HTC Viveがサンフランシスコに到着

 HTC Viveは、PCゲーム配信プラットフォームSteamを運営するValveと、スマートフォンなどを手掛けるHTCとのタッグによって生まれたVRヘッドセットだ。本誌では先月すでに別の記者によるリポートを掲載し、サンディエゴ・コミコンに合わせて行われた体験会の模様をお伝えしているが、実はHTCでは本製品の年内ローンチに向けてアメリカ各地をツアー中。先週末、丁度記者の住むサンフランシスコにやってきたので、あらためて別の角度からリポートをお届けしようと思う。

“SteamVR”の名はダテじゃない! Valveが共同開発したVRヘッドマウントディスプレイHTC Viveを被ってGLaDOSに会ってきた_05
▲廃ドックで行われたフードフェスティバルが会場だったので、謎の巨大タンクがズデーンと背景に。

HMDはCV1クラス。モーションコントロールもスムーズ

 HTC Viveのヘッドマウントディスプレイ(HMD)部分の表示性能は、スペック的にはOculus Riftの製品版(CV1)とほぼ同等。解像度が2160ピクセル×1200ピクセルで、リフレッシュレートは90hz。実際に被ってみてもCV1クラスの滑らかな映像だった。
 一方でVive製品版ではもうちょっと変わるかもしれないが、付け心地は微妙、というより天国のような軽量性と快適性を手に入れたCV1と比較すると、そもそも重いし、前に寄った重心をバンドで締め付けるタイプなので、もうちょっと頑張って欲しいところ。HMDとPCを繋ぐケーブルもぶっとくて存在感があり、体験中も「あぁこの辺に垂れてるな」とケーブルを踏まないよう避けるのに捗りまくるぐらい。

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▲HMDとヘッドフォンを被り、コントローラーを両手に持ってプレイ。

 また2本のモーションコントローラーはタッチパッドとボタンを備えていて、さまざまな用途に使える。Oculusはモーションコントローラー“Oculus Touch”のデモを一部にしか公開していないので比較はできないが、トラッキング(位置の検出)のスムーズさはMorpheusで使えるPS Moveレベルで非常に快適(と書くとゲーマー諸氏には驚きが少ないかもしれないが、あのレベルを実現しているのは十分にいいことだ)。

総統、(VR世界を)歩けます!

 そしてHTC Viveが採用しているSteamVRならではの手法“Lighthouse”の恩恵はやはり大きい。CV1やMorpheusの有効範囲より広く、ちょっとした部屋サイズのVR空間を実現し、まさに「VR空間を歩き回る」という体験が可能。自分の部屋でやるなら足元を大分片付けなきゃいけないと思うが、これはやっぱり楽しい。
 ちなみに体験者がエリアの限界(壁など)に近付くとVR内で線状の境界を示してそれとなく知らせるという仕組みも入っていた。

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▲SteamVRの特徴であるルームサイズのVR空間を実現する“Lighthouse”用のステーション。ここから発した光をHMDやコントローラーのセンサーが受け、自分の位置を検出するという仕組みで、MorpheusやOculus Rift(HMDやコントローラーが発している光をカメラが受けて場所を判断する)とは逆の仕組み。これにより複数のデバイスの位置を広範囲・高精度に検出しVR体験に反映できる。ちなみにベースステーションは部屋の対角線上にもう一個ある。

主要三機種はいずれもハイレベル。今世代のVR1.0の完成は近い

 ちなみにプレイステーション4のProject Morpheusは1920ピクセル×1080ピクセルの120hz動作で、解像度はやや低いがリフレッシュレートは高いという関係。主要三機種の最新デモを3つとも体験した上であえてざっくり並べると以下のような感じ。まぁ記者は頭がでかいし、個人差もあると思うので、軽い参考程度でご理解いただきたい。

画質 CV1≒Vive>Morpheus
快適性 CV1>Morpheus>>Vive
モーションコントロール Vive≒Morpheus(Move) 未公開なので不明:Oculus Touch
有効範囲 Vive>>Morpheus≒CV1

 これはどれが劣っているというよりも、どれが優れているかという話だ。一長一短に見えるかもしれないが、他が優っている部分も“短所”と言えるほどのものではなく、それ以外の特徴(※)のどれを重視するかで軽くカバーできてしまう程度。三機種ともに非常にハイレベルで、今世代の“VR1.0”時代への準備は整ったと感じた。
(※Oculusが業界スタンダードの地位を手に入れて映像方面の研究も進んでいるとか、ViveのLighthouse方式とか、Morpheusの購入からセットアップまでが簡単で恐らく一番安価だとかいった部分。挙げていくとキリがないのでここでは省略する)

HTC Vive体験者たちの驚きの様子

3種類のデモで大きな可能性を体感

 それでは体験した3種類のデモを振り返っていこう。まずは海底で魚と戯れるデモ。これはMorpheusのために作られた“The Deep”デモと似ていて、あちらが観察用ケージで海底に降りていくのに対して、小さな沈没船の甲板が舞台。もちろん歩き回れる!
 寄ってくる魚に自由な位置・姿勢でキャッキャと眺められるのが楽しい。ちなみにThe Deepではサメに襲われるのだが、こちらに登場するのは巨大な鯨。VR体験の実在感があるので、思わず息が詰まるような圧迫感!

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▲普通にガラス割れたまんまのドックでフードフェスティバル。ワイルドだなー。

 次に体験したのが、VR空間にお絵かきできるペイントソフト『Tilt Brush』のSteamVR版。左手のモーションコントローラーをパレットに見立て、右手のモーションコントローラーを絵筆&パレットの選択用に使って、3次元のVR空間に絵を描けるのだ。
 コントローラーのトラッキング精度の高さが見事に活かされていて、思った通りに線を描け、またそれをくぐるように別の線を引いたり、今度はパレットをパーティクルモードに切り替えて星を置いたり、葉っぱを置いたり。図工の点数が散々だった記者でも楽しすぎて、脳の変な部分が刺激されるレベル。ゲームやインタラクティブエンターテインメントにとどまらないVRの可能性を感じた。

 そしてラストはValveによる“ポータル”デモ。プレイヤーはAperture Scienceの工場内の小部屋で、『ポータル2』のCo-opモードのキャラクターであるAtlasを修理する。
 このデモはルームサイズのVR空間を活かす形になっていて、流れてくる指示に従ってあっちで戸棚を開け(モーションコントローラーをマジックハンドのように使う)、こっちでレバーを引き、と行ったり来たりさせられるのだが、トラッキングがしっかりしているので、外の世界が見えていなくても比較的自信を持って歩き回れるのが驚き。

 そんなこんなで修理のための準備が終わるとズタボロになったAtlas登場。彼のメンテナンスモードを起動すると部品が空中にズラーっと展開され、気分はAperture Scienceのエンジニア。修理手順もそこそこに眺めて遊んでいると、外壁が吹っ飛び、まさかのGLaDOSが登場。部屋が床だけ残して急速に解体・再構築されていき、シリーズおなじみのテストチェンバーへと作り変えられたところで部屋ごとぶっ壊されて終了。ファンにはたまらない内容だった。

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▲左側がアトラス君。ぶっ壊れた彼を修理します。

誰もがポータル的解決をできるわけではないのは今後の課題

 これはすごく面白かったのだが、ひとつの限界も示していた。要するに、たとえ視覚(VRHMD)と触覚(モーションコントローラー)がVR空間に入れても、身体そのものは現実空間の制約を受けるため、無限に歩くことは出来ない。SteamVRがVR体験を部屋サイズに拡大しても、隣の部屋に行くだけで“シーンチェンジ”は必要なのだ。

 そして平面の映像体験とは異なり、単に体験をカットして切り替えたり、あるいはカットシーン的に勝手に移動したことにすると、それまで高い精度でVR世界に入り込んでいた視覚が突然体験から切り離されてしまう。ポータルデモではまさにこの問題に対して、“人間ではなく部屋の側が移動・変化する”というポータル的解決によってシーンチェンジを実現していたわけだが、そんなことのできる作品は限られている。

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▲『ポータル2』のアトラスくんはツアーのモチーフ的に使われており、デモルームの外装やスタッフTシャツなどにあしらわれていた。

 ルームサイズのVR体験から一回離れるならば、解決する方法はいくつかある。すり鉢状の台の上に乗って無限に歩けるようにするVirtuix Omniなどのデバイスもそうだし、“車椅子に乗せられている”といったシチュエーション、三人称視点型のゲームや、一人称視点でも移動はコントローラーに任せる場合は(没入感は変わるが)破綻は起きない。

 恐らく昨今Oculus VRが三人称視点のVRゲームを推し始めているのも、その方が従来型の平面の映像のゲームの手法を応用して(いきなり一人称の高度な体験に挑戦するよりも)リッチなVR体験を提供できるからだろう。
 もしかするとルームサイズVRにとっても、重要なのは広い範囲のどこにいても良かったり、複数のデバイスが同時に存在できることで、それなりの範囲を歩き回れるということは本質ではないのかもしれない。

 いずれにしても、VRを映画の発明以来の革命と考えるならば、現在は平面の映像で培われてきた演出技法がすべてリセットされた状態と言える。VRならではの究極のバーチャル体験を目指して、これからVR時代の映像・演出技法が築かれていくのだろう。