今後も未来を見据えて走り続けていきたい

 2014年12月4日、都内・明治記念館にて、公益財団法人 科学技術融合振興財団foundation for the Fusion Of Science and Technology、略称FOST)によるFOST設立20周年記念講演会が行われた。ここでは、ソニー・コンピュータエンタテインメント 取締役 SCEJAプレジデント 盛田厚氏による講演の模様をお届けしよう。

SCEJAプレジデントの盛田厚氏が語るプレイステーションの未来【FOST設立20周年記念講演会】_01
▲FOST設立20周年記念講演会には、歴代SCEのプレジデントが顔を見せていたとのことで、「緊張します」と盛田氏。

 “プレイステーションが創ってきた未来とこれから創る未来”と題された講演で盛田氏が語ったのは、 “プレイステーション”プラットフォームがゲーム業界にもたらした変化とこれからの方向性。プレイステーションといえば、まさに先日20周年を迎えたばかり(※関連記事はこちら)。盛田氏は、プレイステーションが20周年を迎えられたことに改めて感謝しつつ、「1994年に誕生した初代プレイステーションが、これまで“おもちゃ”として楽しまれていたゲームを、新しいエンターテインメントに押し上げました」と、プレイステーションの意義を口にし、歴代プレイステーションのハードが、どのように進化してきたかを、順を追って説明した。

 たとえば、初代プレイステーションでは、当時3D化の波が押し寄せてきていたアーケードの体験を家庭に持ち込むことで、ゲームの表現が一新。さらに、メディアをカートリッジからディスク(CD-ROM)に変えたことで、在庫管理の利便性が図られ、価格も柔軟性がもたらされた。プレイステーション2では、CPUが128Bitに進化したことで、より人の感情に強く訴えかける表現が可能に。メディアがDVD-ROMに変更されたり、オンライン機能が搭載されたりと、のちのゲーム業界を考えると革新的な進化ももたらされた。一方で、2004年12月12日に発売されたPSPは、「家庭でのプレイステーション体験を外に持ち出す」というコンセプトのもとに展開され、仲間とともに戦う楽しさを訴求。「“共闘”というジャンルを確立した」と盛田氏。さらに、2006年11月11日にリリースされたプレイステーション3では、シングルコアからマルチコアへの進化、Blu-rayディスクの採用などが挙げられた。

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▲「ソニーの中でいろいろな仕事ができる」と社歴を明らかにする盛田氏。「アナログからデジタルへの移行も経験してきた」とのこと。
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 プレイステーションが与えた影響はゲーム業界だけに留まらない。盛田氏は、“プレイステーション”というフォーマットをひとつのSKU(在庫管理のユニット)を全世界に拡大することで、コスト削減による低価格化を実現することで、引いてはエレクトロニクス商品の価格帯を下げることにも寄与したと語り、ゲームがエレクトロニクス産業に与えた影響力の大きさにも言及した。プレイステーション2やプレイステーション3が、DVDやBlu-rayといったフォーマットの普及に大きな貢献を果たしたことはご存じの通りだろう。

 そして盛田氏は、「プラットフォームが変わる度に遊びが変化するのがゲームビジネスの醍醐味です」とコメント。そのうえで、遊びの変化を実現したのはゲームクリエイターであり、「クリエイターがプラットフォームに刺激を受けて、いままでにないゲームを実現してくれた」とクリエイターに対する感謝の言葉を口にした。ユーザーの体験が進化してプラットフォームが成長できるのも、クリエイターのクリエイティビティがあればこそというわけだ。

 そして、いま。いまや、さまざまなコンテンツやハードウェアがネットワークと融合している点に触れたうえで、「ゲームを遊ぶデバイスも成長している」と盛田氏。その先端の形がプレイステーション4であるとした。海外では、2013年11月に、そして国内では2014年2月22日に発売されたプレイステーション4は、9月末の段階で世界累計販売台数が1350万台を突破。「コンソールがシュリンクしていると言われる状況の中で、この普及台数はプレイステーションハードでもっとも早い普及のペース」(盛田氏)だという。

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 プレイステーション3の10倍の性能を与えられたことで、より奥深い表現が可能になったプレイステーション4だが、もちろん進化したポイントはそれだけに留まらない。まずは、ディスクからデジタルへの変化。これはディストリビューション(流通)の変化というわけではなくて、ネットを介することで、売りかたや楽しみかたが変化していると盛田氏。たとえば、体験版を試してから購入する……といった、販売促進に活用できるという。フリー・トゥ・プレイなども、デジタル化の流れでの恩恵と言えるだろう。つまり、ディスクとデジタルという両方のディストリビューションを活用して、新しい売りかたや楽しみかたを提供するのがプレイステーション4だというのだ。

 さらには、オンラインサービスのPlayStation Plus(PS Plus)の可能性についても言及する。プレイステーション4のリリース後、PS Plusの会員数が4倍になったとのことで、「PS Plusは、サブスクリプション(定額サービス)のビジネスモデルではなくて、プレイステーション4の普及を拡大するために有効なサービス」と盛田氏は断言する。

 そして盛田氏は、“これからプレイステーション4で取り組みたいこと”を語る。現状アクティブユーザーは、5000万人を超えるというプレイステーションフォーマットだが、これからはハードのインストールベースだけではなくて、“ネットワークも含めたプレイステーションユーザーの拡大”を目指すという。そこで期待するのはもちろん、プレイステーション4の進化だ。盛田氏は、プレイステーション4に期待しているポイントとして、“Project Morpheus(プロジェクト モーフィアス)”と“シェア機能”を挙げてみせる。

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 今年発表されて大きな話題を集めたVR(バーチャルリアルティシステム)の“Project Morpheus”は、これまで3Dだった世界を360度の世界に転換した革新的なデバイスだ。「最初は、ディスプレイでいかにリアルに表現するかを目指してきました。つぎは、コントローラーなどを使ってゲームの世界をディスプレイの “こっち側”に持ってくることを目指しました。“Project Morpheus”では、自分がゲームの中に飛び込んで行くんです」と、盛田氏は“Project Morpheus”に至るまでのゲームの進化をわかりやすく説明した。“Project Morpheus”に関しては、クリエイターも大いに共感しており、「プレイステーションの初期の驚きに近いです。“ちょっと一段違う何かがあるのでは?”との思いがあります」と未来のエンターテイメントに対する期待値の高さを語る。

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 “シェア機能”では、コミュニティーの可能性について触れる。シェア機能によって“世界中の人とつながる”という感覚を味わえるというのだ。盛田氏は、かつて渋谷のスクランブル交差点で人々がワールドカップの予選で盛り上がっていた場面に出くわしたという自身の体験を披露したあとで、「人はみんなで盛り上がったり、感動を共有したいという欲求がある」と説明。そんな人間の本質的な欲求をかなえてくれるのが、シェア機能であるというわけだ。

 一方で、盛田氏は、プレイステーション4に関しては、ゲーム以外のコンテンツ、盛田氏いわく“ノンゲーム”の可能性についても語る。ビデオや音楽、映画など、ノンゲームのサービスもプレイステーション4で積極的に展開していきたいというのだ。「もっとも心地よく操作できて、心地よく体験できる場」として。「プレイステーション4が、家庭内のエイターテインメントの“ハブ”を目指せるところまで来たのかな」と盛田氏。先日発表された、クラウドベースの新しいテレビサービス “プレイステーションヴュー”も(⇒関連記事はこちら)、その戦略に連なるものと言えるだろう。「テレビ放送を、“受け取る”から“好きなときに見る”に変更する、テレビサービスの未来像です。ゲームエンターテインメントの視点からAV機器を作ったらこうなりました」(盛田氏)とのことだ。

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 講演の最後に盛田氏が口にしたのは、“ビジネス機会の拡大”。いま、スマートフォン市場が拡大しているが、「相互の長所を活かしあって、さらに楽しい世界が作れるのでは」と盛田氏。盛田氏によると、いま音楽CDが売れない時代だと言われているが、ライブ会場ではものすごい勢いでCDが売れるという。組み合わせによっては、相乗効果でビジネスを拡大するチャンスがあるというわけだ。

 そして、“相乗効果”という点では、ソニーほど有利な立ち位置にいる企業もないかもしれない。ゲームや映画、音楽、デバイス、インフラなど、幅広い事業を展開しているのがソニーだからだ。記者は不勉強にも知らなかったが、国内で展開されるライブハウスの“Zepp”も、ソニー傘下らしい。「いままで“シナジー”と言いながら言葉だけで終わっていましたが、それが実現できる環境にあります。いろいろなボーダーをなくすことで、日本だからこそできる何かを、業界全体でやっていきたい」と盛田氏は意気込みを口にした。

 「プレイステーションはつねに“未来”を意識していました。今後も同様に未来を見据えて走り続けていきたいです」と語る盛田氏が、講演のまとめとして、“今後意識していきたいこと”として挙げたのが以下の3点だ。

[1]求められていることを求められている人に提供すること。ユーザー視点に立って考えるが、多様性の時代なので、ユーザーごとに対応を検討していきたい。それを提供していきたい。

[2]ゲームに関して、いまユーザーの皆さんが想像しているものを超えるゲームの世界を提供したい。技術の進化は、まだまだこんなものではないと思っています。技術の進化には天井がないと思っているので、ユーザーの皆さんがびっくりするようなものを提供していきたい。

[3]エンターテインメントと呼ばれるサービスを融合させて、人と人、それから世界をつないでいくということをぜひやっていきたい。これにより“ゲーム市場”を“コンピュターエンターテインメント市場”にまで拡大して、プレイステーションの世界を拡大したいと考えている。

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 最後に盛田氏は、「ソニー・コンピュータエンタテインメントという会社にもし強みがあるとすれば、プレイステーションが好きで、ゲームが好きだという連中がたくさんいることだと思っています。これからも、これを失うことなく進んでいきたいです。また、我々だけでいまのプレイステーションがあるとは思っていませんで、クリエイターの皆さんの力なしでは作れませんでしたし、未来も作れないと思っています。これまで20年間、いろいろな方がつないできたバトンを、つぎにつなぐというのが我々の役割です。プレイステーションの拡大はもちろんですが、これまで数々のサポートをしていただいたゲームという業界への恩返しとして、今後のゲーム業界への発展にも貢献していきたいと考えています」

 盛田氏が2014年9月1日に、SCEJAのプレジデントに就任してから3ヵ月あまり。盛田氏が、こういう講演という形で、自身の主義・主張を披瀝するのはおそらく初。今回の講演は、盛田氏のプレイステーションそしてゲーム業界に対する“決意表明”とも受け取れた。今後のプレイステーションフォーマットに向けての、盛田氏の取り組みに注目したい。

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