バディを使う、使わないはプレイヤーの自由

 2014年9月18日〜21日、千葉・幕張メッセで開催された“東京ゲームショウ 2014”。2014年9月19日に行われた、KONAMI小島秀夫監督への合同インタビューの模様をリポートする。

 今回の東京ゲームショウ 2014では、『メタルギア ソリッド』シリーズの最新作、『メタルギア ソリッド V ファントムペイン』(以下、『ファントムペイン』)の実機によるデモンストレーションや、世界中で大きな話題となった『P.T.』のイベントなど、小島監督は連日ステージに出ずっぱり。そんな多忙な小島監督に、僅かな時間ではあるが話を聞くことができた。今回の『ファントムペイン』のステージでは、NPCとともにミッションを遂行する“バディ”の要素や、言葉を持たない美人スナイパー、クワイエットにフォーカスが当てられていたため、そうした話題を中心にインタビューは進行。後半では、『P.T.』や『SILENT HILLS』についても触れている。

「バディはゲームデザイナーの夢」KONAMI小島秀夫監督インタビューで『ファントムペイン』について聞く。『P.T.』、『SILENT HILLS』の話題も【TGS 2014】_01
▲KONAMI小島プロダクション監督の小島秀夫氏。

──『ファントムペイン』の実機デモンストレーションでは、クワイエットがバディとして活躍していましたね。
小島秀夫監督(以下、小島) バディについては、ちょっと勘違いされている人もいるので改めて説明しますが、『ファントムペイン』は基本的に、単独で敵地に潜入するストイックなゲームです。バディを連れて行く、行かないは、あくまでプレイヤーに委ねています。

──バディは、潜入を少し楽にする要素でしょうか?
小島 バディを連れて行くと、単独ではできない戦略が取れます。バディにサポートさせて、おいしいところをプレイヤーが持っていくこともできますし、アクションに自信がない人はそれこそフルオートみたいにもできます。ただ、ミッションクリアー時の評価は、バディの行動も影響するので、イベントのデモンストレーションのように、バディといっしょに戦闘しまくったら、評価は下がっちゃいますけど。

──デモンストレーションを見た限りでは、かなりいろいろなことがやれそうですね。
小島 バディは、喜んでいる人もいれば、「これは『メタル』じゃない」みたいな反応もあって、そのあたりは予想通りです。バディが入っても、メインは自由潜入というところは変わりません。

──では、なぜバディの要素を入れることにしたのでしょうか?
小島 バディといっしょに戦うのって、心強いですよね。プレイヤーの状況に合わせて戦ってくれるAIというのは、ゲームデザイナーやゲーマーの夢でもあります。『メタルギア ソリッド 2』の後半でも、プレイヤーの雷電と、AIで動くスネークとで共闘するシーンがあったのですが、そのAIの精度はプログラマーに依存するわけです。アクションゲームは、プレイヤーの行動選択の幅が非常に広いので、すごくプログラムを組むのが難しい。当時、だいぶ時間をかけて、作っては壊しをくり返しましたが、けっきょく満足いくものにはできませんでした。そのころから、AIはずっとゲーム制作と並行して実験や研究を重ねてきています。

──『ファントムペイン』はオープンワールドのゲームなので、AIの設計はとくに難しそうですね。
小島 展開がある程度決まっているリニアなゲームならまだ作りやすいですけど、オープンワールドでそれをやろうとするとたいへんです。『ファントムペイン』は“潜入”のゲームなので、バディがプレイヤーよりも先に敵に見つかってはいけないし、自分がヘッドショットを慎重に狙っているところをバディが脇から攻撃してもダメだし、その辺のバランスが難しいです。そういった理由もあって、つねにいっしょに動くバディはやめましょうという話を始めからしていました。クワイエットはスナイパーなので、スネークよりも先行して諜報や索敵をしたり、遠くから支援するといった行動が中心となります。始終いっしょにいたら、どんなに気持ちの通じ合っている間柄でもケンカしますよね。そういう感じがAIではまだ出せない。相方がスナイパーという役割だから成り立つわけです。まだそのあたりは、ゲームデザインでごまかしている感じです。

──クワイエットはだいぶ頼りになりそうな印象でした。
小島 クワイエットは、敵か味方かわからない状況でマザーベースに連れてこられます。スネークは彼女を擁護していますけど、マザーベースにとって彼女は脅威となる存在なので、それなりにひどい扱いを受けることになります。そんな中で、頑なにバディとして自分を守ってくれていると、可哀想という感情が出てくる人もいれば、はたまたそんなことも考えずに胸元ばかり見ている人もいるでしょう(笑)。そうした、プレイヤーとバディの付き合いかたが、自分の頭の中で変わっていく感じです。べつにマルチストーリーというわけではないので、お話が変わるわけではないのですが。

──そのクワイエットですが、一部でセクシーさが話題になっています。
小島 ゲームの女性キャラクターって、ビキニ姿で戦ったりするのもありますよね。そういうのが好きな人もいるし、否定する人もいる。今回は、意図的にそうした要素を取り入れてみましたが、案の定、食いついたなと。これは狙い通りです。ふつうに考えて、あんな格好で戦ったら、薬莢で火傷しますよね。『メタルギア ソリッド 4』に登場したメリルだって、ちゃんと戦闘服を着ていたわけで、今回のクワイエットは“変化”だと捉えてほしくて。実際にゲームをプレイして、彼女に会えば、露出が多い理由もわかるんです。プレイヤーに楽しんでもらおうと思ってキャラクターを作っているのに、露出の部分ばかり言われて、ちょっと残念ですね。クワイエットについては、ゲームが発売された後、またお話したいなと。

──ちなみに、バディが倒されたらどうなるのでしょうか?
小島 死にますよ。

──負傷してマザーベースに戻るとかではなく?
小島 いや、死にます。

──つまり、いなくなる?
小島 それはそうですよ(笑)。そもそも、バディがいなくてもゲームは成立するんですから。リニアなゲームなら、どこかでふたりが出会って、いっしょに旅して、みたいな部分がストーリーとも関わってくるので、簡単には死なせられないですが、『ファントムペイン』はそれは本流ではなく、バディのNPCはサブエピソードとして入っているので、生死に関係なく、ゲームは続いていきます。でも、相棒が死んでしまうとなると、出撃のときの意識って、変わりますよね。危険な場所だけど、どうしてもいっしょに来てほしいとか。

──クワイエット以外に、どのようなバディを連れて行けるのでしょうか?
小島 いろいろ選べますけど、連れて行けるようになるかどうかもその人の裁量によります。少しヒントを出すと、フルトンで兵士を回収できますよね。なかには捕虜だった人もいますが、もともとは敵という人がほとんどです。そういう人たちとマザーベースを作っていくわけですが……。『メタルギア ソリッド ピースウォーカー』をプレイした人はこのあたりでピンと来るかもしれません。

──今回のデモンストレーションでは、初めてアフリカのステージがお披露目されましたが、木々が密集したジャングルという感じではないんですね。
小島 僕も、最初に見たときは「これ、アフリカちゃうやろ」って(笑)。アフリカって、子どものころに観た『野生の王国』とか、映画で観たサバンナ地帯みたいなイメージを持っていましたが、実際のアフリカはあんな感じなんです。僕はアフリカには取材に行けなかったので、スタッフが撮影してきた何十万枚もの写真や映像を見たのですが、なんか千葉県の裏庭みたいだなという印象で。千葉県の皆さん、ごめんなさい(笑)。

──『メタルギア ソリッド 3』のジャングルともまた違いますよね。
小島 あのときは、屋久島や奄美大島をイメージしました。舞台設定はロシアだったのですが、違った森を作りたかったんです。

──やはり、画面の密度がこれまでと違う感じがします。
小島 プロローグの『グラウンド・ゼロズ』を見ていただければわかりますが、背景が“映画的”ではないのです。どういうことかというと、海外のアクションゲームを見ると、画面内の要素がしっかりとレイアウトされていて、さながら映画の中に入り込んだような構図の中、ランドマークをたどってゲームを進めていくように作られています。ハリウッドの映画のように、城などの目立つ構造物があって、その脇には大きな月があって……みたいに、計算された映像でかっこいいのですが、セットのように見えてしまい、フォトリアルな世界ではなくなってしまいます。『グラウンド・ゼロズ』では、見た目に地味なプレハブのような建物をあえて配置して、よりリアルなフィールドを演出しています。それは『ファントムペイン』の冒頭のアフガンもそうですし、アフリカも基本的にそういう方向性です。

──デモンストレーションでは、スネークが装着していたロボットアームも気になりました。あれは、付け替えができるのでしょうか?
小島 マザーベースでいろいろ開発できます。『ピースウォーカー』と同じですね。

──開発にはコストがかかりますよね?
小島 開発だけでなく、輸送費やパラシュートを呼ぶためだったり、それこそフルトン回収にも資金がかかります。基本的な収入源はミッションの報酬で、そのほかにもフィールドでダイヤモンドを拾って儲けるみたいな要素もあります。そうして集めた資金でマザーベースを運営してくわけです。

「バディはゲームデザイナーの夢」KONAMI小島秀夫監督インタビューで『ファントムペイン』について聞く。『P.T.』、『SILENT HILLS』の話題も【TGS 2014】_02

『SILETN HILLS』は過去作とは違う展開で恐怖を演出する

──ここからは、『P.T.』と『SILENT HILLS』についてお伺いします。なぜ『サイレントヒル』の新作としてティザー展開するのではなく、『P.T.』という形にしたのでしょうか?
小島 「『サイレントヒル』の最新作をKONAMIが作ります」とあらかじめ言ってしまうと、そういう先入観でPVなりを観ますよね。リサ(『P.T.』に登場する幽霊)が出てきたら、その時点で「これは『サイレントヒル』じゃない!」と言われたりしてしまうわけです。情報の出所がわかっていると怖くないので、情報がまったくない環境を作って、その中で恐怖体験をしてもらおうと。とはいえ、舞台はただの廊下です。でも、何のためにこの廊下があるのかわからないから怖くなる。そういう実験をしたかったので、『P.T.』のような手法を取りました。

──『P.T.』では、そうした“未知の恐怖”を演出できましたが、本編となる『SILENT HILLS』でも未知の恐怖に挑戦するのでしょうか?
小島 すでに小島プロダクションが作るということが世に知れ渡ってしまったので、『SILENT HILLS』で同じことをやるのは難しいでしょう。恐怖の要素というのはいくつかあって、『P.T.』の反響によって目指す方向性が正しいことはわかったので、未知の恐怖というよりは、“『P.T.』より怖いもの”にします。ただ、これまでの『サイレントヒル』と同じ手法では、それを超えることはできないので、冒頭は『サイレントヒル』とは違う展開にするしかないです。そこで驚いてもらって、叫んでもらって、笑ってもらって、これまでの『サイレントヒル』と違和感を抱いてもらいつつも、やがて『サイレントヒル』になっていくという美しい構成を目指しています。

──「『P.T.』の最後の部分は簡単にしてしまった」という小島監督のコメントもありましたが、その一方で「難しい」という声もあるようです。
小島 昨今のゲームの難度やフラグの立ちかたであるとか、これまでのゲームに対する経験値では立ち向かえないようになっているだけで、別に難しくはないです。これまでのゲームの経験が“通用しない”というだけですね。だから恐怖であると。そこを意図的にやっているだけです。

──『SILENT HILLS』にはギレルモ・デル・トロ監督も制作に関わるようですが、具体的にどの部分を担当されるのでしょうか?
小島 デル・トロ監督は、脚本からデザイン、演出、ゲームデザインまで、何でもしようとする人です。僕もそうですけど、“エンドロールが全部自分”みたいな人なので、そこは戦いになるでしょうね(苦笑)。

──『SILENT HILLS』は、何回かに分けてリリースされるとのお話が出ていますが?
小島 エピソード単位で売っていくというのは、いままさにハリウッドがそうした潮流だからです。『ブレイキング・バッド』とか、テレビシリーズを一流のスタッフが作っているんですね。昔は映画が頂点にあって、テレビシリーズのほうが格下でしたが、いまではテレビシリーズは企画を立ててシューティングするまで数ヵ月でできるということもあり、ビジネス的に有利です。映画は契約の問題もあって、公開まで最低3〜4年かかります。そのあいだに流行も変わってしまい、映画が時代とマッチしなくなるリスクもあるわけです。だから、ハリウッドはテレビシリーズをやるんですね。テレビシリーズなら、1話完結で1シーズン12話、その都度視聴者と対話しながら内容を調整できるので、リスクも回避可能と。FOX ENGINEという制作の効率を上げるゲームエンジンができたので、1話作って早めに出して、2話、3話と続けていって、人気が出たら2シーズン目みたいなイメージですね。僕は、ゲームでもそれができるのではないかと信じているんです。