強力なパートナーシップで、“VR元年”へ一歩を踏み出す

 2016年3月3日~4日、福岡にて、ベンチャー・スタートアップ向けのイベント“B Dash Camp 2016 Spring in Fukuoka”が開催された。3月4日には、水口哲也氏(エンハンス・ゲームズ Founder/CEO)と藪考樹氏(モブキャスト 代表取締役 CEO)によるセッション“2016年から始まる未来~The Future of VR Games”が行われた。
 2016年が“VR元年”と目されるなか、水口氏と藪氏はどんな未来を描いているのか? また、ふたりの気になる関係とは? セッション後に特別インタビューを行い、話を聞いた。(聞き手:週刊ファミ通編集長・林克彦)

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『Rez Infinite』から始まる未来! VRコンテンツの資金調達にエンハンス・ゲームズとモブキャストが強力タッグを実現! 水口哲也氏&藪考樹氏インタビュー_02
▲エンハンス・ゲームズ 水口哲也氏(左)とモブキャスト 藪考樹氏(右)

――まずは、おふたりの関係性やエンハンス・ゲームズとモブキャストの関係について教えてください。
藪考樹氏(以下、) “モブキャスト”という社名は水口さんがつけてくれたものなんですよ。それはさておき、じつはモブキャストがエンハンス・ゲームズに出資して、VRプロジェクトを支援することになりました。ほとんど公にしていませんし、リリースも出していません。先ほどのセッションで水口さんから資金調達をするという話が出ましたが、5月末を目途として、モブキャストが資金調達の前面に立つことにしました。

――そこは役割分担があるわけですね。
 セッションが終わってすぐにベンチャー・キャピタルが集まってくれましたが、そうした事情を説明しました。この記事で、もう少し詳しいことが明らかにできると思います。モブキャストとしても、それで資金調達の確率を上げたいと考えています。

――そもそも、モブキャストがエンハンス・ゲームズに出資することにした理由や経緯をお聞かせください。
 会社設立時に社名をつけていただいたり、初めてゲーム業界に参入するにあたって、水口さんには社外取締役になっていただいたり(※現在はクリエイティブアドバイザー)、ずっと付き合いがありました。
 以前、私と玉舎(玉舎直人氏/モブキャスト 取締役 マーケティング本部長)と水口さんの3人がそれぞれ別の会社を作ったのですが、それぞれ「どこかの会社がうまくいったら、そこを足掛かりにして大きくしよう」と話していたんです。それで、水口さんがエンハンス・ゲームズを起こすにあたって、「水口さんがやりたいことを実現するために、モブキャストができることは何だろう?」と話し合うための“合宿”を、2014年の12月に熱海で行ったんですよ。そこで、水口さんはVRで『Rez』をやりたいと話してくれましたわけですが、さらに「『ルミネス』の版権をモブキャストで取得しよう」という話になりました。

――それが昨年の発表につながるわけですね。

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 はい。新たにスマホ版もやりましょう、と。今年の1月に2回目の合宿をしたのですが、その合宿では、VRの話が中心でした。“Project Morpheus”から“PlayStation VR”へと名称が変わったことでVRの可能性が高まり、VRの熱は今年すごいことになると話していました。水口さんには当初3本のVRタイトルの構想があったのですが、順番にやるのではなく、「一気に今年3本を作り始めるくらいのスピード感でやりたい」という話になりました。それを実現するためには、資金調達する必要があるという結論に至ったわけです。
水口哲也氏(以下、水口) いままでは、ひとつひとつ丁寧にプロジェクトを進めてきました。『Rez Infinite』も、スマホ版の『ルミネス』はモブキャストと共同で作るということで、それぞれ丁寧にやってきました。ただ、僕の頭の中にはすでにその先の展望、とくにVRに特化したシナリオがいくつか見えていまして、プロジェクト・ファイナンス(プロジェクトごとに開発資金を集めること)をするのはそろそろ限界を感じていたんです。もちろん、丁寧に作ることはできるのですが、やりたいことがいくつもあって、早く作りたいという欲求もあります。ただ、自分には資金調達をして、たとえば上場するといったイメージはあまりありません。クリエイティブな会社が上場を目指すことには多少違和感を感じていて、避けてきたところもあります。
 そんなときに藪さんと合宿で話したときに、「いろいろな方法がある」と話してくれました。上場だけがゴールではないし、資金面に気を揉まずにクリエイティブな作業に時間を割くほうがいいのではないか、と。そこはモブキャストが支援してもいいと言ってくれましたので、だったらエンハンス・ゲームズの株を持っていただき、うまくいくかどうかはやってみないとわかりませんが、一度体を預けてみようと思いました。資金調達ひとつとっても、いまはクラウドファンディングなど、いろいろな方法がありますが、それぞれ体力が必要なんですよね。

――なるほど。
水口 僕はなるべく少数精鋭で、いま持っているビジョンを具現化することに集中したかったので、藪さんの提案はありがたかったですね。

――ゲームファンからすると、水口さんが作りたいゲームがやっと実現できる時代が来て、さらにクリエイティブに専念できる環境が整ったというのはうれしいですね。モブキャストが投資するのも、水口さんの作るゲームに魅力や可能性を感じるからですよね?
 もちろんです。ようやく、『ルミネス』や今回の『Rez Infinite』で、いままで間接的だったことが直接お手伝いできるようになったので、とても楽しいですね。
 もうひとつ少し具体的な話になりますが、水口さんが決定権を持った状態でクリエイティブ作業に専念してほしいんですね。エンハンス・ゲームズの株を半分以上持っている状態をキープできれば、作りたくないものまで作る必要はありません。その環境をキープして、残りで3本を制作する資金を調達するというビジョンです。 

――ぜひいろいろなベンチャー・キャピタルに協力してほしいですね。興味を持った方はモブキャストさんに連絡を、と(笑)。
水口 プロジェクトの計画はいままで通り進行しています。新しいプロジェクトを立ち上げるにあたって資金調達をしたい、ということです。僕の頭の中に、VRで作りたいものがいくつかあって、それを実現するために資金調達をしたいと考えています。

VRで無限大の飛躍を遂げる『Rez』

――昨年の“PlayStation Experience 2015”で発表された『Rez Infinite』ですが、その後の開発状況について教えてください。
水口 パートナーであるMonstars社(水口氏と多くの開発を行ってきた小寺攻氏が代表を務める開発スタジオ)とともに、開発は順調に進んでいます。まだ詳細は語れませんが、“エリアX”というVRに特化した新しいステージを制作しています。今年の秋から後半には発売したいと思っています。みなさんに少しでも快適にプレイしてもらえるように、120fpsに近づけるようがんばっています。この数値が高ければ高いほどスムーズな3D描写が可能になるので、“VR酔い”になる可能性も低くなっていくでしょう。最終的にどこまで行けるかはわかりませんが、時間のある限り調整は続けようと思っています。

――“PSX”で発表してたくさんの反響があったと思いますが、手応えはいかがでしたか?
水口 発表後、各国のジャーナリストと話す機会がありました。皆さん、シナスタジア・スーツといっしょに『Rez Infinite』を体験すると、いままでに経験したことのない新しい体験過ぎて、どう表現していいかわからない状態がしばらく続くんです。

――確かに、VR全体について言えますが、どのように伝えればいいのか、メディアにとっては“宿題”を出されたような感じです。
水口 なるほど。それは僕にとって、すごくうれしいことなんですよ。「どう伝えればいいんだろう?」と、ジャーナリストの方々が本気で向き合ってくれている。3Dでフレームのない世界と3Dのサラウンド、さらに僕たちは振動も加えましたが、その気持ちよさや楽しさといった体験をうまく伝える言葉がないんです。2001年に『Rez』を出したときも、いまに近い感覚でした。メディアやユーザーがなんとか表現しようとしてくれて、じわじわと拡散しながら15年続いて、その感覚が消えなかったわけです。僕がメディアやユーザーの方と行うキャッチボールがまた始まったと感じていて、うれしくてしょうがないんですよ(笑)。

――水口さんのゲームは、時々そういった問いを入れ込んできますよね(笑)。“シナスタジア・スーツ”もそのまま販売はできないでしょうが、着てみたくなりますよね。
水口 “シナスタジア・スーツ”は、『Rez』のコンセプトを伝えるために、プロモーション用に作ったスーツですからね。3月21日まで18時~22時まで、“Media Ambition Tokyo”で、このシナスタジア・スーツを体験できるイベントを開催中です。発売されたら買いたいという方もいると思いますが、どうしようかな(笑)。

――完全受注生産とか、オーダーメイドとか、値段が想像つかないですけど(笑)。
水口 『Rez』では、“トランスバイブレーター”(PS2版用専用周辺機器)を作りました。コントローラの振動だけではなく、“立体化する振動”を体験してもらいたかったのです。今回は、フル装備のスーツではなくても、何らかの形のデバイスを作る可能性は……あると思います。「作る」とは断言できませんが(笑)。

――それはいいですね。カッコイイ!
水口 やってみたいと思いますよね。できるといいなぁ(笑)。

『Rez Infinite』から始まる未来! VRコンテンツの資金調達にエンハンス・ゲームズとモブキャストが強力タッグを実現! 水口哲也氏&藪考樹氏インタビュー_01

――セッションでも触れていましたが、海外と日本ではVRに対する温度差があると思います、改めて、水口さんからVRの持つ可能性やチャンスについて話していただけますか?
水口 僕は1990年にセガに入社したのですが、ちょうど2Dから3Dへとグラフィックの技術が進化するタイミングでした。発想を変えないと3Dのゲームは作れないという思いがありました。経験者や教えてくれる人もいないので、自分たちで考えて、いろいろなものを生み出さないといけない状況でした。まだ20代でしたが、同時期のクリエイターはいま前線で活躍している方ばかりです。新しい時代の波に乗って、チャンスをつかんだ人たちです。現在は、個人でも少人数でもゲームが作れる時代です。誰でもチャンスがある、恵まれた時代です。なぜVRでゲームを作らないのかというと、怖さやアイデア不足などでしょうが、やりたい人がそれを超えていくわけです。VRでやりたいアイデアがあれば、資金も集めやすいです。あとは、やりたいか、そうでないかでしょうね。

――日本のゲームファンも、当然新しい体験がしたいと思っているわけで、新しいスターが生まれるチャンスでもありますよね。
水口 そうですね。“次元が変わる”のは、2Dから3Dになったときに経験しましたが、今回のVRはそれと同じか、それ以上のインパクトを持っています。挑戦したい人にはチャンスだと思います。ただし、フレッシュな発想や企画力、人間力といったものが問われることになります。

――第二の水口さんが出てくる可能性がありますね。
水口 そうなんですよ! 出てきてほしいですね。

――藪さんにとっても、VRには大きな可能性を感じているわけですよね?
 今回のエンハンス・ゲームズのように、協力してほしいという人たちが出てくるでしょうから、モブキャストが金融機関とのあいだに入って、クリエイターが作業しやすい環境を作るのは、モブキャスト設立当初からずっとやってきたことです。

――水口さんの頭の中には、たくさん実現したいアイデアがあって、作りたいという欲求が高まっていると思いますが、そういった構想は共有されているのですか?
水口 もちろんです。モバイル版『ルミネス』のようにVR以外のプロジェクトもあるのですが、未來に向って新しい体験を提供するとなると、VRが大きな割合を占めています。
 まだ具体的な話ではありませんが、モバイル版『ルミネス』で売り切りの通常版とF2Pの対戦版を考えています。それとは別に、F2PでのVRはまだないじゃないですか。少し先の話ですが、そういったことをやれたらいいな、と先の合宿のときに話していました(笑)。
水口 まだやるとは言っていませんよ(笑)。

――水口さんがこれから手掛けるVRタイトルは、オリジナルもあるのですか?
水口 いや~(苦笑)、当然オリジナルも考えていますし、いろいろとあります。

――とくに水口さんの手掛けてきたIP(知的財産)は、VRになることでさらに魅力を増しますが、ほかのゲームIPでもVRになることで新しい体験ができるタイトルもたくさんありますよね。
水口 そうですね。それから、いままで誰も経験や体験したことのないものを実現したいですね。「ゲームにこんな感情を持ったことはない」とか、「この体験はヤバイ!」とか(笑)。“ゲームを拡張する”という思いをエンハンス・ゲームズという社名に込めたわけですから。「これがVRのゲームか!」と。

――VRで作ることによって、アイデアは増えているのですか?
水口 増えるというよりは、広がっている感じはありますね。これまでは頭の中のイメージをあるサイズの中に押し込めないといけなかったのですが、限界がなくなった感じです。大海原のなかに、大きなキャンバスをもらった感じですね。「何を描いてもいいよ」と。人によっては怖さもあるでしょうが、いまの自分は「やっとこういう時代が来たな」というワクワク感でいっぱいです。

――VRの市場は、ワールドワイドでは手応えがありそうですね。
 『Rez Infinite』については、PlayStation VRのローンチになるべく近いタイミングで発売することで、盛り上がる可能性も高いと思います。どのくらい販売できるかは、わからないという人が多いと思いますが、今回の水口さんとのセッションでいろいろと話をしたり調べたりするなかで、絶対売れるだろうと確信しました。

――日本のVR市場について、どのような印象ですか?
水口 難しい質問ですね。日本のユーザーが実際にVRにどのように反応するのかはわかりません。ただ、アメリカにいるとその熱気や期待感を感じます。アメリカと比べると、まだまだこれからだろうと思います。それに、日本は火が着くとあっという間に盛り上がるので、きっとこれから盛り上がっていくのではないかなと思っています。

――“ファミ通VR”のような新しい媒体を作る必要があるかもしれませんね。いっしょに盛り上げたいと思います。
水口 いいですね、ファミ通VR(笑)。
 仕事柄、投資と回収の視点で見てしまいますが、ストア周りは、まだまだこれから整備されないといけないと思います。決済方法など、改善されるといいですね。

――モバイル版『ルミネス』の進捗について教えてください。
 売り切り版については、夏リリース予定でスケジュール通り進んでいます。F2P版は年内のリリースになると思います。
水口 長い期間、実験的なことをしてきましたが、仕様が固まり次第、集中して進められると思います。縦画面での『ルミネス』として、どちらも楽しめると思います。
 “ユーロクール”に雰囲気も変わっています。

――最後に、日本のゲームファンに向けて、メッセージをお願いします。
水口 『Rez』は、頭の中でVRのようなイメージを持ち続けていたので、やっと実現できるという思いです。ですから、すごく長い時間をかけて作ってきたような感覚もあります。苦楽をともにして作ってきた仲間もいます。『Rez』というゲームの存在を消してはいけないという思い、いまの技術で拡張させなければいけないという思い、そしてユーザーが待ってくれているというイメージを持っていたので、それが『Rez Infinite』へとつながっています。満を持して出すことになりますが、『Rez』をプレイしたことがある人でも新しい体験ができるはずです。やったことがない人は、最新のゲームだと思ってプレイしてくれています。「もともとは2001年に出たゲームだよ」と言うと驚きます(笑)。ただの焼き直しではなく、新しい体験を提供できるものになりますので、発売までもう少し待っていてください。
 日本のコンテンツがグローバルで挑戦できる下地は、スマホででき上がっています。VRの可能性も疑うことはないです。金融関係の方々は、日本が世界で負けないためにしっかりと資金提供してください。ゲームをきっかけとして、VRはほかの分野へも広がっていくと思います。

――結果的に、将来のビジネスチャンスにつながりますからね。ありがとうございました。

『Rez Infinite』から始まる未来! VRコンテンツの資金調達にエンハンス・ゲームズとモブキャストが強力タッグを実現! 水口哲也氏&藪考樹氏インタビュー_03