東京大学大学院教授・馬場章氏が、ゲーム研究のいまを語る【FOST設立20周年記念講演会】

2014年12月4日、都内・明治記念館にて、FOST設立20周年記念講演会が行われた。東京大学大学院教授・馬場章氏による講演の内容を紹介する。

●教育の究極の目標である人格形成にも有効なデジタルゲーム

 2014年12月4日、都内・明治記念館にて、公益財団法人 科学技術融合振興財団foundation for the Fusion Of Science and Technology、略称FOST)によるFOST設立20周年記念講演会が行われた。本記事では、東京大学大学院教授・馬場章氏の講演内容をお届けする。

▲馬場章氏

 東京大学大学院教授である馬場氏は、日本デジタルゲーム学会の会長を務めていたこともある人物だ。今回の講演では、独自の研究で得たデータなどをもとに、デジタルゲームが教育に与える影響や、世界のデジタルゲーム研究の現状などを語った。

■デジタルゲームは“現代の知的複合体”である
 馬場氏ははじめに、「デジタルゲームは“現代の知的複合体”です」と述べた。ゲームはエンターテインメントという単一の概念でできているものではなく、テクノロジー、ビジネス、コミュニケーション、インタラクティブ、グラフィック、サウンドといったたくさんの要素が集まってできているということだ。ゲームは遊びであると同時に、複数の芸術分野が複合、混合された総合芸術であると馬場氏は語った。

 また、馬場氏はゲームと教育の関係性についても言及。
 小中学生の約93%がゲーム機を持っているとされる現在、親の反応はどうなのか。
 曰く、多くの家庭で「ゲームは一日一時間」などのルールがあるが、守られないことが多いという。果たして子どもにルールを強いるのは悪いのか、それとも厳格なルールは必要なのか。馬場氏は「親子で話し合い、お互いに納得することが大切です」と述べた後、3つのポイントを提示した。
(1)ゲームの種類や内容によってプレイ時間を工夫する。
 たとえば、子どもがRPGゲームを買ってもらったとしよう。基本的にRPGは、長時間プレイしてもらうことを前提に作られている。「ゲームは一日一時間」というルールのもとでは、クリアーに莫大な日数を要し、当然ながら子どもの不安は募る。結果、ベットの中でこっそりプレイするなどの、ルール違反が発生する。
(2)受験などの生活の変化に合わせてルールを見直す。
 これは、親側から一方的に押し付けられるパターンが多いらしいが、強要するのではなく、しっかり話し合うことが大切だ。
(3)ひとりでいる時間にやるべきことをノートに書き出す。
 子どもがひとりでいる時間にやるべきことをノートに書き出し、達成したら丸をつけていく。

 こういった、ゲームリテラシー(ゲームとどのように付き合っていくか)を追求していくことが、子どもの教育には必要なのかもしれない。

 さらに馬場氏は、ゲームを活用した教育の例をピックアップ。馬場氏は以前、コーエーテクモゲームスの『大航海時代 Online』をとある高校の世界史の授業に取り入れてもらい、データをとったことがあるそうだ。その結果、対象生徒の歴史に対する関心が確実が高まり、知識の定着率も上がったのだという。また、コミュニケーション能力などの、教育の究極の目標である人格形成にも役立ったらしい。

■デジタルゲーム研究の光と影
 馬場氏のデジタルゲーム研究の目的は、ゲームのおもしろさを分析し、そのおもしろさが、なぜ、どのように生じるのか解明し、最終的におもしろいゲームを開発すること。
 そんなデジタルゲーム研究も、時代とともに変化してきている。馬場氏の語った、2008年から2014年にかけての変化は以下の通り。
・日本国内に若手研修者が増加。しかしながら、大学にアカデミックコースが存在せず、けっきょく職にありつけないことが多い。
・日本国内の学部・学科や研究機関の増加や新設が相次いだが、レベルの差が顕著。
・研究対象が広がり、新概念の発案・導入が行われたが、正しく理解されていないことが多い。
・科学研究費補助金の細目に“エンターテインメント・ゲーム情報学”が新設されたが、実際にこれまで補助金が下りた例は、とてもゲーム研究とは言えないものばかり。
・学際性のさらなる進展が起きている。しかしながら、学生がさまざまなジャンルを組み込んだ研究結果を提出することが多くなったため、純粋にゲーム研究としての評価が難しくなってきている。
・人材育成と研究の連携が行われている。一方で、学生、大学発のベンチャーがつぎつぎと失敗し、学生のベンチャー精神がしぼんでしまっている。
・産官学の連携が推進した。だが、実質的な連携となっているか疑問が残る。成功例は、福岡市と九州大学のシリアスゲームプロジェクトだ。これはいくつも開発が行われ、実用化もされている。
・研究の中心が北米から欧州へ移っている。そして日本は“また”後進。アメリカにやっと追い付いたと思ったら、つぎは欧州に遅れを取ってしまった。欧州では、つぎつぎと新しい研究、書籍、ゲーム研究所が誕生しているという。とはいえ、日本も立命館大学がゲーム研究センターを設立している。

▲世界中で、ゲーム研究所は誕生している。

▲馬場氏は、欧州に遅れをとってしまった日本が、重視しなければならない研究分野について語った。シリアスゲーム、ゲーミフィケーション、ARG(代替現実ゲーム)の理論化と実践、日本からの研究の発信方法の確立、などが挙げられるという。

■ゲームの未来
 最後に馬場氏は、ゲームの明るい未来を実現するにあたり、必要なことを語った。
 まず、安心・安全で快適なゲームプレイ環境の構築。「これには、プレイヤー、開発者、企業、保護者、教師などの協力が必要です」と馬場氏。
 つぎに、いつでも、どこでも、誰でもゲームプレイができるような、ゲームプレイのユビキタス状態の実現。レーティングを前提に、ゲームプレイの年齢、場所、時間を問わないような共通点が必要とのこと。
 それから、ゲームリテラシーを普及させ、少しでも多くの人がゲームとの付き合いかたを身につけることだ。
 「これらのことを実現し、日本が世界に対してゲーム研究の発信地のひとつになることが、ゲームの明るい未来を実現することにつながると思います。そして、ゲーム研究のためには当然資金が必要になりますので、ゲーム研究に対して助成してくださるFOSTの役割はますます大きくなると思います」と馬場氏は述べ、講演は幕を閉じた。

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