VRの範疇で考えがちなんですが、違ったコンセプトと良さがある

CESで記者が体験リポートをお届けした、Avegantのヘッドマウント網膜投影ディスプレイ“Glyph”。その後KickStarterで行ったクラウドファンディングで150万ドルを集めて成功し、製品化に向けて開発が進められている(公式サイトで499ドル(送料別)で予約受付中)。
初めて聞いた人のために説明しておくと、Glyphはヘッドフォンのような形をした新たなエンターテイメントデバイス。実際、ノイズキャンセルヘッドフォンとしても使えるのだが、ヘッドバンド部分を前に倒してHDMIケーブルを再生機器に挿すと、一種の3Dヘッドマウントディスプレイになる。
しかもヘッドバンド部分に仕込まれているのは、ヘッドマウントディスプレイでよく使われているLCDや有機ELの小さなパネルではない。Glyphでは、網膜投影で映像の光を直接目に送り込むのだ。
そのメリットは、得られるイメージの自然さ。ディスプレイを見るのではなく、現実の物体を見ているのと近い形で目に光が入るので、ドットのスキマが見えちゃう感じ(スクリーンドア効果)とか、3D立体視でよくある、見た瞬間に「クラッ」と一瞬だけ来るあの感じもない。そしてメガネもいらない。
今回はGDC会場近くのホテルで、PS3と『コール オブ デューティ ゴースト』を使った、Glyphのヘッドトラッキング機能(9軸)の実証デモを遊ばせてもらった。ちなみに、PS3の入力周りを乗っ取ってGlyphのヘッドトラッキングセンサー(頭の動きを検出する)を右スティック(視点変更)に割り当てている以外、ソフトなどは街で売ってるCoDGのままだ。
で、遊んでみるとヘッドトラッキングの反応は結構イイ! まぁ、ソフト側はそのまんまなので、座りながらプレイしていて、曲がりくねった道に沿って歩いて行くだけでもクビがねじ切れそうになったけど……(進行方向を中央に持ってきたくなるので、曲がり角があるたびにそっちを向かなきゃいけない)。
まぁあくまでヘッドトラッキング能力のデモなので、そこにツッコむのはナンセンスというものだろう。Glyphでの使用を考慮したコンテンツがあればいいだけのハナシだ。
それよりも記者としては、ヘッドトラッキングは「うん、結構動くね!」ぐらいで終わりで、やっぱりGlyphで大作ゲームを体験できたことが面白かった。
オープニングのシーンとそれに続く宇宙シーンをプレイしたのだが、強調された立体視の圧迫感が少ないのにゲーム世界が自然にそこにあるように見えるとか、メガネしてないのにクッキリ見えるとか、視線をバンドの外に外すと普通に外が見えるのに、覗き穴に視線を戻すと没入感がすぐ復活する(だから被って視聴しながら余裕でテーブルの飲み物を取れる)とか、Glyph特有の不思議な視覚体験は、やっぱりゲームでも健在だ。
だが、ソニーが発表したProject Morpheusや、Oculus VRのOculus RiftのようなVR体験とは別のベクトルの製品であることも注記しておきたい(Avegantも「これはVRではない」とくり返し説明していた)。
VR体験は視界を映像で覆う視野角の広さが重要視されているが、Glyphの視野角は45度しかない。ちなみにRiftは110度、Morpheusは90度である。だから「その世界に入っている」ように感じさせるVRとは違い、見え方としては「数m先にシアターのスクリーンがある」という旧来のヘッドマウントディスプレイのそれに近い。でも、その見えているものの質が変わってる(片目それぞれ720Pなのだが、それ以上に感じられる)といった感じなのだ。
問題としては、現在のプロトタイプはそれなりに重く、顔が小さかったり鼻が低かったりすると、支えきれずにずり落ちてきてしまうという部分。これについては、製品版で30%の軽量化を行うほか、ノーズピースを交換可能にすることも検討しているそうなので、改善を期待したい。(文・取材・写真:ミル☆吉村)
