奥成プロデューサーと実況担当の光吉氏に聴く本作の“セガセガしさ”の秘密

 2014年5月15日に発売された『ソニック&オールスターレーシング トランスフォームド』。ソニックを始めとするセガのオールスターキャストが陸海空を突き進むスペシャルマシンで競争するアクションレーシングな本作だが、そのあちこちには古くからのセガファンならば思わず「懐かしい!」と反応してしまうようなネタが、多数散りばめられている。
 そこで今回は、本作の日本ローカライズを担当したセガの奥成洋輔プロデューサーと、実況のボイスを担当する光吉猛修氏に、ゲームの魅力やローカライズでのエピソードを語っていただいた。なにぶん“セガ濃度”が高めのインタビューとなっているので、セガファンを自認する人は十分に気合を入れて読んでいただきたい。

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※『ソニック&オールスターレーシング トランスフォームド』にいかに“セガ魂”が込められているかを開発者に聞いてみた

『ソニック&オールスターレーシング トランスフォームド』インタビュー これは、セガでしか出来ない真の“オールスターゲーム”だ!_12
▲おふたりに、本作ならではの“セガセガしい”魅力を語っていただいた。

奥成洋輔氏(右)
“セガ 3D復刻プロジェクト”などセガのレトロ企画を一手に引き受けるプロデューサー。

光吉猛修氏(左)
日本一歌のうまいサラリーマンとして知られるセガのサウンドクリエイター。

「外国人が作ったの!?」と疑うほどのセガ愛

――もともと本作は、海外では1年以上前に発売されていますが、国内での発売が決まった経緯をお聞かせください。

奥成 もともとセガは、日米欧それぞれの市場に合わせたタイトルを作っていこうという方針なので、日本ではiOSとAndroidでのみ発売している前作『オールスターズレーシング』についても、もともと海外からの発案でスタートしたプロジェクトだったんです。ただ、もちろんよいものは全世界でリリースするべきだとも思っていて、本作に関しては前作と比べて非常にクオリティーが上がっていたし、日本のお客さんにも十分アピールできる内容だろうということで、海外でのリリースからは遅くなってしまいましたけど、日本でも発売することが決定しました。

――奥成さんが開発に関わったのはいつごろからなんですか?

奥成 移植版の立ち上げには参加していないんですけど、キャラクター監修として関わってはいたんです。ですから僕は、最初の移植担当プロデューサーに「日本版をやろうよ」って、ずっと吹き込んでいたのですが、いざスケジュールが決まったという段階になって、その担当者が異動になりまして(笑)。だったら、すべてのキャラクターも把握しているし、僕が担当しましょう、と。

――ローカライズ担当になる前から縁が深かったと。

奥成 ですね(笑)。開発スタッフが過去に『アウトラン2』を移植したこともあって、セガのアーケードレーシング“らしさ”がちゃんと感じられて、ゲームとしては手直しの必要はなかったので、だったらあとはもう見た目の部分、英語を日本語に変えることをしようと、テキストとボイスの差し替え作業を始めました。

――では、日本版の要素は言語の違いだけ?

奥成 独自の要素としては、アイテムの“おじゃまぷよ”ですね。海外版ではとくに元ネタもない魚のハリセンボンなんです。ただ、そのキャラクターのステッカー名が『PUYO POP』(『ぷよぷよ』の海外名)となっていたので、だったらホンモノを入れようよと、プロデューサーの細山田(水紀氏)に相談して実現しました。グラフィックに加えて、効果音もおじゃまぷよが降ってくるなどにしています。期間の関係でできることはあまりなかったんですが、実現できて本当によかったです。

――逆に言うと、それだけ元からの完成度が高かったということですかね。

奥成 「これホントに外国の人が作ったの!?」と疑うくらいに、日本的なゲームテイストなんです。おもしろさやボリュームもそうなんですけど、セガネタの“濃さ”が圧倒的に高い。たとえばゲーム中に特定の条件を達成すると“ステッカー”がもらえるんですけど、その中で『セガガガ』の主人公・瀬賀太郎くんの顔グラフィックを使っていたりとか。海外で発売してないのに(笑)。

――ある意味、マニアが行き過ぎているというか(笑)。

奥成 ええ。開発のSUMO DIGITALの連中は、そういったことをあまり気にせず「セガファンならこれくらい知ってるよね?」というノリが感じられたので、彼らの気持ちを僕が受け止めれば十分だろうと。

『ソニック&オールスターレーシング トランスフォームド』インタビュー これは、セガでしか出来ない真の“オールスターゲーム”だ!_01
▲全部で120種類が用意されたステッカー。一部を紹介すると“時の継承者”“スカッドレース”“レッツキャッチ”“ポップアップ”と、相当なセガマニアでないとまったく意味不明な呪文がズラリと並ぶのは、じつに痛快!

――SUMO DIGITAL恐るべしですね。具体的な作業は?

奥成 いちばんの変更点はボイス部分ですね。テキストについては問題なかったのですが、ボイスについては24体のキャラクターごとにまちまちでした。たとえば『NiGHTS』に関しては、原作が英語音声で、同じ声優さんを使っているので、変える必要はなかったのですが、『エターナルアルカディア』のヴァイスに関しては、海外版でヴァイスを演じていた声優さんが新たに声をあてていたので、だったら日本版ももちろんオリジナル声優さんじゃないとダメだぞと、関智一さんに約10年ぶりでヴァイスの声を演じてもらいました。

『ソニック&オールスターレーシング トランスフォームド』インタビュー これは、セガでしか出来ない真の“オールスターゲーム”だ!_10

――なんと! オリジナルに思い入れのある人にはたまらないですね。

奥成 セリフについても、ヴァイスに関してはオリジナル版ディレクターの田中俊太郎が、うららは『スペースチャンネル5』のディレクター吉永匠に協力を仰ぎました。そのほかにもジョー・ムサシ、アレックスキッド、『シュガー・ラッシュ』のラルフなどが新録ですね。あとは、Wii U版の隠しキャラクターであるMiiも。

――Miiの声って、誰が演じているんですか?

奥成 『NiGHTS』の音楽だけでなく、ナイトピアンの声なども担当したササキトモコさんです。ボイスをローカライズする上でのコンセプトとしては、『オールスター』である以上、すでに声のあるキャラクターはオリジナルの声優を使おう、それ以外のキャストは“セガらしさ”を基準に選ぼうと考えたので、最初に決まったのが光吉による実況です。とにかく光吉の声を入れたくて、じつは本人のオーケーを貰う前から「実況は光吉で」と説明して、開発が正式にスタートしてから正式にオファーをかけました(笑)。

光吉 ありがとうございます(笑)。

奥成 で、話はMiiに戻りますが、オリジナル版の音声があまり“日本人が考えるMii”っぽくなかったんです。そこで変更しようとなったのですが、セガのキャラクターでMiiにイメージがいちばん近いキャラを想像したときに『ROOMMANIA#203』のチビネジが思い浮かんだんですね。いくつかのほかのゲームソフトでしゃべっているMiiとチビネジのしゃべりも近いものがあったので。そこでササキトモコさんに「チビネジとMiiの真ん中くらいの声でお願いします」とオファーを出しました。ササキさんはけっこう悩まれていたので、「困ったら、チビネジのままででいってください」と(笑)。

――光吉さんは、実況音声のオファーがきたときはどんな気持ちでした?

光吉 「おっ、きたか!」という感じでしたね。というものこのゲームの前作(『ソニック&セガオールスターズ レーシング』)に『シェンムー』の芭月涼くんが登場していて、その曲素材を提供したことがあって、存在は知っていたんです。ですけど、話があったときには誰かのキャラクターの声、たとえば『バーチャファイター』のカゲの「ドウリャッ」とかいう声かなと思っていたら、実況だっていうのでセリフの数が多そうだぞと警戒しまして。

――声帯に負担が(笑)。

光吉 そうなんです。ご存じの通り、なにぶん僕は“ガラスの声帯”なので(笑)、収録が終わる前に声が持つのかなと。台本が1、2ページ進んだところで「声が出ません」(かすれ声で)となっていたらどうしようと。

(一同爆笑)。

光吉 そんな心配はあったのですが、せっかくいただいたお話ですし、タイトルの評判がいいのも知っていましたので、何度も仕事をしてきた奥成との結びつきもあって、ぜひやります、となりました。

――光吉さんがゲームの実況音声を担当するのは、珍しいんじゃないですか?

光吉 そうですね。これまで純粋に“実況”を演じたことはないです。ただ実況に絡んでいる、という意味では、弊社の『WORLD CLUB Champion Football』 シリーズのサウンドディレクターとして、実況音声の収録に立ち会っているんです。さらに不思議なもので、同時期にアーケード版『ヒーローバンク』の実況も僕が担当しているんですよ。なので、なにげに2014年は実況づいてます。

――気になる実況ボイスの収録数ってどれくらいだったのでしょうか。

光吉 具体的な数は忘れましたけど、けっこう量は多かったです。なので、僕の声ってシャウト系なイメージかもしれませんけど、収録に挑むにあたってはアナウンサー的な滑舌重視で抑えたトーンにしたんです。ゲーム中もそうですけど、テレビCMも聞いた人が僕だと気づかないくらいなふうで。それが功を奏して、最後まで声をからさずに乗り切れました。

奥成 ゲーム中のキャラクターがワイワイしゃべるので、実況音声が混ざらないように冷静なトーンでとお願いしました。収録に立ち会った幡谷(尚史氏。『ソニック』シリーズの楽曲制作で知られる)は最後まで戦々恐々としていましたけど、蓋を開けてみればスムーズに収録が終わりましたね。あまりにすんなり終わったので、独走状態で流れる応援コール音声にまで、スタジオにいた全員の中に加わってもらいました。

光吉 それで見事に全員声をからしていましたね(笑)。

――藤岡弘、さんにコールの音頭を取ってもらいたいような(笑)。ほかにも光吉さんの声が聞けるシーンはあるんですか?

奥成 じつはオプションのボリューム設定をいじるごとに、光吉さんの音声が流れるんですよ。光吉さんらしい“イカした”ボイスが多数聞けるので、ぜひ試してみてください。

光吉 僕は台本にあるセリフを読んだだけですから(笑)。オフザケしたのは『セガラリー』のコール時SEを真似て、「フィ~~~ニッシュニッシュニッシュ」って“口エコー”くらいです。

奥成 『セガラリー』ではちゃんとしたエフェクトだったのが、本作では口エコーですから。

光吉 えっ、あのボイスって使ってるの!?

(一同爆笑)

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▲“実況”ボリュームのスライダーを動かすたびに、光吉氏のカッコいいボイスが流れだす。数種類用意されたセリフがランダムに流れるという(ムダな?)こだわりが(笑)。

――セガファンにとっては、音ネタだけでも楽しめそうですね。

奥成 そうですね。とくに“AGES(エイジス)”というキャラクターは、クルマでは『デイトナUSA』のホーネット号、飛行機形態は『アフターバーナー クライマックス』のF-14、船形態ではドリームキャストコントローラに変形するんですけど、それぞれにSEで使われているボイスが異なるんです。クルマでは『デイトナUSA』、飛行機形態では『アフターバーナークライマックス』の被ダメージ音声が、そして船だとダメージを受けたときに電池の切れたビジュアルメモリを挿したときの「ピーー!」って効果音が鳴ります。

――そういえば光吉さん絡みといえば、テレビCMでもナレーションを担当されていますね。

光吉 ありがたい話ですよね。

奥成 「地上波での光吉さんボイスは“愛が足りないぜ”以来」と一部で発言したんですけど、じつは『電脳戦機バーチャロン MARZ』も担当していたことが、あとになって発覚して。

光吉 当時の広報担当者から「光吉さん、忘れてますよ」って、きびしいツッコミを受けて、急遽発言訂正しました(笑)。

奥成 テレビCMがアニメ『ヒーローバンク』(※)枠でのオンエアーなので、「18年ぶりにテレ東に光吉ボイス帰ってきた」ということでお願いします(笑)。

※アニメ『ヒーローバンク』
毎週月曜日夕方6時30分からテレビ東京系6曲ネットにて放送中
BSジャパン:毎週水曜日夕方5時30分から放送中
⇒アニメ『ヒーローバンク』公式サイト

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光吉 そういった背景もあったので、ゲーム中の抑えた実況トーンに加えて「セェーガァー!」とシャウトしなくちゃ、とか思っていたんですけど、台本のセリフを読み上げただけで「はい、オッケーでーす!」と言われてすごすご帰ってきました(笑)。

奥成 それで思い出しましたけど、予約特典CDの『セガオールスター プレミアムサウンドコレクション』に、じつはシークレットトラックを入れたんですよ。光吉さんが「セェーガァー!」ってシャウトしているやつを(笑)。

――収録したものは、余さず使うと(笑)。

奥成 ゲーム中のBGMは、前作から使われているクラシックコースの4つを除いて、すべてアレンジやリミックスバージョンになっているんです。僕みたいな人間が聴いても「これ、なんの曲だっけ?」となるくらいマニアックなところからのチョイスもあるので、ぜひこの予約特典CDも入手して、原曲と聴き比べていただきたいです。

――公式サイトで公開されているムービーでBGMが聴けますけど、かっこいい仕上がりですね。

奥成 ええ。しかもこのゲームではトランスフォームということもあって、複数の曲がメドレー形式になっているんですよ。『アフターバーナー』のコースでは、“After Burner”と“Final Take Off”がミックスされていたり。

光吉 それってインタラクティブで変わるの?

奥成 『パンツァードラグーン』コースではインタラクティブになっていますね。形態が変わるごとにBGMが変化します。

――こういう言いかたはアレかもしれませんけど、パッと見の軟派そうな印象とは真逆に、オールドセガファンが喜びそうなネタが満載されているわけですね。

奥成 そうですね。シリーズ作がしばらく出ていないタイトルが、いまのグラフィックで表現されているだけでも感動モノです。

光吉 それは思うよね。

奥成 僕もいつか新作を見たいと思っている『パンツァードラグーン』のコースでは、シリーズのいろんな要素がミックスされているんです。たとえば、上空には『パンツァードラグーン ツヴァイ』のシェルクーフって戦艦が飛んでいるんですよ。日本から何も注文を付けたわけでもないのに。

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▲『パンツァードラグーン』ステージにはしっかりと戦艦シェルクーフの姿が。ほかにも各シリーズ作での攻性生物が飛んでいたりと、かなり凝っている。

――確かに浮いてました!

奥成 細かいネタついでにいうと、『バーニングレンジャー』のステージは2面の海底ラボがモチーフになっているんですけど、よく聞くとコースのシチュエーションに合わせてナビボイスが入っていたんですね。ですからそれも、英語音声から、笠原弘子さんが演じてくださったクリスの声に差し替えています。

――こだわりにはこだわりで返す、ということですね。

奥成 もともと日本のオリジナルスタッフがすべて監修しているので、“そのゲームらしさ”というのは問題ないんです。ですから僕は、そうした小ネタだったり、あとは日本版らしさという部分でステッカーのテキストで遊びを入れたりをしています。

――先ほど見ましたが、“アソビン教授”のステッカーがあったりで、こりゃあ小ネタが満載だぞ、と思いました。

奥成 元の英文テキストを読むとまったくわからないんですけど、調べてみると海外版『ナイツ』の技名が記されたりしているんですよ。

――ああ、原文からして海外での“セガファンあるある”だったわけですね。

奥成 ですから通じないものに関しては、日本では通じるネタに差し替えています。アイテムのロケットエンジンを使って敵を数回燃やすと『バーニングライバル』のステッカーがもらえたり、とかですね。

――まさに“細かすぎてセガファンにした伝わらないネタ選手権”だと(笑)。しかし、監修やボイスの話もそうですけど、中身まで“オールスター”になっているんですね。

光吉 こういうのって、セガじゃないとできないことですよね。

奥成 ゲーム会社としての歴史を持っているという部分と、その歴史の徒花めいた部分までをおもしろく受け取れるという意味からすると、“セガならではのゲーム”といえるでしょうね。

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▲難易度選択も8bit、16bit、64bit級と、わかる人にはわかる表記となっている。
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▲新型マシンでレースに挑むアレックスキッド・オサール(本名)さん。ちなみにボイスを吹き替えているのは『セガガガ』でアレクの声を担当している井上喜久子さんだ。

――では最後に、この記事を読んでいる皆さん、とくに年季の入ったセガファンへのメッセージをお願いします。

奥成 いまのセガファン、そしてかつてセガファンだった皆さん。これはあなたのためのゲームです。日米欧のセガマニアが知識を結集して、ライトに遊べるゲームに包み込みましたので、遊んでいただければ「俺ってセガがこんなにも好きだったんだ」と思い返せる内容になっていると思うので、ぜひ触ってみてください。

光吉 奥成が“ゲーム業界の逆輸入”をした試みもおもしろいですし、僕もそうですけど、オリジナルのゲームに関わった“作り手の世界”も詰まっている、セガじゃないとできないゲームと思います。セガ好きでいてくれた人が、もっとセガ好きになってくれるゲームだと思うので、ぜひ楽しんでください。サンキューーーー、ベリマッチ!

――奥成さん、ハッター軍曹、ありがとうございました(笑)。

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▲ゲーム内容は、わかりやすいルールのアクションレーシング。「小難しいゲームに疲れた頭をリフレッシュするのにも最適です」と奥成氏が語るように、気軽にワイワイと楽しめそうな仕上がりだ。

(取材・構成 ライター/馬波レイ)