『マインクラフト』で未来の街作り

 大人から子どもまで、世界中にユーザーに幅広い人気を誇る『マインクラフト』。この秋、スウェーデン大使館主催による『マインクラフト』を使ってのコンテスト“つくろうみんなの未来都市コンペティション in Minecraft”が開催された。こちらは、“サステナブル(持続可能)な街を作成する”という課題のもと、小学校3年生から中学校3年生を対象に作品を募集し、優秀作を選出するというコンテストだ。

『マインクラフト』を学びの機会に! “つくろうみんなの未来都市コンペティション in Minecraft”受賞記念スペシャルディナーの模様をお届け_01

 ごぞんじの通り、『マインクラフト』を開発したMojangはスウェーデンの会社。今回のコンテストは、スウェーデン大使館による「子どもたちにプログラミングを通じて、サステナブル(持続可能)な社会を作る大切さを学ぶきっかけとなり、“このコンペティションに参加した子どもたちが将来ノーベル賞を受賞してスウェーデンに行ってほしい”」(リリースより)との思いも込められているようだ。

 2016年12月10日に、その最終選考および受賞記念スペシャルディナーが、スウェーデン大使館にて行われた。その日はちょうどノーベル賞授賞式・晩餐会の夜ということで、スウェーデン大使館の粋な計らいというべきだろう。当日は、審査を通過した29組100名のファイナリストがスウェーデン大使館に集結。最優秀チームを目指して競い合った。なお、コンペティションには、129組365名の応募があったとのことだ。

 まず行われたのが29組による最終審査。各チームは2~3分のプレゼンテーションや展示物のデコレーションで、みずからの“街”をアピールした。なお審査委員は、マグヌス・ローバック駐日大使や、ルンド大学名誉教授で持続可能な都市開発の専門家、ラーシュ・レウテシュヴァート氏、マイクロソフト コーポレーション アジア担当副社長 ステファン・ショストローム氏、日本マイクロソフト 執行役員 常務 パブリックセクター担当 Windows クラスルーム協議会 理事長 織田浩義氏、『マインクラフト』のYouTuberとしておなじみの赤石先生が担当した。

 で、驚かされたのが。子どもたちの作る都市のクオリティーの高さ。まったく不勉強で告白するのも正直なところ恥ずかしいが、記者が“サステナブル(持続可能)”という言葉を聞いたのも、このコンペティションが初めて。「持続可能って実際のところ何だろう……。子どもたちはどんな作品を仕上げてくるのだろうか?」と疑問だったのだが、いざプレゼンテーションを聞いてみると、「過疎化や難民対策に配慮した街です」、「再生可能エネルギーと気候変動への対処に力を入れました」、「地球環境と経済が安定していて、自然と共存できる都市です」、「100%自給自足できる街」ときっちりと説明しており、「なんとも優秀な……」とあんぐり。おもにプログラミング教育に有用であると言われる『マインクラフト』であるが、都市作りや地球環境を学ぶのにも有効なのだなあ……と思ったり。

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▲自分たちの作った都市をプレゼン。皆さんしっかりコメントしておりました。
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▲審査委員の赤石先生、日本マイクロソフト織田氏、マイクロソフトのステファン・ショストローム氏ら(左より)。
▲プレゼン中は、“Minecraft”のロゴをかたどった、軽食なども振る舞われた。
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▲展示エリアではデコレーションでみずからの都市をアピール。
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 なお、“サステナブル”とは、より正確には“地球環境に配慮した、持続接続可能な産業や開発”といったくらいの意味で、2015年の国連サミット採択された、2016年から2030年までの国際目標“持続可能な開発のための2030アジェンダ”に端を発している。

 ちなみに、こう書くと極めて大人びて見える印象の参加者ですが、実際のところは、プレゼンテーションを聞くのに飽きて騒ぎ出す子どもがいたり、試遊台が展開されていた『Minecraft Education Edition』を賑々しくプレイしたり……と、極めて子どもらしい一面も垣間見られて、おじさんは正直少しほっとしました……。

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▲講堂では『Minecraft Education Edition』が試遊可能。たくさんのお子さんが楽しんでいた。なお、コンテストの応募の3分の1が『Minecraft Education Edition』だった模様。

 というわけで、最終審査を経て、受賞記念スペシャルディナーへ。その前にマグヌス・ローバック駐日大使と、マイクロソフト コーポレーション アジア担当副社長 ステファン・ショストローム氏にコメントをいただくことができたので、以下にお届けしよう。

・マグヌス・ローバック駐日大使
 「今回のコンペティションおもな目的は、国連で採択された“持続可能な開発のための2030アジェンダ”を広めることでした。遊び心を持って、自分たちの生活に取り入れていただこうということで企画しました。持続可能な社会に向けて、少しでも貢献できればと思ったんです。そのために、スウェーデンで生まれた世界でもっとも知られたソフトのひとつである『マインクラフト』を活用することにしたんです。
 今回29の作品を拝見させていただいて、子どもたちがいかに遊心をもって、今回のコンペティションに取り組んだかを実感させていただきました。子どもたちはサステナビリティをとても柔軟な発想で捉えていて、技術的なアプローチだけではなくて、高齢者に思いやりをもつといった面からも応用していたのが印象的でした。とくに驚かされたのが、人と人との“絆”をモチーフにした提案がいくつかあったことです。子どもたちの洗練された考えに感動しました。サステナビリティという言葉は、日本ではあまり知られておらず、多くの子どもたちも今回のコンペティションを始める前までは、聞いたことがなかったようです。今回のコンペティションにより、理解を深めていただけたようです」

・マイクロソフト コーポレーション アジア担当副社長 ステファン・ショストローム氏
 「すごくすばらしいプレゼンテーションでした。いずれ劣らぬ都市でしたね。ここからひとつを選ぶのは難しいです。とてもエネルギッシュで、お子さんがみなさん生き生きしているのが印象的でした。サステナビリティに関してとても問題意識を持っているお子さんが多かったように思います。マイクロソフトとしては、このコンテストに参加できたことを光栄に思っています」

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 さて、受賞記念スペシャルディナーでは、まずはマグヌス・ローバック駐日大使が乾杯のあいさつ。先述の通り、このコンペティションには“このコンペティションに参加した子どもたちが将来ノーベル賞を受賞してスウェーデンに行ってほしい”との思いが込められているが、「ここに居るみなさんにはまったくもって大きな可能性があります」とコメントした上で、1973年にノーベル物理学賞を受賞した江崎玲於奈氏が発表した“ノーベル賞を受賞するためにしてはいけない5か条”から、“子どものような感性と好奇心を失ってはいけない”を引用。子どものような感性をもった発想が、偉大な発明につながっていくのです」と、子どもたちにエールを送った。

 ディナータイムを挟んで登壇したのが、ルンド大学名誉教授 ラーシュ・レウテシュヴァード氏。“なぜ、いま、若者がサステナブルについて考える必要があるのか”との講演名でスピーチしたレウテシュヴァード名誉教授は、子どもたちの作り上げた都市に感嘆を示しつつ、「持続可能な都市について考え続けてほしい」とコメントした。

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▲マグヌス・ローバック駐日大使。
▲ルンド大学名誉教授 ラーシュ・レウテシュヴァード氏。
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 そしていよいよ最優秀チームの発表に。見事最優秀チームに輝いたのは、世田谷区立塚戸小学校4年生のクラスメート5人で作ったグループ“KIZUNA 5”。選考は相当に難航したようであるが、マグヌス・ローバック駐日大使によると、決め手になったのは“技術的にユニークだった点。“KIZUNA 5”の作った都市では、サッカー場で動き回ってエネルギーを作るといったアイデアが盛り込まれているが、マグヌス・ローバック駐日大使は「似たようなアイデアはスウェーデンでもあって、人体の熱で家を暖かくしています」と紹介したうえで、“人々が思いやりを持ち合う”という考えかたが受賞の決め手になったとした。ほかにも同じコンセプトの都市はあったが、いちばん若いチームに賞が与えられることになった。

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▲最優秀チームとなってうれしそうな世田谷区立塚戸小学校の“KIZUNA 5”の皆さん。
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▲“KIZUNA 5”の都市。エコと自給自足が大きなテーマとのこと。サッカー場や公園の地面に感圧板を敷き、遊んだり走り回ったりすることで発電できる“遊んで発電システム”を設置。建物の屋上には日照センサーを置き、太陽光発電によって電気を節約する。

 “KIZUNA 5”のメンバーは、長利悠生くん、仲田光来くん、古屋優大くん、増江のの歌さん、村松輝一くんの5名。同じクラスの同級生で、「コンペティションに応募しよう!」と思い立ち、みんなで街を作り始めたのだという。制作期間は3週間で、多いときは2~3時間、それぞれ自宅からネットでつながり制作にいそしんだ。誰も教わったでもなく、見よう見まねで『マインクラフト』を作ったというからなんともいまふうのお子さんたち……といった感じだ。「将来建築家になりたい」というお子さんもいて、今回のコンペティションは地球の環境問題に触れるいい機会にもなったようだ。

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▲左から古屋優大くん、増江のの歌さん、仲田光来くん、長利悠生くん、村松輝一くん。
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▲最後は皆さんで記念撮影。一生残るいい思い出になったのでは。

 最後に、審査委員として招かれていた、日本マイクロソフト 執行役員 常務 パブリックセクター担当 Windows クラスルーム協議会 理事長 織田浩義氏からいただいたコメントをお届けしよう。ご存じのとおりマイクロソフトでは、教育用途に特化した『Minecraft: Education Edition』を国内では11月2日より正式にサービスインさせたばかりで、教材として『マインクラフト』を活用することを積極的に推し進めている。

・日本マイクロソフト 執行役員 常務 パブリックセクター担当 Windows クラスルーム協議会 理事長 織田浩義氏

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 「今日審査委員を担当させていただいて、改めて無限の可能性が子どもたちにも、教育にも、それからITにもあることを感じました。教育の理想は、子どもたちがワクワクしながらどんどんクリエイティブに発想していくことだと思うのですが、今日のプレゼンでは、それがつぎからつぎへと展開されていて感激しました。なにかをテーマにして、子どもたちが主体性をもって思考していくプロセスというのはものすごく重要なことですが、『マインクラフト』のような、具体的に何かを作り上げていくツールを提供することで、それをさらに後押しできるのだということを、本日改めて実感しました。
 今日、子どもたちに“『マインクラフト』を授業で使いたいですか?”と聞いたら、みんなが“使いたい!”と答えてくれたのですが、マイクロソフトでも先日『Minecraft: Education Edition』をリリースして、“はじめよう 教育用 Minecraft 活用キャンペーン”として、教員の方2500名に1年間のライセンスの無償提供をする取り組みをしたところ、受付からおよそ2週間で応募枠がいっぱいになってしまったんですね。『マインクラフト』に対する先生やお子さんのニーズの強さはすごいです。昨今ゲーミフィケーションということで、おもしろく学んでいくにはどうすればいいのかが議論されていますが、『マインクラフト』というものは、それが自然とできていくコンテンツなんだな、ITのパワーを今日改めて感じました。子どもたちがワクワクしながら学んでいける機会を提供しているという自覚を持って、それをどう活かしていくかを改めて考えています」

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