4人の著名サウンドクリエイターが本音でトーク
2015年8月26日~28日の3日間、パシフィコ横浜にて開催された日本最大級のゲーム開発者向けカンファレンスCEDEC 2015。
CEDEC最終日の8月31日に行われたセッション“独立系サウンドクリエイターたちのアタマの中”。ここでいう独立系とは、サウンド制作を專門とする会社のことを指す。詳しく説明すると、ゲーム会社とコラボレートして、BGMの作編曲や効果音、ボイス収録といった音楽制作をするプロダクションのことだ。セッション中は、その代表を務め、また現場の第一線で活躍する4人の音楽家がパネリストとなり、テーマに添ってのトークを展開。年を負うごとに大規模化を続ける制作現場に対してのサウンド制作者ならではのノウハウに加え、それぞれの悩みや想いといったリアルな話題が綴られていった。
トークは 時折の脱線も含みつつ、にこやかに進行。しかし、語られた内容はゲーム音楽制作という、ある種特異な環境での苦労話……というか“業界あるある”となった。
パネリスト(左から順に。敬称略)
光田康典氏
プロキオン・スタジオ 取締役社長/作曲/編曲/プロデュース
1992年スクウェア(現スクウェア・エニックス)入社し『クロノ・トリガー』『ゼノギアス』等の作曲を経て独立。現在は、プロキオン・スタジオの代表として、ゲーム、テレビ、映画など幅広いジャンルに楽曲を提供。人気急上昇ヴォーカリストのサラ・オレインのプロデュースも手掛ける。
柴田徹也氏
ユニークノート プロデューサー/代表取締役
1997年にカプコンへ入社。アーケード開発部門にて『ヴァンパイア』『パワーストーン』、家庭用では『デビル・メイ・クライ』や『モンスターハンター』といったシリーズの楽曲を手がける。2009年に独立してユニークノートを設立し、ゲーム、映画、アニメのサウンド制作を手がけている。
坂本英城氏
ノイジークローク 代表取締役/作編曲家
8年間のフリーランス期間を経たのち、2004年に株式会社ノイジークロークを設立し、作曲家兼代表取締役となる。『討鬼伝』『無限回廊」『タイムトラベラーズ』といった代表作の制作と平行して、沖縄ゲームタクト 2014などのイベント開催にも力を注ぐ。
中條謙自氏
ATTIC INC.
代表取締役/サウンドプロデューサー
コーエーテクモゲームス在籍時には『戦国無双』や『討鬼伝』などのサウンドディレクターとして活躍。2013年7月に独立し、サウンドプロダクションATTIC INC.を設立し、活動の幅をさらに広げている。ギタリストとしての顔も持ち合わせる。
トークとして4つのテーマが用意されたが、話題のほとんどは“外部プロダクションとのコラボを成功させるヒケツ”に集約され通常コンポーザーへの楽曲発注は、シーンやシチュエーションに応じた複数となるケースがほとんど。そのため、企画者側から「こんな曲がほしいです」と送られてくる発注リストを元に作業を行うことになる。ひとくちにリストといってもピンからキリまであるのだが、まずは中條氏が“ダメな例”としての発注リスト(架空のもの)を表示。それを見たパネラーは「このまま制作すると絶対トラブルになる」と、苦笑いしながらよくない点を指摘した。まとめると――。
・全体のサウンドコンセプトがない
・説明が説明になっていない
・参考用の曲は複数ほしい
・曲の尺の幅がありすぎる
といったところ。同じ社内にいるならばリストの制作者からヒアリングすれば済むのだが、外部プロダクションにあっては発注リストが手がかりのほぼすべて。そのため発注者には、できるだけイメージを膨らます記載をお願いしたいと全員が口を揃えた。曲名を例にすると【タイトル画面】だけでは(説明文を読まないと)さっぱりわからないが、【タイトル/悠久なる時】としてもらえるだけで、「穏やかな曲調なのだな」とイメージをつかみやすくなる。説明文も同様で、箇条書きやキーワードだけでもいいから、“こういうイメージ・方向性で行きたい”というのが伝わるヒントを提示してもらえたらありがたいと語った。光田氏が楽曲制作した『ソウルサクリファイス』では、キャラクターの容姿と動きがリストに付け加えられており、非常にイメージがしやすかったという。
「リストは重要なのでいろんな講演で見せています」と語った光田氏は、実際の楽曲制作時に送られてきた発注リストを公開。これ以上はない実例を元に、より理想の発注リストとはが探られていった。
リストを見ながらもトークは進み、楽曲の長さについては、「1分と2分ではまったく別の曲を作るのに等しい。ですので尺は、10秒単位で指定してほしい。10秒増える減るは作家にとってたいして違わない」(光田氏)と、コンポーザー視点での意見を提示。また、「オープニング曲だけは生演奏で」といった依頼がよくあるそうだが、スタジオやミュージシャンのスケジュールを押さえるのは、曲単位ではなく時間担持。そのため、一曲だけでは時間を余らせてしまうので、事前に音楽制作側に相談があれば、複数曲を生音にすることができるというプロデュース視点でのノウハウを語っていた。
まとめると、外部プロダクションとのやり取りのヒケツは“コミュニケーションを円滑にすること”。お互いの意見が見えないままではいいものは生まれてこないので、開発者のグループチャットに加えてもらえるだけでもだいぶ違うと、テーマを結んだ。
その後は質疑応答形式で進行し、“発注時に予算を伝えてもらいその中で最高のものを目指すのが理想”“ゲーム音楽は基本ループだが、シーン盛り上がりと同時する試みを模索したい”“パブリッシャーは音楽権利を抱えず活用するべし”“ゲームの音楽はインタラクトな分野で一番進んでいるので、教育用アプリなどにもっていけたらおもしろそう”といった、興味深い意見交換がなされていった。