VR酔いには最大限の注意を払った

  2016年6月14日~16日(現地時間)、アメリカ・ロサンゼルスにて開催中の、世界最大のゲーム見本市E3(エレクトロニック・エンターテインメント・エキスポ)2016。会期に合わせて発表されたワーナー ブラザースの『バットマン:アーカム VR』は、プレイステーション VRを牽引するソフトの1本になリ得るのではないかと期待される作品。実際のところゲームを体験してみると、“バットマンになっている”という感覚が半端ない。果たしてどのような経緯でVR版『バットマン』は生まれたのか。開発元であるロックステディ スタジオのクリエイティブ・ディレクター、セフトン・ヒル氏に聞いた。

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『バットマン:アーカム VR』クリエイティブ・ディレクターのセフトン・ヒル氏に聞く バットマンになるという、究極の夢が叶うゲーム【E3 2016】_02

――まず最初にうかがいたいのですが、ロックステディ スタジオは、「『バットマン』は『バットマン:アーカム・ナイト』でおしまい」とおっしゃっていたと思うのですが、今回『バットマン:アーカム VR』を作ることになった理由を教えてください。

セフトン 『バットマン』をひと区切りつけようといったのは私です(笑)。実際のところ、プレイステーションVRを体験してみて、すごく感動して、「いままでと違う新しいものができるのではないか?」と思ったんですね。『バットマン:アーカム』シリーズはアクションゲームとして完成をみたのですが、VRならば、違った視点から『バットマン』にさらなる可能性を与えられると期待したんです。

――プロジェクトに取り掛かったのはいつごろなのですか?

セフトン 『バットマン:アーカム VR』自体のプロジェクトがスタートしたのは、9ヵ月くらい前からですね。ロックステディ スタジオでは、つねに10~20人が、「つぎに何ができるのか?」ということで、“新しいアイデア”を探っているんですね。“ゲームファンをワクワクさせられるもの”を求めているんです。その中で、もっとも注目したのがVRでした。“現実にそこにいる”という感覚と、何かに触ったりと、環境に関わることができるというインタラクションに大きな魅力を感じたんです。とくに可能性を感じたのが『バットマン』というIPでした。

――なぜ『バットマン』に?

セフトン VRだったら、まさに“バットマンになった”という感覚を強く抱けるだろうという想像にワクワクしたのと、あとは『バットマン』のゲームを長く作ってきて、コンテンツに愛着があったことが大きいですね。なぜ私たちが『バットマン:アーカム』シリーズを完結させたかというと、自分たちが思い描いた物語がしっかりと着地したと思ったからです。それで“終わり”としました。ところがVRならば、ほかのアイデアも刺激してくれますし、違ったタイプの『バットマン』ができるのではないかと判断したんです。それでプロジェクトをスタートさせました。

――開発期間が9ヵ月というのは相当短いかと思いますが、なぜこれだけの短期間での開発が実現したのですか?

セフトン これからまだ開発が続くので、全体では10~12ヵ月かかるプロジェクトになると思っています。もちろん、通常のゲームとVRとではまったく違った経験なので、アップグレードしないといけないことはたくさんありますが、『バットマン:アーカム』シリーズのアセット(素材)から構築することができたので、そこは効率的だったかと思います。

――ゲームのプレイ時間はどれくらいですか?

セフトン ゲームの中身はストレートに遊ぶと1時間くらいのゲームプレイで、そこから戻って遊ぶと、そこにプラスの要素もあるので、全部で2時間~2時間半くらいのゲーム体験になるかと。

――『バットマン:アーカム・ナイト』はアクションですが、『バットマン:アーカム VR』では“ディテクティブ”ということでアドベンチャー要素が強いですね。

セフトン 私たちは、VRに関しては、アクションよりも、そこにいてじっくり考えるタイプのゲームのほうがおもしろさが出ると思ったんですね。ボタンをたくさん押してガンガン戦うよりは、もうちょっと考えながら、いろいろなところを触ったり経験したり、感じたりしながらゲームを進めるほうが、今回はしっくりきた。それで、“ディテクティブ”という方向性に行ったんです。

――『バットマン:アーカム VR』では、基本何かをスキャンして証拠を集めて……というゲームプレイが中心になるのですか?

セフトン “そこにいる”という感覚や“ユニバースの一部になっている”という感覚が感じてもらえたと思うのですが、それはずっと維持していきます。一方で、セクションによって経験が違うので、もうちょっと違った経験が楽しめるようになっています。

――バットマンになれるということで、バットモービルに乗ったり、グラインドできたり……なんてことを期待してしまいますが。

セフトン (笑)。今回はできないです。気持ち悪くなるといけないので……。『バットマン:アーカム VR』では、VRのマジックを感じてほしかったので、何よりもすべての人が快適にプレイできる環境を実現したいと思っていました。気持ち悪くなってしまったら元も子もありませんからね。そのへんは細心の注意を払っています。

――たしかに、『バットマン:アーカム VR』は一切のモーションシックネス(VR酔い)がありませんね。

セフトン ありがとう! モーションシックネスに関しては、どの動きがよくて、どの動きがダメかということをさんざん実験しました。人によってVR酔いをする時間が違うんですね。何をやってもダメな人もいれば、しばらくしてからなる人もいます。いろんな人で検証しました。それで、すぐに酔ってしまう人を対象に徹底的にテストして、これなら大丈夫という動きを選んでいます。

――「ここをこうすれば酔わない」みたいなノウハウが得られたのですね。

セフトン そうですね。自分の動きとゲーム内の動きがずれると気持ち悪くなってしまいますね。コントローラを操作して何かのアクションを起こしたときに、自分が「こう動いているはず」と思っているのと、VR空間の状態が違うと酔います。ただ、上下動は人間はわりと大丈夫なので、エレベーターに乗っても、最初は「あ!」と思いますが、耐えやすい。横のずれに弱いんですね。

――ちょっとストーリーに関して教えてください。本作でナイトウイングが殺されてしまうのがショックだったのですが……。

セフトン 殺したのは私じゃありませんよ(笑)。本作は、シリアルキラーの話で、いろいろな展開が待っています。詳しくはお話できないのですが、最後には納得していただける流れになっていますよ。

――『バットマン:アーカム・ナイト』のキャッチフレーズが“Be the Batman(バットマンになれる)”というものでした。本作の『バットマン:アーカム VR』は、文字通りそれを具現化したものに? セフトンさんはバットマンファンだと伺っていましたが、ご自身の夢が実現した?

セフトン はい! 夢が叶いました(笑)。とてもバットマンになれます。

――ところで、ファンとしては、ロックステディ スタジオには今後も『バットマン』の作品を作ってほしいのですが……。

セフトン (笑)。このあとの具体的な予定はないのですが、何に刺激を受けるかわからないので、ご期待くださいということで……。

『バットマン:アーカム VR』クリエイティブ・ディレクターのセフトン・ヒル氏に聞く バットマンになるという、究極の夢が叶うゲーム【E3 2016】_01