“恐怖”へのこだわりがほとばしる開発者インタビュー

 2017年1月26日にカプコンから発売予定のプレイステーション4、Xbox One、PC用サバイバルホラー最新作『バイオハザード7 レジデント イービル』。開発のキーマンである川田将央氏と中西晃史氏、そして竹内潤氏へのインタビューをお届け。試遊リポート記事とともに、じっくり読んでほしい。

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 まずは、『バイオ7』開発の最前線で、ひたすら“恐怖”を見つめ続けてきたふたりにインタビューを実施。今回初めて体験できた戦闘部分、新たに登場した敵など、とくに気になる部分を中心に話をうかがった。

『バイオハザード7 レジデント イービル』取材リポート3 竹内潤氏を始めとする開発のキーマンにインタビューしてみた!_01
▲ディレクター・中西晃史氏(左・文中は中西)とプロデューサー・川田将央氏(右・文中は川田)
(ホラー作品に合わせて、暗い場所で撮影しています)

敵1体にもこだわったレベルデザイン

――今回初めて戦闘を体験できて、気になったのはやはりモールデッドなのですが、あれが今回のゾンビ的な存在なのでしょうか?

中西 ゾンビ的というと語弊があるかもしれません。コンセプトとしては、ベイカーファミリー以外の敵を作るうえで1体1体強い存在を作りたいというのがあり、そこから生まれた敵ですね。

川田 ファミリーにはしつこい人間が多いので、もう少しゲームの短いサイクルで破壊の達成感を得られるようにと考えて、モールデッドを登場させました。じつは最初、ファミリーのみでゲームを組み立てられないかとも検討してみたこともあるんですよ。

――本作は基本的に、探索しているといつの間にか追い詰められていて、逃げながらもつぎの行ける場所を探っていく、という構造になっているのでしょうか?

中西 ずっとそうではないですが、今回体験していただいた場面は、そうなっていますね。今回のバージョンだと、最初は館の中にいることはわかるけど、全体像はわからない。さらに、あちこち鍵がかかっていて行ける範囲も限られている。その状況で探索しながら、行ける場所を広げていくというレベルデザインのコンセプトです。

川田 プレイスタイルによっても、若干立ち位置は変わりますけどね。アイテムを確保して着実に進むこともできますし、積極的に戦闘スキルを身につけて、敵と対峙しながら進んでいくこともできますから。

――なるほど。戦闘や探索に触れてみて、今回は追いかけられる恐怖、得体の知れない恐怖が大きく強調されていると感じました。

中西 そこはモールデッドの話に戻りますが、デザインのコンセプトに“神出鬼没”というのがあって、どこからどう襲われるのかわからない部分を表現してプレイヤーを怖がらせようとしています。また、モールデッドと遭遇したときに倒さずに回避するのか、何度も通る場所なのできっちり倒していくのか、プレイヤーが考えていくようにしているのですが、やり過ごせる相手でもあるので、レベルが変動するようにもしました。

――敵にレベルが存在するのですか?

中西 強さの数値的なレベルではなく、たとえばモールデッドがいる部屋から1回逃げて、再度戻ってくると部屋にいなかったりするんです。ドアを開けても、「あれ、いないじゃん」って。すると、ワンテンポ遅れて上から降ってきたりする。そういうホラーの要素をなるべくいろいろな形で、プレイに合わせて出せるように設計しています。

『バイオハザード7 レジデント イービル』取材リポート3 竹内潤氏を始めとする開発のキーマンにインタビューしてみた!_02

もどかしさを感じさせるギリギリのバランス調整

――追いかけられる場面が多くありますが、主人公の走る速度がこれまでのシリーズ作品に比べて少し遅いですよね。

中西 その通りで、移動速度の決定には気を遣いました。プレイヤーに与えるゲーム全体の感覚は操作キャラクターのアクション速度でだいぶ違うんですよね。快適にすると、万能感までとはいきませんが、優位に感じてしまう部分が出てくる。かといって、遅すぎるとストレスになる。だから、もどかしさを感じつつも、許せる範囲に調整しています。

川田 追いかけられる恐怖は、このスピード感だからこそ実現できている部分でもあるんじゃないかなと思います。

――アイテムの調合や鍵の選択時も時間が過ぎていくので、追われていると焦りますね。

中西 しかも、ドアには重さが設定されているのですが、大事な場面で、よりによって重いドアに出くわしますよね(笑)。

川田 サバイバルホラーでは、自分が不利な状況に置かれているという感覚がとても重要になりますからね。

『バイオ』らしさと余計な要素の引き算

――今回の試遊で、だいぶ『バイオ』らしさを感じることができました。

中西 『バイオ』ファンの皆さんは体験版やPVの部分しかわからないので、誤解と不安を与えてしまったかなと思います。でも、いままでの『バイオ』とはちょっと違うホラーを印象づけることもできたのではないかと。なので、これからはそうではない『バイオ』らしい部分を出していきたいですね。

――ガンパウダーやアイテムの調合などが、すごく懐かしかったです。ああいうのを見ると、やっぱり『バイオ』だなと感じました。

中西 でも、そういった要素も少しずつ進化させているんですよ。インベントリ(アイテムメニュー)部分もいままでと同じように見えますが、そのままクラフトが可能というのはなかったんですよね。

川田 最初、クラフトは実装当初、めんどうな手順が必要だったんですけど、いつの間にかシンプルに、いつでもできるようになっていました。

中西 今回、ゲームメカニクスは全体的にシンプルです これは竹内(開発総責任者の竹内潤氏)の言う“狭く深く”または“素うどん”でよいという方針によるものです。

川田 素うどんは味がないわけじゃなくて、ダシと麺、そのものがうまい。『バイオ7』も、要素はシンプルだけど、経験として濃いし、深いものになっています。また、そのおかげで、『バイオ7』ではゲームから受ける圧迫感、没入感からくる恐怖によるストレスはあると思いますけど、じつはゲームがうまくできないストレスというのは少ないと思うんですよ。ゲームがだんだんとうまくなる手順も含めて、かなり調整してもらっていますので、自然にゲームがうまくなっていって、ゲーム体験も自然に入っていけるんじゃないかなと思います。

中西 よりゲームに集中してもらいたいという思いがありましたからね。いろいろな人に遊んでいただき、中身を磨いていきました。途中はもっと違うシステムが多く入っていた時期もありますけど、そうなるとやっぱり煩雑になるし、没入感が萎える部分が出てしまうんですよね。

川田 最初のころは、“鍋焼きうどん”くらいありましたもんね。

中西 初期のころは、よさそうなアイディアはまずやってみようという方針で、いろいろ放り込んでましたからね 闇鍋のごとく。

川田 その後、シンプルにそぎ落とした後も、鍋焼きうどんの時に出たダシがいい具合に残っています。だから本作はプレイ時間的には従来のシリーズ作とあまり変わらないですが、受ける印象、密度は非常に濃く感じられると思います。

中西 “こってりな素うどん”ですね。

難易度“マッドハウス”ではインクリボン要素が復活!?

――セーブにカセットテープを使うところは、初期の『バイオ』のタイプライターを思い出して懐かしいなと思いました。回数制限がなくて、少しホッとしましたが。

中西 鋭いですね。じつはいま予約特典でアイテムパックのほかに“マッドハウス”がついてくるというキャンペーンをやっているのですが、そのマッドハウスというのは、本来なら1度ゲームをクリアーした後に遊べるようになる難易度なんです。難易度が“カジュアル”、“ノーマル”とあって、そこからふたつくらい飛んだ位置にあるのがマッドハウスで、すごく難しいうえに、セーブも“テープ”というアイテムを消費して行うようになっています。要するに、初期『バイオ』シリーズの“インクリボン”のようなシステムですね。

――きびしそうですね。

中西 そうですね そのうえマッドハウスではオートセーブもほとんどありません。テープを節約するために、セーブをケチって、だいぶ進めたうえで、難所にさしかかったときの「絶対に負けられない!」という感覚は、ノーマルでは味わえない、懐かしくもハードコアな感覚です。

川田 予約して購入いただいた方、とくに腕の覚えのある方は、ぜひチャレンジしていただきたいと思います。

中西 僕は1回目からマッドハウスをプレイするのは、おすすめしません。一度、ほかの難易度でプレイしてから遊んでください。

『バイオ7』はナイフクリアーが可能!

――今回プレイしていて、いわゆる“ナイフクリアー”ができそうだなと感じたのですが。

中西 僕個人としてはそこはあまり重要じゃないと思っていたんですけど、開発スタッフに根っからのコアファンがいて、「絶対できるようにしたいです!」と言うので、できるようにしました。僕自身は、まだ挑戦してないですけど。

川田 ナイフクリアーをすると、トロフィーはもらえるんでしたっけ?

中西 トロフィーはないです。トロフィー取得は難しすぎてもいけないと思っていて、具体的な時間は言い控えますがタイムアタックに関しても開発スタッフではけっこう短いタイムが出せているんですが、トロフィーで設定しているのはもう少し緩めのタイムです。でも、トロフィーとは別にそういったプレイに対する報酬はあって、それこそいままでの『バイオ』でいう無限弾的なご褒美がもらえたりします。マッドハウスにも、そういった報酬を持ち込めるようにはしてあるので、時間さえかければ難しい難度もいつかはクリアーできると思います。

コレクター魂を刺激するイースターエッグ要素

――『バイオ7』には破壊できるボブルヘッド人形の“ミスター・エブリウェア”と、探索で手に入る“アンティーク・コイン”が初登場しますが、これらはやり込み要素なのでしょうか?

中西 ミスター・エブリウェアは名前の通り“どこにでもいる男”で、ゲームでの役割は従来作で言う“青コイン”、ゲーム用語で“イースターエッグ”と呼ばれるものです。いわゆるトロフィーのネタですね。そして、コインを集めるといいことがあります。コインは全部コンプリートしようとしたらすごく難しいですね。

――ミスター・エブリウェアを最初に見たときは気持ち悪いなと思いました。

中西 ヤツは本来、ただの置き物だったんですよ。それが今回、青コイン的要素を入れようとなったとき、異彩を放っていたボブルヘッド人形を使おうということになって。そのときに名前がつけられて、現在にいたります。

――最初からいまの壊せる置き物ではなかったと。首を振る音で置かれている場所を知らせてくれるところもおもしろいですね。

中西 敵から逃げて隠れているときなんかに、カチカチ聞こえたりして焦りますね。「お前か!」みたいに(笑)。

川田 『バイオ7』は音が重要ですからね。サウンドスタッフががんばってってくれて、いっぱいあるドアもひとつひとつ別の音を録ってつけていくという作業をやっていました。

――では音を聞けば、あそこのドアだなとわかるようになっているんですね。

川田 たぶんなっていると思います。僕はわからないですけどね(笑)。

PS VRへの対応は酔いとの戦い

――いまの世に出ているPS VR用のソフトはプレイ時間が短いものが多いですが、『バイオ7』は全編対応と長いですよね。VR酔いを始め、さまざまな苦労があったと思うのですが、開発はどう進められたのでしょうか?

中西 僕個人はPS VRはとても気に入っていて、ただでさえ没入感を高く感じられるよう作っている『バイオ7』ですが、PS VRだとその没入感が格段に増すんですよね。なので、できれば全対応にしたいと思っていて、誰もが快適に遊べるように、ありとあらゆる検証をしていきました。2016年のE3(アメリカで開かれた世界規模のゲーム見本市)の段階では、まだ調整不足の部分もあったのですが、そこからさらにSCEIさんとも協力して、社内のいろいろな人を被検体にしながら、かなり改良しました。

――E3のころから変わったんですね。

中西 ぜんぜん違っていますね。かなりチューニングしましたし、わかりやすいところではオプションを増やしました。テストの結果、快適に遊ぶために有効だったものを入れています。デフォルトでは、VRにあまり慣れてない方向けの状態に設定しています。逆に、VRに慣れている人は、オプションをオフにしてもらえれば、PS VRならではの没入感や演出をより感じられると思います。

――自分の酔い耐性に合わせてオプションを選べるというわけですね。

中西 あまりメディアでは伝わっていないと思うのですが、人間は酔いに慣れるんですよ。『バイオ7』のようなゲームで酔う原因のひとつとしては、我々がふだんの生活で歩くときの視界の動きと、VR世界の動きのギャップにあるんです。逆にいうと、ゲームの移動速度を脳が理解すれば途端に酔わなくなるんです。なので、VRでの移動の感覚をイメージして歩けるようになれば平気になります。もちろん、個人差もありますし、酔いの原因はそれだけではないのですが。最初はちょっと無理かなと思っても、オプションを設定してみたり、時間を置いて慣れていけば、楽しめる可能性があります。

川田 とはいえ、体調が悪いときにうれしがって30分も走り回ったりしていると、僕みたいにいきなりクることもありますので、あまり無理はなさらないように(笑)。

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