夢の対談が実現!
今年、裏社会をテーマにした期待作が奇しくも同時期に発売される。セガゲームスの『龍が如く6 命の詩。』と、2Kの『マフィア III』だ。今回、『マフィア III』のエグゼクティブ・プロデューサー、デンビー・グレイス氏の来日に伴い、『龍が如く』シリーズの総合監督、名越稔洋氏との対談が実現! 開発にあたってのこだわりや苦労話などを聞いた。近しいテーマによる両作だけに、共通する思いもあるようで……。
※本記事は、週刊ファミ通2016年11月3日号(10月27日発売)にて掲載した記事のWeb版となります)
ストーリー重視を筆頭に共通点が多い両作
――『龍が如く6 命の詩。』と『マフィア III』。洋の東西は違えど、両作とも“裏社会に生きる男”をモチーフとして扱っていますが、いろいろと共通点が多いように思います。第一に挙げられると思うのは、物語重視のスタンスです。
名越 そうですね。昨今は、どの開発スタジオも技術的には軒並みある程度のレベルに達していて、グラフィックのクオリティーでは差別化が図りにくくなっています。そんな中、ディレクターやプロデューサーの志向によって、求めようとするものに若干差が出始めていると思うんです。それが、『マフィア III』の場合は、ストーリーであるという印象を受けました。海外ゲームの中では、とくに人間ドラマに軸足を置いているように思いました。
デンビー おっしゃる通り、いまやゲーム開発は、技術的にはどのスタジオもある程度、一定のレベルに達していると言えます。2Kもトップクラスの開発力までたどり着いているという自負はありますが、一方で、いまやそれだけでは十分ではありません。名越さんもおっしゃる通り、今後は、差別化のための“プラスアルファ”が必要になる。『マフィア III』の場合は、それがストーリーだったというわけです。主人公のリンカーン・クレイを中心に、深みのあるストーリーをユーザーの皆さんに提供したかった。それが、『マフィア III』の出発点です。
名越 その点は、まさに『龍が如く』シリーズもいっしょですね。
――デンビーさんは、『龍が如く』シリーズに対してはどのような印象を抱きましたか?
デンビー ビジュアル面も含めて、すばらしいですね。とくに驚いたのが、世界がリアルなことです。いま私は日本にいて、実際に日本の風景なども見ることができるわけですが、いかに『龍が如く』が“再現性”にこだわっているかが、よくわかります。
――確かに、『龍が如く』シリーズは、“いま”という時代性を大切にしていますよね。
名越 そうですね。ソフトの発売年、ことによると発売月を物語のスタートと同期させたりもしていますからね。そういう意味では、極めてユニークなタイトルと言えるかもしれません。一例を挙げると、『龍が如く』では、時代性を確保するために、いま日本で流行っている人やトピックを、なるべくゲームの中に入れるようにしています。通常、大作だと開発に3年以上かかってしまうので、そのときに流行したものは、ゲームが出るころには廃れてしまう。その点、俺たちは開発スタートから1年以内で完成させるので、ギリギリで流行りの鮮度が保てるんですね。そのために、そのときにブレイクした旬の芸人に、いきなりゲームに登場してもらうということは、けっこうやっています。いまの現実世界をゲーム内でどう再現させるかについては、いろいろと貪欲に取り組んでいますよ。
デンビー 1年でという期間には驚きです! どうやって作っているのか、見当もつかない。
名越 さらに言えば、劇中で主人公の桐生一馬がスマートフォンを使うのですが、発売直前のモデルをソニーモバイルさんから提供していただいて、ゲームで再現したりもしています。
デンビー “再現性”ということでは私たちもこだわっていて、モチーフとなる1960年代の音楽やファッション、クルマなどをなるべく忠実に再現しようとしています。最新のスマートフォンのデータをご提供いただくことはなかったのですが(笑)、当時のものはなるべくゲームに入れるようにしています。本作では、『PLAYBOY』をコレクションする要素があるのですが、出版社から当時の表紙をお借りして、ゲーム中に取り込んだりしました。ライセンスが取れるのであれば、リアリティー確保のために積極的に提携するようにしています。
名越 ライセンシーということで言うと、『龍が如く5 夢、叶えし者』のときは、150社以上と契約しました。
デンビー おお、それはすごい!
名越 ギネスに申請したら、世界記録が取れるかもしれません(笑)。ただし、ほとんどのケースでお金はいただいていません。その代わり、タイアップした企業さんの看板などが出てくることで、作品にどんどんリアリティーが増してくるので、プライスレスなものが手に入るんです。一方で、企業さんは単純に50万人以上のユーザーさんにアピールできるので、そこでWin-Winの関係が築けるわけです。
――“再現度”も両作の共通点ですね。『マフィア III』は、過去を再現しないといけないので、苦労もひと際だったのではありませんか?
デンビー そうですね。さすがに過去に遡ることはできないので、1960年代の映画を参考にしたり、モデルにしたニューオーリンズに専用のチームを直接送り込んで、リサーチをしてもらいました。やはり、ちょっとでもおかしなものがあると、ユーザーさんにとっては違和感として感じられてしまいますから。
――ストーリーを楽しんでもらうため、没入感を損なわないように……ということですね?
デンビー その通りです。『マフィア III』では、とにかくリアリティーを追求して、当時の雰囲気を再現できるようにということで、いろいろな努力をしました。
――過去が舞台と言えば、名越さんも『龍が如く0 誓いの場所』では、バブル時代を再現されていましたね。
名越 『龍が如く0 誓いの場所』の時代設定は1980年代後半で、そんなに古くはなかったのですが、資料を集めるのはかなりたいへんでした。それが1960年代ともなると、さらに困難だったでしょうね。あと、時代によって文化も変わりますからね。1980年後半ともなる
と、携帯電話もなかったわけで、街には電話ボックスが溢れていましたが、いまはほとんどないですからね。
デンビー 確かに、時代によって変わりますね。そのへんをしっかりと再現するのも、『マフィア III』の注力点ではありましたね。
いまのゲームは音楽も含めた総合的なパフォーマンスが必要
――音楽に対するこだわりも、両作とも共通していますね。『マフィア III』では、1960年代の名曲を100曲以上採用しているとのことですが、ご苦労も多かったのでは?
デンビー 2Kのスタッフも、開発元であるHangar13のクリエイターも、ローリング・ストーンズやジョニー・キャッシュといった1960年代の音楽が大好きなので、『マフィア III』にはぜひ入れたいという話はしていたのですが、契約問題をすべてクリアーにするには、2年くらいかかりました。『マフィア III』を開発するにあたっては、ストーリー性を重視したというのは先ほどお話した通りですが、なかでも映画らしい演出を駆使して、カットシーンを随所に盛り込むという点を重要視していました。そのためには、音楽という要素が不可欠になる。そのため、楽曲には相当気を配っています。大事なシーンでは、ローリング・ストーンズの楽曲を持ってきて、雰囲気を盛り上げるといった演出もしているんですよ。
――それは、プレイヤーとしては相当気分が盛り上がりそうですね。
デンビー 一方で、『マフィア III』にはオリジナルの楽曲も収録しているので、そちらにも注目していただきたいです。収録では、わざわざテネシー州のナッシュビルのスタジオまで行って、バンドを編成するなど、こだわりました。とくにバトルシーンは、ぜひとも聴いていただきたいですね。
名越 『マフィア III』では、使う楽曲は、開発のどのタイミングで決めたのですか?
デンビー かなり早い段階です。カットシーンが決まったら、すぐに楽曲もチョイスするんで
す。まずはカットシーンありきで、「これはライセンス許諾を得られるだろう」と、あたりをつけ
て開発を進めました。“Spotify”という音楽ストリーミングサービスでは、4000万曲以上の楽曲が配信されているのですが、スタッフみんなで「どれが合うかな?」と聴き比べて、早い段階からフィットする楽曲を選ぶようにしました。ときに、NGになることもあって、そのときはほかの楽曲に変えたり、なんてこともありました。
名越 それは、『龍が如く』でもいっしょですね。俺はシナリオの段階で曲もあらかた決めてしまっているので、場合によってはその段階で使用許諾の交渉を始めたりもします。海外の開発スタジオでは、早い段階から楽曲を選ぶケースが多いのかな? 俺が知る限りだと、日本の開発スタジオの場合、楽曲を決めるタイミングはかなり後なんですよね。場合によっては、あまり作品とは関係なくて、プロモーション優先で選択することも多いようです。ウチみたいに、わりと早い段階であたりをつけるというアプローチをするスタジオは少くて。ですので、『マフィア III』でも早めに楽曲を決めると聞いて、ちょっとうれしかったです。
デンビー 少なくとも2Kでは、楽曲は早めに決めていますね。2Kは音楽に重きを置いていて、セレクトにはかなり注力しています。それは、スタジオの体質かもしれません。
名越 それは、すばらしいですね。
デンビー テクノロジーをある程度突き詰めると、差別化が難しくていっしょのものになっていくというのは、先ほどお話しされた通りなのですが、そこを超えて、さらに強いストーリーを提供していくには、演出や音楽など、総合的なパフォーマンスが重要になってくるんです。必然的に、音楽にも重きを置きます。
名越 よくわかります。
――『龍が如く』シリーズも、楽曲の選択に際しては、作品に合うものを前提としつつ、かつインパクトやサプライズを踏まえていると思うのですが、名越さんは楽曲をどのようにしてセレクトされているのですか?
名越 2Kさんでは皆さんで相談して選ばれているようですが、俺は自分で決めて、ときには実際にオファーまでしてしまいますね。そのため、“この楽曲で!”ということで思い定めて絵作りのイメージを構築していくので、断られたりすると頭を切り換えるのがすごくたいへんだったりします。実際のところ、断られるケースもなくはないので……。場合によってはショックを引きずって、1ヵ月くらい頭を切り換えられないこともあります。
――それだけ楽曲ありきでイメージを固めて、思い定めているということですね?
名越 そうなんです。そのために、1回イメージをすべて崩して、シナリオのセリフ回しかから考え直さないといけないときもあります。それくらいダメージは大きいです。
デンビー 『マフィア III』でも、まったく同じ経験があります。どの楽曲が断れられたかは内緒ですが(笑)。『マフィア III』というゲームの性格上、どうしても暴力的なものを連想されるので、そこに紐付けてほしくないという方もいて、そのときは断られることがあります。
名越 『龍が如く』シリーズでも、最初のころはとくに苦労しました。
物語に入り込ませるためにカットシーンはとても重要
――両作品とも物語を大切にしている一方で、アクション性も重視していますよね。物語とアクション性のバランスは、どのように調整しているのですか? ゲームプレイの自由度が高いだけに、たいへんだったのでは?
デンビー 確かに、『マフィア III』では、前作に比べて格段にオープンワールドを拡張したため、ゲームプレイと物語とのバランスを取るのが非常に難しかったです。ひとつ気を付けたのは、オープンワールドのどこにいても、メインストーリーを肉付けしてくれるような作りにすることです。つまり、いろいろな形を通して、プレイヤーの目や耳に物語に関する情報がつねに入ってくる状態にするんです。たとえば、オープンワールドを探索していて、ラジオでストーリーに関するちょっとした話題が持ち出されるとか……。
――それは、ユーザーに、つねに自分がひとつの世界にいるということを意識させるということですね? ひいては、ストーリーの中にいるということを実感させる?
デンビー はい。あとは、やはりカットシーン(ムービー)ですね。物語に入り込ませるためには、やはりカットシーンは重要です。開発スタッフみんなで試行錯誤しながら、「このタイミングで、このくらいの頻度でカットシーンを入れていこう」ということを気にしつつ、ゲームプレイとストーリー性とのバランス調整をしていきました。
名越 いまのゲームはシームレスなので、ドラマ、バトル、アドベンチャーと、テンポよく進められるという快適さはありますよね。そういう意味では没入感を高めやすい。とくにムービーが重要なのは、正義感であれ復讐心であれ、つぎにプレイするための動機づけを持たせるためのドラマ性を、ちゃんと作れるからなんです。そして、そのドラマを受けて、またがんばってプレイをして、達成したご褒美のひとつとして、ムービーによるカタルシスのドラマがある。ゲームは、そのくり返しのテンポの気持ちよさがうまく設計できていると“おもしろい”と思っていただけるコンテンツになるのだと俺は思っています。目指しているのはそういう形です。
デンビー まったくその通りですね。プレイをして、「やっとたどり着いた」という、報酬的な位置づけでカットシーンがあるというご意見には、全面的に賛成です。
――それは、ほかのエンターテインメントでは成し得ない、まさにゲームならでの魅力ですね。
名越 そうですね。ちょうどいいストレスを与える感じかな。「くそっ!」という感じで、怒りに任せてボタンを強く押すくらいの感覚がちょうどよくて、それがコントローラを投げつけたくなるレベルになると行き過ぎですね(笑)。ちょうどいいストレスの与えかたをわかっているのが、ゲームデザインのキャリアを積むということなのかな……というのは、最近よく考えるようになってきました。
デンビー おっしゃっていることは、すごくよくわかります。難度調整は、私たちも苦労しています。もちろん、ユーザーさんにはあきらめてほしくないですし、かといってあまりにもサクサクと進んでしまうのも手応えがありませんし。2Kでは、開発の最後のおおよそ6ヵ月は、ゲームバランスや難度を整えるのにものすごく苦労しています。
名越 けっきょくのところ、ユーザーさんにはエンディングを見てほしいんですよね。そこはすごく大事です。『龍が如く』シリーズで僕が自慢に思っていることは、毎作90 % くらいのユーザーさんが、エンディングまでちゃんと見ていてくれているということです。あくまでもご購入者アンケートの返信結果ではありますが。
デンビー それはすごいですね。
名越 60歳以上の方から、「あのエンディングは、僕はちょっと嫌だった」というファンレターが来て、すごくうれしかったです(笑)。60歳以上の方からファンレターをいただけたのも感激ですが、それ以上に、60歳以上の方でもクリアーできる難度設定を、俺たちが作れたということがうれしかったんです。― ストーリーへのこだわりを始めとして、共通点の多い両作ですが、ここまで裏社会を真正面から描いているゲームはあまりないですよね。
デンビー 『マフィア III』では、『ゴッドファーザー』シリーズや『グッドフェローズ』といった映画に見られるような、ある意味で美化されたマフィアの世界から少し離れて、新機軸のマフィアのストーリーをお届けできたのではないかと自負しています。
――『龍が如く』は“大人のためのエンターテインメントを作ろう”という目標が出発点だったとうかがったことがあるのですが、『マフィア III』もまさに大人に向けての作品に?
デンビー そうですね。『マフィア III』の場合は、とくに大人の男性をターゲットにしようと決めて開発を始めたわけではないのですが、“ストーリー重視で表現したい”となったときに、どうしでもディープで鋭利な内容になってしまうという方向性は見えていました。そのため、ある程度上の年齢層は想定していましたね。
名越 ゲームを遊ぶ人の年齢が上がってきているというのは、世界で共通かと思います。お互い、大人のためのエンターテインメント作品を提供する……ということで、盛り上がっていけたらいいですね。