ブリザード・エンターテイメントから配信中のオンラインカードゲーム『ハースストーン』。同作のリード・デザイナーを務めるベン・ブロード氏に対する、日本メディアを対象としたテレビ電話インタビューが、2017年1月下旬に行われた。世界的に高い人気を誇る『ハースストーン』だが、今回の合同取材は、2016年12月に配信された拡張版第4弾“仁義なきガジェッツァン”を受けての『ハースストーン』の展開を、日本のメディアに向けて明らかにすべく企画されたもの。以下、そのやり取りをお届けしよう。
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ベン・ブロード氏(文中はベン)
――“仁義なきガジェッツァン”を投入した経緯を教えてください。
ベン 拡張版を企画するときは、スタッフと綿密な打ち合わせをし、さまざまなアイデアを出し合っていきます。“仁義なきガジェッツァン”のベースになっているのは、先日『World of Warcraft』で大規模なアップデートが実施された際に盛り込まれた、海沿いの小さな街“アザロフ”です。アザロフはとんでもないことになっているのですが、その設定に合わせて、“犯罪者の街があって、悪ければ悪いほど勝つ”というストーリーを考えていきました。そのファンタジックなストーリーに魅せられて、それをどう発展させていくかということで考え始めました。「どの悪役が、より魅力的になりえるか?」といったことも考えつつ、それに楽しいゲームプレイを生み出すメカニズムを融合させて、いかにかっこいい世界観を構築できるかで、試行錯誤していきました。
――“仁義なきガジェッツァン”を投入したことで、『ハースストーン』にどのような変化がもたらされたのですか?
ベン 拡張版を投入するときの大きな目標は、“いままでの既存のありかたを大きく変えていきたい”ということです。新しいデッキだったり、新しいユーザー体験というものをもたらしていきたい。“仁義なきガジェッツァン”を導入することで、ユーザーの皆さんが新しい遊びかたを見出しているように思います。“海賊ウォリアー”のデッキが増えてきたという傾向はあるかもしれませんね。
――“グランド・トーナメント”や“ブラック・マウンテン”というセットがスタンダードな環境から消えて、春に“クラーケン・イヤー”などの新しいスタンダード環境が始まると思うのですが、切り換わる時期と、つぎの新しいスタンダード環境の目指す方向性やコンセプトを教えてください。
ベン つぎのスタンダード環境は、2017年の最初のアップデートで実装する予定です。『ハースストーン』のいちばんの魅力は、ファンの好奇心を揺さぶるような“探求心”にあります。新しい発想を生み出したり、新しい考えを生み出して、それが新しいデッキの作りかたにつながっていく。そこを刺激していきたいですね。さらに言えば、『ハースストーン』には、ユーザーの皆さんにとって、各クラスでさまざまな楽しみかたがあります。“こういう遊びかたしかない”という決まった楽しみかたではないんです。いろいろな楽しみかたがあって、それはユーザーさん次第です。“探究心”の刺激と幅広いゲームプレイをもたらす仕組みを心掛けています。
――つぎに拡張についても考えていると思うのですが、いま『ハースストーン』に実装されているのは『World of Warcraft』の初期設定に準拠して、9人のヒーローですよね。その後『World of Warcraft』でも、モンクとデスナイトというふたりのヒーローが追加されたのですが、それを『ハースストーン』に持ってくることは考えていますか?
ベン いまのところ、その計画はありません。私たちは、クラスが多ければ多いほどいいとは考えておりません。むしろ、9つのクラスのユニークな点を、今後いかに引き出していくかが私たちの課題だと考えています。
――“仁義なきガジェッツァン”を導入してみて、課題だと感じたところはありますか?
ベン ああ……。海賊に関しては、少し強すぎるかも……と話しています。いまプレイ動向を分析しているところなのですが、このままの傾向が続くようであれば、あのあたりは調整することも念頭に入れています。グライミー・グーンズのミニオンに関しても、早すぎるのでは? との懸念があり、当初の想定通りというわけにはいっていません。そのあたりも要調整事項だと言えるかと。
――“仁義なきガジェッツァン”のコンセプトのひとつに“マルチクラスカード”があるかと思います。勢力ごとにカードが用意されているのですが、現状の環境だと勢力ごとに用意されたカードを積極的にデッキに採用しているユーザーはあまり見かけないのですが、その点はどう考えていますか?
ベン “マルチクラスカード”に関しては、ユーザーはけっこう積極的にプレイしてくれていると、私たちは判断しています。“カザカス”が、いま『ハースストーン』内にあるいちばんパワフルなデッキのカギとなっていたりするので……。“翡翠ドルイド”や“シャーマン”なども使用されていますね。
――『ハースストーン』では戦ったら、ランクがどんどん上がっていきますが、それがたいへんとの意見も聞かれます。それを調整することは?
ベン その点に関しては、具体的に話が進んでいるわけではありませんが、改善の余地はあると思っています。新しくラダーに入ってきた人々が、あまりにも力の差があり過ぎるとか……。
――ベンさんが、海外メディアへのインタビューで、“炎の王ラグナロス”をクラシック環境から外してバランスを調整したいというアイデアがあることをお話しされていましたが、それについての意図をお教えください。それ以外のカードをクラシックから外すことを検討していますか?
ベン 現状その予定はありません。“炎の王ラグナロス”を外すということを話した覚えもとくにないです。スタンダードフォーマットは、ユーザー体験を活性化するような新しい体験であり、より楽しいものにしていく必要性はあると思っています。それに対してクラシックカード12枚があまりにも強すぎて、新しいデッキが入りづらいということは避けたいですし、それを変えていきたいと、私たちは思っています。それは今後も継続する予定です。それに加えて、スタンダードのセットアップが、ローテーション形式でつねに新しい定番を作り出していかないといけないと思っています。
そうするためにも、新しいデッキを生み出す妨げになっていないかどうか、既存のクラシックカードは常に注視しているということはありますね。それには、ナーフから外すか、クラシックから外すか、ふたつのやりかたがあると思っています。両方のやりかたに対して意見があるとは思いますが、いずれにせよ、今後考えていかないといけない課題ですね。
――『ハースストーン』はどんどん複雑になり、初心者が入りづらくなってきているかと思いますが、それに対してはどのようにサポートする予定ですか?
ベン スタンダードを導入した理由が、まさに敷居を下げるためでもあります。初心者にとってコレクションするのに現実的な数を設定しているのです。レジェンドレートにたどり着くためには、カード数だけではないと、私たちは考えています。プレイヤーもいろいろな情報を参考にできるわけですし。
――ゲーム内で複数のプレイヤーが参加できるトーナメントモードを搭載する予定はありますか? あと、いまあるアリーナモードを、練習でほかのプレイヤーと対戦できるようにする予定はありますか?
ベン 両方ともすごくいいアイデアですね! 個人的にはとても気に入っているのですが……。それ以上はコメントできません。
――ベンさんはいままでたくさんのカードをデザインされたと思いますが、クレイジー過ぎてボツになったアイデアなんてありますか?
ベン たくさんありますよ! デザインするときはつねに常識を覆さないといけないという思いでいます。最初にデザインしたセットの中には、3マナで、連続で試合に負けると強くなっていくというカードがありました。負け続けると、ランクは下がるのですが、カードは強くなるんですね。マウスオーバーするとダメージを受けるというアイデアもありました。
――カードを日本語にローカライズする際のプロセスについて教えてください。僕がいちばん印象に残っているものに、英語で“AnyfinCan Happen”というカードがあって、“七つの鯛罪”と訳されているのですが、よく思いつくなあと(笑)。
ベン 翻訳は、ローカライズチームに任せているのですが、ものすごく信頼しています。彼らとは“魂の共有”ができていて、同じ視点を持った仲間だという認識でいます。英語を直訳してもそのままでは通じないことも多いです。でも、彼らは私たちと同じように、とてもひねりの効いたネーミングをちゃんと考えてくれる。そういう意味でもとても信頼しています。
――ベンさんが、トーナメントシーンで注目しているデッキと、それとは関係なく好みのデッキを教えてください。
ベン ああ……。全体的には海賊デッキはこれから微調整していかないといけないのですが、そういう意味でも海賊デッキには注目しています。個人的な好みということで言えば、“コントロール パラディン”のデッキですね。後半に大逆転の可能性を秘めているので、スリリングなのが好みです。
――1月からオフラインで、“酒場のヒーロー予選”を実施しています。日本国内で有志のファンが集まってプレイして、そこで認められて“酒場のヒーロー予選”になっているパターンが多いように見受けられますが、ブリザードが“酒場のヒーロー予選”を開催しようと思った経緯を教えてください。
ベン ブリザードでは、オンラインはもとよりオフラインでも『ハースストーン』の体験をより充実したものにしていきたいと思っています。ひとりで遊ぶのも楽しいですが、みんなで集まって遊ぶのも楽しい。たくさんに人が集まることでエネルギーが生まれる。それは、私たちにとっても喜ばしいことですし、ゲーム内イベントやオフラインを問わず、これからも今後そういった施策はどんどん導入していきたいです。
『ハースストーン』が国内で2015年10月にサービスを開始してから1年あまり。ベン・ブロード氏によると、「2017年の戦略を練っている真っ最中」とのことで、2017年も『ハースストーン』はさまざまな話題を提供してくれそうだ。今後の『ハースストーン』の展開に期待したい。