VR ZONE Project i Can、東京ジョイポリス、USJ――VRアトラクション運営を先駆者に学ぶ!【Japan VR Summit 2】

“Japan VR Summit 2”セッション“先駆者から学ぶ~VRアトラクション編~”をリポート。

●リアルな実情も続々と明らかに……!

 グリーと一般社団法人VRコンソーシアムは、本日2016年11月16日に大型VRカンファレンス“Japan VR Summit 2”を開催。多数行われたセッションのなかから、セッション“先駆者から学ぶ~VRアトラクション編~”をリポートする。


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 同セッションには、東京・お台場でVRアクティビティ施設“VR ZONE Project i Can”(以下、VR ZONE)を展開した小山順一朗氏、田宮幸春氏(ともにバンダイナムコエンターテインメント)や、東京ジョイポリスを運営するセガ・ライブクリエイションより速水和彦氏、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)で“ユニバーサル・クールジャパン”などのイベントをプロデュースする中嶋啓之氏(ユー・エス・ジェイ)が登壇。各社のテーマパーク運営ノウハウの共有や課題、今後の展望をディスカッションした。


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▲小山順一朗氏(バンダイナムコエンターテインメント AM事業部 エグゼクティブプロデューサー)

▲田宮幸春氏(バンダイナムコエンターテインメント AM事業部 VR部VRコンテンツ開発課 マネージャー)

▲中嶋啓之氏(ユー・エス・ジェイ コンテンツ開発室 室長)

▲速水和彦氏(セガ・ライブクリエイション 取締役 施設事業推進部 部長)

 VR ZONEや東京ジョイポリスで展開されている『ZERO LATENCY VR』に関してはファミ通.comでもたびたび記事を掲載してきたが、USJでもVRの取り組みは行われており、世界初となる本格VRコースター『きゃりーぱみゅぱみゅ XRライド』が2016年1月より数ヵ月にわたって運行。これはヘッドマウントディスプレイを装着してコースターに乗り込み、VR空間できゃりーぱみゅぱみゅの世界観に没入するというものだ。

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●三者三様の“VR導入のきっかけ”

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 セッションはいきなり“VRアトラクションで収益は上がっているのか?”という直球のテーマからスタート。VR ZONEの小山氏は「(VR ZONEは)VRエンターテインメント研究施設。研究が課題・目的としても大きく、そこで得られた知見が財産。プライスレスです!」ときれいにかわしつつも、“VRで何をしよう”ではなく“外遊び”の娯楽の価値をどこまで上げられるかが施設の前提にあったと語る。いわく、「90年代にヤングアダルトと呼ばれていたお客さんが取り込めなくなってきた。その人たちを外に連れ出して、高いフィーを払ってもらうためのひとつがVR」。もちろん研究施設とはいえ売上計画はあり、田宮氏によると「オープンからクローズまで、すべての枠が予約で埋まった。売上は、想定より上です。その分、人件費も想定よりかかった」とのことだ。

 一方の東京ジョイポリス『ZERO LATENCY VR』も想定のパーセンテージの倍以上のペースで予約が埋まっており、「収益回収期間においては、現状1/3くらい」(速水氏)。しかし「あくまで東京ジョイポリスのなかでやっているからやれている。入場料がなかったら非常に苦しい」とリアルな実情も語られ、やはり収益問題は大きな課題としてあるようだ。またUSJの『きゃりーぱみゅぱみゅ XRライド』もテーマパークのなかのいちアトラクションであるため、アトラクション単体での効果の計りかたは難しい。「“達成したい目的に対する手段”としての判断のもと、行ったイベントにおいて収益上は成功している」(中嶋氏)という。

 続いてのテーマは“VR導入のきっかけ”。新テクノロジーの導入はリスキーでもあるが、中嶋氏は「テーマパークはいつも新しいテクノロジーを導入する。VRが注目を集めるなか、意識したのは(ファン以外の)エントリーユーザーを取り込むこと」と解説。また家庭用VRデバイスが普及の一歩を踏み出した現状、家庭用VRが競合になる可能性もあるが、施設型では家庭では不可能な広いスペースで、家庭ではできない体験ができるため(ジェットコースターなどはいい例だろう)、共存することで相乗効果が出るのではと中嶋氏は語る。加えてUSJのターゲットは女性やファミリーであったため、『きゃりーぱみゅぱみゅ XRライド』は“VRに興味はあるけれど体験したことがない”という利用客への入り口という意識も高かった。何事においてもいちばん最初の経験は強く印象に残る。それゆえ『きゃりーぱみゅぱみゅ XRライド』は、VRを体験したことのない女性客(やファミリー客)に、インパクトのある“最初の体験”を提供するという目的で展開されたのだ。

 ここで小山氏から「きゃりーぱみゅぱみゅというIP(知的財産)を目的に来る人とVRを目的に来る人の割合は?」という質問が。これに対して中嶋氏は「今回は彼女の世界観に寄ったコミュニケーションにしていたので、世界観のアトラクションとして来られる方が多かったように思います」と応えていた。ちなみに男女比率は7割ほどが女性だったとのこと。「(『きゃりーぱみゅぱみゅ XRライド』に限らず)USJのイベントは、そもそもだいたい半分がファンの方、半分がたまたま違う目的で来た方」(中嶋氏)。IPとのコラボレーションを行う際は、“ファンだけではなく新しいユーザーの入り口にもなります”とアピールしているそうだ。


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 『ZERO LATENCY VR』導入のきっかけは、話題性・集客。同アトラクションは、オーストラリアのゼロ・レイテンシー社が開発したものだが、正式サービス版が運営されるのは東京ジョイポリスが世界初となる。本国のバージョンでは東京ジョイポリスの3倍ほどの敷地が必要だったというが、これをビジネスにするため、コンパクトにして敷地面積も作り変えられている。そして『ZERO LATENCY VR』のターゲットは、まずVRに興味のあるユーザー。現在はそこから口コミで拡散され、一般の利用客が増えているという。なお『ZERO LATENCY VR』には東京ジョイポリスの入場料のほかに1名あたり1800円(平日)の別料金がかかるが、これに対するネガティブな反応はないとのこと。速水氏は「おそらくですが、先に予約が必要になるので、実際に来たときには忘れてるのだと思います(笑)」と冗談交じりに話していたが、それだけユーザー満足度が高いということだろう。

 一方のVR ZONEにはIPを活用したアトラクションがほとんどないが、これは利用客の目的がIPなのかVRなのかという切り分けが難しいため。当初から「デバイスや機器のおもしろさで(客を)連れてくるのはやめよう」(小山氏)という前提があり、同施設のターゲットはいわゆる“リア充”や“パリピ”層。デバイスではなくプレゼンスをアピールすることで、VRに関心のない層に足を運ばせるようアピールしたのだ。そのひとつが「さぁ、取り乱せ。」というキャッチコピー。このキャッチコピーやPVを見た人の「ホントかよ」という気持ちが、「確かめに行ってみよう」というモチベーションにつながるのだ。


●安全性や収益……VRアトラクションの課題とは

 続いての話題は“VRアトラクションで見えてきた課題”。収益の話題でも挙げられたが、安全性やホスピタリティの観点から、VRアトラクションにはどうしてもアテンドをするスタッフが必要。USJでもこれには苦労したようで、乗り込むときだけではなく、アトラクションの待機中に注意事項を徹底するスタッフなども配置されている。ここでは速水氏から中嶋氏に「どうしても訊きたい! 『きゃりーぱみゅぱみゅ XRライド』が年齢ではなく身長制限されているのはどういう判断だったのでしょうか?」と質問が。これには中嶋氏も「非常にセンシティブな話ですが……(苦笑)」としつつ、「USJには安全だけを管理してチェックするチームが本国にあり、安全基準は非常に厳しい。その基準を、僕らが“ああしたい、こうしたい”というのはできません。安全対策チームが有識者と議論をしたなかで、身長制限という判断を出しました。そこに至るまでにどんな判断があったのかは、僕らもわからない」と内実を吐露した。

 ここから話題は安全性の問題へと移る。小山氏は課題のひとつとして「人間が持つ、本能としての怖さに対する反射」を挙げた。大きな驚きや恐怖を感じたとき、人は理屈ではなく脊髄反射で行動を取ってしまい、それが付き添うスタッフの予想を大きく超える場合もある。とはいえ自由に動けることがVR ZONEの楽しみのひとつでもあるため、自由に動けるなかで安全性を担保する取り組みがオープン当初より検証されてきたという(VR ZONEでの安全性に対する取り組みはこちらの記事も参照のこと)。中嶋氏も「安全を確保する人間がかなり必要になり、そうすると大量の人数をさばけるのかという課題が生まれる。『きゃりーぱみゅぱみゅ XRライド』はジェットコースターにVRを加えるという形なので、効率が最適ではない。安全性、清潔性を担保するために人海戦術でやっているので、コストやキャパを含めて課題が山積み」と語っていた(ちなみに同アトラクションでは、裏にゴーグルを清掃するスタッフが十何人と控えており、清掃するスタッフだけでも期間中の人件費は数千万円にのぼるそう!)。


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 また事業であるからには無視できない収益面での話題では、小山氏が「大前提で大事なのは、VRに無関心、未経験の人に対して、手軽かつ最高の体験を提供すること」としつつ、「まず娯楽の価値を高めることが重要」と提言。バンダイナムコエンターテインメントは長らく1プレイ100円のアーケードゲームの基準で事業を展開していたため、1プレイ数百円~1000円というVR ZONEの価格設定には社内で否定的な意見も出たというが、「家庭用も施設用も、値段で勝負するフェーズではない。価値や中身、体験でしばらくは勝負してほしい」と続けた。たとえば、ふつうのゲームはゴールをすることが目的となるが、急滑降を体感する『スキーロデオ』では谷底に落ちて死ぬほうが楽しいもの。もちろん死ぬという体験は一生に一度しかできないため、それの追体験は価格を超えた贅沢になる、というわけだ。

 なお『ZERO LATENCY VR』も1800円(平日)~2000円(休日)という比較的高価格だが、速水氏によると「いまだったらこれだけとっても大丈夫だろう、と。いま価格を下げたら、VRの価値が下がると考えました」とのこと。中嶋氏も「世界を見ると、日本のテーマパークの価格は安い。コンテンツやエンターテインメントに対する価値をある程度適正化して、リスクを背負ってでも来ていただけるものを提供するにあたり、価格は非常に重要なポイントです。トライアルは重要だが、“体験に見合う価格”のゴールをどこに設定するかが大切」と語った。

 価格の設定に対しては、小山氏から「“本当にできるならいくら”の価値を基準に算出したほうがいい」という意見も。映画やゲームなどと比べるのではなく、例えば実際にスキー場に行ってリフトに乗るといくら、といった“体験”の基準で算出することで、VRならではの価値が生まれるのだろう。


●「“みんなで行こう”と思える場所に」

 “これから求められるであろう体験”というテーマでは、VRアトラクションをリピートさせるための仕掛けが語られた。現状は感動や驚きが中心にあるVRアトラクションだが、これはくり返すことで薄れてしまう。そこで田宮氏が「相性がいい」と語ったのが、何度もチャレンジすることで腕前の向上が感じられるスポーツや釣りといったシミュレーション要素のあるもの。これらは体験する価値に加えて“うまくなる”おもしろさがあるため、リポートにつながるひとつの方向性として考えられる。また施設型ならではの強みをどう生み出し、維持するかに関して、速水氏は「家庭用との差別化しかない。“身体を動かす”、“みんなでワイワイやる”のふたつじゃないですかね」と語り、中嶋氏も「重力を感じたり、動き回って“体感”できるもの。リアルとバーチャルの定義は人それぞれですが、やはり実際の音楽ライブとVRライブなら生のほうがいい。そこで勝負をするのではなく、VRだからできる、体感を伴うことを考えている」と続けた。また田宮氏が「結局人間は、“ハレ”と“ケ”を使い分けており、非日常が欲しいときにはテーマパークやライブに行く。みんなで遊びにいくという行動自体でスイッチが入るため、“ここはハレの場ですよ”とアピールすることが使命」と熱弁すると、中嶋氏も大きく頷き「テーマパークも最終的には、誰と行ってどう楽しかったかという、共通の体験の共有が大切。終わったあとに話ができたり、“みんなで行こう”と思える場所になることが重要」と、施設型ならではの強みを解説した。


●2020年、VRアトラクションはどうなる?

 最後のテーマは“2020年、VRアトラクションはどのように定着しているのか”。速水氏は「我々の会社はVRに特化しているわけではなく、さまざまなものがあるなかでVRをどう使うか。多人数でできるものがすでにたくさん出てきていて、いろいろな非日常の体験があふれてるようになればいいなと思います」と語れば、中嶋氏も「いまUSJには3Dコンテンツや4Dコンテンツなど、体験が想像できるものがある。それに並び、強調するのではなく“これはVRです”というだけで理解してもらえるほどVRが定着していけばいいなと思っています」熱弁。VR ZONEを手掛けるふたりも「VRはいままでのメディアから大きくジャンプしており、ノウハウが通じず手探り。正直、“将来こうなってほしい”という想いはあまりなく、全然想像できないものが発明されるに決まっている。そういうものを作り出せる存在でありたいですし、いちユーザーとしてほかの人が作るおもしろいものに期待しています」(田宮氏)、「技術革新によっていろいろなものが代替していった。雪山でのスキーやロードバイク、スポーツ……今後はVRがいろいろなものを代替していくのでは。“本当のスポーツよりもすごい”となったときが市場代替の瞬間。VRはそういう可能性を秘めていますし、そうでなければ、生活の必需品にならないと思います」(小山氏)とそれぞれの展望を語り、セッションを締めくくった。


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