『FFXIV』グリー主催の勉強会“GREE Creators' Meetup”にサウンドディレクター祖堅正慶氏が登壇。“サウンドワークスまで見据えたゲーム制作”に必要不可欠なモノとは?

“GREE Creators' Meetup”とは、企業や所属の垣根を超えて、ゲーム業界で働くクリエイターが交流の場を持つための勉強会で、今回で3回目となる。そのオープニングセッションに『ファイナルファンタジーXIV』のサウンドディレクター、祖堅正慶氏がスピーカーとして登壇。シンプルかつユーモラスに、“サウンドワークスまで見据えたゲーム制作”について語った。

●フランクな解説、小ネタいっぱいのスライドに思わず笑いが

 グリーは2015年11月12日に“GREE Creators' Meetup”を、東京都内の同社オフィスにて開催した。イベントのコンセプトは、企業や所属の垣根を超えてゲーム業界で働くクリエイターが勉強や交流の場を持ち、より市場を盛り上げていこうというもの。3回目となる今回は、文字どおり企業や個人で活動するクリエイターに加え、数多くの学生が参加し、大規模なイベントとなった。

 そのオープニングを飾るセッションに、ゲストスピーカーとして『ファイナルファンタジーXIV』(以下、『FFXIV』)のサウンドディレクター、祖堅正慶氏が登壇。“サウンドワークスまで見据えたゲーム制作”と題し、ゲーム制作において最終工程になりがちなサウンド制作をスムースに進行させるためにはどうすべきかを解説した。

 字面だけ見るとお堅く思えるかもしれないが、そこはロックが身上の祖堅氏。自身が所属するスクウェア・エニックスサウンド部の後輩に作ってもらったという小ネタ満載のスライドとともにシンプルかつわかりやすい講義を展開したのだ。

▲3つの会議室の壁を取り払い、スクリーンも6枚体制。約720人もの参加者が講義に耳を傾けた。

▲祖堅氏はなるべくひとところにとどまらず、広い会場の奥まで声が行き届くように気遣っていた。

 まず講義を始めるにあたって、大前提として“ゲームサウンド=音楽”ではないと宣言。祖堅氏自身のキャリアは効果音からで、「ゲームサウンド=音楽ではない」と最初から思っていたとのこと。そして、「ゲームをプレイするお客さんは“ゲームサウンド=作曲”と思っても問題ない。まずは音に興味を持っていただくことが肝心なので。ですが、今回の講義の趣旨として、発注する側がそう思っていてはいけない。ゲームサウンドは音楽だけではありません」と続けた。

 「サウンド屋としてはお客さんにはサウンドを聴いてほしいけれど、サウンドをよりリッチにしたいからと言って、グラフィックを犠牲にする手段は取りたくない」とし、一般的には絵を重視するセオリーがあり、見た目がスゴいほうがスゴさがストレートで伝わるが、音はなかなか伝わりづらい傾向があることを語った。

 また、グラフィックに影響のない範囲でサウンドをリッチにするため、切磋琢磨するのがサウンドエンジン(音を鳴らすためのツール)で、サウンド制作においてとても重要なものだと語った。

▲BGMはなくてもゲームは成り立つ。BGMはメインディッシュにならない。「ラーメンで言うと麺が効果音で、コショウがBGM」(祖堅氏)

 ここからは日常的に起きてしまいがちな間違った発注を例に挙げ、サウンド担当者が発注者の要求に沿ってよりクオリティーの高い仕事をするために、どのような発注方法を求めているかが丁寧に語られた。

 解説はおもにスライドを使って行われたが、より理解を深めるために『FFXIV』のデバッグ動画を公開する一幕もあった。動画は4人のプレイヤーが1体の敵と戦っているというおなじみのシチュエーションだが、ゲーム側からリアルタイムで効果音が呼び出されている様子が可視化されており、画面いっぱいに効果音の名前や数値などがひしめき合っていた。これにより、ふだん何気なく遊んでいるゲームの裏側では、おびただしい数のサウンドの処理が施されているということがよくわかり、参加者には貴重な体験となった。

 なお、『FFXIV』の正式サービス2周年を祝う14時間生放送で、祖堅氏は効果音について同様の説明をしているので、そちらも併せて視聴するといっそう理解が早いだろう。
<『FFXIV』サービス2周年記念生放送>

 続くテーマは、「THIS IS クソ発注.」。実際によく発注書に書かれがちな、間違った発注の例。「攻撃1くださいって。1って何だろう?」、「階段はそもそも発音しない。こういうことを書くのは、おそらく『ドラゴンクエスト』をプレイした方なんでしょうね」(祖堅氏) 

▲「バックの画像はイメージです。あんまり気にしないでね」とのこと。

 いずれの項目も、サウンドの制作作業ではその詳細が重要になるがそれが書かれていない。最後の“足音”に関して祖堅氏は、「言われ慣れているが毎回イラッとします」と述べつつ、のちに足音がいかに多種多様なものなのかを解説した。

▲こういう発注をした経験がある人もいたようで、会場のあちこちから苦笑がもれていた。

 ひとりのプレイヤー対1体の敵の戦闘においても、こんなにも音の種類があるという解説が続いた。ちなみに、この画像は講義のために作成したものなので、『FFXIV』でこのような戦闘が起きることはない。

▲PC座標がプレイヤー。敵の出す音には黄緑色の地が敷かれている。なお、SWISH音とは、剣が風を斬る音のことだ。

 プレイヤーと1体の敵の座標で鳴っている効果音のアセット数はざっと20種類。しかし、実際には音にバリエーションが必要なので合計46種類の効果音が必要になる。これが8人プレイヤーになると、掛け算して368種類にもなる。「1日1種類作っても、1年では足りない。そういう世界です」(祖堅氏)

▲剣で攻撃して、魔法を唱えるだけでこの数字。音の多さをあらためて認識する。

 なぜ効果音にバリエーションが必要かというと、同じものを立て続けに鳴らすと非常にカッコ悪いため。UI操作など同じ音でいい例外もあるが、攻撃などゲームにおけるふだんの動作では、抑揚もなくロボットみたいでシラけてしまうのだ。

▲ゲームはインタラクティブ。いつ何時、どこで発音するかはゲームやプレイヤー次第だ。

 ここであらためて足音の話に。『FFXIV』では足音ひとつとっても、靴の素材、形状、そのほかカーペット、岩場、草地、水場、泥の上、雪の上と、靴底が接するさまざまな場所があり、さらには、歩いているときとジャンプしたときでは異なる効果音を用意しているため、じつに768種類もの足音が使用されているという。「サウンドはこういう地味な作業の積み重ね。あらためて768種類という数字を見ると憂鬱になるが、これが日常です」(祖堅氏)

▲「『FFXIV』はハイエンドで、見た目も非常に美しいゲームなので、けっこう追及しなくてはいけない要素でした」とのこと。このエクセルが縦方向に延々と続き、写真もブレてしまった。

 という具合に、たくさんの効果音や環境音、BGMが当たり前のように流れているが、そういう処理をゲームプレイ中のPCにやらせようとするとパンクして、グラフィックの表示に影響が出てしまう。そのため、サウンドクリエイターは、限られた箱の中で、いかにこれを自然に聞こえるように調整するかという仕事をする。これがサウンドではいちばん大事な項目であって、怠るとそのゲームのサウンドは劇的に“ヘボく”なってしまうと祖堅氏。難度の高い仕事だ。

▲デバッグ画面を公開する際のスライド。「動画は心の.jpgに保存してくださいね」(祖堅氏)ということなので、ここでは公開を控える。

▲実際の優先順位は、そのサウンドチームが制御しやすいことがいちばん。

 サウンド制作作業は制作工程全体の下流、もしくは最終工程であることが多い。サウンドを作った後にはどんな作業があるかというと、だいたいは品質管理のチェックしかない。“あとは、プロデューサーがわがままを言うとか”(会場から笑い)。締切まで時間が十分になく、いちいちやり直す時間はほぼ存在しないのだが、サウンドに作業を発注してくる部署は、企画、モデリング、モーション、エフェクトなど多岐にわたり、その指示がおりてくるのはだいたい最後なので、事故が起きやすい。

 祖堅氏は、これを極力防ぐためにも、発注のしかたに気を遣うべきであるとし、冒頭で提示した“クソ発注”をあらためるための例や、サウンドワークスまで見据えずに進行し、失敗してしまった例を挙げた。

▲意図しているものをより詳細に伝え合うことが、お互いの仕事と作品全体のクオリティー向上につながるのだ。

▲一般的な開発工程の例。サウンドから作る場合もあるが、かなり稀有なことだという。

▲「ポストプロダクションも含め、サウンド制作のスケジュールは非常にタイトなことが多い。こんな失敗を起こす前に、発注の段階で情報を共有してほしい」。

 最後に「サウンドを担当する部署は厄介だと思う。ちょっとヘンなヤツが多くて、話しにくいかもしれませんけど」と前置きしつつ、発注する前に、今回のようなことを一旦考えてから発注してほしいと語った。そのうえで“サウンドスタッフは、クソ発注にわりと慣れてるので臆するな!”とアドバイス。それでも“やっちまった”場合には、「積極的にお肉をおごって和解すればいい」と締めくくった。

▲今回の講義でいちばんいいたかったことがこの赤字部分。「これだけはメモって帰ってください」とのこと(笑)。

 スライドには技術面の解説も多数まとめてあったようだが、2013年のCEDECでの講演や、ほかの勉強会でもたびたび語っているとして贅沢にもザッと送り飛ばして講義終了。ご覧のとおり、最後まで笑いの要素を忘れない内容だった。