ターン制ストラテジーの金字塔をデザインするのは若きクリエイター

 2K Gamesから10月21日にPC向けに発売予定のストラテジーゲームシリーズ最新作『シドマイヤーズ シヴィライゼーション VI』。本作では都市が複数のタイルにまたがって拡大する一方で“区域”を設置できるようになったり、複数のユニットをまとめて機能させられるスタック制を復活させたりと、根本的な所に関わってきそうな変更が行われている。

 今回発売に先駆けて、お隣韓国にて開発者インタビューとハンズオンが実施された。本稿では、『シドマイヤーズ シヴィライゼーション VI』のゲームデザイナーを務めるAnton Strenger(アントン・ストレンガー)氏にインタビューを実施したので、お届けする。

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『シドマイヤーズ シヴィライゼーション VI』ゲームデザイナーに聞く、スタック制のこと、マルチプレイのこと、北条時宗のこと【インタビュー】_01
▲ゲームデザイナー Anton Strenger(アントン・ストレンガー)氏(文中はアントン)。
アントン氏は大学のインターンで日本に滞在していたとのこと。関西に滞在していたので、ボケ・ツッコミ精神を学んだそうだ。

――アントンさんは、『シヴィライゼーション III』を幼いころにプレイし始めて、以降ずっとシリーズ作品をプレイしていらっしゃるんですよね。25周年という記念すべき年に開発に関われたいまの気持ちを教えてください。

アントン 子どものころからプレイしていた作品に開発として関わるようになったいまは、ノスタルジックな気持ちです。『シヴィライゼーション』シリーズは歴史を題材としたゲームですが、25年も続くとこのゲームそのものにも歴史が生まれるので、ゲームのトレンドの変化が見られたりとだったりと、ある意味おもしろいポイントに達したと思います。

――それではゲームのことについてお聞きしますが、今回、都市を1タイルにしなかった理由を改めて教えてください。

アントン 大きくわけてふたつあるのですが、ひとつはゲームプレイ上の理由と、もうひとつは見た目的な理由からです。ゲームプレイでいうと、まずいままでのシリーズだと、プレイヤーの選択肢が可視化されておらず、可視化されていないことによって没入感が失われていました。また、今作では“区域(ディストリクト)”というものを採用しています。前作までだと都市を取られてしまったら、その都市には攻撃以外何もできない状況でした。ですが本作では“区域”という存在があるので、都市を攻められたとしても、都市の区域ごとに敵が浸食していきます。徐々に敵の勢力に支配されるような感じですね。ふたつ目の見た目的なところでいうと、建設物と遺産は前作で建てることは可能でししたがマップ上では表示されなかったので、今回はマップにも表示されるようにしました。区域と遺産がタイルの上に表示されることによって、プレイヤーがどうようにして都市国家を発展させたのか一目で分かるようになりました。とくに近代以降になるとそれは顕著に現われるようになります。またアーティストたちも歴史や建造物のリサーチをしてくれたので、彼らの見せ場でもありますね。

『シドマイヤーズ シヴィライゼーション VI』ゲームデザイナーに聞く、スタック制のこと、マルチプレイのこと、北条時宗のこと【インタビュー】_06

――本作は、『シヴィライゼーション V』の絵柄から一転してカートゥーン調らしく変化していますね。これも可視化しやすくするために取り入れた要素なのでしょうか? それとも最近のゲーム業界のトレンドなのですか?

アントン 可視化するために取り入れました。先ほども申した通り、プレイを重ねるごとにプレイヤーの選択(どの建造物を選んで建設を実行したか)が一目見ただけで分かるようになっています。中盤以降はユニットや建設物でマップの上が混雑していくことがありますが、どのユニットどこにあって何の区域があるのか分かりやすくなっていますので、次のターン以降何をすればいいのか考えやすくなると思われます。それと、『シヴィライゼーション』シリーズそれぞれでアートスタイルは変わっていくのですが、それはある意味“開発者たちによる歴史に関する解釈の仕方の表現方法”を表しているとも言えます。『シヴィライゼーション V』はどちらかというとリアリスティックなアートでしたが、『シヴィライゼーション VI』は誇張表現されたアートになっているのはそういった理由もあります。

『シドマイヤーズ シヴィライゼーション VI』ゲームデザイナーに聞く、スタック制のこと、マルチプレイのこと、北条時宗のこと【インタビュー】_03

――そういえば、今作では遺産を建てると、タイムラプス風に建てられる様が見られる特別なムービーが流れますね。『シヴィライゼーション IV』でもありました。スタックも再度採用されていますし、『VI』の開発者は『IV』のさらに改良されたものを目指してゲームを開発しているように見えます。それとも、『V』からのノウハウや経験をもとにスタックシステムを再度採用したのか、ファンからのフィードバックが多かったためでしょうか?

アントン するどい考察ですね(笑)! たしかに『V』はファンのあいだでも意見が分かれる作品でした。『VI』を制作するにあたってファンのフィードバックは大切にしましたし、遺産を建てたときのビデオは『IV』でとても人気が高かったものなので採用しました。良かったものに関しては昔のものであれ積極的に取り入れていますし、新しいフィーチャーも取り入れていったのが『VI』の現在の形です。また、軍事ユニットもアンスタックできるようになったので、これにより戦略的に軍事活動できるようになっています。

――たしかに、『V』ではスタック制度が廃止されたので、都市を攻めるにしてもユニットが混雑しますし、地形によっては火力が足りなくて膠着した戦いが続くこともありました。

アントン そういった問題も開発側で確認できたので、『VI』では直接的に問題を解決できていると思います。また、社会制度ツリーの中でユニットを組み合わせる制度があるので、文化を通してユニットを強化することが可能です。例えば、歩兵ユニットがふたつあったら、それをスタックさせて軍団にする。さらに、社会制度を利用してさらにもうひとつ歩兵をスタックさせることで、大軍団のようなユニットになります。このシステムを通してユーザーが「マップにユニットがありすぎると」と感じたら、スタックと社会制度を活用して3つスタックさせることは可能です。

――ほかにも、『V』でのノウハウが生かされている点はありますか?

アントン 前作では決め打ちのプレイをすることも多かったと思いますが、『VI』ではもっとプレイの幅を広げるために、探索などにより研究にボーナスがかかる“積極的な研究”システムや“エウレカ(ひらめき)”を採用しています。これによりマップごとにそれぞれ違うプレイの仕方を提供できるようになりました。“エウレカ(ひらめき)”によってプレイヤーにはさまざまな方向を試せるよう刺激したいのです。それと、政府と政策システムも改善して、もっと自由度の高い選択をできるようにしました。

――こう聞くと、『シヴィライゼーション』シリーズの集大成のような作品ですね!

アントン イエス(笑)!

――製品版をプレイするのが楽しみです。政府と政策システムに関してお聞きしますが、政策カードは最大何個まで利用することが可能になるのでしょうか?

アントン 一応、8つのカードを利用できます。スロットの内容は、政府によっては軍事スロットが多くなったり、経済スロットが多くなることもありますね。また、ゲーム中の遺産ボーナスやリーダーが持つボーナスによってはスロットをさらに増やすこともできるので、その場合は13スロットまで利用することが可能ですよ。

――ではリーダーについてお聞きしたいのですが、なぜ今回、北条時宗を採用したのかすごく気になります。

『シドマイヤーズ シヴィライゼーション VI』ゲームデザイナーに聞く、スタック制のこと、マルチプレイのこと、北条時宗のこと【インタビュー】_05

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アントン まだシリーズで登場したことのないリーダーを選びたいと思い、彼が候補に上がりました。実は今年4月に新宿にある“サムライミュージアム”に行ったんです。

――え、サムライミュージアムって新宿にあるんですね……。

アントン 旅行者向けの施設なのかもね(笑)! そこで英語のツアーに参加しました。当時はまだリーダーについてアナウンスしていませんでしたが、開発チームでは「日本のリーダーは北条時宗にしたい!」という意見がすでに出ていたので、サムライミュージアムで北条時宗についていろいろ調べました。この侍ミュージアムでの出来事が決定打ではありませんが、我々はリーダーに関してかなり入念なリサーチを行っている良い例だと思います。

――前作でも登場した織田信長や徳川家康を採用しようという声は上がらなかったのですか? 卑弥呼とかも良さそうですが……。

アントン 信長や家康は前作で登場しましたし、今回はそれ以外で興味深い人を選ぶということで北条時宗に決定しました。

――ほかにも、気に入っているリーダーはいますか?

アントン スキタイのトミュリスは軍事的に強くて気に入っています。同僚たちとテストプレイをしたときに、彼らの都市をつぎつぎと破壊してくれたので、印象深いですね(笑)。彼女は歴史上が速い段階で登場しかなり強い女性のリーダーとしては、かなり稀有な存在であることも気に入っています。あとは、ローマのリーダーのトラヤヌスは、いろいろなボーナスで柔軟なプレイができるので気に入っていますね。

――マルチプレイについてお聞きしますが、今回短時間で遊べるモードを導入すると聞いていますが、具体的にどういうものになるのでしょうか?

アントン ゲームのスピートを上げるものがあります。コストがすべて半分になるので、展開の早いゲームが楽しめます。それ以外にも従来通り順番にターンを進めていくものと、参加プレイヤー全員がリアルタイムでいっしょにターンを進めていくものがあります。ほかのプレイヤーのターンを待つ必要がないので、全体的なプレイ時間が短縮されます。また、太古から現代まで遊べるフルゲームモードと、一定の勝利条件によってクリアーすることができるモードも用意しています。これを同僚とテストプレイしたとき、大体1時間~1時間半で決着がつきましたね。

――『V』では、大人数で長時間におよぶマルチプレイを楽しむプレイヤーもいたのですが、それも今回は遊べるんですね?

アントン はい! ゲームの設定によって遊べるようにしています。

――わかりました。では本作では初心者を意識したポイントはありますでしょうか? と言うのは、日本ではまだPCゲームはコンシューマーより浸透しておらず、今回初めて『シヴィライゼーション』に触れる方も必ずしもいると思うんです。

アントン それは個人的にも大事にしている部分です。今回はチュートリアルにもかなり力をいれて、全言語対応で日本語音声も用意しているので、さらに分かりやすくなったと思います。製品版ではアドバイザーというNPCがいるのですが、ゲームが進むにつれいろいろなことを教えてくれたりその時代のストーリーテリングを話してくれるので、ある意味ナレーター的な要所を果たしてくれます。

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――頼もしいですね。ではそろそろ時間なので、最後に日本のファンに向けてメッセージをお願いします。

アントン 個人的に日本には思い入れがあって大事に思っているので、日本のファンにこういった形でお披露目できることを誇りに思っています。彼らが『VI』がどうプレイするのか、すごく楽しみです。

『シドマイヤーズ シヴィライゼーション VI』ゲームデザイナーに聞く、スタック制のこと、マルチプレイのこと、北条時宗のこと【インタビュー】_02