オールドセガファン必見の濃密インタビュー!
5月15日に発売を迎えるWii U/プレイステーション3用ソフト『ソニック&オールスターレーシング トランスフォームド』。ソニックを始めとするセガのオールスターキャストが陸海空を突き進むスペシャルマシンで競争するアクションレーシングな本作だが、そのあちこちには古くからのセガファンならば思わず「懐かしい!」と反応してしまうようなネタが、多数散りばめられている。
そこで今回は、本作の開発を手がけるSUMO DIGITALのプロデューサーであるスティーブ・リセット氏(と補足役として日本語版ローカライズプロデューサーの奥成洋輔氏)に、そうした“セガLOVE”ネタがいかにして盛り込まれていったのかを直接聞いてみた。こちらが想像していた以上に“中の人”が関わっている本作ならではの裏話を、たっぷりと味わってほしい。
スティーブ・リセット(Steve Lycett)氏
SUMO DIGITALエグゼクティブ・プロデューサー。
グレムリンインタラクティブのゲームテスターからキャリアをスタートし、多数のゲーム開発に参加。SUMO DIGITALでは、セガ発売のゲームタイトルほぼすべての開発に関わっている。プレイステーション3のダウンロードタイトル『ぽちゃぽちゃあひるちゃん』でもプロデューサーを務めている。日本のゲームにも(輸入盤をプレイするなどして)精通し、ライバルは“セガ 3D復刻プロジェクト”などの開発を手がけるM2だとも語る。
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※『ソニック&オールスターレーシング トランスフォームド』インタビュー これは、セガでしか出来ない真の“オールスターゲーム”だ!
“中の人”監修によるお墨付きの再現度
――本日はよろしくお願いします。まずはスティーブさんが勤めているSUMO DIGITALは、どんな会社なのかをご説明いただけますか?
スティーブ OK、わかりました。SUMO DIGITALはイギリスの独立系デベロッパーで、設立から昨年で10周年を迎えました。SUMOとセガは長らく良い関係を築いているのですが、それはSUMOがセガのIP(インテレクチュアルプロパティ:知的財産。ここではゲームやキャラクターの意味)にリスペクトを持っているからなんです。それは、僕らが最初に移植を手がけた『アウトラン2』からずっと変わらなくて、社内にたくさんのセガファンがいることが関係がうまくいっている理由のひとつです。もちろん僕自身も、大のセガファンですよ!
――『アウトラン2』はXbox版をプレイしましたが、すばらしい移植でしたね。
スティーブ メモリが足りなくてなかなか苦労しました(笑)。でもいい思い出もあって、交差点でその先のステージが出現しないという現象があって「完全移植ができなかった」と残念に思っていたのですが、来日したときにアーケード版を観察していたら、じつはアーケード版でもその現状があったんです。僕らはバグまで移植してしまっていたんです(笑)。
――いいエピソードです(笑)。ところでなぜまた“相撲”という日本風な会社名にしたのでしょう?
スティーブ ヨコヅナみたくなれるように……というのは冗談で、じつは僕もよくわかっていません。もともとは“ビッグモンスターズゲームズ”みたいな名前にしようっていう動きがあったらしいんですけど、いつのまにか日本語っぽい名前にしようとなっていて。設立当時は日本のゲームがとても盛り上がっていた時期で、日本のゲームはクオリティーが高いく爽快感があるというイメージを持っていたので、会社名を少し日本語っぽくしておけば仕事が増えるんじゃないかなと(笑)。でも僕らの開発したゲームを遊んでくれたユーザーが「SUMOは日本の会社である」と勘違いをしているコメントがあったりして、僕らはそれを褒め言葉として受け止めています。
――日本人としてはうれしい発言ですね。さて、時系列にそってお伺いします。前作『ソニック&セガオールスターズ レーシング』を開発した経緯から聞かせていただけますか。
スティーブ 前作にあたる『ソニック&セガオールスターズ レーシング』(日本ではiOS版/Android版がリリース)を手がける以前に、『パワースマッシュ』をベースにキャラクターをソニックたちセガの歴代キャラクターに差し替えた『セガ スーパースターズ テニス』(日本未発売)というタイトルを開発しました。欧米ではかなりヒットしたので、セガからは「じゃあつぎは別ジャンルのゲームを作ってみたら?」という提案をいただいたんですね。そこで僕らはバカなことに「レーシングゲームにしたらおもしろいかも!」と返事をしたんです。幸い、『アウトラン2』の開発経験はあったので、レースゲームなら行けるだろうというのが出発点です。
――最初から乗り物を使ったレースだったのですか?
スティーブ じつは最初の企画案では、そうではありませんでした。ソニックは裸足で走り、『ジェットセットラジオ』のビートだったらスケートしながら、アレックスキッドはバイクに乗ってと、キャラクターごとに移動形態が異なる仕様でした。けれどもそれを試したところ、キャラクターごとに等身や操作感がバラバラになってしまい、うまくまとまらなかったです。じつはその元となったアイデアは、続編の『ソニック&オールスターレーシング トランスフォームド』で活かされているんです。
――なるほど。では本作、『トランスフォームド』についてお聞きしていきます。すでに公開されているキャラクターやコースを見ると、セガファンが思わず「懐かしい!」と声をあげそうな要素がたくさん見受けられますが、そういったアイデアはどうやって決めたのでしょう。
スティーブ SUMO側で考えるものと、日本のセガからのアイデアのミックスです。SUMO側では、全部のトラックでは何らかのそのゲームで登場するようなキャラを入れるように努力しています。具体的には、『ジャイアントエッグ ビリー・ハッチャーの大冒険』のコースに小鳥を、『ゴールデンアックス』のコースにはシーフを絶対に出さねばと考えていました。
そうしたもろもろのカメオ(顔出し)ネタを監修してもらうために、企画書やデータの形で渡すのですが、すると日本からは「ここはもっとこうできないか?」と、僕らが考えていた以上のネタが、見たこともないような開発資料とともに送られてきたんです。それらを極力ゲーム内に反映するようがんばりました。
――ひと口に監修といってもいろんなケースがあると思いますが、セガ側の協力はスティーブさんの想像を超える熱量だったのですね。
スティーブ ええ。そういった事例はほかにもあります。『エターナルアルカディア』コースは途中で空飛ぶ船が出現するんですけど、僕らがゲームを元に一度コースを監修に出したところ、ディレクターの田中俊太郎さんから一冊の本が送られてきたんですね。その設定資料集には僕らが見たことのないような船がたくさん載っていて、「デルフィナス(ヴァイス一味の空賊船)は必ず入れてください」「空に浮かぶ月はこの形じゃないとダメです」といった指示が綿密にされていました。
奥成 補足すると、『エターナルアルカディア』ってすごくいろんな船が登場するので、SUMOから参考用にオリジナルのモデルデータをくださいと頼まれたんです。ですが何分古いデータなので、用意するのに時間がかかってしまったんですね。するとそのあいだに、気がついたらSUMOさんがもうコースを作っていて、けっきょくこちらがデータを提供するまえに、原作そっくりかつHDになったグラフィックができあがっていたんです。
スティーブ 来日してそれを田中さんに見せたところ「お、おう……」みたいな反応だったので、僕らはなにか間違いを犯したのか心配になったら、「そうではなくてうまく再現できている。データを渡すのが遅くなってゴメン」と謝られました。
奥成 最後は「船のプロペラが足りない」とか、そういうレベルの違いしかなかったですね。
――これまたいい話です(笑)。
スティーブ “ゲームの生みの親”たちに直接チェックしてもらえるのはうれしいですが、正直なかなかに骨の折れる作業ですね(笑)。それに、オーケーをもらうのは難しいだろうと思っていた事柄が意外にもすんなり通ったり、逆にスムーズに通るだろうと思ったことが大問題になったこともありました。たとえば、『サンバDEアミーゴ』のアミーゴを登場させるにあたってボイスを用意する必要があったのですが、ソニックチームからの返事は「アミーゴはいままでしゃべったことがないので、声をあてるよりはもっとアミーゴらしく、楽しい感じで差別化を図ったほうがおもしろいのではないか?」という提案を受けて、音声の代わりに楽器の音を入れてサンバ感を出してみました。
――そういった“オールスター”タイトルならではのエピソードはほかにもあったり?
スティーブ 『スペースチャンネル5』のうららの表情をカンペキなものにするために、原作のデザイナーの茂呂(真由美)さんに監修してもらって、最終的にはSUMOで作ったテクスチャーデータを直接調整していただきました。『SHINOBI』のジョー・ムサシについても、奥成さんからダメ出しを5回もらいました。
奥成 これも補足すると、ジョー・ムサシが乗り物の上でキックをするというモーションがあって、そのポーズがカッコ悪いからダメだと5回くらいやり直しをお願いしました。参考資料として『ザ・スーパー忍2』での飛び蹴り姿を渡したんですけど、2Dでカッコイイ飛び蹴りを、3Dで同じ風に再現すると、同じにならないんですよ。イマイチだなあ、もうちょっとかっこよくしてという無理難題を。
スティーブ そのモーションは1秒間ちょうどで終わらないといけない制限があったので、キレイに再現するのはとても難しかったです。
――なにやらセガ3D復刻プロジェクトで聞いたようなやり取りですね(笑)。では、ゲームに登場するセガのIPについては、すべてしかるべき方が監修している、と。
奥成 そうですね、登場するキャラクターやコース、音楽などはセガで監修しています。ソニックやナイツ、サンバはソニックチームが。開発チームがなければ開発を手がけたメインスタッフ、たとえば『パンツァードラグーン』は、原作のデザイナーに監修してもらって手直し部分のアドバイスを受けています。
スティーブ 僕らとしても、セガIPの細かい部分、マニアックな部分を入れ込もうとしています。このゲームのリードアーティストは、僕らが昔に遊んだ記憶の中にあるキャラクターの姿になることをモットーとしていました。
一番こだわったのは“セガらしさ”
――ゲーム的な部分についてお聞きします。乗り物が変形するというアイデアは、どのように生まれたのでしょう?
スティーブ 最初にお話したように、前作の企画初期では、ソニックは走ったりエミーはクルマに乗ったりテイルスが飛行機で飛んだりと、キャラクターごと異なる乗り物に乗っていたんです。そのアイデアはずっと活かしたくて、どうせなら陸海空の三段変形を目指そうということになりました。つぎはその三形態をどのようにゲームに盛り込むかを考えたんですが、最初の段階ではプレイヤーが任意に変形できるようにしていたのですが、すべてのプレイヤーがコースに左右されにくく、スピードが一番速い飛行機形態を選んでしまうので、残念ながらボツになりました(苦笑)。最終的には、コース上にあるゲートを通過することで、三形態に変形するようにしました。
ゲームバランスにもかなりこだわりました。車のサイズやコースの違いで有利不利が生まれないように、時間をかけてチューニングをしました。また、船や飛行機形態では前方がよく見えるように、形態ごとに視野角を調節するなどしています。そこでやっとゲームとして楽しくなったので、あとはより爽快感が出るようにファインチューニングを施していきました。
――3つの形態をいかにうまく使いこなすかが、レースに勝つためのコツということですか。
スティーブ その通りです、それぞれの形態ごとに、操作感やアクションは異なります。とくに飛行機形態は上下左右に動きまわれるので、フィールドを探索するように楽しむことができます。海外での発売後のユーザーの声としては、「車のほうが速い」「いいや、飛行機のほうが強い」と言ったように、三形態それぞれのファンが掲示板などで討論をしていたんですけど、最終的には飛び抜けて強い形態はないという結論になって、バランス調整がうまくいったなと思っています。また三形態共通として、コース上にあるピンクの矢印に乗るとブーストがかかるようになっています。全形態で共通の要素があることで、別の形態になったときにプレイヤーが戸惑うことなく楽しめるようにしました。
――全部で24体(Wii U版はMiiを加えた25体)のキャラクターが登場しますが、どんな基準でセレクションしたのでしょうか?
スティーブ それには、かなり込み入ったプロセスがありました。まずはゲームに登場させたいキャラクターをとにかくリストアップしました。現実的にできる、できないを考慮しなかったので、150体くらいの“夢のリスト”ができあがりましたね。その中には『リスター・ザ・シューティングスター』や『ワンダーボーイ』のキャラクターもいましたね。つぎにその中から、新旧や男女のバランスや見た目のバリエーション、そして何よりゲームにマッチする観点からキャラクターを選出していって、50体くらいまで絞りこみました。ここからは実際の開発段階として、陸海空の乗り物をデザインした際に、プレイヤーが喜ぶかどうかで選定して、選んだキャラクターたちのコンセプトアートを制作しました。それをセガ側に監修してもらったのですが、幸いなことにボツはなく、デザインの修正や色味の修正で済みました。最後はモデルとアニメーションを作ったときに、ゲームの中で綺麗にはまりこんでいるかを総合的に判断した上で、最終的な登場キャラが決定しました。
――『シュガー・ラッシュ』のラルフがスペシャルVIPゲストとして参戦していますが、彼が参戦する経緯というのは?
スティーブ ラルフを登場させようというアイデアは、セガからの提案です。ゲームの開発中は、まだ映画『シュガー・ラッシュ』の公開前でしたが、ラルフをゲームに登場させることができてうれしかったです。
――ちなみに、スティーブさんのお気に入りのキャラクターというと?
スティーブ 一番好きなキャラは“エイジス”です。このキャラは僕のアイデアであると同時に、『デイトナUSA』や『セガラリー』のクルマをゲームに出してくれというファンの要望をかなえたものなんです。ふつうにクルマが登場するだけではゲームのイメージに合いませんが、変身するのならありなんじゃないかと思って。じつはアイデア段階では、陸海空形態、3種類からランダムに選ばれる仕様だったんですよ。クルマは『セガラリー』『アウトラン』『デイトナUSA』で、飛行機は『アフターバーナー』『ギャラクシーフォース2』『スペースハリアー』の自機。ここまではじつにいいアイデアだったのですが、船がどうにもネタがなくて。ジェットスキーレースの『ウェーブランナー』、『ゲットバス』『シーマン』、そして『エコー・ザ・ドルフィン』という水に関わるゲームがあったのですが、どうもしっくりこない。さらにテストで実装してみたところ3x3の9形態がメモリーに入りきらず、要望の高い順で『デイトナUSA』のクルマ、『アフターバーナー』の飛行機という形にすんなり落ち着きました。ただ船に関しては難航したのですが、若いデザイナーと相談したところ「古いゲーム機本体やコントローラーをモチーフにしてみたら」と持ちかけてみたところ、ドリームキャストのコントローラを「これは船です!」とデザイン画を仕上げてきて、それが決定打になりました。といった具合に、複雑なアイデアがひとつにまとまったのがうれしいので、セガファンの皆さんにもきっと喜んでもらえると思います。
――開発中に一番大事に思っていたこと、いちばんこだわったことはなんでしょう?
スティーブ いちばんこだわったのは、やはり“セガらしさ”です。原作の魂が引き継がれているかのような形で作らないといけないと、つねに念頭に置いていました。ですから、コーナーをドリフトしているときは『アウトラン2』を、飛行機形態のときには『アフターバーナー』を少しでも感じてくれたらうれしいですね。また、ゲームとして重点を置いたのは、友だちといっしょにローカルでプレイするときに楽しいゲームにすることです。本作ではオンライン対戦が可能ですが、画面分割でのローカルプレイ(プレイステーション3は最大4人、Wii Uは最大5人同時)も楽しめます。最近欧米ではオンラインマルチが優先で、画面分割プレイが楽しめるタイトルが少ないと僕は感じています。ぜひ友だちをたくさん自宅に呼んで、ワイワイ楽しんでほしいです。
奥成 キャンペーンモードにあたる“ワールドツアー”でも、マルチプレイができるんです。参加している誰かが目標をクリアーすれば、つぎに進める形になっているので、みんなでチャレンジができます。グランプリであってもワールドツアーであっても、ローカルを含む複数人プレイができるので、すごくパーティー向きなんですね。
――ところで、シリーズとしては2作目となったわけですが、次回作の構想はあったりしますか?
スティーブ ええ、とても作りたいです! 『オールスターレーシング』の続編でもいいし、格闘ゲームでも。とにかく、セガのキャラクターを使わせていただいて、いいゲームを作りたいと考えています。僕らはセガの作品を手がけているうちはとても楽しくて、まるで大きな子供がおもちゃで遊んでいるかのような感覚を持っています。僕らがこの作品に投入している遊び心を、ユーザーの皆さんも楽しんでいただければとてもうれしいと思っています。
――対戦アクションはぜひ作ってほしいです。最後に、この記事を読んでいる皆さん、とくに年季の入ったセガファンへのメッセージをお願いします。
スティーブ 僕は39歳といい年になっていますけれども、自分の作ったゲームをとても楽しくプレイできています。レースゲームとしても力を入れていますが、ぶっちゃけ、セガファンに向けて作っているので、そこをぜひ楽しんで貰えればと思います。リメイクした音楽やキャラクターもそうですけど、ゲームを起動するときに流れる「セーガー」のサウンドロゴは、メガドライブを遊んだ世界中のゲーマーが耳にした音です。その音を聞いたときの思い出が蘇えってくれたらうれしいですね。
――ありがとうございます。ちなみにいちばん好きなセガのコンソールって?
スティーブ ドリームキャストの『シェンムー』ですね。昔、自分はかなりのアーケードゲーマーでしたけど、ドリームキャストが出たときに、コンソールとアーケードの最適な融合としてとても楽しみました。そのずっと後に、セガといっしょに仕事ができるようになったことはとてもうれしいことです。
(取材・構成 ライター/馬波レイ)