです。同作はタイトーさんの往年の名作『スペースインベーダー』のテイストを踏まえつつ、新しい要素加える……ということで、開発したタイトルなんです。高さ3メートルの大型スクリーンで『スペースインベーダー』が遊べるんですよ。北米で行われたアーケードのトレードショーでは、極めて高い評価をいただいています。『Pac-Man Chomp Mania』なんかもそうですね。『パックマン』が発売されたのは1981年ですが、いまの時代にフィットするように、おもしろさを残しつつ、現代にマッチしたアレンジを加えています。レトロゲームは、「昔おもしろかったよね」という印象は強烈なのですが、その思い出を大切にしつつ、かつ新しい様子も取り入れて、刺激的な体験を目指しています。
――それでは、JAEPOの会場で出展されていた『The Walking Dead』のアーケードゲームは、ロウスリルズのハイエンド向けの1作ということですね?
アンドリュー そうですね。今回出展した『The Walking Dead』や『ジュラシック・パーク 42インチver』は、最先端のテクノロジーを駆使したハイエンド向けとなります。
――『ウォーキング・デッド』にしても『ジュラシック・パーク』にしても人気IPですが、なぜ人気IPをアーケードゲーム機向けに展開するという戦略を?
アンドリュー まあ、ブランド力のあるIPを使ったほうが、認知度が高いぶん注目される可能性が高いですからね。IPを活用して、“よりより経験を提供する”というのが醍醐味ではありますね。
――よりよい経験ですか?
アンドリュー 『The Walking Dead』を例に挙げると、クロスボウを駆使してゾンビを倒すことになるのですが、“クロスボウを駆使してゾンビを倒す”という行為を体験していただけるわけです。ふだんの生活でクロスボウを使ってゾンビを攻撃するシチュエーションなんて、まずあり得ないですからね(笑)。これが新しい経験なのかな……と。あとはライティングかな。ゲーム中は演出に応じて筐体のライティングを調整するとか……。
マシュー 五感で体験できる音とか光とかは、アーケードならではの体験ですよね。
――プラスアルファの体験が見込めるかどうかが、ゲーム化をするIPを選択するにあたってひとつの基準になる?
アンドリュー そうですねえ……。さきほどのIPをゲーム化する理由の補足になりますが、知名度のあるものを選んだほうが、ユーザーさんが瞬時に、潜在意識の中でどんなゲームかを判断できるということはあるかもしれません。『ウォーキング・デッド』だったら、「ゾンビをやっつけないといけないんだ」とか、『ジュラシック・パーク』だったら、「恐竜から逃げるのかな」とかすぐに判断できますよね。そこを狙っています。
――『ウォーキング・デッド』にしても、『ジュラシック・パーク』にしても超人気IPですが、よくゲーム化の権利を取得できましたね。
アンドリュー そこは、『ワイルドスピード』や『ターミネーター』、『エイリアン』など、ハリウッド映画のゲーム化でも実績も、それなりに積み重ねてきていますので、その成果と言えるでしょうね。ハリウッドではないのですが、オートバイのMotoGPのライセンスを取得してのゲームも手掛けています。私たちのゲームは、日本での知名度はいまひとつなのですが、海外では絶大な評価を集めています。それは、ユージンが1970年代から実績を積み上げてきた成果と言えるかもしれません。
――日本でロウスリルズさんを紹介するときは、“北米最大手のアーケードゲーム用メーカー”と謳ってもいいくらい?
アンドリュー “欧米において最大の”と言っていただいて構いません!
――今回『The Walking Dead』が出展されたのですが、同作で注力したポイントを教えてください。
アンドリュー ご存じのとおり、ドラマ『ウォーキング・デッド』はとても有名なテレビシリーズなのですが、たくさんの視聴者の共感を呼んだドラマでした。とてもすばらしい作品なので、ゲームを通して “自分もその世界に入れる”、“自分がキャラクターのひとりになったような気分になれる”という体験を味わえることがいちばんの魅力だと思っています。ゲームの中では、ゾンビを倒すだけではなくて、人を助ける要素が重要なんですね。世界観への没入感が高まる演出にも注力しているというわけです。
――まさに、キャラクターのひとりになったかのような気分を味わえるわけですね。
マシュー そうですね。さらには、クロスボウなどの武器も選べるので、みずから試行錯誤してゲームを進めていくという体験を味わえますね。ちなみに、ストーリー自体はゲームのオリジナルとなります。
――ちなみに、ゲーム化にあたっては、権利元の監修はけっこうきびしかったのですか?
アンドリュー それは、もう。有名なIPほど監修がきびしいので……。実際のところ、今回の『ウォーキング・デッド』のチームも相当きびしかったです。ライセンスにかける思いも人一倍でして、だからこそ、我々といっしょになって考えてくれたんですね。作ったものが、もともとのテレビシリーズとマッチングしているようなもの、テレビシリーズから大きく逸脱しておかしくなっていないように、監修の面で工夫していました。
――たとえば、どのような事例がありました?
アンドリュー 具体例として、「銃を使ってほしくない」というリクエストがありました。いまの社会状況を勘案して、使うのはよくないという判断ですね。シューティングゲームということで言えば、“銃を使わない”というのは、とってもチャレンジングな取り組みでしたので、けっこう気合が入りました(笑)。クロスボウを駆使するといった、ほかの道を探る、大きなきっかけになりましたね。
――逆に、新たなゲーム性を考える契機になったということですね。
アンドリュー こういった挑戦を経て、ユーザーさんにとっておもしろいもので、当社的にもユニークなものができたという自負はありますね。
――JAEPOで『The Walking Dead』を出展されましたが、日本国内での展開の予定は?
アンドリュー 今回は、日本のファンの皆さんに、じかに『The Walking Dead』や『ジュラシック・パーク 42インチver』を体験していただきたくて、出展を決意しました。日本での展開に関しては、最終的なところでは決まっていない状態です。
「東京はゲームのハリウッド」
――レトロゲームをいまに蘇らせているとのことですが、ほかに作ってみたいものはありますか?
アンドリュー さきほどお話した、『スペースインベーダー』や『パックマン』のほかに、『フロッガー』と『ギャラガ』は手掛けています。あとは、まだ手掛けていないタイトルを探しているところでして、ポイントは、“人々が共感できるタイトル”です。それがあれば、いまの時代に合うようにアレンジを加えられるかどうか。そういったものが見つかれば新しい楽しい経験を提供できるので、将来的に着手したいと思っています。
――日本のタイトルを多く手掛けられているのは、それだけ日本のタイトルが魅力的に感じられるから?
アンドリュー はい。私は大学を卒業してからしばらく日本にいたのですが、そのときまで、『パックマン』を作ったのが日本の会社だとは知りませんでした(笑)。その後、日本のゲーム会社のことをたくさん勉強して、すばらしいエンジニアやデザイナーさんがいるのを知って、日本のゲームの大ファンになりました。
マシュー “レジェンド”と呼ばれるゲームは、アメリカでも有名ですよね。
アンドリュー 私たちにとって、“ゲームのハリウッド”は東京なんです。
――おお!
アンドリュー これは個人的な意見になりますが、ゲームの背景を考察しているとおもしろい事実がありまして……。ゲーム開発の歴史を紐解くに、“日米合作”、“日米共同”が多いんですね。セガも、もともとはアメリカ人がふたりで立ち上げた会社だったりしますし。異文化を融合させてエンターテインメントを提供する……というのがゲーム開発の歴史の一部分でもあったりするんですね。そういう意味では、私たちのレトロゲームをいまに蘇らせるプロジェクトは、“日米共同”の流れを汲んでいるものと言えるのかもしれません。
――なるほど、それは極めて興味深いですね。ところで、今回JAEPOに合わせて来日されたわけですが、日本のアーケードゲーム市場に対してはどのように思われますか?
アンドリュー 興味深いご質問ですね。先ほどお話したとおり、私は1990年代の半ばころ、日本に住んでいたことがあるのですが、そのときは日本のゲームセンターもアメリカのゲームセンターも同じような感じでした。その後1度日本を離れて、10年後くらいにふたたび日本を訪れたときには、日本のゲームセンターとアメリカのゲームセンターは、まったく違ったものになっていました。そのあいだに、日本のゲームセンターは多角化して、いろいろな形のゲームセンターがでてきたのではないかと、私は考えています。いまの日本のアーケードゲームを見るに、ジャンルが非常に増えていて、種類も整備されてきているように思います。そういった意味では、新規参入しようと思ったら、“新しい風”を吹き込まないといけないかもしれませんね。どこかのタイミングで、ブレイクスルー(進歩・前進)が必要になるのではないかと見込んでいます。
――何か、新しいものが生まれる可能性があると?
アンドリュー いまは、ジャンルごとにタイトルが洗練されてきているので、新規タイトルをリリースしても、“ある程度のプラスアルファ”といった感じの目新しさになってしまう。ちょっとした変更に留まってしまうんですね。誰も見たことがないような、真新しいものが到来する可能性は充分にありますね。私たちが子どものころって、いままで体験したことのなかったような新鮮なゲームに触れて、わくわくしましたよね。そんな子どものときのドキドキや興奮が訪れるような新しいゲームを、日本のアーケードゲームには期待していますし、私たち自身も提供したいと思っています。
――そういった意味では、日本のアーケードゲーム業界は、いまVRの導入に熱心ですが、それについてはどう思います?
アンドリュー VRですか……。これは私個人の意見となりますが、VRには克服しなければならないポイントがいくつかあると思っています。いちばん気になるのはシネマトグラフィー(映像の演出)です。私の好きな演出家にスタンリー・キューブリックという監督がいるのですが、彼はそのへんがしっかりしていて、映像の演出により、緊張感のあるアクションであったり、キャラクターの感情だったりを表現しているんですね。ところが、VRは主観視点なので、どこまで映像の演出ができるのか……。
マシュー モーションシックネス(VR酔い)に対応するだけで、いまはいっぱいいっぱいという状況があるかもしれません。
アンドリュー スタンリー・キューブリックだったらどうするのかな(笑)。
――なるほど……。では、最後に日本のゲームファンにひと言お願いします。
アンドリュー 私たちは大の日本好きです。エンターテインメントも好きなので、日本のファンの皆さんと一体となって、アーケードゲーム業界を盛り上げていきたいと思っています。
マシュー JAEPOで私たちのゲームを紹介できたことを光栄に思っています。今後も、私たちのゲームが日本のゲームファンの皆さんに触れていただける機会が増えることを期待しています。