世界中のインディーズゲームデベロッパーとつながりを持ちたい

インディーズデベロッパーをつなぐコミュニティースペース“INDIE STREAM”が設立、『ファミ通インディーズ』は出ないと思うから……_01

 国内外で活動するインディーズゲームディベロッパーが一堂に介し交流を深めるイベント“INDIE STREAM”が、2013年9月22日夜、品川ソニー・コンピュータエンタテインメントビル内にて行われた。

 冒頭のプレゼンテーションでは、イベントの発起人であり主催を務める楢村匠(NIGORO)、東江亮(Nyamyam)の両氏が、インディーズデベロッパーどうしを結ぶオンラインコミュニティスペース“INDIE STREAM”(⇒サイトはこちら)の設立を発表した。

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▲インディーズゲーム制作集団NIGORO代表の楢村匠氏。企画、ゲームデザイン、グラフィックなどプログラム以外の開発直接を手掛けている。
▲東江亮氏は、イギリスのインディーズゲームスタジオNyamyamに参加する、沖縄県在住のゲームクリエイター。開発中の『TENGAMI』ではアートデザインを担当している。イギリスのゲームメーカー、レア社に在籍していた経歴を持つ。

 樽村氏と東江氏は、“INDIE STREAM”設立の経緯について、以下の通り語った。

■楢村氏
 「私と東江さんは台湾の講演に招待された時に知り合って仲よくなり、情報交換をするようになりました。こういうつながりを世界中のインディーズゲームデベロッパーと持てないだろうかと思ったのが、今回の発起のきっかけです。“INDIE STREAM”は、それを具体化したものです」

■東江氏
 「山登りに例えると、危ないところには“危ない”って書いてあったり、落ちそうなところには防護ネットが張ってある。僕らもそれをやりましょう、と。そうすれば、ゲームを作りたい人がもっともっと高い山に上れるようになり、業界全体の盛り上がりにつながります」

 “INDIE STREAM”はディベロッパーどうしの交流の場としてだけではなく、インディーズゲームを世に広めたいライターやメディア、インディーズゲームの開発・運営を応援したい企業の窓口としての機能も期待されている。両氏はこう語る。

■東江氏
 「プレスの皆さんと情報をシェアできたら、もっと関係が密になり、いろんなことがスムーズにできるようになると思います。インディーズゲームは個人の占めるウェイトが大きいから、作家性が強く出ます。その過程で生まれるドラマ性を広く伝えていただきたいですね」

■楢村氏
 「僕らのほうでは、作品ごとの内容紹介やコンタクトのインフォメーション情報がまとまったプレスキットのアーカイブを運営します。“INDIE STREAM”に行けば、世界のあらゆるインディーズゲームの素材が揃う……という形にしたいですね。メディアの方々が来ている場で言うのもなんですが、何年経っても『ファミ通インディーズ』は出ないと思うんです(笑)。それを待っているくらいなら自分たちで動いてしまおうと」

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 さらに、イベントを共催するPCプラットフォーム“Playism”(⇒サイトはこちら)の広報担当・水谷氏は、インディーズゲームの、自社サイトにこだわらない広い市場に向けてのパブリッシング・リリースを支援する体制を発表。その実績例として、『メゾン・ド・魔王』(プチデポット)の“STEAM”(⇒こちら)でのリリース決定、NIGOROのヒット作『LA-MULANA』のプレイステーション Vita版のリリース決定を報告した。

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 インディーズゲームクリエイターによるトークセッションでは、稲船敬二氏(comcept)、由良浩明氏(Creative Intelligence Arts)の両氏が加わり、「好きなゲームを作るために」というテーマの質問に答えていった。

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▲comceptの代表取締役。カプコン在籍時代に『ロックマン』シリーズ、『バイオハザード2』、『ロストプラネット』などを手掛けてきたゲームクリエイター。新作アクションゲーム『Mighty No.9』の出資募集をアメリカのクラウドファンディングサイト“Kickstarter”にて行ったことで話題に。
▲Creative Intelligence Artsの由良浩明氏。古きよき日本製ロールプレイングゲームのデザインを踏襲したリアルタイムストラテジーゲーム『Project Phoenix』のプロデューサー・ディレクターを務める。

 以下、トークセッションでのやりとりをお届けしよう。

質問:ゲームを作る際に大事にしていること、こだわっていることは?

楢村氏 自分の欲望です。やってみたい、おもしろいと思った一番ピュアな部分を大事にしています。

稲船氏 一番大事なことを会社名にしようということで決めたのが“コンセプト”です。ゲームコンセプトがちゃんとしていなければ、どんないいスタッフを集めてお金をかけたって、いいものはできないということをこの27年間で学んできました。コンセプトを考えることは簡単だけど、作り出したコンセプトをちゃんと最後まで貫き通すことは難しいので、ほとんどのクリエイターができていない。だからおもしろくないんです。

由良氏 クリエイターの得意分野は、国によって異なります。『Project Phoenix』では、ドイツ人、アメリカ人、日本人といったいろんな国の人間がコミュニケーションとることで、世界の皆さんにアピールできるゲームを作れると思っています。

東江氏 心が動かされる瞬間があるかないか、で判断しています。理屈で説明されて心が動かないものは、僕は興味がありません。よくわからないけど自分の心が動いている、と感じたときに「これいいんじゃね?」と思います。

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質問:ユーザーの声をどれくらい取り入れていますか?

楢村氏 僕の会社は小さくてファンのコミュニティーも小さかったので、その人たちといっしょになって遊んでいる感覚で作っています。「ここが難しかったよ」「ここがわかりづらかった」という意見は聞きますけど、逆にもっと意地悪くしてやろう……という時もあります。

稲船氏 世界中の人たちと話す機会があるんですけど、一番多い声が「『MEGA MAN』(『ロックマン』)を作ってくれ」なんです(笑)。そのつど「俺は作れない」と言い続けているんですけど、ユーザーの声は聞きたいです。だから『Mighty no.9』を作るんです。ユーザーの声をこんなに聞いているクリエイターはほかにいないんじゃないですかね。

由良氏 “Kickstarter”に出資してくれた16000人の中には、よりよい意見を持っている人がいます。実際、『Project Phoenix』のグラフィックUIは、ユーザーからのアドバイスを採用しました。世界各国のユーザーの意見を聞ける“Kickstarter”は、無料で勉強になります。

東江氏 『TENGAMI』のようなアクションパズルはとくにそうですけど、、難し過ぎるとやめられちゃうし、簡単過ぎるとカタルシスがないと言われてしまいます。そのへんのバランスは遊んでいる方に聞くしかないというところがあるので、僕たちはそれを真摯に聴いてすぐに反映させています。

■質問:インディーディベロッパーに、同志としてひとことずつ応援メッセージを

楢村氏 まだまだこちらが応援されたいくらいなんですけど(笑)。ほんの1~2年前までは、新作を発表しても誰も気づいてくれないとか、そんなところから続けてこうなっているので、おもしろいゲームを作り続ければ絶対評価を得られると信じてやってます。皆さんもおもしろいゲームをいっぱい作りましょう。

稲船氏 インディーズって、ひとつひとつの会社の力って小さいんですよ。お金も技術力もなく、やれることも限られているので、だからこそみんなが助け合うしかないんです。僕自身はでかいところにいましたけど、でかいところと勝負するには、並大抵の力では無理ということを知っています。勝つためには自分たちの私利私欲ではなく、力を合わせていっしょにがんばっていく。、どっちが得した損したの話ではなく、Win-Winの関係をどれだけ持てるかが、インディーズの力だと思ってます。それぞれにいろんな経験を持った人たちがいるので、不得意な部分はお互い力を借りましょうよ。僕自身も皆さんに貸せる力がありますし、是非みんなで力を合わせてインディーズを盛り上げて、でっかいやつに勝ちましょう!

由良氏 2013年のコミュニケーション時代の中、提案だけで“Kickstarter”を始めることができます。どんな提案でも、書いて、ファンやインディーズレーベルなど助けてもらいたい人に見せれば、いっしょによりよいゲームを作ることができます。

東江氏 僕も稲船さんのようにメインストリームでずっと仕事をしてきたんですけど、いやらしい話、メインストリームって周りが敵だらけなんですよ。外部だけでなく内部にも敵がいる、いつ後ろから刺されるかみたいな状態で、これから先の10年いくのはキツいなと。僕は1年前くらいに日本に帰ってきた時はたったひとりでした。本当に偶然のきっかけで楢村さんにお会いできたことから、こんなイベントまで主催できるまでになっちゃったんですよ。これってインディー特有のものかなと。利害関係が絡んで情報をシェアできない、というのがないですから、だったらもっとつながっていこうよ、ということを皆さんに呼びかけたいですね。

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▲登壇者に勢揃いしてもらい、撮影させていただきました。
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 トークセッション後には、動画投稿サイトで一躍注目を浴びたサウンドクリエイター・サカモト教授が登場。頭に乗せているゲーム機をいつものファミコンから初代プレイステーションに変え、この日のためのスペシャルエディットをライブ演奏し、イベントを盛り上げた。

 会場内はインディーズゲームのディベロッパーのみならず、ゲーム制作用のミドルウェア開発メーカーやサウンド制作会社など多岐にわたる分野のスタッフで始終ごった返し、思い思いに交流を深める姿が、見受けられた。

 イベントの協賛企業であり、今回の会場を提供したソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジアは、自社プラットフォームを通じて世界のインディーズゲームディベロッパーを支援するプロジェクト“Playstation Indies”を先月発表したばかり。インディーズゲームの今後の動向から、ますます目が離せない。

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(取材・文:ライター/戸塚伎一)