“ガンブーツ”を支えるために用意した、ほかのゲーム要素のおかげ
2016年3月14日~18日(現地時間)、アメリカ・サンフランシスコ モスコーニセンターにて、ゲームクリエイターの技術交流を目的とした世界最大規模のセッション、GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2016が開催。初日の3月14日には、“The Independent Games Summit”にて、もっぴんこと、麓旺二郎氏による講演“Polishing the boots - Designing 'Downwell' Around one key mechanic”が行われた。“ブーツを磨き上げろ:ワンボタン操作のゲームをデザインするために”とでも訳すべきこちらの講演は、iOSおよびAndroid、PCでリリースされ、大きな話題を集めた下スクロールアクションゲーム、『Downwell』のゲームデザインに迫るセッション。10歳から15歳までニュージーランドで暮らしていただけあって、流暢な英語でのセッションとなった。
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もっぴん氏によると、『Downwell』を発想したきっかけは、大好きだった『Spelunky(スペランキー)』のモバイル版が作りたかったからとのこと。ひとりのゲーマーとして、「モバイルで、『Spelunky(スペランキー)』くらいにハマれて、予測不可能なゲームが遊べたら」と感じていたという。という意味では、「自分の遊びたいゲームを作ったとも言えます」ともっぴん氏。
もっぴん氏によると、開発当初は、2D、縦持ち、縦画面、ランダム要素ということだけ決まっていて、細部は詰めていなかったという。当然のことゲームデザインをまとめた書類もおらず、プロトタイプにどんどんアイデアを実装していく形で進めたらしい。いわゆる、“トライ&エラー”、“ビルド&スクラップ”といったところか。
初期の段階では、『Downwell』のキモとなる“ガンブーツ”もなく、危険なものに触れると即死するだけのゲームだったようだ。ずっとモバイル版を想定して開発を進めていたので、ボタンを配置するスペースが少なく、操作は左右移動とジャンプだけにしようと考えたが、実際に試遊してみると、ジャンブのボタンがいちばん使われることに気づいたことが発想のひらめきにつながった。空中でジャンプボタンを押すと下に弾を打つというメカニズムを思いついたのだ。もっぴん氏はすぐに、「これはイケる!」と思ったという。“ガンブーツ”の誕生だ。
「宮本茂さんの言葉を引用するのは恐れ多いのですが、」と前置きしたうえで、「いいアイデアとはひとつの問題を解決するものではなく、一度に複数の問題を解決するものだ」との宮本氏のコメントを紹介。「本作の場合は、“ガンブーツ”がそれにあたると思った」という。そして、この“ガンブーツ”というアイデアの可能性を中心にして、ゲームを組み立てていくことにしたのだという。
まずは、弾薬の数。弾薬を無制限にすると単なる弾幕シューティングになってしまうが、逆に限界を設けると、プレイヤーが弾薬を温存することがゲームのポイントになってしまう。そこで、もっぴん氏は、『DARK SOULS(ダークソール)』シリーズのように、一定時間が経つと回復する“スタミナ制”がよいという判断に至ったという。この方法だと無制限には撃ち続けられないし。その後の展開を見越して多少は弾を温存しなければならないというバランスができた。
ただし、一定時間で弾薬が回復すると、けっきょくは撃ち切ったら着地することになり、そこでゲームのテンポが崩れてしまう。それならば……ということで、着地したら弾薬が回復するようにしたほうがテンポがよくなると考えた。結果、このほうがうまくいったという。
続けて着手したのが、レベルデザイン(ステージのレイアウト)。最初は『Spelunky(スペランキー)』のように、進め甲斐のある障害物を配置するように考えていたものの、そうすると画面がブロックで埋まってしまった。そこでつぎに空間を広く持たせるようにして、空中に浮かぶ敵を多く追加したらしい。このほうがプレイヤーが自由に動けるし、同時にプレイヤーが動き続けるように誘導することもできた。
「いま振り返れば自明のことなのですが、そのころは“ガンブーツを使って空中移動するにはより広い空間を用意した方がいい”と気付くまでにけっこう時間がかかりました」ともっぴん氏。たとえば、下に落ちて行くときにはつぎに着地するポイントが画面内に表示されていないとプレイヤーは理不尽だと感じると思っていたが、そうではなかった。広い空間を用意しておくと、画面上につぎの着地ポイントが表示されていなくても、“ガンブーツ”でうまく敵を避け、つぎの着地点が現れるまでの弾薬数を計算する。それで、ガンブーツの使いかたがよりおもしろくなったというのだ。「移動できる場所が広くなったことで、追いかけてくる敵を撃つことと、移動を同時にできるようになったのもよかった」ともっぴん氏。
コンボは、自身のゲームプレイでの気付きから実装したものだ。コンボに関しては、“ガンブーツ”を盛り込む前の段階から検討していたが、当初は“いらないのでは”ということで捨てておいたという。それが、“ガンブーツ”の実装後、自身でプレイしていて無意識のうちに敵を連続して踏んでいる自分に気づいたのだという。そこで、コンボの再度の実装を決意。これにより、敵を撃つことと踏むこと、さらに自分のポジション取りなどを同時に考えることになり、よりスピード感のあるゲームプレイが実現できたとのことだ。
こうして、“ガンブーツ”のゲームプレイに満足するまでに要した時間は10カ月。その後、リリースまでの残りの5カ月間を、エリアやパワーアップの追加、音楽の追加、最終調整などに費やしたという。
最後にもっぴん氏は、「このままだと本作にしか役に立たない内容になってしまうので(笑)」としつつ、“汎用性のありそうな教訓みたいなもの”を共有。それは以下の通り。
「自分のゲームのうち“特別”だと思える箇所を磨きに磨き上げ、その部分をより輝かせるためにほかのゲーム要素を組み立てていくのがいいのではないかと。『Downwell』でも、“ガンブーツ”そのもののアイデアもよかったと思うけれど、本当にゲームとしての完成度が高くなったのは、“ガンブーツ”を支えるために用意した、ほかのゲーム要素のおかげです」
講演後の質疑応答では、もっぴん氏の人柄がうかがわれるようなやりとりが聞かれた。たとえば……。
――リロードの時のアニメーションがスゲー好きなんだけど、どういう経緯で作られたものですか?
もっぴん ごめん、それ仮素材として5秒で作ったやつです。なんかいい感じだったのでそのまま使いました。ひどい答えでごめんなさい。
――インディーは北米や欧州のクリエイターが多いですが、日本から来たあなたは何を感じます?
もっぴん 確かに日本から出るゲームは少ないけれど、とくに日本だから何かというのは感じないかな。 どこにいてもApp StoreやSteamにはゲームを出せるわけだし。うーん、でもそれについてはちゃんと考えたことがないです。まだ、(日本の)スーパースターが出てないだけじゃないかな。(会場から“You!” という声が上がったことに対しては)「僕じゃなくて、もっと若い人がね!」とひと言。
――『Downwell』を初めて遊んだときに、その洗練具合に驚きました。こういうゲームを作る人の生い立ちとか、きっかけを聞いてみたかったのですか。
もっぴん 開発を思い立ったきっかけは、『Ridiculous Fishing』を遊んで、「すごいゲームだな!」と思ったことですね。それで、開発者についての記事を読んだら、もちろんふつうの人たちではないにせよ、「これを作った人も同じ人間なんだよな」と気付いて、「自分にもできるかも」と思ったんです。
終始飄々とした様子の、もっぴん氏の語り口に、会場からは頻繁に笑いが巻き起こっており、この国でいかにもっぴん氏と『Downwell』が愛されているかがうかがわれた講演だった。