選手に協力してもらう以上、失敗は許されない
2015年8月26日~28日の3日間、パシフィコ横浜にて開催された、日本最大級のゲーム開発者向けカンファレンス“CEDEC 2015”。ここでは、最終日(28日)に実施された、“プロ野球スピリッツ2015の3Dフォトスキャン活用事例 ~我々は如何にして500名以上もの野球選手のリアリスティックな顔モデルを作成したか~”の内容をリポートする。
講師を務めたのはコナミデジタルエンタテインメント 第3制作本部第6制作部の伊藤 義徳氏(シニアアーティスト)、中川 潤氏(アーティスト)、渡部 陽佳氏(アーティスト)、松井 敏氏(プログラマー)。
『プロ野球スピリッツ』シリーズといえば、リアルなグラフィックが魅力のひとつ。その最新作『プロ野球スピリッツ2015』では、500名以上の選手を3Dスキャン技術を使って、顔モデルを作成しているため、これまで以上に本人の映像と見間違うほどそっくりな見た目を実現している。本セッションでは、撮影技術だけではなく、遠方取材先での選手たちへの3Dスキャン撮影をスムーズに行うノウハウなども語られた。
顔モデルをイチから作るには、経験のある熟練の技術者が必要になる。より高精細なグラフィックが可能になるプレイステーション4、Xbox One世代での開発を見据えた場合には、さらなる技術力はもちろん、制作コスト増も避けれない。そこで有効なのが、顔モデルを作る技術者に頼るのではなく、1選手あたりの制作コストが抑えられ、しかもハイクオリティな制作も可能になる3Dスキャンの採用につながったわけだ。
撮影期間は春期キャンプの約1ヵ月が中心。よって、3Dスキャン撮影スタジオに出向いてもらって500人以上の選手を撮影するのは現実的ではない。そこで、遠距離を移動できる撮影環境システムを、自前でイチから構築する必要があったという。しかも、撮影では選手を長時間拘束できないため、許可された撮影時間から選手の数を割ると、ひとりに割り当てられる撮影時間は約3分。もちろん、健康面、安全面にも配慮が必要だ。この難度の高い課題をクリアーすべく、さまざまな検証を経て構築したシステムは、ふたりくらいで組み立てられる紗幕テント内で、デジタル一眼レフカメラ(単一焦点レンズ使用)を18~25台、LEDライト(補助光)、ノートPCを4台などを使って撮影する環境だ。複数のカメラで撮影したデータは、Agisoft PhotoScanソフトを使って3Dモデルに復元する。
撮影では、時間を節約するために、撮影データをカメラからPCへ転送するために3台のPCを中継して、マスターPCに集約したり、大量の写真データを自動リネームするツールを作成したりと、さまざまな工夫をこらしたことも紹介された。
こうして撮影したデータをPhotoScanソフトを使って3Dモデルに復元したら、Mudboxでノイズを取り除いたのち、Mayaでゲームモデルに変換。Photoshopでテクスチャを補正し、再びMayaで髪・帽子を追加するという作業工程になる。本作では短期間に多量のモデル作成の必要があったため、Mudboxでノイズを取り除く作業以降は外部への委託が中心となった。ツールを社内でしっかりと構築する事で作業工程を簡略化し、品質を保ったとのこと。
最後のMayaで髪・帽子を追加するという作業工程では、髪の毛や首の太さ、長さなどを資料を見ながら社内にて手作業で最終の調整。一見、お手軽な作業のようだが、ここを怠るとまったく違う人物に見えてしまうため、クオリティーを左右する大事な作業だったという。
ご存じの通り、『プロ野球スピリッツ2015』はプレイステーション3、プレイステーション Vita用ソフト。それで現実と見紛うクオリティーが実現されている。これがプレイステーション4、Xbox One世代で再現されれば、どんなクオリティーになってしまうのか。イチ野球ファンの筆者にとっても今後の進化が楽しみで仕方ない。