僕らができることは、道をよりよいものにするために“飾り付けていく”こと

 電子の歌姫・初音ミクが主演するリズムゲームシリーズの最新作『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- F 2nd』(2014年3月27日発売予定)。“これまでのDIVA←→これからのDIVA”をテーマとする本作を彩るのは、人気アーティストが『初音ミク』を始めとするVOCALOIDソフト(音声合成ソフト)を用いて手掛けた楽曲たちだ。

 ファミ通ドットコムでは、個性豊かな楽曲の魅力を探るべく、アーティストたちにインタビューを実施。アーティストにとっての“これまで←→これから”についてお話をうかがった。今後、『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- F 2nd』発売まで、連載形式でお届けしていく予定だ。

 このインタビュー連載企画のトップを飾るのは、『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- F 2nd』オープニングテーマ「DECORATOR」を書き下ろしたユニット“livetune”のkz(ケーゼット)さん。音声合成ソフト『初音ミク』が発売された2007年にニコニコ動画での楽曲公開をスタートさせ、現在はメジャーなフィールドで活躍するkzさんに、音楽作りを始めたきっかけや、「DECORATOR」に込めたメッセージなどについて語っていただいた。

【『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- F 2nd』アーティストインタビュー第1回】livetune「DECORATOR」でクリエイターに送るメッセージ_11
livetune
kzさん

■『Auto-Tune』を使ってみたらどうなるんだろう、から始まった

――kzさんが『初音ミク』で作った楽曲の公開を始めたのは2007年9月でしたが、『初音ミク』で曲を作ろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
kz 僕はもともとアーティストのダフト・パンクが好きだったんですが、彼らは『Auto-Tune』(ボーカルのピッチのズレを補正するソフト。声がロボットの声のように加工されるのが特徴)を多用していて、当時、僕もそのエフェクトをよく使っていました。『初音ミク』が発売されたとき、『Auto-Tune』をミクに使用してみたらどうなるんだろう? と思って、作りはじめたのがきっかけです。

――では、DTM(デスクトップミュージック)を始めたのは、いつごろからですか?
kz 中学2年生くらいからです。そのころから、クラブミュージックに興味を持ったり、バンドをやったりしていました。

――kzさんと言えば、キラキラしたエレクトリックなメロディーが特徴的ですが、以前からエレクトロサウンドがお好きだったのですか?
kz 僕は音大に通っていたんですが、当時は音響合成や、小難しい理論を展開する現代音楽を学んでいました。そういった難しいことをやっていた反動なのか、周囲では、元気ロケッツやi-depといった、ボーカルハウスのようなジャンルが流行っていたんです。その影響を受けて、女性ボーカルメインの4つ打ちの曲を作り始めたのですが、それからずっといまも、その延長線上にいますね。

――2008年には、VOCALOIDクリエイターとしては初めて、メジャーでデビューされましたが、メジャーデビューが決まった当時は、どのようなお気持ちでしたか?
kz 気負いとかはあまりなかったです。と言うのも、アルバムをリリースするためのメジャーデビューではなく、発売元のビクターさんと「何かおもしろいことをしよう」とお話しして決まったことだったし、まずは同人で作ったアルバム「Re:package」の商用流通版を作ろう、ということになったので、そんなに大事だとは捉えていなかったんです。どちらかというと、追加の新曲を作ることに、頭も手もいっぱいいっぱいだった記憶があります。

――気負いがなかったとはいえ、ご自身も周囲の皆さんも、いままでとは意識が変わりますよね。
kz 2008年は、まだ友だちも多くなかったので、周りはとくには変わりませんでした(笑)。周りよりも、やはり自分の意識には変化がありました。気負いがないとは言いつつ、やはりメジャーなのでちゃんとしたものを作らなくては、と思いました。ただ、もともと音楽業界で働きたいと思っていたので、メジャーデビューについては、アプローチが(『初音ミク』がきっかけという)一風変わったものになっただけ、という認識でしたね。

――メジャーデビューから約5年半、音楽作りの環境は、大きく変わりましたか?
kz 昔と比べるとそうですね。ボーカル曲やリミックスのお仕事をする中で、前から僕のことを知ってくれている方もいたり。最近いっしょにお仕事したMay’nさんも、もともと僕の曲を聴いてくださっていました。高校や大学のときにずっと聴いていたアーティストたちと音楽の話ができたり、共同で音楽を作ることができるようになったのは、大きな変化ですね。

――現在、kzさんはさまざまなアーティストに楽曲を提供していますが、生のボーカル曲を多数手掛けてきたいま、改めて考えるミクの魅力とはどんなところですか?
kz 生のボーカルだと、最終的に僕の想像を超えるものになることもあるのですが、そこに到達するのはやはり難しいんです。レコーディングの際、僕が何か言うことで、ボーカルがいい方向に変わることもあるし、うまくいかないこともある。やってみるまでわからないんですよね。その点、ミクはソフトウェアなので、フルコントロールが必要なものの、自分が思い描いていたところに到達できる、自分だけで完結できるというのは、やっぱり強みだと思います。ただ、自分にしっかりとしたビジョンがないと曲を作り上げられないので、その点はいつも気を付けています。

■ベタベタなEDMを作ってみたい

――多忙なkzさんですが、もしたっぷり時間があったら、どんな楽曲を作ってみたいですか?
kz もし、1ヵ月のお休みがもらえるという話なら……。去年、David Guetta(デヴィッド・ゲッタ。パリ出身のDJ)などが手掛けるEDM(エレクトロニックダンスミュージック)が流行りましたし、ダンスミュージックを作りたいです。最近は、ポップミュージックを作ることが多かったので。3月5日にリリースしたミニアルバム「DECORATOR EP」の中に、「Connection」という英語の曲があるんですが、これはベタベタなEDMがやりたくて作った1曲です。

――「DECORATOR EP」は、どのような作品なのでしょうか?
kz 昨年、「Packaged」のリミックスや、shu uemuraさんとのコラボ楽曲など、ミクのボーカル曲をいくつか作ったのですが、それぞれバラバラに発表しましたので、それらをまとめたものをリリースしたいと思い、ミニアルバムにしました。もちろん、『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- F 2nd』のオープニングテーマである「DECORATOR」も入っていますし、新曲もあります。

――使用したソフトは、『初音ミク V3』ですか?
kz アルバム収録曲は、全部V2(“VOCALOID2”の略。『初音ミク V3』が搭載しているエンジン“VOCALOID3”の前のバージョンにあたる)で作っています。V2の音が好きだったので使用したんですが、このあいだV3を触ってみて、さほど違和感もなかったので、今後はV3でもいいのかな、とは思っています。

■これからのクリエイターにもがんばってほしい

――では、「DECORATOR」について詳しくうかがっていきたいと思います。『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- F 2nd』のオープニングテーマとして書き下ろされた楽曲ですが、オープニングテーマを作ることが決まったときのお気持ちをお聞かせください。
kz これまでも、『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ-』シリーズに曲を収録していただいたり、ゲームとコラボレーションして曲を作ったりはしていましたが、オープニングテーマを書くのは初なんですよね。でも、オープニングテーマであることを気にし過ぎてもダメかな、と思いました。ryoさんが前作のために書かれた「ODDS&ENDS」が、オープニングテーマとしてもとてもよかったのですが、比較して考え始めるとどうにもならなくなるので、いつも通り、自然に作るようにしました。

――では、あえてオープニングテーマということを意識せずに作られた「DECORATOR」には、どのような思いが込められているのでしょうか。
kz 僕はVOCALOIDの曲を作りはじめて7年目。セガさんとも、もう3、4年、タイアップという形で曲を作らせていただいていて、それはもちろんありがたいことなのですが、だいぶ長くやっているなぁ、と思いまして(笑)。それで、最近活動を始めたクリエイターさん、下の世代のクリエイターさんにも、がんばってほしいという思いを込めて作りました。僕らの世代も、YMOから続く4つ打ちのポップの道を歩いてきたわけですが、それはつまり、上の世代の人が作ってくれた道を加工して整備してきたということなんですよね。下の世代のクリエイターにも同じことをしてほしいな、と思って。“DECORATOR” は“飾る人”という意味なんですが、“作る”は前の世代の方がやっているので、僕らができることは、道をよりよいものにするために“飾り付けていく”ことなんじゃないかなと。

――「DECORATOR」のリズムゲームPVをご覧になっての感想を教えてください。
kz 今回、めっちゃいいですよね! キャラクターがいっぱい出てくるのが、何よりもイイです。ここまでライブ感があるPVはこれまでなかったですし。

初音ミクがオリジナル曲を歌ってくれました「DECORATOR」【Project DIVA F 2nd】

【『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- F 2nd』アーティストインタビュー第1回】livetune「DECORATOR」でクリエイターに送るメッセージ_01
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【『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- F 2nd』アーティストインタビュー第1回】livetune「DECORATOR」でクリエイターに送るメッセージ_04

――キャラクターが勢ぞろいしますからね。
kz 人がたくさん出ているライブって、単純に見ていて楽しいんですよね。集団の力、数の強さって絶対あると思います。今回のPV、僕はすごく好きです。オープニングのほうも、PVと世界観を共有しつつ、“宇宙に行く”って演出がいいですよね。未来、つぎのステージに進むというイメージも湧きますし、曲とマッチしていると思いました。

【初音ミク】「初音ミク -Project DIVA- F 2nd」のオープニングムービーをちょっとだけ公開!【Project DIVA】

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――また、『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- F 2nd』には、「Packaged」も装い新たに収録されますね。
kz 「Packaged」はシリーズ1、2作目に収録されていたんですよね。昔の作品を掘り起こされるのは、クリエイターとしてはあまりうれしいことではないんですが……(笑)。皆さんには、卒業アルバムを見ているような感覚で、楽しんでもらえればいいかな? 新曲の「DECORATOR」と聴き比べて、「曲作りがうまくなっているな!」と感じていただければ(笑)。

――(笑)。それでは最後に、『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- F 2nd』を楽しみに待っているファンへ、メッセージをお願いします。
kz ひと足先に、『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- F 2nd』をプレイさせていただいたのですが、これまでの僕の曲の中で、リズムゲームがいちばん歯ごたえのある仕上がりになっているようです。ゲームとしてのやり応えを感じながら、ぜひ楽しんでください!

■「DECORATOR EP」商品概要

アーティスト名:livetune feat. 初音ミク
商品名:DECORATOR EP
発売日:2014年3月5日(水)発売
価格:初回限定盤(DVD+CD) TFCC-86462 2000円[税抜]
   通常盤(CD) TFCC-86463 1500円[税抜]
発売・販売:TOY’S FACTORY

ディスク1(CD)
1. DECORATOR
2. Packaged (Shipping in 2013 remix)
3. Connection
4. Pink or Black
5. Long Way From Here
6. Andante
7. DECORATOR (TeddyLoid remix)

ディスク2 (DVD)
1. DECORATOR -Music Clip-
2. Pink or Black -Music Clip-
3. 初音ミク -Project DIVA- F 2nd Opening Movie
4. DECORATOR (GAME Version) feat.初音ミク -Project DIVA- F 2nd

初回盤に付属するDVDに収録されるMusic Videoは、セガとわかむらPのコラボレーションによるもの。そのほか、『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- F 2nd』のオープニングムービー、「DECORATOR」のリズムゲームPVなどを収録。

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「DECORATOR EP」初回限定盤
「DECORATOR EP」通常盤

livetune feat. Hatsune Miku「DECORATOR」Music Video

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▲アーティストインタビュー特設サイトも本日オープン! 更新を楽しみにしていてください。なお、次回(2014年3月12日更新予定)は、DECO*27さんと40mPさんの対談を掲載予定です!!

(画像をクリックすると特設サイトに飛べます)

初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- F 2nd
メーカー セガ
対応機種 PS3プレイステーション3 / PSVPlayStation Vita
発売日 2014年3月27日発売予定
価格 各7000円[税抜](7350円[税込])
ジャンル リズムゲーム / 音楽
備考 ダウンロード版は各6286円[税抜](6600円[税込]) プレイステーション Vita版はPS Vita TV対応(リズムゲームのみ) ※オプション設定が必要です。