インディーゲーム制作者に聞いたのは「心中する覚悟がありますか」

 おなじみ黒川文雄氏による“黒川塾 (二十参) ”が、デジタルハリウッド大阪校にて2015年1月23日に開催された。ここでは、登壇者によるトークの模様をお届けしよう。

“黒川塾 (二十参) ”インディーゲームにゆかりのある著名人が集結 五十嵐孝司氏が語る“いらない”ところにあるゲームのおもしろさとは_01
▲黒川文雄氏

 黒川塾とは、“すべてのエンターテインメントの原点を見つめ直し、来るべき未来へのエンターテインメントのあるべき姿をポジティブに考える”というテーマのもと、各界の著名人を招いてトークを行う会だ。今回は、初の関西地区での開催となった。

 今回のテーマは「ゲーム作りは大変じゃない!?・・・」。黒川氏によると、テーマの“!”と“?”では大きな違いがあり、”!”は断定形で”簡単ではない”、つまりやろうと思えば実現できるというニュアンスのもの。一方“?”は困難、不安、孤独を思わせるニュアンスとのことだ。

 このテーマに沿い、インディーゲームにゆかりのある、ゲーム業界の第一人者が集結した。

楢村匠氏:NIGOROのディレクター。PC、Wii U向けに配信された『LA-MULANA(ラ・ムラーナ)』が海外で高い評価を受ける。PS Vita向けに追加要素がある『LA-MULANA EX』も配信中。

五十嵐孝司氏:『悪魔城年代記』、『悪魔城ドラキュラ』から、『悪魔城ドラキュラ』シリーズのプロデューサーを数年勤めた。モバイルゲームなどを手掛けるArtPlayの立ち上げメンバーとして関わる。

水谷俊次氏:インディーゲーム配信サイトPLAYISMを運営するアクティブゲーミングメディアに勤める。最近パブリッシングしたタイトルは、プレイステーション4、プレイステーション Vita用ソフト『TorqueL(トルクル)』や『Machinarium(マシナリウム)』など。

吉田修平氏:ソニー・コンピュータエンタテインメント ワールドワイド・スタジオ プレジデント。黒川氏からは、インディーズ、メジャー分け隔てなく、ゲームへの愛に溢れる方であると説明された。

 以下より、便宜的な分けたトピックごとに、トークの内容を記していこう。

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▲左から、黒川文雄氏、吉田修平氏、五十嵐孝司氏、楢村匠氏、水谷俊次氏

■インディーゲームの最近の流れについて

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 吉田修平氏は近頃、インディーゲームについて公の場で紹介する機会が多くあったそうだ。ときには吉田氏のファンから「インディーの話ばかりをしないで」と苦言を呈されたこともあるそうだが、本人は「メジャーのゲームはたくさん宣伝をしているのだから、みんなが知らないような、光るものがあるインディーゲームこそ、もっと知らせないといけない」という想いがあるようだ。

 また、吉田氏は、海外では人気が出ているのに、日本ではほとんど知られてないゲームがたくさんあり、日本のインディーシーンが海外から遅れていることを残念に思っていたようだが、やっとソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジアでインディーゲームの体制が整いだしてきたことについては、Better late than never.(遅れてもやらないよりはよい)と表現した。

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 楢村匠氏は2013年に開催した、インディーゲーム開発者たちが触れ合える場所を提供する“Indie Stream”について、“インディーゲーム制作者たちの労働組合”のようなものであると表現した。楢村氏はインディーゲームについて、宣伝があまりされていないこともあり、どうしてもメジャーな作品に比べると脆弱性があったと語る。近年は、開発者どうしの“横のつながり”ができるIndie Streamや日本のインディーゲームを紹介する“ビットサミット”も開催され、東京ゲームショウでもインディーコーナーができるようになるなどと、よい“流れ”ができているのだそうだ。

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■それぞれの抱えていた事情とは

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 五十嵐孝司氏は、大手企業のゲームはナンバリングタイトルなど“利益”を優先したゲームを作るが、インディーゲームの制作者は「俺はこれが作りたいんだ!」という想いを持つ人ばかりであると語った。なお、五十嵐氏は大手企業に在籍中に“作りたいゲームが作れない環境”になっていたそうで、自身が企画したゲームが世に出せないこともあったのだそうだ。五十嵐が大手企業を辞職したのは、“出せてナンボ”のゲーム業界において、当り前の“発売する”ということですらできなくなっていたことも理由のようだ。

 楢村氏は自宅でゲームを制作してきたことに対して、「会社勤めとは違って、ボーナスや保険も有給もない。スケジュール組みや資金繰りなどのやらなければいけないことも多かった」とその大変さも語った。しかし、自身が遊んでいたおもしろいインディーゲームの制作者が、7,8人という小規模でゲームを作っていること、イベントで司会をしていることなどに対して、「楽しそうだ」とも感じており、自身も好きなゲームを作ることができる環境を楽しんでいたようだ。

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 水谷俊次氏は、かつて日本ではインディーゲームがほとんど認知されていなかったことを踏まえ、ゲームをパブリッシングすることへの苦労も語っていた。世界に出ていく方法もよくわからない、コンシューマはもちろんのことダウンロード販売でも世に出すこともできないという状況の中、NIGOROが組んできた企業が軒並み倒産するという事態にまで陥っていたそうだ。そのような中、水谷氏は「日本のインディーシーンを盛り上げたいのであれば、心中する覚悟がありますか」とまで制作者に聞いていたとのこと。

 楢村氏はこの水谷氏の言葉を聞いて「どんなことでも10年はやらないと芽が出ないといよく言いますが、苦労していたときからスタートしている人は生き残っている」とも語っていた。

■インディーゲームにある魅力とは

 吉田氏はインディーゲームの魅力について「いい意味でプレイヤーをバカにしているような、制作者と会話をしながらプレイする感覚」「小規模での制作だからこそ、ひとりのディレクターの目の行き届いた配慮が見えること」にあると語る。

 五十嵐氏は「“いらない”ところにこそゲームのおもしろさがある」と語る。いらないところというのは、たとえば「将棋をしていて、指した駒からドーンと木が生えるような演出」なのだそうだ。五十嵐氏によると、そうした遊び心があれば、ゲームがおもしろくなくなる可能性は減るとのこと。自分が作りたいものを作るというインディーゲームの特性上、そうしたルールに囚われない遊びもしやすいようだ。

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■インディーゲームで大切な“エッジ”とは

 五十嵐氏はゲーム制作において、誰かの意見を聞くことで“尖った部分(エッジ)”がなくなり、ゲーム本来の魅力がなくなってしまう可能性を指摘する。ゲームは「これだ!」と制作者が思ったことの集大成として現れるものであり、そこで多数決などにより修正が加わると“丸く”なってしまい、ゲーム制作者の本当の思惑が現れにくくなってしまうそうだ。

 吉田氏は、プレイステーション4でダウンロード販売が予定されている『オクトダッド -タコと呼ばないで』における、“タコをがんばって人間に見せかけようとする”ゲームコンセプトはまさに“尖った感じ”であると語る。吉田氏によると、インディーゲームの強さというのは、“ほかにない、突き抜けたものを作れる”ということだそうだ。そのエッジがあってこそ、メディアにも取り上げてもらえるし、ユーザーにも注目してもらえるとのこと。

■経験がなくとも、インディーゲームへの新たな参入は可能か

 トーク後、参加者から「私はいままでゲームとはまったく関係のない職種で働いていたが、インディーゲームを作っていくことは可能か」という質問があった。

 五十嵐氏はこの質問に対し、「自分の通っていた学校は電子工学というゲームに関係ない分野だったのだが、趣味でプログラムをやっていたからこそゲーム制作ができた」と答えた。五十嵐氏によると、「ものごとを習うよりも、好きで勉強するほうが身に付く」のだそうだ。 なお、五十嵐氏は高校時代に映画を制作しようとしたとき、放送部の友だちが脚本を書ける、体操部の知り合いがアクションができるというふうに、ものを作るための人のつながりがあることを感じていたそうだ。何かを作るためにはお金だけでなく、行動がこそが大切とのことだ。

 水谷氏は「有名な企業さんであっても、作ったゲームがつまらなければNGを出しますし、無名の方でも優れたゲームであればパブリッシュします。『RPGツクール』を利用して世界で戦う人もいます。出来上がったものを見て判断するので、経験や実績は関係ありません」と答えた。

 黒川氏は質問に対して「“扉を開けるか”、“開けないか”ということだけ」「本当に作りたいものであったら、勇気を持って扉を開けてみてはどうか」とアドバイスをした。

■やり続けたことをプラス思考に

 参加者からは、「インディーゲームの制作をするにあたって、ひょっとすると芽が出ないかもしれない、お金がないまま生活しなければならないという不安を、どのように克服すればよいのか」という質問もあった。

 この質問に楢村氏は、「もともと好きなことをやっていたということと、(苦しむかもしれないという)”覚悟”があったからこそ続けてこれた」と答えた。また、「たとえ10年続けて芽が出なくとも、その経験が別のことを生かせるかもしれないという、プラスに考えることが重要ではないか」とも提言。それは、インディーゲームの制作に限らず、どんな職業でも共通のことだそうだ。

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 最後に、登壇者はインディーゲーム制作者と、これからインディーゲームで遊ぶユーザーへのメッセージを贈った。

水谷氏 PLAYISMのサイトを覗いてみてください。まずは、インディーゲームは素晴らしいものであることを、わかっていただきたいです。

楢村氏 現状は「ゲームを作ることは楽しいよ」とはすぐには言えない段階です。しかし、大変なこともあると覚悟して進めばインディーゲームの制作は楽しいものになると思います。大切なのは、きっかけと、続けていくパワーです。

五十嵐氏 自分は大手企業から離れ、ベンチャーでひと山あてなければならないというところに身を置いています。いまの目標は、とにかく“ものを出す”ということです。そのことが、何かを発信する人の後押しになれればなと思います。

吉田氏 最初からヒット作を出せる人はいません。クリエイターを目指している方は“作って発表していくことをくり返す”のが重要だと思います。制作し、パブリッシュし、人から批判を聞き、その批判を生かしてまた制作する、というサイクルをやり続けるのがいいと思います。
 また、日本のインディーシーンが盛り上がってほしいと願っています。インディーゲームで遊んだことがない人は、楽しいゲームをぜひ見つけてみてください。最近ではWEBメディアさんに取り上げていただいたり、YouTuberが動画でインディーゲームについて発信ていたりと、情報もより多くの場所で手に入るようになっています。また、ご自身が見つけたおもしろいゲームを、SNSなどを通じて、友だちに知らせてくれたらうれしいです。

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 記者が今回のトークを聞いて感じたことは、大企業が制作するゲームと、インディーゲームそれぞれにジレンマがあるということだった。大企業では安定した給料がもらえてゲームを作ることができるが、自分が作りたいゲームが作れないかもしれない。インディーゲームは自分の作りたいゲームが作れるかもしれないが、ゲームを売ってお金を稼げるという保証はないかもしれない、というのが現状としてあるのだろう。

 しかし、トークからはインディーゲームを取り巻く状況が、少しずつよくなってきているという印象もあった。今後はプレイステーションフォーマットをはじめ、コンシューマー機でも多くのインディーゲームがリリースされる予定もあるので、より多くの人がインディーゲームを遊べる機会も増えるのではないだろうか。今後の展開に期待したい。