花畑の楽曲に秘められた苦労

―― まずは、おふたりの簡単なプロフィールを教えてください。

深澤秀行氏(以下、深澤) ゲームやアニメの音楽を制作しています。カプコンさんのタイトルですと、『カオス レギオン』や『ストリートファイター4』シリーズ、『ストリートファイター X 鉄拳』などを手がけています。『モンスターハンター フロンティア』には2007年から参加しています。

神田幸範氏(以下、神田) 私は2009年にカプコンに入社し、サウンドディレクションやサウンドデザイン、サウンドマネージャーなどを務めています。『ストリートファイター4』シリーズや『ストリートファイター X 鉄拳』などを手がけました。『モンスターハンター フロンティア』には深澤さんから遅れること2年、2009年から担当しています。ちょうどオルガロンのころですね。

『モンスターハンター フロンティアG』のコンポーザー&サウンドディレクターを直撃 “GG”の音楽の魅力に迫る! _01
▲『モンスターハンター フロンティアG オリジナル・サウンドトラック』を手がけた深沢氏(左)と神田氏(右)。

―― “GGアップデート”では数多くの楽曲が導入されていますが、とくに思い入れのある曲はどれですか?

深澤 苦労したという点では、花畑で流れる楽曲ですね。花畑そのものからイメージされる感覚を残すことがたいへんで、なかなか『MHF-G』の雰囲気と両立できませんでした。そもそも狩猟を行うような場所ではないですしね(笑)。何度も神田さんとコミュニケーションを図りながら制作を進めました。

神田 過去の楽曲と重複しない新しさを打ち出しつつも『MHF-G』の世界に納めることが、なかなか難しい作業でした。フィールドのモチーフも花畑という象徴的なテーマはありますけど、そこに対していままでにないものをどうやって表現しようかという部分で、苦労しましたね。深澤さんがお話ししたように、花畑というキーワード自体は、柔らかいというか、いままでのフィールドとは異なるイメージを抱く場所です。開発時の資料を見ながらお互いのイメージのすり合わせを何度も行いました。

―― たしかに、『モンスターハンター』っぽさを打ち出すのは難しそうです。

神田 花畑という言葉からイメージされるものを抑えて単に緊迫した感じにしてしまうと、従来の楽曲の延長になってしまいます。また、カラフルさを押し出すとポップなイメージが強くなり、少しずれてしまいます。そういった部分をちょうどいいところに持っていくこともたいへんでした。加えて、花畑の色彩やフィールドのギミックとして花の色がキーワードになっているので、それをどのように楽曲で表現するかも悩みましたね。

―― 花畑だけでも複数の楽曲が用意されていますね。

神田 剛種クエストとG級クエスト、それぞれに楽曲を用意しました。ただでさえ難産だったところに、同じフィールドで異なるふたつの楽曲の制作が必要だったので、深澤さんと悩みに悩んだ仕事でした(笑)。加えてGGアップデートは「真のG、始まる」と銘打っていたので、楽曲そのもので『MHF-G』を引っ張っていけるような力強さを求めました。どちらの楽曲も、単にフィールドの楽曲だけではなく、プロモーションも考慮して楽曲の制作を進めていきました。

―― いろいろな意味が込められていたとは。花畑の楽曲では、どんな楽器が使われているのですか?

深澤 花畑のすべての楽曲に、アコースティックギターが入っています。アコースティックギターの導入は、最初に打ち合わせた段階で決まりましたね。

神田 今回のアップデート用に制作した楽曲に関しては、奏法までも考慮しつつ、使用する楽器を最初に決めていきました。

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▲“GGアップデート”で登場した新フィールドの花畑。たしかに、モンスターを狩猟する場所とは思えないほど華やかだ。

ディオレックスの楽曲には珍しい楽器を採用

―― 花畑以外の楽曲では、どんな楽器を使っているのですか?

深澤 ディオレックスのクエストでは、サズというギターにスチール弦を張ったような中東の楽器を用いています。この楽器の演奏は、花畑の楽曲でアコースティックギターを演奏してくださった方に依頼したので、ぜひ聴き比べてみてください。また、GGアップデートで追加した楽曲以外にも趣向を凝らしていて、ハンマード・ダルシマーやユリアンパイプ、フィドルなどの楽器も実際に演奏したものを用いています。日本にも珍しい楽器の奏者がたくさんいるのですよ。「この楽器が演奏できる人はさすがにいないだろう」と思いつつ探してみると、裏切られることが多いほどです(笑)。

―― 勝手の違ういろいろな楽器を録音する作業も、たいへんだったと思います。

深澤 もちろん、わざわざこの一音のためだけに奏者の方にご足労いただくのも申し訳ないので、楽器によってはサンプリング音源で済ませる場合もあります。主旋律を担当する楽器は、ほぼ毎回、生楽器で演奏されたものを録音していますね。贅沢な制作方法ですが、やっぱり吹いてもらったり、弾いてもらったりしたほうが、いい仕上がりになります。オタマジャクシ(音符)を機械的になぞった音ではなくなりますし、楽曲の表現力が高まります。

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▲5月14日(水)から配信されている新モンスターのディオレックス。サウンドトラックを購入すれば、楽曲のみをひと足早く聴くことができた。

これから導入される楽曲にも期待!

―― 今後の楽曲制作でチャレンジしてみたいことはありますか?

深澤 音の構成要素の話になりますが、個人的には声楽をフィーチャーした楽曲を作りたいですね。ブルガリアンボイスやケチャ、クワイヤ、ホーミーなどの声楽のテクニックを経た音を加えて構成できたらなあ、と考えています。ただ、それらをそのまま加えてしまうと、あまりにもそれぞれが生まれた実際の世界が見えてしまうようになるので、何か新しい表現ができないかと模索中です。あくまでも、まだ夢の段階の話ですけどね。

神田 いろいろと構想はあるのですが、そのアイデアをどう『MHF-G』として折り合わせ、料理するか。それに加えてタイトル的な戦略も考えると、いまは明言できません(笑)。ただ、楽曲だけが派手でがんばってもゲーム本編から乖離してしまってはいけないので、モンスターの個性やアクションはもちろん、フィールドやゲームの要素と連動するように、ときにはそれらを後押しするような楽曲を制作できたらと考えています。そして、これからもハンターの皆さんに歓迎される楽曲を仕上げていきたいと思います。また、ちょっと話題から逸れてしまうのですが、深澤さんの“声もの”のチャレンジつながりでひとつ情報をお伝えします。ゴールデンウィークに配信した極征クエストでは、ヴォーカリーズとしてEmi Evansさんに参加いただいた楽曲を新たに用意しました。その成り立ちや収録時間から、残念ながら今回のサウンドトラックには収録していませんが、ゲーム内で聴いていただけたらうれしいです。

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▲インタビュー終了後に、読者プレゼント用CDへのサインにも応じていただいた。

 なお、おふたりのインタビューは5月27日(火)発売予定の「月刊ファミ通コネクト!オン7月号」にも掲載。そちらでは、シャンティエンやディスフィロア、ゼルレウスの狩猟で使われている楽曲に関する話題が読めるぞ。加えて、同誌ではおふたりのサインが入った『モンスターハンター フロンティアG オリジナル・サウンドトラック』の読者プレゼントも実施されるので、そちらもお見逃しなく!