ジュヴナイル伝奇世界を楽しんでほしい

『魔都紅色幽撃隊』完全新作として作る以上、これまでにないシステムにしたかった――今井秋芳監督インタビュー_08

 2014年4月10日に発売された、アークシステムワークスの完全新作アドベンチャーRPG『魔都紅色幽撃隊』。本作は、“學園ジュヴナイル伝奇”の名手、今井秋芳(いまい しゅうほう)氏が監督を務める最新作だ。

 今井監督が家庭用ゲームを手掛けるのは、2008年に発売されたニンテンドーDS版『東京魔人學園剣風帖』以来、完全新作を立ち上げるのは2004年の『九龍妖魔學園紀』以来となる。今回のインタビューでは、今井監督のこれまでの軌跡をたどりつつ、最新作『魔都紅色幽撃隊』に込めた想い、こだわりをうかがった。

※このインタビューは、週刊ファミ通2014年4月24日号(2014年4月10日発売)に掲載された文に加筆したものです。

今井秋芳氏プロフィール
學園ジュヴナイル伝奇の第一人者。『東京魔人學園伝奇』シリーズ、『九龍妖魔學園紀』で監督を担当。『魔都紅色幽撃隊』でも、世界観やシナリオ、システムなど、すべての要素に携わる。


■“學園ジュヴナイル伝奇”が生まれるまで

――今井監督が家庭用ゲームの新作を手掛けるのは数年ぶりですので、『魔都紅色幽撃隊』(以下、『幽撃隊』)で初めて今井監督の作品に触れるゲームファンも多いと思います。ということで、まず今井監督がどんな方なのか、というお話からうかがいたいんですけれど……そもそも今井監督が、ゲームクリエイターを目指そうと思った理由から教えていただけますか?
今井秋芳氏(以下、今井) 私はもともと、出版系のデザイナーを志していたのですが、『ドラゴンクエスト』をプレイして、「なんておもしろいものが世の中にあるんだろう」と衝撃を受けたんです。その後『ドラゴンクエストII』にすごくハマって、ゲーム業界に興味を持ち始めたんですね。それから就職活動をして、印刷会社とゲーム会社、両方から内定をいただいて。「どちらに行こうか」と悩んだ末に、ゲーム会社を選んだんです。

――では、ゲーム会社のデザイナーとして、キャリアをスタートさせたのですね。
今井 はい。長いあいだ、デザイナーをやっていましたね。20歳で初めて就職して、ゲーム会社に勤めた後、フリーになってデザイナーを続けていたのですが、当時あるメーカーの方から、「もっと大きなプロジェクトを任せたいので、会社を作ってよ」と言われて、会社を作ったんです。それが“シャウトデザインワークス”(『東京魔人學園伝奇』シリーズ、『九龍妖魔學園紀』の開発会社)。そのとき、24歳でした。

――すごいですね! 最近は若者が企業することも珍しくはありませんが、当時はかなり珍しかったのでは?
今井 一応、株式会社でしたからね。ちょうど、フリーの時に稼いだまとまったお金もあったので。それから、デザイン一式を受注して作っていくうちに、「メインの開発ラインに加えて、サブの開発ラインをもう1本走らせよう」と思うようになって。「どうせなら自分の作りたいものを作ろう」と思って作ったのが『東京魔人學園剣風帖』(以下、『剣風帖』)です。

――今井監督の初監督作品ですね。
今井 ディレクションをやりたいなんて、一切思っていなかったんですけどね(笑)。デザインが好きだったので、一生デザイナーをやっていくと思っていたんですよ。絵を描いて暮らしていきたかったのですが、『剣風帖』を作ったときは、人手が足りなかったので、自分でいろいろやったんです。

――それでシナリオを書き、システムも考え……。
今井 そうですね。本はたくさん読んでいたので、お話を考えるのは好きでした。海外の女流作家がとくに好きでしたね。ハヤカワと創元推理をめちゃめちゃ読んでました。タニス・リーとか、フィリス・アイゼンシュタインとか……。もちろん伝奇ものやジュヴナイルも好きで。

――その読書歴が、“學園ジュヴナイル伝奇”というジャンルの誕生につながっていく、と。
今井 当時、ゲーム業界で学園モノというと、いわゆる恋愛シミュレーションゲームや、アダルトゲームしかなかったんですよね。そうではない、青春群像劇がやりたくって。学生たちが苦悩しながら戦っていくゲームを作りたいと思って、ジュヴナイルと伝奇を題材にしたんです。「作るんだったら、ちゃんと勉強しなきゃ」と思って、相当、いろんな本を読みましたよ。

――『剣風帖』には、風水だったり、鬼だったり、本当にいろいろな伝奇の要素が詰め込まれていましたね。
今井 『剣風帖』が“學園ジュヴナイル伝奇”の集大成だ、と思われるぐらいに、全部詰め込もうと思っていましたから。この1本でお腹がいっぱいになる! というぐらいの。本編があって、その後に外伝があるというのも、最初から考えていたんです。

――先ほど、ジュヴナイルや伝奇の本の影響を受けて、“學園ジュヴナイル伝奇”が誕生したとおっしゃっていましたが、数あるゲームの中で、今井さんのゲーム作りに大きな影響を与えたものはありますか?
今井 先ほどもお話しましたが、『ドラゴンクエストII』です。ローレシアの王子、サマルトリアの王子、ムーンブルクの王女、あの3人の登場のしかたも、あの長くて暗いロンダルキアの洞窟を抜けたら……という演出も、とにかく全部がすばらしいです。物語も演出も、1本の作品として完成されていて。

――では、アドベンチャーゲームは影響を受けたものは?
今井 PCのアドベンチャーゲームはいくつかプレイしましたが……大きな影響を受けたものはありませんね。なぜかというと、アドベンチャーゲームで、選択肢を選ばせるのが嫌いだったんですよ。「こんな選択したくない!」と思っていても、強制的に選ばされるのが嫌で。ですので、『剣風帖』で感情入力システムを導入したんです。

――感情入力システムはとても新鮮で、さまざまな反応を見るために、当時、何度もくり返しプレイしました。
今井 ありがとうございます。でも、 『剣風帖』は、最初はあまり数が伸びず、思い悩みました。ただ、ファンの皆さん、メディアの皆さんに支えられて、伸びていったんです。『九龍妖魔學園紀』(以下、『九龍』)も同様で、発売後に皆さんから評価していただいて。

――『九龍妖魔學園紀 re:charge』につながった、ということですね。
今井 本当に、皆さんのおかげです。ただ、「作品が売れないと、新しい作品を作っていくのも難しくなる」と改めて思いました。そのために、自分もいろいろな意味で成長しなければならないな、と思って、後進のクリエイター育成や、映像・モバイルの仕事に携わるうち、気付いたら時間が経っていたんです。

■目指したのは高校生版『ゴーストバスターズ

――では、『九龍』の後、さまざまな活動を経て、『幽撃隊』の企画を立ち上げたのでしょうか?
今井 いえ、じつは『幽撃隊』は、『九龍』が発売される前にアイデアを考えた作品なんです。

――つまり、10年越しのアイデア、ということですか!?
今井 そうなりますかね。昨年、『幽撃隊』を発表した後、業界内外から多くの反響があり、皆さんが學園ジュヴナイル伝奇の新作を待っていてくれたんだな、とうれしくなりました。

――學園ジュヴナイル伝奇とは、具体的にはどのようなジャンルなのでしょうか?
今井 “ジュヴナイル”も“伝奇”も、ジャンル自体は小説や映画であるものですが、イメージで言うなら、ジュヴナイルは独自の色や空気感があるものだと思っています。夕暮れの風景や、放課後のノスタルジーや……。伝奇というのは、伝承に基づいたものです。私は“虚構と現実の物語”と言っていますが、実在する伝説や伝承を、ユーザーにどんな解釈で見せるかが伝奇だと考えています。作り手の完全なる創作や、伝承や単語を拝借しただけの作品はファンタジーであって、伝奇ではないと思うんです。『幽撃隊』を作るにあたり、古今東西のゴーストの伝承や歴史を紐解き、そのエッセンスを活かしましたので、そこから伝奇世界を感じてもらいたいですね。

――『東京魔人學園伝奇』では鬼や風水、『九龍』ではトレジャーを題材にしていましたが、今回、『幽撃隊』で“霊”を題材にしようと思ったのはなぜですか?
今井 じつは、『幽撃隊』は、海外での展開も考えて作ったタイトルなんです。風水や密教の概念は、海外の方には理解されづらいと思うのですが、霊の概念は、どの国にもありますから。私自身、ゴーストハントものが好きですしね。重苦しい話ではなくて、ちょっとライトな、高校生版の『ゴーストバスターズ』を作りたかったんです。

『魔都紅色幽撃隊』完全新作として作る以上、これまでにないシステムにしたかった――今井秋芳監督インタビュー_07
▲夕暮れのシーンは、『幽撃隊』にも頻繁に登場する。

■この世界観だからこそ活きてくるシステム

――本作のバトルは、“行動予測”という、これまでにないシミュレーションバトルの形になっていますね。
今井 完全新作として作る以上、システムは変えたかったんです。アドベンチャーの部分についても、バトルの部分についても。同じシステムでやるんだったら、シリーズものにすればいい。ですので、これまでとはガラッと変えて作りました。

――主人公が持つウィジャパッドの画面を、そのまま見ているような形で、世界観とも非常にマッチしているバトルですよね。
今井 夕隙社はお金がない出版社ですから、ジャンク品を利用しているだろう。なら、ジャンク品で作った端末を見ながら戦っているだろう……そう思って、ウィジャパッドという端末を作りました。リアリティーを出すために、キャラクターのステータスをUSBメモリに表示させたり。現代劇なので、“実際にあってもおかしくないものにする”ということをつねに考えています。

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▲いかにも「ジャンク品、組み合わせました!」という感じのウィジャパッド。

――バトルに慣れないうちは、どう攻めていいのか悩みましたが、罠や特技の使いかたがわかると、俄然楽しくなりました。
今井 今回のバトルは、基本的に詰め将棋なんです。プレイしていただくうちに、相手の逃げ道を封じる方法や、攻撃を当てる方法がわかってきて、攻略しやすくなると思います。ユーザーの皆さんが、我々が想像もしていないような解法を見つけるのが楽しみですね。

――これまでにないものと言えば、アニメーション技術“GHOST(Graphic Horizontal Object Streaming)”にも驚かされました。キャラクターがとても自然に動いていて。
今井 既存のアドベンチャーゲームにはないもの、アドベンチャーゲームの今後の発展にもつながるものを作りたかったので、GHOSTを導入しました。VR技術を使い、背景が360度回転するようにしたのもポイントです。

――五感入力システムも、本作ならではのものですね。ひと足先にクリアーさせていただきましたが、第13話では、「この五感入力システムは、このストーリーだからこそ活きるんだ、ということを実感しました。
今井 そうなんです。第12~13話の展開を、本当に見てほしいんですよね。五感入力システムの使いかたに、ぜひ注目してほしい。

――エンディングを見ましたが、まさか……(以下、ネタバレのため削除)。ぜひ、多くのプレイヤーに、あのシーンまで辿りついてもらいたいですね。

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▲“感情”と“感覚”の組み合わせで、主人公の行動を表現する五感入力システム。その真価は、クライマックスでわかる!?

■『幽撃隊』の今後の展開は!?

――気が早いようですが、『幽撃隊』の今後の展開については、どうお考えですか?
今井 ゲーム後半で出会うキャラクターについては、機会があれば、もっと掘り下げていきたいという思いがあります。

――音江や八汐など、生い立ちが気になるキャラクターも多いですね。
今井 そのふたりがなんで自衛隊に入ったのか? など、何かの形で描きたいですね。そのためにも、ぜひ多くの方々に『幽撃隊』を買っていただければ……と思っています。

――では、完全新作を作るなら、どんなゲームを作ってみたいですか?
今井 これまで作ったことはないですけど、壮大なファンタジーを作ってみたいです。以前から考えている、スペースオペラの企画もあります。あと、じつは私、格ゲー大好きなんですよ。『ストII』は基盤も買ったぐらい。アップライト筐体もふたつ買って、対戦できるようにしたんです(笑)。『幽撃隊』のキャラクターを、いつかアークシステムワークスさんの格ゲーに出してもらいたいなぁ、なんて思っています。

――今井監督は、造詣が深いジャンルが、本当に多いですね!
今井 プロですから、引き出しは多くないといけないと思うんです。それから、スポーツゲームも好きです。いつか、高校生サッカーのドラマか、プロ野球の最下位チームに入った主人公が、チームを立て直すというドラマのどちらかを作ってみたい。高校生サッカーの決勝って、雪の中で行うことがあるんです。高校生たちが雪の中でサッカーをプレイして喜び合うシーンって、すごく感動的なので、いつか作ってみたいですね。

――『幽撃隊』の新展開や、今井監督の新作を楽しみにしています。それでは最後に、読者にひと言お願いします。
今井 『幽撃隊』は、『九龍』以来の新作となります。長い間お待たせしまい、申し訳ありません。待っていただいただけの作品にはなっていると思うので、ぜひ楽しんでいただければと思います。スタッフ一同、隅々まで力を入れて作ったので、世界観も、システムも、シナリオも、細かいところまで全部見てください。『幽撃隊』から、いろいろなことを感じていただけたらうれしいです。

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『魔都紅色幽撃隊』完全新作として作る以上、これまでにないシステムにしたかった――今井秋芳監督インタビュー_05
▲ファミ通.com『魔都紅色幽撃隊』特設サイトもチェック!
(画像をクリックすると特設サイトに飛べます)

魔都紅色幽撃隊
メーカー アークシステムワークス
対応機種 PS3プレイステーション3 / PSVPlayStation Vita
発売日 2014年4月10日発売
価格 各6800円[税抜](各7344円[税込])
ジャンル アドベンチャー・RPG / 学園
備考 ダウンロード版は各6296円[税抜](各6800円[税込])、監督・脚本:今井秋芳、キャラクターデザイン:倉花千夏、オープニングテーマ:植松伸夫、プロデューサー:金沢十三男、田口和憲、エグゼクティブ・プロデューサー:和田康宏、開発:トイボックス、ナウプロダクション