これまでにない経験をしたい人にオススメの1本

 アークシステムワークスから2014年4月10日に発売予定のプレイステーション Vita/プレイステーション3用ソフト『魔都紅色幽撃隊』。待望の學園ジュヴナイル伝奇新作のプレイインプレッションを、ゲーム大好きライターの小坂祐輝がお届けします。


■學園ジュヴナイル伝奇への思い入れを再燃させてくれるグラフィックと世界観

 學園ジュヴナイル伝奇として知られる『東京魔人學園伝奇』シリーズ、『九龍妖魔學園紀』を手がけた今井秋芳監督の最新作が発売されると聞いて、懐かしさとうれしさがこみあげてきました。そう、僕は、『東京魔人學園剣風帖』を遊んでからというもの、ゲームはもちろん、ドラマCDなんかもしっかり集めてしまうくらい、このシリーズにハマっていたんです。

 2010年に、『東京魔人學園伝奇』シリーズの新作となる『東京魔人學園帝戰帖』の発売中止の報を聞いてからというもの、もうあの魅力あふれる世界に触れることはないのか……と思っていたんですが、アークシステムワークスさんから発表される本作『魔都紅色幽撃隊』は、タイトルやロゴからも、この作品こそ、長年待っていた學園ジュヴナイル伝奇の系譜なのだと思わされる雰囲気が醸し出されていて、公式サイトのストーリー紹介なんかを見てみると、転校生、學園、悪霊といった、シリーズのファンにとっては“間違いないキーワード”の嵐。店舗別の予約特典もチェックして、準備万端! と思っていたところに、レビュー記事のお話をいただきました。

青春と霊、ギャップ溢れる高校生活を楽しもう! 未知のシステムが詰まった『魔都紅色幽撃隊』プレイインプレッション_01
青春と霊、ギャップ溢れる高校生活を楽しもう! 未知のシステムが詰まった『魔都紅色幽撃隊』プレイインプレッション_02
▲物語で描かれる“魔都”は東京のこと。青春ドラマと霊との戦いのギャップも見どころだ。

■斬新なシステムと表現がアドベンチャーパートの物語を演出

 ゲームは、“アドベンチャーパート”と“バトルパート”というふたつのメインパートと、その間の箸休めとなる“インターバル”をくり返しながら進行していきます。

 ゲームの冒頭では、プレイヤーの名前、誕生日や血液型といったプロフィールを詳しく入力していくという流れに。名前を変えられるゲームは、本名でプレイすることが多い僕ですが、こういった主人公=プレイヤーという楽しみかたができる作品は、久々に遊びます。近年のゲーム、アニメ作品には、プレイヤーが主人公の生きざまを眺めて楽しむ、客観的な群像劇になっているものが多いんですが、想像力を働かせて、「自分ならこうする」、「自分だったら本当はこうしないけど、ゲームの中だから思い切ってしまおう」とあれこれ考えながら選択できるというのは、アドベンチャーゲームの魅力のひとつだと思うんです。

 客観的な群像劇として描かれるゲームやアニメにも名作は数多くあるんですが、主人公の設定があまりにも自分の想像力の範囲とかけ離れていたり、作品の世界観が好みじゃないということになると、プレイするのも視聴するのもハードルが高くなることが多いです。その点、この作品は、主人公=プレイヤーという入り口が用意されていて、自分自身の感性や判断基準を作品世界に持ち込むことができるので、没入しやすいというのも魅力になっています。

青春と霊、ギャップ溢れる高校生活を楽しもう! 未知のシステムが詰まった『魔都紅色幽撃隊』プレイインプレッション_03
青春と霊、ギャップ溢れる高校生活を楽しもう! 未知のシステムが詰まった『魔都紅色幽撃隊』プレイインプレッション_04
▲アドベンチャーパートでは個性的な登場人物たちが次々に登場する。中には、仲間として力を貸してくれる人物も。

 アドベンチャーパートには、出現する選択肢からひとつを選ぶ選択肢分岐のほかに、“感情”と“感覚”を入力する“五感入力システム”が用意されています。このシステムが登場するシーンでは、まず“感情”として、愛、友、怒、悲、悩からひとつを選択、つぎに“感覚”として、味、嗅、聴、視、触からひとつを選択します。この、“感情”と“感覚”の組み合わせによって、主人公のリアクションが決定されるという仕組みになっているので、組み合わせによってバリエーション豊かな行動をとることができます。理不尽な状況に遭遇したら、“悲”しみながら“視”るという風に選択したり、相手に愛情を感じたら、“愛”で“触”れることを選択してみたり。ただ行動を選ぶだけでなく、微妙なニュアンスを認識してもらえるのがこのシステムのうれしいところです。僕なんかは、ヒロインのさゆりちゃんに、ゲーム序盤で“愛”、“触”といった、チキンな現実ではできない積極的な求愛行動を続けているのですが、当然のように冷たくあしらわれました。

青春と霊、ギャップ溢れる高校生活を楽しもう! 未知のシステムが詰まった『魔都紅色幽撃隊』プレイインプレッション_05
青春と霊、ギャップ溢れる高校生活を楽しもう! 未知のシステムが詰まった『魔都紅色幽撃隊』プレイインプレッション_06
▲ヒロインのさゆりちゃんに、“愛”、“触”などのコマンドを序盤からぶちかましていくアグレッシブな転校生として學園生活の口火を切りましたが、冷たくあしらわれたので、まずは紳士的な選択肢で好感度を上げることにしました。

 こうした一風変わったシステムを盛り込んだアドベンチャーパートは、“GHOST(Graphic Horizontal Object Streaming)”と呼ばれる、アニメーションを盛り込んだ表現と、キャラクターの視点により背景が360度回転するVR技術によって演出されるため、ほかのアドベンチャーゲームにはない臨場感を味わえます。本作の世界を表現するにあたって、これらのシステムは、絶妙な演出効果をもたらしてくれます。

 演出というところで、ただ一点気になったのは、セリフが一部のみのパートボイスになっているというところです。パートボイスでも、僕はしっかりキャラクターの印象を掴めたので気にならなかったのですが、知人のゲーマーは「ボイスは隅々まで聴く」と言っていたので、そういう方にとっては、やや物足りなく感じるかもしれません。

■バトルパートの肝となる、“行動予測シミュレーションシステム”

 バトルパートにも、アドベンチャーパートと同じくらい、驚きが詰め込まれています。本作のバトルは、シミュレーションRPG風と編集の人から聞かされていたのですが、遊んでみてびっくり、いままでに体験したことのない不思議なプレイ感のものになっていました。“行動予測シミュレーションシステム”と命名された本作のバトルは、ターンの最初に、敵の行動を予測したうえで、プレイヤーや仲間ユニットを移動、攻撃させるというものだったんです。

 シミュレーションRPGというと、相手の行動を見てから対応していくターン交代制のものがほとんど。この手のシミュレーションゲームは、ユニットの強さに任せたごり押し気味のプレイでクリアーできてしまうものが多くて、消化不良を感じることも多いのですが、本作は、行動の予測を失敗するとあっという間にピンチ、しかも規定ターン内に敵を仕留められないとゲームオーバーという、絶妙な難度になっています。これらのバトルが、心地良い緊張感と勝利の喜びをもたらしてくれるんです。

青春と霊、ギャップ溢れる高校生活を楽しもう! 未知のシステムが詰まった『魔都紅色幽撃隊』プレイインプレッション_07
青春と霊、ギャップ溢れる高校生活を楽しもう! 未知のシステムが詰まった『魔都紅色幽撃隊』プレイインプレッション_08
▲敵の行動を予測して、あらかじめ攻撃する場所を入力しておく“行動予測シミュレーション”形式の戦闘は、予測を間違えると何もないところに攻撃し、ただただ器物を壊してしまうだけの結果に。壊した器物の数が増えるほど、戦闘にかかる経費が増えるという心憎い仕様になっています。

 この“行動予測シミュレーションシステム”を使ったバトルは、事前に敵の動きを妨害するアイテムや、索敵の助けになるアイテムを戦闘前に配置するといった、作戦準備から始まっているので、ゲームへの理解が深まっていくほど、戦略性あふれるバトルを楽しむことができます。僕も最初は、ぜんぜん敵の行動を予測できずに、やみくもに攻撃をくり返してステージ上のオブジェクトを破壊しまくるという見苦しいプレイをしていたんですが、敵の行動範囲を理解したうえでアイテムをうまく使えるようになってくると、バトルのおもしろさがまるで違って見えてきました。

青春と霊、ギャップ溢れる高校生活を楽しもう! 未知のシステムが詰まった『魔都紅色幽撃隊』プレイインプレッション_09
青春と霊、ギャップ溢れる高校生活を楽しもう! 未知のシステムが詰まった『魔都紅色幽撃隊』プレイインプレッション_10
▲バトルはただいたずらに難度が高いというわけではなく、切り口さえ見えればクリアーできるようになっているので、それほど身構える必要はありません。いろいろなアイテムや戦術を試してクリアーを目指しましょう。
青春と霊、ギャップ溢れる高校生活を楽しもう! 未知のシステムが詰まった『魔都紅色幽撃隊』プレイインプレッション_11

■遊び心あふれるインターバルに注目

 各話やバトル前に挟まれるインターバルでは、“ショップ”での買い物や、バトル前の下準備としてマップを確認しつつ罠を貼る“ブリーフィング”といった機能に加えて、キャラクターの育成を行いつつコミュニケーションを楽しめる“ホワイトボード”やミニゲームの“ボードゲーム”を楽しむことができます。このボードゲームは、ユニットのパラメーターが細かく設定された本格的なものとなっています。ゲーム本編の息抜きとして遊んでいるつもりが、こちらがメインになってしまったということになりかねないほど、ハマり要素の高いものになっています。

 このインターバルは、主人公たちがアルバイトをするオカルト雑誌の編集部“夕隙社”を舞台にしているのですが、グラフィックやインターフェイスは、どれも遊び心にあふれています。オカルト雑誌の編集部というのを実際に見たことはありませんが、実際にあるとすると、もしかしたらこういう雰囲気なのかなと想像してしまいます。

青春と霊、ギャップ溢れる高校生活を楽しもう! 未知のシステムが詰まった『魔都紅色幽撃隊』プレイインプレッション_12
▲インターバルで遊べるボードゲームは、本編のバトルモードと同じく、戦略性の高い駆け引きが楽しめます。

■ジュヴナイルもののファンはもちろん、コアゲーマーにも遊んでほしい歯ごたえのある一本

 アドベンチャー、バトル、インターバル、作りこまれた3つのゲームモードに、魔都の独特の雰囲気を醸し出すグラフィックやインターフェイスデザイン、サウンドなどがあわさって生まれる、歯ごたえのある遊び心地が本作の魅力です。これらのコンテンツはすべて、万人受けするような王道ではなく、すべてがちょっとクセのあるものになっているのを、どう受け止めるかで評価は分かれそうですが、僕なんかはすっかりやられてしまいました。大好きなシリーズ作品の雰囲気が継承されているというだけではなくて、コツコツ遊んでいって、おもしろさや、攻略のポイントが少しずつわかっていくという過程がこれだけ楽しめる作品は、最近では珍しいと思うんです。

 そのジャンルの王道をいくような作りの作品も、遊んでいておもしろくないということはもちろんありませんし、遊んでいて安心感を得ることも多いです。実際、僕の好きなゲームジャンルである、ロールプレイングゲームや格闘ゲームというのは、ここ数年、ゲーム性の大元になる部分が大きく変わっていないこともあって、自分の知っている知識やテクニックが、いろいろな作品に応用が利くことが多いんです。だからこそ、安心して気軽に遊ぶことができるんですが、この作品のように、いろいろと未体験、未知のシステムが組み込まれたゲームには、なかなかお目にかかれるものではありません。とはいえ、ひとつひとつの要素は、丁寧な説明や段階を踏んでゲームの中に落とし込まれているので、一度世界に飛び込んでしまえば、ストレスなくおもしろさに触れることができるはずです。無難な選択肢を選んで物語を読むアドベンチャーゲーム、レベルをあげて物理で殴るシミュレーションゲームに物足りなさを感じる人には、オススメの1本です。

青春と霊、ギャップ溢れる高校生活を楽しもう! 未知のシステムが詰まった『魔都紅色幽撃隊』プレイインプレッション_13
▲物語後半のストーリーは、予想だにしない意外な展開に。もちろん、ネタバレは控えますが、遊んだ人にとって語り合える要素となること間違いなしです。

■筆者紹介 小坂祐輝
インテリアデザイン会社所属のゲームライター。アドベンチャーゲーム、ロールプレイングゲーム、格闘ゲーム等の記事、企画等を手がける。

青春と霊、ギャップ溢れる高校生活を楽しもう! 未知のシステムが詰まった『魔都紅色幽撃隊』プレイインプレッション_14
▲ファミ通.com『魔都紅色幽撃隊』特設サイトもチェック!

魔都紅色幽撃隊
メーカー アークシステムワークス
対応機種 PS3プレイステーション3 / PSVPlayStation Vita
発売日 2014年4月10日発売予定
価格 各6800円[税抜](各7344円[税込])
ジャンル アドベンチャー・RPG / 学園
備考 監督・脚本:今井秋芳、キャラクターデザイン:倉花千夏、オープニングテーマ:植松伸夫、プロデューサー:金沢十三男、田口和憲、エグゼクティブ・プロデューサー:和田康宏、開発:トイボックス、ナウプロダクション