NVIDIAのプレス用デモルームで、最新のPC用VRヘッドマウントディスプレイ2機種のデモを体験した。

●VRの年のCESは開幕前から関連業界にもさまざまな動き

 いよいよ始まった2016年。今年は、Oculus VRの“Oculus Rift”、ソニーの“PlayStation VR”、そしてHTCがValveとタッグを組んで開発した“HTC Vive”というVRヘッドマウントディスプレイの主要3機種の製品版が発売を予定している“VRの年”と言われている。

 明日よりアメリカのネバダ州ラスベガスで開幕する世界最大の家電ショーCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)を間近に控え、Oculus VRはRift製品版の予約を1月7日未明より開始することを告知するとともに、2012年に行ったクラウドファンディングでの出資者に対して、初期からの支援への感謝をこめて製品版を提供することを発表。一方でHTCも今年4月の製品版発売に向けて第2世代開発キット“Vive Pre”を発表した
 もちろんヘッドマウントディスプレイを開発するメーカー以外にも、VRに向いた360度の全天球映像を撮れるカメラが各社から発表されていたり、関連業界も大きく動いている。PC用のグラフィックボードなどを提供するNVIDIAのプレス用デモルームでは、最新のPC用VRヘッドマウントディスプレイで3種類のデモを体験することができた。

●『Everest VR』×Vive Preでエベレストに登る

 発表されたばかりのVive Preでは、Sólfar StudiosとRVXが共同開発している『Everest VR』のデモを体験することができた。その名の通り、世界最高峰のエベレストの登山を描いた一種のシミュレーターだ。
 『Everest VR』では、NVIDIAのグラフィックカードGeForce GTX TITAN Xを使用して、30万枚以上の高解像度な山岳写真からエベレスト山の3Dモデルを作成。ベースキャンプを出発してから登頂を果たすまでの流れをいくつかのフェーズに分けて体験できる。

 まずVive Preを被ってみると、以前に体験した初代の開発者キットよりも軽くなっているのを実感。以前のモデルは前に重心が寄った形状をヘッドバンドで締め付けて止めるといった感じだったが、着用時の快適性は明らかに向上している(ちなみにメガネをしたまま問題なく着用できた)。
 ヘッドフォンを装着し、HMD同様に新デザインになったモーションコントローラーを持つと体験開始。モーションコントローラーは位置検出が行われていてVR世界内にもコントローラーが表示されているので、VRヘッドマウントディスプレイを被ったままでコントローラーをちゃんと掴めるのが面白い(第2世代になってフロントカメラが搭載されたことで可能になった、外界をうっすら表示させてHMDを被ったままドリンクを手に取れるという新機能も試したかったのだが、デモ内容が決まっていたので断念)。

 ちなみにデモの起動は、ValveのPCゲーム配信プラットフォームであるSteamクライアントのVRモードである“SteamVR”から行う。SteamVRのインターフェースは大画面テレビでの使用のために設計された“ビッグピクチャーモード”を踏襲したものとなっており、ビッグピクチャーモードを使ったことがある人なら特に混乱なく直感的に操作できるだろう。VR空間の前方に表示されたユーザーインターフェースに対して、モーションコントローラーをポインターのように使って項目を選択すればゲームを起動できる。

 肝心のゲーム内容だが、エベレストを延々と登り続けるわけではなく、おいしいシチュエーションをダイジェスト的にステージとして切り出した感じで、底が見えない深いクレバス(割れ目)に架けられた橋を恐る恐る歩いて渡ったり、絶壁にかけられたハシゴを登ったり、短いアトラクションを完了して仲間の隊員に腕を振るとクリアー。
 しかし本作のキモは、それらの行動をプレイヤー自身の手足を使って実際にやらせること。例えば橋を渡るシーンでは、モーションコントローラーで手すりを握りながら、部屋の対角を実際に自分で歩いていかなければならない(だからステージ開始前には部屋の端っこに示されたマークまで自分で歩いていくよう指示される)。同様にハシゴを登るシーンでは、両手のコントローラーで順番にハシゴを掴んで登っていくのだ。

▲露出しすぎでボケボケになっちゃいましたが、絶壁のハシゴを登ってる最中。

 もちろん視界をちょっと下にやると、橋から剥がれた氷がクレバスの奥底まで落下していくのが見える。コレは滅茶苦茶怖い! でも周囲は神の世界とも形容される人智を超えた絶景で、目・手・足をフルにVR空間に没入させていることもあって、心なしか冷えた薄い空気を吸っているかのような錯覚がしてくるレベル。

 実際に自宅でプレイするには、「部屋を片付けて自分が動くスペースをあけなければいけない」、「依然としてケーブル類がガッシリしているので、歩き回ったりターンする際に変な巻き込み方をしないように気をつけた方がいい(デモではスタッフが補助してくれた)」といった多少の問題はあるのだが、ちょっとやそっとの覚悟では絶対に体験できない極地に行く体験ができるのはVRならでは。観光的な側面もあるので、非ゲーマーの人にも体験させたいソフトだった(普段「ゲームばっかりして」と言うお母ちゃんも絶対気に入るハズだ)。

●『Bullet Train』×Oculus Rift&Touchで超人ガンマンになる

 Oculus Riftのデモは二種類プレイした。まずはモーションコントローラー“Oculus Touch”(Rift本体とは別売り)を使うFPSスタイルのシューティングゲーム『Bullet Train』の体験内容から紹介しよう。
 本作は商用ゲームエンジン大手のエピック・ゲームズが同社のUnreal Engine 4とVRの親和性の高さを証明するために制作したデモでありながら、発表時からその完成度の高さが話題になっていた。記者はいろいろとタイミングが合わずなかなか体験できていなかったのだが、遊んでみたら、正直このままでも製品版にしてもらって、金払って遊びたいレベル。これまでの界隈の評判が嘘ではなかったことを実感した。

 ゲームは両手にOculus Touchを持ち(Vive同様にこちらもVR空間でコントローラーの位置を視認できる)、直感的に銃を撃ったりグレネードを投げたりして戦うFPS。超人的な能力を持った凄腕エージェントという設定になっていて、移動は左コントローラーで行き先を指定してテレポートする形で行う。

 さらにプレイヤーキャラクターは体感時間を長くするスロー能力も持っていて、接近してくる敵の弾や、ボスのロボットが発射するロケットを掴んで投げ返すことも可能。
 まさにチート級の能力の持ち主として、SF映画「リベリオン」に出てくる格闘術ガン=カタの達人のように、二丁拳銃をさまざまなポージングで盛大に撃ちまくり、弾が切れたところでテレポートしてアサルトライフルをゲットし横薙ぎに撃つバカ技を披露。さらに弾を掴んでは敵兵に投げまくるという、「俺ツエー!」を存分に味わえる。

 VRの本質とは、既存のゲームの枠組みにとらわれず、不可能なこと、普通は難しいことをバーチャルの力で体験できることにある。『Everest VR』が“普通は行けない場所に行く”体験だとすれば、『Bullet Train』は“普通は不可能なことをやってのける超人になる”体験だと言えるだろう。
 ビデオゲームではTPS『マックスペイン』シリーズのように「スローな中で銃撃して敵をバッタバッタ倒す」という体験を擬似的に表現してきたタイトルがあるが、VRでは自分の体や感覚を使ってそれを味わうことができるのだ。これが面白くないわけない。

●『Adr1ft』×Oculus Riftで宇宙空間での危機に直面する

 Oculus Riftで体験したもうひとつのデモは、Three one zeroが開発するサバイバルアドベンチャー『Adr1ft』。昨年1月にプレイリポートをお届けしているが、開発が進み、グラフィックやゲーム内容など、あらゆる面でパワーアップしていた。
 『Adr1ft』の舞台は宇宙ステーション。何らかの原因によりステーションが大破してしまった映画「ゼロ・グラビティ」的シチュエーションの中で、EVA(船外活動)スーツを操作してステーションの各部をまわり、生還の方法を探る。

 操作にはXbox 360コントローラーを使い、EVAスーツのスラスター噴射を駆使して船内や宇宙空間を進んでいく。スーツには酸素ゲージがあり、各所に散乱している酸素パックを拾ったりしないと窒息してしまうのだが、宇宙空間だけに移動は慣性が効いたもっさりしたもの。とっとと先に行きたいが、落ち着いてスラスターを操作しないと綺麗に移動することはできない。
 そうこうしている内に酸素が減ってくると、リアルに息詰まるような感じがしてくる。ただ宇宙と壊れたステーションと自分があるだけで、クリーチャーなんかいないのに、これがなんとも怖い。孤独感と窒息感、そしてキラキラとステーションの残骸が輝く壮大な美しさとのコントラストが絶妙で、本編のボリュームは3〜5時間とされているが、この濃度ならオッケーなんじゃないだろうか?(むしろこれが10時間とかあると疲弊するハズ)

▲苦しい気がしてきて思わず口を開けてアホ面を晒す記者。

●「VR体験は通常のPCゲームの7倍の処理が必要になる」

 というわけでまだCES開幕前にも関わらず、最新ハード&デモを3つも満喫してきたわけだが、NVIDIAがVRをバックアップするのは、それがあたかも実際に起こっているかのように錯覚させる没入型の体験であるからこそ、滑らかに処理されなければいけないからだ。普通のゲームのように「秒間30フレームをちょっと切ってるけど、まぁ遊べるからいいか」というわけにはいかないのだ。

 デモの体験前に受けたプレゼンでは、いわく「没入型のVR体験は通常のPCゲームの7倍の画素を処理しなければいけない」という。この7倍という数字自体は個人的にやや極端な比較に基づいたものだと思うが、高解像度かつ高フレームレートな映像が低遅延に処理が行われないと没入感が損なわれてしまうのは事実。

▲数字の根拠は1080Pの解像度を秒間30フレーム描画する場合と、Viveの動作を基準値とした両目合計3024×1680ピクセルを秒間90フレームで処理した場合の処理しなければいけない画素数を単純比較したもの。NVIDIAのハイエンドモデルを買うようなユーザーは30フレーム以上を狙うのが一般的だと思うので、やや誇張された比較ではある。

 そこでNVIDIAではハードの開発だけでなく、ドライバーの改善やVR向けのSDK(ソフトウェア開発キット)も進めているそうで、ゲーム向けのSDK“GameWorks VR”では、表示部位によって描画解像度を調整する“Multi-Res Shading”を有効にすることにより、最大で50%の処理速度向上を実現するという。

 それだけではない。プレイステーション4という統一された性能を持つマシンを前提とするPlayStation VRとは異なり、RiftやViveといったPC用のVRHMDでは多種多様な性能のマシンが存在するため、最適化にも限界がある。

 そこでNVIDIAが1月4日付で発表したのが、メーカー製PCやグラフィックボードなどに対してVRの安定動作保証をする認証プログラム“GeForce GTX VR Ready”だ。
 これはNVIDIAが設定した動作環境を満たしている製品に対して公認バッジを与えるというもので、基本的にはすでに最低動作環境を発表しているOculus VRの公認PC“Oculus Ready”を踏襲しつつ、グラフィックボード単体などにも拡張したような形。
 日本のメーカーもG-Tune(マウスコンピューター)やGalleria(ドスパラ)やG-Gear(ツクモ)といったBTOメーカーや、グラフィックボードなどを販売する玄人志向などがパートナーとして挙がっているので、PC用のVRヘッドマウントディスプレイに合わせてマシンを新調しようと思ったけど現行のパーツがよくわからないといった人は、目印にしてみるといいんじゃないだろうか。

▲最低動作環境の内容はOculus Riftの提示しているものを基本的に踏襲。CPUやUSB 3.0などのNVIDIAとは直接関係ないパーツのスペックが入っているのも、Oculus Riftなどがそれを必要とするからだ。
▲国内メーカーもパートナーとしてリストアップ。パーツに詳しくない人でも公認バッジを目印にすれば環境を整えられるのは、VRの普及のためにもいいことだ。