根底にあるのは“遊ぶと面白いゲーム”を作ること
近年、インディーゲームイベント“ビットサミット”などに始まり、急速に盛り上がりを見せつつあるインディーゲームシーン。その2014年12月時点での記録を残しておきたいと思い、複数のインディーゲーム開発者にお願いしてインタビューを行った。個人開発者、独立系スタジオ経営者、ゲームメーカー出身、学生開発者、マルチメディアアーティスト……バックグラウンドも違えば置かれている事情もまったく異なるが、それぞれに話を聞くことで、そこから何かが見えてくるんじゃないだろうか?
というわけでインディーゲームの開発者本人に焦点をあてたインタビューシリーズの第3弾は、PS4/Vita/PCで配信中の2Dアクションゲーム『TorqueL』(トルクル)を開発したFullPowerSideAttack.comのなんも氏が登場。
第1回ニコニコ自作ゲームフェスのスタークリエイター賞に始まり、インディーゲームイベント“Indiecade”のE3セレクションに選ばれたり、第17回文化庁メディア芸術祭エンタテインメント部門で新人賞を受賞するほか、コミックマーケット、デジゲー博、ビットサミットなど、あらゆるイベントに出展された本作だが、音楽以外のメインの開発は、なんも氏個人によるもの。この遊ぶとミョーな魅力に惹き込まれるゲームはどうやって生まれたのか、そしてなぜ個人開発にも関わらずあらゆるイベントに出展したのか?
PS4版を遊びながら
――今日は『TorqueL』(トルクル)発売前というお忙しい時期だとは思いますが、よろしくお願い致します。というわけでこれがPS4版ですね。
なんも まぁゲーム自体はPCでも変わらないんですけど、PS4だけDUAL SHOCK4から音が出るとか、ここ(ライトバー)が操作に反応して光るといった機能が入ってます。まぁ転がってる時の音は聞こえづらいですけど、死んだ時の音とかが鳴ります。
――PS4ではシェア機能で配信して欲しいですよね。死んで「ギャー」とか言いながら。
なんも そうなんですよね。割と最初から「シェア向きだよね」みたいな話はしていたので。それで広まってくれたらいいかなと。色んな行き方ができるので「こんな行き方あるんだ」とか。このフィールドで出来ることがわかると、色々広がる部分があるので。
――気付くと無理ゲーに見えた部分に道が見えてくるんですよね。
なんも (プレイしながら)これもTGSの後に弄った部分ですけど、重力が反転フィールドでは逆方向に転がっちゃうというのが分かりづらいようだったので、上に傾斜をつけることで、逆に転がるのを見せるように変えました。『TorqueL』はチュートリアルとかがなくて、ステージ構成自体がチュートリアルっぽい作りなので。そうするればマニュアルも作らないで済むという(笑)。
――まぁ基本的に、操作するキャラクターの性能はすごくシンプルなまま変わらなくて、レベルデザインで使い方が変わっていくタイプのゲームですからね。
なんも プレイヤー自身が成長したらやり方が変わってくるという感じですね。色んなクリアーの仕方があるんですけど、「こういうテクニックを覚えて欲しい」みたいな作り(それを示唆するようなレベルデザイン)にしてあって、また後でそのテクニックを使うものが出て来たりもします。序盤は難易度もそこそこで、早くクリアーしようと思えばできるような作りで、だけど早くクリアーしようとすると途中でひっかかる。それでステージ10をクリアーすると、なんかよくわかんないけど中が二人に増える(笑)。
――「この子は誰なんだ、増えたら性能変わるのか」って、特に説明されないし、性能も変わらないんですよね。
なんも デザイン上の狙いはあって、シルエットがふたつあれば左右の見分けがつきやすくなる。それで次のステージ11も逆方向に進む導入になっていたりして。でもその辺は分かる人だけ分かればいいかなと。
――この一種淡々とした感じは狙ってるものなんですか? 例えばグラフィックもすごいシンプルですが、似たような四角いゲームだと『Thomas Was Alone』とかは、ストーリーの比重が大きいというのもありますけど、もうちょっとシェーダーで弄ったり、光当てて複雑な色合いを出したりしているじゃないですか。
なんも そうですね、最初のプロトタイプの段階から割と「絵的にはリッチなわけじゃないけど統一感がある」というのは意見としてもらっていたし、僕もそう思っていたので、そこは大事にしています。プロトタイプから製品版に持って行く時に何を進化させるか、例えばグラフィックなのか、ストーリーを何か付けるか、そう考えた時に「まずグラフィックはぶっちゃけこのままでいいよね」と。それこそイベントに出展した時に「PS4とかで作るんですよね」って言ったら「……グラフィック変わるんですか?」って反応が結構あったんですよ(笑)。それで「いや変わんないですよ。ほとんどこのままです」って話をして。
――プロトタイプの『TorqueL』を見て、新世代機持ってくって言われたら、やっぱり「ココからなんかすごいグラフィックになっちゃうのか?」ってのは思いますよね(笑)。
なんも なのでそういう、今までプロトタイプ版を遊んだ人の要望もあって、「むしろこのままでいいんだな」と。元の状態で統一感があったので「あまり変えないほうがいいな」というのはありましたね。プロトタイプは1画面にすべて収める設計でしたが、製品版はスクロールするので、違和感がないように調整はしてありますけど。
――ゲームのコアの部分はどう変わったんでしょうか。
なんも 物理挙動を大分変えていて……多分あまり気付かないですよね。こまごまと調整をしていて、例えばこう(箱の辺を)出した時に、プロトタイプ版だと平気でめり込んでいたんですよ。その辺をちゃんと止まるようにして。これをやるために、2ヶ月ぐらい物理エンジンの周りだけを弄ってました。めちゃくちゃ地味なんですけども、伸びる速度も変わってるんです。
――ああ、言われてみるとそんな気もします!
なんも プロトタイプ版の時は、ちょっとサイン関数的に最初にグッと伸びて、後はちょっとゆっくり伸びるといった挙動なんですけど、製品版にするにあたって、等速で決まった数字だけ伸びるようにしています。内部的には物理演算を秒間100fpsぐらいで回しているんですけど、伸びた時に埋まっているか判定をしていて、ぶつかっていたらそれ以上伸びないというような処理なんですが、いきなり伸びると(その処理のサイクルの間に)突き抜ける可能性がある。そうするととんでもないことになるというのが何となくわかったきたので、等速に。その代償として、プロトタイプ版だと三角形の間に挟まって(から両側に辺を出して)飛んでいた場面がなくなりました。
――ああ、ありました。反発で弾くようにして飛ぶ技が。
なんも アレができなくなったので、製品版ではそのステージはなくしてあるんですけど、その代わりにできるようになったテクニックとかもあるんで。この動く床とかも、“ちゃんと突き抜けない”という前提がないと変なことになるので、その辺を直すために物理エンジン周りを調整しました。それでも埋まっちゃうようなケースはあるんですけど。(ゲームエンジンに使っている)UnityがPS4とVitaでちゃんと動くようになるのを待っている間に、そういう所やBGMの仕組みなどをやっていましたね。