Wargaming.netの道のりは、まだまだ始まったばかり

 2016年8月17日~21日(現地時間)ドイツ・ケルンにて、ヨーロッパ最大のゲームイベントgamescom 2016が開催。会期中にWargaming.net CEOビクター・キスリー氏にインタビューする機会を得た。ここでは、その模様をお届けしよう。

Wargaming.net CEO ビクター・キスリー氏に聞く 『World of Tanks』のeスポーツへの取り組みからVRへの注力まで【gamescom 2016】_02

――4月に行われた、『World of Tanks』の世界大会、“The Grand Finals 2016”などを取材させていただいて改めて実感するのは、『World of Tanks』の人気なのですが、なぜ世界中にファンにここまで熱狂的に支持されているのでしょうか? 改めての質問となりますが。

ビクター いろいろな要素があるとは思っているのですが、“The Grand Finals”に関しては、私たちがゲームではなくて、eスポーツとして訴求している成果なのかなと思っています。皆さんが野球やサッカー、相撲などを観戦するのといっしょで、“スポーツ”というジャンルで展開しているからこそ、皆さんが見てくれるのだと認識しています。また、『World of Tanks』はeスポーツであると同時に、皆さんが気軽に家で参加できるというのも大きな要因ではないでしょうか。家にPCがあれば、何歳でもあろうが、運動神経のあるなしに関係なく、簡単にこのゲームを体験できるわけです。皆さんがご覧になっていた、eスポーツとまったく同じ経験ができるのが大きいのではないかなと。

――eスポーツとして見て刺激を受けたものを、そのまま体験できるというわけですね。

ビクター さらに、『World of Tanks』は戦争映画を見ているような感覚になれる、迫力のあるシーンやリアルに再現された車両、音響効果などがありますので、ほかのゲームに比べてユーザーさんに喜んでいただけるのかもしれません。

――eスポーツだからこそ、『World of Tanks』は人気を獲得しているとのことですが、『World of Tanks』をeスポーツたらしめているものというのは何なのですか?

ビクター 第一に見て楽しめるゲームであること。つぎにコミュニティーが非常に大きいこと。多くのプレイヤーがいる。それがeスポーツとしてはとても大事な要素と言えるでしょうね。3つめが、『World of Tanks』は国際的なゲームであるということ。ユーザーさんは、日本にいたり、アメリカにいたりヨーロッパ全土にいたり……と、特定地域ではなくて、全世界をフォローしているんです。そのうえで、賞金を用意して大会を開催したりといった施策を行っているんです。また、私たちのシステムそのものもeスポーツに適しています。『World of Tanks』はサーバーベースなのですが、ユーザーの皆さんのPCではなくて、サーバー管理なので、チートなどがやりにくくなっているんですね。ですので、インターフェースを変えたり、MODを適用することはできますが、ゲームのデータを書き換えたりとか、弾が当たっていないのに当たっているようにするといったチート関係がやりづらくなっていますので、そういった面でもeスポーツに適したゲームになっていると思います。

――Wargaming.netはファンを大切にしているという印象があるのですが、コミュニティーを重視するうえで注力していることは?

ビクター 『World of Tanks』が始まったばかりのころは、コミュニティーの方にご協力いただきましたが、どちらかというと“協力者”というよりは“友だち”的な感覚で、“ゲームをいっしょに作っていく”という感覚でした。博物館にいっしょに行ったり、資料を提供していただいて相談に乗っていただいたりといった形で、コミュニティーの方々といっしょにゲームを作り上げていくという形になりました。いま現在4000人を超える社員がいますが、私たちがインディーゲームデベロッパーだったころの根っこの部分は変わっていません。ユーザーさんにゲームを遊んでいただき、彼らのフィードバックを得て、ゲームをよりよくしていくという、“いっしょに作り上げる”という部分は変わってないんです。それは、いいゲームを作るための“技術”だと私たちは信じています。

――ファンといっしょに作り上げたからこそ、『World of Tanks』にはアツいコミュニティーがあるということですね。では、世界中で愛されている『World of Tanks』ですが、さらに今後目指すものはあるのですか?

ビクター もちろん! 私たちにとって、これは始まりにしか過ぎません。さらに上を目指しています。現状たしかに『World of Tanks』は成功したタイトルであり、大きな収益を得ました。あるいは、成功を手にした企業は、もしかしたらフェラーリを買ったり、ラスベガスで豪遊したり……といったこともあるかもしれませんが、私たちの場合は逆に得た収入で、ほかの開発チームを買い取ったり、多くの新しい技術に挑戦したり……といった形で投資をしております。今後はそれらをもとに、さらに高みを目指したいと思っています。

――これが始まりとは、貪欲ですね(笑)。

ビクター そしてさらなる高みを目指すために、私たちは日本を始めとする多くの国にオフィスを置くことで、現地のファンの方のフィードバックを現地から聞くことができるようになっています。何よりも地盤ができあがったことによって、より多くの意見を皆様からいただけます。それに合わせて、WG LabsやWG Cellsのように新しい部署を立ち上げまして、外部の開発チームのアイデアに対して支援をすることで、より多くの試みができるようになりました。一方で、『Total Annihilation』などでおなじみのクリス・テーラーには、引き続きゲームを作ってもらっています。

――Wargaming.netの目指すべき方向性は、eスポーツ的なタイトルを増やすことなのですか? それともそれとはまったく違うゲームコンテンツを増やすことなのですか?

ビクター もちろん、私たちはeスポーツに非常に力を入れております。ただ、それは今後に向けてeスポーツを増やすことだけを目的に舵取りをしているだけではなくて、ご覧になられたようにVRコンテンツなども試していますし、eスポーツに対応しての“スペクテイターモード”も開発中です。“この道だけを進む”というわけではなくて、さまざまな分野に注目しながら、いかに有望な領域を進めていくかということを考えています。コンテンツだけにこだわったり、eスポーツだけにこだわったりというわけではなくて、それらを合わせた相乗効果を求めていく形です。

――『Master of Orion』のようなタイトルもでてくる感じですか?

ビクター ここ5年ほど私たちは、『World of Tanks』や『World of Warships』や『World of Warplanes』といった戦争を題材にしたゲームに力を入れてきました。ただ、私たちはこれだけに力を入れてきたわけではありません。会社のスタッフはゲームが大好きですし、私個人もゲームが大好きです。ですので、より多くの方にゲームを遊んでいただきたいというのが最終目標となります。『World of』シリーズだけでははくて、『Master of Orion』のような別軸のゲームもリリースして、より多くの方に楽しんでいただけるようにしたいと思っています。今後『World of』とは関係のないタイトルが出てきて、より多く方により多くのタイトルに興味を持っていただけるような状況を作りたいと思っています。

――“より多くの方に遊んでおらう”という視野に立ったときに、いまいちばん有望だと思う領域は?

ビクター 個人的には昔からストラテジーゲームが好きです。そういった意味では、将来そういったタイトルに力を入れる可能性はあります。この会社の名前“Wargaming”自体、戦争ボードゲームから取っていますので。そういった意味では、私個人はこのジャンルが好きで、興味深いです。

――『World of Warships』も今後eスポーツ化が進んでいくと思うのですが、たとえば、いまの『World of Tanks』の到達度を100だとすると、『World of Warships』はどれくらいなのですか?

ビクター 『World of Warships』は、私たちの認識ではまだeスポーツになっていません。それは競技人口数もありますし、eスポーツの形式自体が完成していないということもあります。仮に数字をつけるとしたら、おそらく30くらいと、ぜんぜん未完成なものとなります。

――今後は、『World of Warships』はどのようにしていきたいと思っていますか?

ビクター 正直なところ、ゲーム自体の完成度は高いと思っています。あとは、競技人口を増やしていくことがひとつの目標になっています。

――ゲームとは別に、バーチャル博物館などの文化的な取り組みにも積極的ですね。

ビクター とくに難しいことは何もなくてですね、戦車だけではく、全体的にどの国でもそうだと思うのですが、歴史は非常に大事だと思っています。たまたま私たちのゲームが戦車を取り扱っているものなので、戦車系の歴史が多いのですが、博物館と協力して、お互いに資料を提供しあったり、スポンサーシップで協力しあったりしています。お互い持ちつ持たれつという感じで、とくに難しい理由はなく、単純に歴史の重要性を意識しておりますので、そこをサポートするために、そういったコンテンツに力を入れています。

――文化的な見地から、今後検討している取り組みなどはありますか?

ビクター とくに将来的に何かをやりたいということではなくて、基本的に継続的にこういったサポートをしていきたいと思っています。それこそ直近で言えば、9月15日にイギリスで行われる“戦車100周年記念イベント”を私たちのほうでスポサードしています。こういったことを何かしらサポートしていきたいですね。

Wargaming.net CEO ビクター・キスリー氏に聞く 『World of Tanks』のeスポーツへの取り組みからVRへの注力まで【gamescom 2016】_01
▲“戦車100周年記念イベント”とのコラボにより、世界初の実用戦車であるマークIが、『World of Tanks』や『World of Tanks Blitz』に実装される。

――Wargaming.netはここのところVRに注力しているという印象が強いのですが、VRのどのへんに魅力を感じているのですか?

ビクター いま現在私たちが魅力を感じているところは、これを使って何かをするということではなくて、これを使うことによって何が見られるか……というところに非常に魅力を感じています。これを使って、たとえば今後のeスポーツの観戦の幅を広げたり、より臨場感のある迫力のあるプレイを視聴者が見られるようになるのではないかということに魅力を感じています。

――あくまでeスポーツの訴求のための一環として、VRがある?

ビクター 私たちのゲームコンテンツの属性を考えた場合、そこがいちばん魅力的ということですね。現在出しているコンテンツをもとに、VRで何ができるのか、どういったことができるのか、ということを調べながらやっている段階です。最終的には、ゲームコンテンツというところにまでもっていきたいと思っています。

――東京ゲームショウ 2016では出展を?

ビクター もちろん! 私も今年も東京ゲームショウにいくつもりです。ステージに立って、皆さんとお話できると思います。お話だけではなくて、日本のプレイヤーの方々と対戦イベントなどもしたいと思っています。ぜひとも、東京ゲームショウに来ていただいて、私と対戦したり、話を聞いたり……ということを楽しみにしておりますので、今後ともよろしくお願いします!

――ちなみに、日本では『ガールズ&パンツァー』や『蒼き鋼のアルペジオ』とのコラボなど、独自展開が大人気ですね。そのへんに対する手応えは?

ビクター アニメ関係のコラボは、私たちは非常にすばらしい判断をしたと思っています。とくに『World of Tanks Blitz』のようなモバイルコンテンツは年齢層が低いので、そういった意味では、すばらしくマッチしたのではないかと思っています。私個人としても、この判断はよかったと思いますし、私も『ガールズ&パンツァー』や『蒼き鋼のアルペジオ』を楽しませてもらっていますよ。