志倉千代丸氏が語る『シュタインズ・ゲート ゼロ』の制作秘話と改変されたテレビアニメ再放送23話

週刊ファミ通2015年12月24日号(2015年12月10日発売)に掲載した、志倉千代丸氏のインタビュー完全版を掲載。『シュタインズ・ゲート ゼロ』制作秘話や、テレビアニメ再放送23話のの仕掛けについて語ってもらった。

●再放送で結末が変わったテレビアニメ“23話”と『シュタインズ・ゲート ゼロ』の成り立ち

 2015年12月10日に発売されたプレイステーション Vita、プレイステーション4、プレイステーション3用ソフト『シュタインズ・ゲート ゼロ』。その発売前に放送されたテレビアニメ版『シュタインズ・ゲート』の再放送第23話のBパートを、完全新作アニメに作り換えて放送するという衝撃的なサプライズは、日本中に大きな驚きをもたらした。週刊ファミ通2015年12月24日号(2015年12月10日発売)のインタビューでは、この企画の裏側と、『シュタインズ・ゲート ゼロ』の源泉をキーマンである志倉千代丸氏に語ってもらった。そのインタビューの完全版を、ファミ通.comに掲載する。

■志倉千代丸氏
株式会社MAGES.会長、株式会社チヨマルスタジオ代表取締役社長。科学アドベンチャーシリーズの原作者。タレントのプロデュースや楽曲提供なども手がけるマルチクリエイター。

■『シュタインズ・ゲート』再放送の23話Bパートが完全新作になった理由

──『シュタインズ・ゲート』再放送の23話、本当に驚きました。23話をβ世界線に分岐させるという発想はどこから生まれたのですか?
志倉 急にやりたくなってしまったんですよ。アニメの再放送が始まって少し経ったころに、なんとなく消化不良な気がしてきちゃいまして。シュタインズ・ゲート』なのに、未来が決まっていることがもどかしくて

──再放送が開始されたタイミングでは、まだ企画すらなかったということですか?
志倉 そうなんですよ(笑)。いま思うと、ありえないタイミングですよね。でも、そこから妄想が膨らんで、アニメが分岐したらいいのにという方向にどんどんイメージが膨らんでしまったんです。ただの再放送のつもりで観ていたのに、決められていたはずの結末に進まないというのは、すごくおもしろいと思ったんですよ。それで、チヨマルスタジオのLINEグループに、その企画を投下したんです。シュタインズ・ゲート ゼロ』と同じように、グループ全員のその後の人生をRINEトリガーで変えましたね(笑)

──リアルに(笑)。そのときの雰囲気はどのようなものでしたか?
志倉 延々と僕の発言だけが続くばかりで、誰も返信してくれなくて、“既読”だけがどんどん増えていくんです(苦笑)。みんな内容に見入っていたんだろうなと思いたいんですが、「オイ志倉、それ本当にやるのか!?」という空気だけが流れていましたね。けっきょく、翌日まで誰からも返信がなく、総既読スルーでした(笑)。最終的に僕がLINEに書き込んだ企画を松原(※松原達也氏。科学アドベンチャーシリーズのプロデューサー)にまとめてもらって、具体的に動き始めた感じです。

──そうだったんですね(笑)。ただ、再放送のアニメを改変するとなると、MAGES.だけの問題ではなくなりますよね。
志倉 何としても実現したいという気持ちが強かったので、「オトナの事情はなんとかなるよ! きっと!」という思いで突き進みました。時間もなかったのですが、これが意外と難航しましたね。そうした経緯の中で、ウチのスタッフも正式に動き始めたので、アニメの製作委員会にも話をしました。委員会側も興味を持ってくれたのですが、新作アニメを作るにはいろいろな準備やスケジュールの確保など、いろいろな調整が必要なんですよ。さまざまな交渉を重ね、困難を乗り越え、多くのスタッフの皆さんの賛同を得られたことで、なんとか実現まで持ち込んだんです。ただ、決定したときには、再放送もすでに5話あたりを放送しているような状況でして……。

──時間がないぞ、と(笑)。
志倉 製作をお願いするWHITE FOXさんにとっては突然の話で、当然時間がないわけです。でも彼らもこの企画は「おもしろい! 絶対に実現したい!」と言ってくれて、最終的には「時間は作るものだよね!」みたいなアツい話になりまして(笑)。もう僕は、このあたりで、“(´; ω;`)ブワっ”となっちゃいました。アニメ業界的な常識としては前例のないことを、“おもしろいから”を原動力にして動いてもらえるというのは感慨深かったですね。

──結果、できあがったのが、あの新しい23話だったんですね。熱量を感じる回でした。
志倉 動き出してからも、現場的には、「本当に再放送に間に合うのか?」という話になったんですよ。もし間に合わなかったらふつうの23話を再放送して、改変版はゲームの限定版パッケージの特典映像にするなど、バックアッププランも考えていたくらいで。結果として23話の再放送に間に合うことになったので、今度は『シュタインズ・ゲート ゼロ』の発売日を変更しました。

──えええ! では、むしろ再放送の改変ありきでの変更だったと。
志倉 ええ。今回は珍しく開発も順調に進んでいたのですが、せっかくなので延期となった期間を使って、イベントCGの追加や演出のクオリティーアップを行いました。そういう意味でも、ムダのない延期でしたね。でも、僕としてのベストプランは、アニメの23話後半部分から内容が書き換わっているのを受けて、そのまま24話を丸々書き換えるというもの。つまり24話を『シュタインズ・ゲート ゼロ』のアニメ第1話にしたかったんです。でも、『シュタインズ・ゲート ゼロ』のアニメのほうは、まだほとんど何も固まっていない状態だったので、「さすがに無理」ということで断念しました。ちなみに、再放送の第24話が放送される枠は、特番を放送しました。「なぜ23話は改変されたのか?」とか、『シュタインズ・ゲート ゼロ』の成り立ちなどが語られるドキュメンタリーです。この特番の制作チームには、以前に僕が出演させていただいた『オデッサの階段』のメンバーも入ってもらっています。

▲改変されたテレビアニメ第23話の場面カット。

■『シュタインズ・ゲート ゼロ』が正統続編である理由

──アニメ23話の話でついつい盛り上がってしまいましたが、『シュタインズ・ゲート ゼロ』についてもお話をうかがえれば。本作を“正統続編”と位置づけた理由は?
志倉 『シュタインズ・ゲート ゼロ』は、無印と呼ばれる『シュタインズ・ゲート』の物語の一部なんですよ。物語のクライマックスは、岡部が世界線を越えて紅莉栖を救いに行くというものですが、あれは、まゆりやダルの視点から見ると、ほんの数分、もしくは数秒の出来事なんです。その数秒のあいだに何があったのか? 牧瀬紅莉栖の死を受け入れた世界である『シュタインズ・ゲート ゼロ』とは、ある意味でその数秒間を描いた作品とも言えます。奇跡の世界線が生じた理由は、そんなに簡単なものではなかったんです。死んだ牧瀬紅莉栖が、脳科学研究者だったことは、奇跡の裏側を描くうえで絶対に欠かせない要素なんです。ただ“人工知能”や“記憶のデータ化”などの大きなテーマまで無印版に入れるてしまうと、情報量が多すぎてテキストも膨大なボリュームになってしまうため、カットしました。タイムトラベルなのか、AIなのか、どちらかフォーカスしたほうがいいだろうという判断です。そういう意味では、シュタインズ・ゲート』と『シュタインズ・ゲート ゼロ』はふたつでひとつの物語とも言えます。つまり、これはスピンアウトではなく、正当続編だろうと。ある意味、この言葉が、開発側のほどよいプレッシャーになったのかもしれませんね。マイナスプロモーションになってしまいますが、本作は、『シュタインズ・ゲート』の無印をプレイしていないと、まったく意味がわからない作品です(※プレイステーション Vita、プレイステーション4、プレイステーション3版『シュタインズ・ゲート ゼロ』の初回生産特典として、プレイステーション4用ソフト『シュタインズ・ゲート HD』のダウンロードコードが同梱される)。本来は「前作をプレイしていなくても遊べます!」とうたったほうがプロモーション的には正解なのでしょうが、こればかりはしかたないですよね(笑)。

――なるほど(笑)。本作には、新たな要素やシステムが盛り込まれていますよね。注目してほしいポイントは?
志倉 RINEトリガーですね。現実のこの世界でも、LINEでケンカになったりして、自分の人生が分岐することって、実際にあちこちで起きていると思うんです。「この言葉を書かなければよかった」とか、「既読スルーしなければよかった」とか、大げさではなくネットを通じての発言や態度が、世界線を分岐させているわけです。そういう感覚を、ゲームに盛り込みたかったんですね。でもこれも、本当はもっといろいろやりたかったんです(笑)。

――まだ足りないと(笑)。
志倉 既読スルーをしたらものすごく怒られたり、“このスタンプならこういう意味にも受け取れるよね?”といったスタンプ文化のおもしろみを出したりとか(笑)。でも、あまり盛り込みすぎると、難易度だけが高まりすぎて、物語への没入感を阻害してしまう可能性が高かったので、ゲームとして没入感を削がず、RINEトリガーでの分岐が難しすぎて怒られないレベルに調整した結果、いまの形になりました。物足りないということは間違いなくありませんから、新しいトリガーをいろいろと触ってみてください。

▲新システム“RINEトリガー”。

――『カオスチャイルド』以降、MAGES.の作品や科学アドベンチャーシリーズの発表や発売のペースがあがったように感じています。制作に対する姿勢や、会社としての体制が変わったのでしょうか。
志倉 すごく通な質問ですね(笑)。これは本当にたまたまですね。いまは、いろいろと仕込んでいたものが、ようやくカタチになってきたタイミングなんですよ。本当のことを言うと、『アノニマス・コード』や『オカルティック・ナイン』も、もうちょっと早いタイミングで発表できたはずなんですけどね。先日行ったツイキャスでの制作発表会でも、かなりたくさんのプロジェクトを発表させてもらいましたが、じつはあれでも情報を少なめにしたんですよ。

――えええ!? そうなんですか? けっこう盛りだくさんだった印象があるのですが。ちなみに、ほかにも何か仕込んでいるものがあるのでしょうか?
志倉 いまここで発表するわけにはいきませんが、何かやっています(笑)。発表はそう遠くないうちにやりたいですね。

――2016年1月16日には、“Live5pb 2016”がありますね。
志倉 正直、そこで発表できるかどうかはわかりませんね(笑)。『アノニマス・コード』については、そこで何か新しいものを出せたらと思います。

――ちなみに、『シュタインズ・ゲート ゼロ』のキービジュアルに出てきているタイムマシンが、『アノニマス・コード』のティザームービーに出てくる人工衛星に似ているようですが?
志倉 よく気づきましたねぇ! それに気づいた人は、たぶん世界に5人くらいです(苦笑)。

――それはつまり、『シュタインズ・ゲート ゼロ』と『アノニマス・コード』の世界に、少なからずつながりがあるということですか?
志倉 それはどうでしょうねぇ? 『アノニマス・コード』は科学アドベンチャーシリーズではないので、設定がつながっているのもおかしな話ですからね。今後発表していく情報に注目してもらえれば、その雰囲気が伝わると思います。ちなみに、『アノニマス・コード』については、科学アドベンチャーシリーズを遊んでいなくてもまったく問題なく楽しめるタイトルになっています!(笑)

――楽しみにしています。それでは最後に読者の皆さんにひと言メッセージをお願いします。
志倉 シュタインズ・ゲート ゼロ』は、無印版を遊んでいないとまったく意味のわからない作品ですが、『シュタインズ・ゲート』のアニメさえ観てくれていたら、まったく問題なく楽しめるタイトルになってます!(笑)。 アニメをおもしろいと感じてくれた方は、ぜひこの作品を手に取ってみてください。あと、ゲームとは少々内容の違う(予定)の『シュタゲゼロ』のアニメ化も予定していますので、ぜひいまのうちに遊んでいただけるとうれしいです!

■シュタインズ・ゲート ゼロ
発売日:2015年12月10日発売
価格:プレイステーション Vita版は6800円[税抜](7344円[税込])、ダウンロード版は6000円[税抜](6480円[税込])、プレイステーション4版、プレイステーション3版は各7800円[税抜](各8424円[税込])、ダウンロード版は各7000円[税抜](各7560円[税込])
備考:企画・原作:志倉千代丸、プロデューサー:松原達也、キャラクターデザイン:huke、シナリオ:林直孝、安本亨、たきもとまさし、土屋つかさ、音楽:阿保剛