PS Vita版が2016年3月24日に発売された『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- X』(PS4版は2016年秋発売予定)。本作に書き下ろし楽曲「Satisfaction」を提供しているkz(livetune)氏と、「Amazing Dolce」を提供している、ひとしずく氏とやま△氏による音楽ユニット“ひとしずく×やま△”に、各楽曲の見どころを語っていただいた。

※このインタビューは、週刊ファミ通2016年3月31日号(2016年3月17日発売)に掲載された内容に、加筆・修正を施した完全版です。


kz(livetune) インタビュー

自分の持ち味は残しつつ、いままでとは違う方向性に挑戦

■kz(livetune) プロフィール
 2007年よりVOCALOIDで楽曲制作を始め、2008年にメジャーデビュー。作曲家、DJ、プロデューサーとして活躍中。『-プロジェクト ディーヴァ-』シリーズには、第1作から楽曲を提供している。

『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- X』書き下ろし曲を手掛けたkz(livetune)、ひとしずく×やま△にインタビュー_12
『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- X』書き下ろし曲を手掛けたkz(livetune)、ひとしずく×やま△にインタビュー_01
『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- X』書き下ろし曲を手掛けたkz(livetune)、ひとしずく×やま△にインタビュー_02

好きに曲を作ったら……若干やりすぎた?

――始めに、「Satisfaction」をどのようなコンセプトで作ったのか、教えてください。
kz 今回はテーマソングではないので、気楽にやろう、というのが第一でしたね(笑)。セガゲームスの皆さんには申し訳ないのですが、「たまには好きにやらせてもらおう!」と思って(笑)。前作(『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- F 2nd』)でテーマソング「DECORATOR」を書かせていただいて、テーマソングらしいテイストは表現できたと思っていたので、いままでとは違う方向性を出してもいいかな、と思ったんです。

――では、どのような方向性を目指したのですか?
kz 僕の作る曲は、わりとA面っぽい曲が多いので、そうじゃないものがあってもいいかな、と。いまは、「若干やりすぎたかな?」と思っているのですが(笑)。

──『F 2nd』の発売時にkzさんにインタビューさせていただいたとき、「ダンスミュージックを作りたい」とおっしゃっていましたが、その望みを叶えられたのだな、と感じました。
kz そうですね。「Satisfaction」を作ったのは、もう1年くらい前なのですが、そのときにも「EDM(エレクトロニックダンスミュージック)をやりたい」という気持ちをすごく持っていたので。

――最初に「Satisfaction」を聴いたときは、イントロのインパクトに驚きました。
kz 強いイントロなので、イヤホンで聴くとなかなかすごいことになると思います。このくらいのバランスの曲はなかなか作れませんが、ゲームミュージックならチャレンジもできるので。“こういう音楽もある”と提示したいな、と思って作りましたね。

――うってかわって、メロディーはやさしいテイストですよね。
kz 僕の持ち味は、キャッチーさだったり、メロディーの流れだったりすると思うので、そこは残しています。ただEDMをやりたかったわけではなくて、そこに何かしら自分らしさを残したかったので。

──「Satisfaction」を作るときは、どのような作業から始めたのですか?
kz ミクの曲を作るときは、いつもリハビリから始まるんですよ。VOCALOIDの打ち込みかたを忘れちゃうんです(笑)。VOCALOIDの曲を作るのはだいたい1年に1回なので。最初のワンコーラスくらいを打ち込みながら「ああ、こうやって打ち込んでいたな」と思い出していくんです。でも、今回は「Hand in Hand」(イベント“初音ミク「マジカルミライ 2015」”のテーマソング)を同時期に作っていたので、そこまでブランクを感じずに作れたと思います。

――今回使用したVOCALOIDソフトは『初音ミク V3』ですか?
kz はい。『V3』を使った理由は単純で、ソフトが使いやすくなっているからです。『V3』には、アンドゥが何度でもできるというすばらしい機能があるので。前のバージョンだと、アンドゥは一度しかできなかったんですよ。

――その条件下で、試行錯誤しながら曲を作るのは、とてもたいへんそうですが……。
kz 制約があったからこそ、みんな「やってやるぞ!」という気持ちになっていたのかもしれません(笑)。ゲームで言うところの、縛りプレイのような(笑)。昔はオケ(※)もいっしょに流せませんでしたしね。いまでも僕は、オケをいっしょに鳴らさずに、無音で作っていますけど。
※ここでは、楽曲における、ボーカル以外の部分のことを指す。

――無音で作ることに対し、こだわりがあるのですか?
kz もうその方法に慣れてしまったというのもあって、(やりかたを)変えていないんです。転調が多い曲であれば、いっしょに流す必要もあると思いますが、自分の曲は、あまり転調がないので。オケといっしょに鳴らすと、わりといい感じに聴こえてしまって、細かい部分にミスがあっても気づかないこともありますしね。

ダンスミュージックの楽しさを、ふわっと伝えたい

──以前、「Tell Your World」を手掛けた後にVOCALOIDの曲を作るのは難しかった、とおっしゃっていましたが、いまはいかがですか?
kz 「Tell Your World」で、やりたいことを一度やり終えたという事実は、これからも変わらないですし、「Tell Your World」を超える曲を作ろうとしたら、国連のテーマソングでもなければ超えることはできないと思うので。ふつうのポップスを書くとしたら、なんてことない歌詞を書いていくのが、ちょうどいいマインドかな……という考えは、いまも変わっていないですね。

──では、「Satisfaction」の歌詞は、どのようなイメージを持って書かれたのですか?
kz 世の中、楽しそうにしている人たちを見て、「楽しそうだな」と思っても、その輪になかなか入っていけないことがあるじゃないですか。でも、入ってみたら、意外と楽しい。ダンスミュージックもそういうものです。それがふわっと伝わるといいな、と思って書きました。「Weekender Girl」(『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- f/F』の書き下ろし曲。kz氏と八王子P氏の共作)の軽さに近いものですね。

──「Weekender Girl」のテーマは、「週末はみんなでクラブに行こう!」というものでしたよね。
kz はい。しかも全部夢オチなんですよ、あの歌詞。けっきょくクラブには行っていないんです(笑)。そのくらいの軽さで作ろう、と思ったんですね。

──「Weekender Girl」に合わせて作られたモジュール“パンジー”は、TNSKさんデザインのものでしたが、「Satisfaction」をイメージしたモジュール“DE:MONSTAR”もTNSKさんが手掛けられていますね。
kz パンジー同様、デザインはTNSKさんにお任せしました。できあがったものを見たときは、「こう来るか!」と思いましたね。ツノが生えるとは思わなかったので(笑)。でも、僕はお任せするスタイルが好きなんです。そのほうが、二次創作的でおもしろいなと思って。デザインする方が、「こういうものが見えた」と言うなら、それが正解なんじゃないかと思います。リズムゲームPVも、気がついたら完成していました(笑)。

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▲TNSKさんデザインの“DE:MONSTAR”。悪魔のようなツノとしっぽが特徴だ。「Tシャツがかわいいですよね」とkz氏。
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『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- X』書き下ろし曲を手掛けたkz(livetune)、ひとしずく×やま△にインタビュー_04

──(笑)。完成したリズムゲームPVを見たときは、どのように感じられましたか?
kz 振りが、いままでの中でいちばんカッコいいと思います。それから、被写界深度が調整されていて、よりPV感が増した気がします。

――この曲は、DJライブにもピッタリの曲だと思います。
kz 「Satisfaction」は、自分がライブで使える曲を作りたいな、と思って作った曲でもあるんですよ。今年のSNOW MIKUで行われたライブ“Beat Blizzard”で、「Satisfaction」をワンコーラスかけたんです。ビートが鳴ったらフロアがわーっと盛り上がって、すごくいい感じでしたね。こういうわかりやすいEDMの曲、「ジャンプするだけでオーケー!」という曲はなかなかないので、みんなで楽しんでほしいですね。

初音ミクの曲を作ることについて

――kzさんはいろいろなアーティストの方に楽曲を提供されていますが、現実のアーティストの方の曲を作るのと、初音ミクの曲を作るのとでは、どのような違いがありますか?
kz 最近は大差がなくなってきています。以前は、初音ミクの曲なら、せっかくだし高温を出したい……と思っていたんですが、最近は「高音だと、(みんなが)いっしょに歌えないな」と思って。ですので、「DECORATOR」も、そんなにキーは高くないんですよ。「Satisfaction」は少し高いのですが、それは曲全体の音域のバランスを考えたら、そうなってしまったんですよね。違いがあるとすれば、歌詞に関してです。主体性のない歌詞を書ける、主役が誰でもない歌詞を書けるところが初音ミクの特権だと思います。

――kzさんは、ミクをどのような存在だと捉えているのでしょうか。
kz 作り手の意識を飛ばすハブだと考えています。「初音ミクなら、こう歌う」、「こういうことは歌わない」というような、キャラクター性は感じていないです。何万といるクリエイターの人たちが、ミクがどういう存在なのかをわからなくしているので。極端なことを言うと、下ネタの曲だってありますしね。アーティストの方だったら、「こういう世界観は歌わないな」と思ったりするんですけど、ミクの場合はぜんぜん思わない。だから、ミクの曲を書くときは、テーマソングでもない限り、あんまりメッセージ性は持たせません。

――ちなみに、つぎにVOCALOIDの曲を作るとしたら、どんな曲を作ってみたいですか?
kz エレクトロから離れてもいいかな、と思います。アナログライクな曲もいいかなと思いますね。アルバム「DECORATOR EP」に収録されている「Andante」という曲は、8分の6拍子のゆったりしたバラードなんですけど、あの曲も作っていて楽しかったですし。ここ数年、いろいろなお仕事をさせていただいて、自分の曲の幅が広がってきたと思うので、それらをフィードバックしたら、おもしろい曲ができるかもしれません。

――では最後に、『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- X』を楽しみにしているファンに、ひと言お願いします。
kz ひと足先にプレイをさせていただいたんですけど、映像がとてもいいですし、いろいろな要素が追加されているので、ぜひ楽しんでもらいたいです。僕はゲームが大好きで、楽曲を通じてゲームの普及に貢献できたらいいなと思っています。最新のハードでゲームを遊んで、「すげえな」って感じてほしい。皆さん、ゲームをやりましょう!

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▲ゲームが大好きなkzさん。最近買ったゲームは、『フォールアウト4』と『アサシン クリード シンジケート』とのこと。