●先陣を切った3人のクリエイターが一同に介した!

 2015年5月8日~10日、東京・秋葉原UDXにて東京インディーフェス(TIF) 2015が開催。2日目の2015年5月9日には、クラウドファンディングサイト“Kickstarter”での資金調達に成功し、現在作品を製作中の日本人クリエイターによるセッション“キックスターター ~ ゲームのためのクラウドファンディングや資金調達”が実施された。登場したクリエイターは、稲船敬二氏、イシイジロウ氏、河野一二三氏の3人。

 稲船氏は、カプコンで多数のヒット作を手掛けたのち、独立してcomceptを設立。コンシューマ作品からスマホアプリまで手広く手掛けている。Kickstarterを活用したプロジェクト『Mighty No.9(マイティーナンバーナイン)』は、つい先日の発表で、北米で2015年9月15日、全世界では2015年9月18日に、ダウンロード版、パッケージ版が同時発売されることが明らかになっている。
『Mighty No.9』公式サイト

 イシイ氏は、チュンソフトで『428~封鎖された渋谷で~』など、レベルファイブで『タイムトラベラーズ』などを手掛けたのち、現在はフリーランスとして活躍中。Kickstarterでは、イシイ氏が原作を提供するアニメーション『Under the Dog』が、アニメ部門で世界一となる支援金額を集めて目標を達成。完成品を2016年春に出資者に届けるべく、現在制作が進められている。
『Under the Dog』公式サイト

 河野氏は、ヒューマンで『クロックタワー』、『御神楽少女探偵団』などを手掛けた後、ヌードメーカーを設立。『鉄騎』、『無限航路』など多数の作品を手掛けている。Kickstarterでは、“『クロックタワー』の精神的続編”と銘打った“Project Scissors:NightCry”で多数のバッカーの支持を集めることに成功。既報の通り、日本でもクラウドファンディングサイト“CAMPFIRE”を活用して資金を集め、現在2015年末のリリースに向けて『NightCry』を開発中だ。
『NightCry』公式サイト

●ファンディングは人もうらやむ大成功! しかし……?

 多数のクリエイター・団体により、さまざまなプロジェクトの実現に活用されているKickstarterだが、日本のクリエイターによる大規模な活用例は、まだ多くはない。そんな中で、稲船氏の『Mighty NO.9』、河野氏の『NightCry』、イシイ氏の『Under the Dog』は、日本人によるプロジェクトの先駆け的な存在と言える。日本では希有な経験の持ち主である3人による、本音だらけのリアルなトークが聴けるとあって、セッションにはインディー開発者も含めて、多くの聴衆が集まった。

 まず最初のテーマは、“クラウドファンディングのメリットとデメリット”。3人ともに見事目標を達成し、数千万円~数億円規模の出資を集めることに成功しただけあって、景気のいいお話しが聴けるのかと思いきや……口火を切った稲船氏が「僕ら成功した3人が集まると、まず、たいへんだよね、って言葉が出るんです」と語ったように、まずはクラウドファンディングの難しい部分が詳しく語られる展開となった。

 まず3人が口を揃えるのは、はた目には多くの資金を集めたように見えても、実際にはまだまだ足りない、ということ。イシイ氏は、「実際にはクリエイティブ以外にかかるコストがかなり大きいんです」と語る。また、開発が遅れればその分コストも大きくなるが、そんな場合でも、「大手メーカーなら、会議で謝り倒して予算をつけてもらうこともできますが、インディーではそうはいかない」(稲船氏)。河野氏も、「お金が少なくて時間をかけられないので」(河野氏)、『Night Cry』は年末発売に向けて急ピッチで制作を進めているとのこと。ただし河野氏は、その状況でも高いクオリティーでのもの作りができている理由について、「もともと少人数での制作には慣れているので。インディーからスタートした人はやりやすいかもしれませんね」と説明していた。

 また、Kickstarterでは、出資額に応じたリワードが設定されているケースが多いが、これもけっこうな負担になっているという。『Mighty No.9』では、高額出資者にはサントラCDやTシャツなどもついてくるが、なかでも、アートブックが付いてくる250ドル以上の出資者が多いのだそうだ。そしてこれには“稲船氏の直筆サイン入り”というプレミアムも付いているのだが、これを希望した250ドル以上の出資者の数は、なんと3600にも及んだとのこと。いま現在も稲船氏は、日々サイン書きに追われているのだそうだ。同様に、稲船氏の直筆スケッチが付く500ドルの出資者も、これまた数百人に及ぶそうで、スケッチを描くのも、かなりの負担になっているそうな。

 興味深かったのは、現在、Kickstarterを取り巻く状況が、非常に難しいものになりつつある、という話題だ。Kickstarterがメジャーになり、多くのプロジェクトが生まれてきた中で、資金を調達しながらも完成に至らないケースも生まれてきており、ユーザー側の目はかなりきびしくなっているのだそうだ。「『Migty No.9』も毎月のように“ここまでできています”と見せているんだけど、それでも“頓挫しているんじゃないの?”と疑われます(苦笑)」(稲船氏)。
 これは河野氏も如実に感じたことだとのこと。とくにゲーム部門の状況はそれが顕著で、「(この3人の中では)僕がいちばん遅いタイミングで始めたんですが、そのぶん、いちばん集まる資金も少なくなりました……といういいわけをしています(笑)」(河野氏)と冗談めかしつつ、これからはしっかり戦略を練らないと、Kickstarterによる資金調達を成功させるのは難しいだろう、と語った。

 そんな難しい状況にあってイシイ氏は、「大きな予算を集めたモノが答えを出すことが急務だと思っています」と、3人が制作中のプロジェクトを成功させることが非常に重要だと語る。それは、そうすることで「“日本のゲーム、アニメ業界は信用できる”となれば、またお金が集まるようになるのではないかと」(イシイ氏)というわけだ。そうした意識は、稲船氏、河野氏も同様に抱いているとのこと。「僕も海外のメディアに、“日本人のKickstarterがふたつくらいコケた時点で、もう日本のクリエイターへの投資は集まらなくなるだろうと言われました」(河野氏)、「ここでコケると、後に続く人が続けられなくなる。勝手にですが、背負っているつもりです」(稲船氏)と、担うものの重さを強く感じていることを、それぞれの言葉で表現していた。

 しかしもちろん、Kickstarterはネガティブな面ばかりではない。稲船氏が指摘するのは、「Kickstarterで集まったお金は、ただのお金ではなく、ひとりひとりの、“これを遊びたい”という重いが詰まったものなんです」ということ。当然作り手は、バッカーの思いに応える義務があるが、「思いを返す方法は簡単。俺の作りたいゲームをやりたいという人たちに応えるには、自分の作りたいゲームを作ればいいんです」(稲船氏)と説明する。
 イシイ氏も同意しつつ、「ゲームってBtoC(消費者を対象にしたビジネス)だけど、アニメはビデオメーカーにお金をもらって作るので、BtoB(企業を対象にしたビジネス)なところがあるんです」と、アニメとゲームの違いを説明。ユーザーから直接資金を集められるKickstarterを活用することで、アニメ業界でも、もっといい作品を生み出せるようになる可能性を指摘した。

 ただし河野氏は、これからクラウドファンディングの活用を検討している人に対しては、「スタートする前に、集まったお金をどうするかのルールは決めておいたほうがいい」とアドバイスする。実際、数人規模のチームが200万円くらいの出資金を集めた後で、資金の使い道で大げんかしたケースを知っている、と河野氏。日本国内の小規模なクラウドファンディングサイトの活用を勧めつつも、小規模でもお金のことはキッチリしておくべきだと語った。
 またイシイ氏からは、クラウドファンディングでは“お金集め競争”のような部分に頭がいきがちだが、それは危険だとのアドバイスも。とくにリワードの設定については、「ほかのプロジェクトで人気のリワードでも、それがちゃんと実現できている保証はないんです」(イシイ氏)。フィギュアや画集が人気を集めるケースは多いが、たとえば100口程度しか集まらなかった場合に、100部だけの画集を作ろうとすると、コストは極めて大きくなってしまう……と、安易なリワード設定をするべきではないと警告した。


 以上、貴重な経験談を交えて語られた本セッション。経験豊富なトップクリエイターといえど、やはり初の経験となるクラウドファンディングを活用したもの作りは、なかなかに苦労が多いようだ。また、セッション中にも指摘されている通り、ファンディング達成後に頓挫するプロジェクトも目につくようになっていることもあり、人々がクラウドファンディングを見る目は、かつてのようにポジティブなものばかりではなくなっているのも事実だ。
 とはいえ、ユーザーの純粋な“欲しい”という思いが結集するクラウドファンディングという独特な仕組みは、やはりほかにはない、大きな可能性を秘めているはずだ。この仕組みでしか生まれ得ない、すばらしいコンテンツというのも、きっとあるだろう。3人が見事に成功を収めた暁には、日本人のプロジェクトに対する世界の評価・信頼は、大きく高まり、それがクラウドファンディングの可能性をさらに広げてくれることは間違いない。3人のプロジェクトに出資した人も、そうでない人も、ぜひ今後もプロジェクトの進捗に注目し、応援していってほしい。