VRの裾野を広げることがいちばんの目標――PlayStation VR開発に携わるSCE EVP伊藤雅康氏インタビュー【TGS2015】

2016年上期に発売予定とされているPlayStation VR。現在の開発状況や今後の展望を、SCE伊藤雅康氏にうかがった。

●PS VRの強みは、ソフトもハードもVRシステムもSCEが手掛けていること

 2015年9月15日に行われたSCEJA(ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジア)カンファレンスにて、プレイステーション4(以下、PS4)用のバーチャルリアリティ(VR)システム“Project Morpheus”の正式名称が、“PlayStation VR”(以下、PS VR)に決定したことが明かされた。

 2015年9月17日(木)から9月20日(日)まで、千葉・幕張メッセにて開催中の東京ゲームショウ2015(17日・18日はビジネスデー)のプレイステーションブースには、PS VRのコンテンツが多数出展されている。PS VRを体験できる、またとないチャンスだ。

 2016年上期に発売予定とされているPS VR。現在の開発状況や、今後の展望について、 ソニー・コンピュータエンタテインメント EVP 兼 PSプロダクト事業部 事業部長 兼 ソフトウェア設計部門 部門長 伊藤雅康氏にお話をうかがった。


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ソニー・コンピュータエンタテインメント EVP
PSプロダクト事業部 事業部長
ソフトウェア設計部門 部門長
伊藤雅康氏(文中は伊藤)


■2016年上期の発売に向けて、“酔い”の問題に取り組み中

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――正式名称がPS VRに決まりましたが、現在のPS VRの開発状況はいかがですか?
伊藤 本当に順調で、ハードウェアに関しては、今回展示させていただいているものがほぼ最終形です。あとはソフトの最後のチューニングを、デベロッパーさんたちと行っているところです。

――PS VRは、プレイステーションビジネスにおいて、どういう位置づけにあるものなのでしょうか。
伊藤 PS4のエコシステムのひとつとして考えています。PS4とつながるということを最初から想定しています。ハイエンドのPCにつなげることを前提にしている他社さんのVRシステムとは、そこが違いますね。正直に言いますと、ハイエンドPCにつないだほうが、クオリティーが高いものが出来るとは思います。でも我々は、PS4とつないで、PS4の世界にあるもののひとつとしてVRを広めていこう、というところからスタートしていますので。“PS4のパフォーマンスを最大限に使ったVR”という位置づけですね。

――PS4ユーザーのうち、どのくらいのユーザーが購入すると予想されていますか?
伊藤 具体的な数字は申し上げられませんが、おかげさまでPS4は順調ですので、その流れで買っていただけるとありがたいですね。

――いま本体を持っていないユーザーさんが、PS4、PS VR、ソフトをすべて購入すると、けっこうな額になるのでは……と思いますが、価格に関してはどのように考えていますか?
伊藤 VRの価格のことを申し上げることはできませんが、お買い求めやすい価格にはしたいなと思っています。と言うのも、他社さんのVRシステムを楽しむには、ハイエンドPCやヘッドセットを買う必要がありますので、けっこうな価格になりますよね。一方PS VRは、PS4につなげるということで、性能を担保出来ますし、価格も抑えられるので、それは我々の強みかなと思っています。

――PS4とPS VR、どちらもSCEさんが開発されていることも強みですよね。
伊藤 そこがいちばんのポイントだと思っています。我々にはワールドワイドスタジオもありますので、本体のハードもVRもソフトも、全部自分たちで作ることができるし、自分たちでチューニングできる。そこが強みかなと思っています。コンテンツを発売するときにも、PSNがありますし。そのエコシステムを持っているところが、他社さんと比べて強いところかと思います。

――2016年上期(1月~6月)に発売予定とのことですが、もう少し具体的な発売時期を教えていただけないでしょうか。
伊藤 それもちょっと、お答えできないですね(苦笑)。先ほど申し上げましたけれど、ハードウェアとしてはほぼ完成形まで持ってきているんです。ですが、酔いに関してはまだ課題がありまして。同じゲームをプレイしていて、すごく酔う方もいらっしゃいますし、ぜんぜん酔わない方もいらっしゃるのですが、そこは健康に直結することですので、なるべく酔わないようにしたいんです。デベロッパーさんがゲームソフトを作るうえでどのようにしたらいいか、ファームウェアをどのようにチューニングしていけばいいかを試行錯誤している段階で、それを来年上期に出せるレベルに持っていきたいと思っています。

――“酔い”の問題を解決する道筋は、見えてきているのでしょうか。
伊藤 だんだん見えてきていますが、これぐらいでいいだろう、と思っても、やはり酔う方はいますので。どこまでやったらいいのか、線引きがすごく難しいので、そのガイドライン作りをしているところです。

――確かに、皆さんが納得がいく前の段階でリリースしてしまって、酔ってしまったプレイヤーが「もうVRはやらない」となってしまうのは、避けたいですよね。せっかくの新しいシステムですから。
伊藤 まさに、「PS VRなんて、もうやらない」と思われてしまうことを恐れていまして、ですからなるべく完璧な状態にしてリリースしたいんです。

――PS VRのプレイ時間の目安はありますか?
伊藤 目安というものは業界にはないんですね。何時間かプレイしたら、強制的に「休んでください」と表示するべきなのか……それは議論中なんです。ゲームの途中でそんな表示を出してほしくないという方もいますし。それもあって、発売時期を来年の上半期としているんです。

――ハードとしては、長時間装着していても問題ないように設計されている?
伊藤 それはしていますが、やはり人によって違いがありますので。クルマ酔いのようなものですよね。すごく酔う方もいれば、まったく酔わない方もいる。

――PS VRのローンチの段階では、どのぐらいの数のコンテンツを提供したいと考えていますか?
伊藤 もちろん、数は多ければ多いほどいいんですけれど。今回展示しているワールドワイドスタジオのタイトルは、製品化に向けて進めていますので、ローンチのときには出せると思います。


■デベロッパーとの密なやり取りがPS VRの可能性を広げる

――PS4の開発は、デベロッパーさんとディスカッションを重ねて進めたと以前うかがいましたが、VRの開発のおいても、デベロッパーさんと密にやりとりしながら進めているのでしょうか。
伊藤 PS4のときよりも、開発初期のころから、もっと深く取り組ませていただいています。すべてのデベロッパーさんと深く、というわけではないですが、一部のデベロッパーさんと、SCEのワールドワイドスタジオと。今回、とくに気になっているのは酔いなんですよね。酔いがないようにするには、ハードとソフトをどういう風に作ったらいいか、ディスカッションしながら開発しています。

――デベロッパーさんの知見は、やはり参考になりますか?
伊藤 はい。デベロッパーさんの中には、VRを作ることに長けた方から、初心者の方までいらっしゃるので、長けた方からノウハウを提供していただいて、作りかたを共有できるようなガイダンス作りを進めています。

――ところで、日本と海外では、VRを使用する状況は異なるものでしょうか。
伊藤 使いかたがまったく違うようなんですよね。海外の方は、ヘッドセットをつけている姿を見られることを気にしていなくて、SNSにアップされたりしているのですが、日本の方は「恥ずかしい」と思われることが多いんですね。海外では『THE PLAYROOM VR』のような、複数人で遊ぶゲームが受け入れられるのですが、日本はおひとりで遊ぶコンテンツが受け入れられるのかな、と感じています。

――『THE PLAYROOM VR』は、PlayStation VRを装着している人が見る映像と、それ以外の人が見る映像、ふたつの映像を同時に出力できるということに驚きました。
伊藤 別々の画面を出すことは、我々ハードウェア側では想定していなかったのですが、デベロッパーさんから「こういう仕様があったほうがいい」と言われまして。デベロッパーさんと話すことで、新しい使いかたが生まれて、ハードのポテンシャルを引き出してもらえました。デベロッパーさんと開発初期から話ができているのは、すごくいいことだなと思いますね。

――デモの中には、PS Moveを使用するVRデモもありますが、PS Moveは2010年に発売されたものですよね。今後、PS Moveの世代交代を行う予定はありますか?
伊藤 検討はしていますが、現状は、いまあるものを全部使っちゃおうと。新しくデバイスを作ると、それもお客様に購入していただかなければならなくなりますし。将来的には、つぎの世代のことも考えていかなければいけないなと思っています。

――ヘッドセットの世代交代もあり得ますか?
伊藤 あると思います。たとえば4Kのパネルになったりですとか。いろいろな研究はしていますが、まずは市販できるレベルのものでないと。VRの世界のすそ野を広げること、敷居を下げることをいまはいちばんの目標にしていますので。

――PS VRを、ゲーム以外の分野での導入することは考えていますか? たとえば教育であったり、医療であったり。
伊藤 将来的には、ゲーム以外の分野でも導入したいと考えています。たとえばE3ではフィットネスバイクを使用するデモを展示しましたが、あれはたとえばフィットネスセンターなどで使っていけるのではないかな、と。B to Cに関しては必ずPS4を使いたいと思いますが、B to Bがあるとすれば、お相手の方がハイエンドのPCを使いたいとおっしゃるなら検討しなければならないかな、と思います。ですが、具体的には決まってはいません。

――ちなみに、実写ではない、CGの世界を体験するうえで、没入感を高めるためのテクニックはあるのでしょうか?
伊藤 写真よりも、逆にCGのほうがいいんですよね。実写ですと、撮影のしかたによって、だいぶ没入感が変わってしまうのですが、CGなら作り込めるので。ゲームこそVRに適していると考えています。


■切磋琢磨し、VRを盛り上げていきたい

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――近年、VRヘッドセットは世間に広く認知されてきていて、SCEさんやOculusさん、Valveさんが切磋琢磨しているという印象を受けていますが、VRが盛り上がりつつあるという状況は、PS VRの開発に影響を与えましたか?
伊藤 それはもちろん、ものすごく大きいと思います。おっしゃる通り、Oculusさんともいろいろとお話しさせていただいていますので。いい意味で、切磋琢磨して盛り上げていけているかなあ、と思いますね。

――各社さんのVRシステムの変遷を見ていくと、みんな方向性が近いものになっているのが興味深いです。
伊藤 酔いのことなどを研究していると、同じ方向に近づいていくのかな、と。とくにゴーグル型であれば。トラッキングの仕方だけは各社違いますけどね。

――これまでPCを中心に開発してきた、PSビジネスに参入していないデベロッパーさんにとって、PS VRは参入しやすいものでしょうか。
伊藤 アーキテクチャーはPCベースのものですので、移植しやすいと思います。実際、PCで作っていたものをPS VRに移植するのに、そんなに時間はかからなかったと聞いています。「PS VRだけで作ってほしい」とは思っていません。先ほど申し上げた通り、OculusさんやValveさんとも交流させていただいていて、みんなでVRを盛り上げていきたいという話をしていますので。

――では最後に、PS VRを心待ちにしているユーザーに、ひと言お願いします。
伊藤 VRは、聞くのと見るのとではぜんぜん違いますので、ぜひ体験していただきたいです。十分な台数をなかなか用意できず申し訳ないのですが、今後体験イベントなどを開催していきますので、ぜひ足を運んでいただければと思います。また、PS VRでは、すでに展開されているPSタイトルのVR版を出していきたいと思っていまして、それはプレイステーションでしか体験できないことだと思いますので、期待していただきたいです。