「Glory 3usi9」はリズムゲームになることを意識して作った曲
発売まであと1週間となった、セガのプレイステーション3/プレイステーション Vita用ソフト『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- F 2nd』(2014年3月27日発売予定)。本作に楽曲を提供しているアーティストのインタビュー企画の第3弾をお届けする。
今回は、『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ-』シリーズの“これまで”と“これから”をつなぐようなタイアップソング「Glory 3usi9(グローリー ミュージック)」を書き下ろしたナノウさんがゲスト。「Glory 3usi9」についてはもちろん、ナノウさん自身の音楽のルーツ、今後の目標などについても語っていただいた。
ナノウ
2008年にニコニコ動画での楽曲公開をスタート。心に響く、叙情的な歌詞とサウンドが特徴で、「ハロ/ハワユ」や「文学少年の憂鬱」など、数々の人気曲を手掛ける。2011年、VOCALOIDプロデューサーによる音楽レーベル“BALLOOM”の立ち上げに参画。2013年、BALLOOMより、VOCALOID楽曲のベストアルバム「andLOIDs -All time best of Nanou-」をリリースした。
また、ロックバンドLyu:Lyuのボーカル&ギター担当、コヤマヒデカズとしても活動している。
■ゲームミュージックにハマり、NIRVANAでバンドサウンドに目覚める
――ナノウさんが音楽作りを始めたきっかけ、ナノウさん音楽のルーツを教えてください。
ナノウ じつは、中学を卒業するくらいまでは、いま自分がやっているようなバンドサウンドやロックなどは、ほぼ聴いていませんでした。もともとゲームが大好きで、音楽と言えば、ゲームのサウンドトラックばかりを聴いていたんです。
――ゲームのサウンドトラックは、どんな作品の曲を聞いていたのですか?
ナノウ スーパーファミコンが流行って、プレイステーション、セガサターンが出始めたころ、俺は小・中学生で、スクウェア信者だったんです(笑)。なので、『ファイナルファンタジー』を筆頭に、『サガ』とか、『聖剣伝説』などのRPGをプレイしていました。サントラがないゲームの曲は、テレビから直接録音して聴いたりしていましたね。
――それはすごいですね! そんなナノウさんが、バンドサウンドやロックを聴き始めたきっかけとは?
ナノウ バンドやエレキギターに興味を持ったのは、洋楽、NIRVANAがきっかけでした。それでバンドを組んでみて、生まれて初めて音楽を作ったのは、高校2年生のときだったと思います。どんな曲だったか、もう断片的にしか覚えていないのですが、バンドのメンバーに聞かせたら大爆笑されたんです。それが若干トラウマになってしまって、「もう俺はぜったい曲なんか作らない!」って思ったんですけど、いろんな音楽を聞いて、好きなバンドが増えていくうちに、「もう1曲くらい作ってみようかな?」となりました。高校を卒業する間際くらいから、また曲を作るようになって、いまに至るという感じです。
――NIRVANAとの出会いについて、詳しく教えていただけますか?
ナノウ 出会いは本当に偶然です。中学卒業後の春休みに、友だちが3、4人、うちに泊まりに来たのですが、その中のひとりが洋楽やバンドにハマり始めていて、CDを持ってきて勝手にかけたんです。その曲がむちゃくちゃカッコよくて、「これなんてバンドの曲なの?」って。友だちが帰ってから、速攻でNIRVANAのCDを買いに行きました(笑)。
■『初音ミク』なら、これまでにない曲にチャレンジできると思った
――ナノウさんが、『初音ミク』で曲を作ろうと思ったきっかけを教えていただけますか?
ナノウ 最初に曲を投稿したのは2008年の11月だったのですが、それ以前から『初音ミク』の楽曲を聴いていました。ニコニコ動画で、ryo(supercell)さんの「メルト」やkz(livetune)さんの「Packaged」をリアルタイムで聴いて、すごく驚いたんですよ。合成音声なのに自然に歌っていて。このころはすでに、自分もバンドで歌っていたのですが、あくまで自分が歌うためだけにしか曲を作ったことがありませんでした。そこで、VOCALOIDを導入すれば、たとえば女性ボーカルの曲とか、いままでチャレンジしたことがない曲も作れて、おもしろいんじゃないかと思って。すぐにソフトを買いにいって、作り始めました。
――そのころから、DTM(デスクトップミュージック )で曲を作っていたのでしょうか。
ナノウ いえ、マルチトラック・レコーダーで、1個1個宅録していました。『初音ミク』に出会ったのは、PCを主体にした楽曲作りに移行しようとしていた矢先のことでした。なので、VOCALOIDの扱いと一緒に、DTMのやりかたも覚えていった感じです。
――先ほど、「あくまで自分が歌うためだけにしか曲を作ったことがなかった」とおっしゃっていましたが、VOCALOIDの楽曲と、バンドでご自身が歌う楽曲を作るとき、意識して変えていることはありますか?
ナノウ VOCALOIDの曲は、自分が歌わないということが前提にあるので、「この単語は恥ずかしくて使えない」、「自分の声でこんなこと歌ったらカッコよくないだろうな」って、いままで避けていた表現も使うことができるんです。歌詞の内容もそうですが、曲調もチャレンジしたことがないようなものをVOCALOIDに託して歌わせられるので、そこがいちばんの違いですね。
――“コヤマヒデカズ”ではなく、“ナノウ”という名前で動画を投稿したのも、意識して違うものにしようとしたからでしょうか。
ナノウ 最初は遊び感覚だったというのもあって、とくに名前も名乗っていなかったのですが、たくさんの人が自分の曲を聴いてくれて、反響もすごく大きくて。「積極的に、動画投稿者としてしっかりやっていこう」という気持ちが芽生えたので、この名前を名乗るようになりました。
――そうして作られた、自分では歌いにくい表現もあるVOCALOIDの楽曲を、後にご自身で歌われていますが、歌ってみようと思ったのはなぜですか?
ナノウ 当初はまったく想定してなかったのですが、やはりいろんな人が聴いてくれて、評価もしてくれている状況で、「自分自身で歌ってみたら、この曲を聞いてくれている人たちはどんなふうに思うんだろう。どんな評価をするんだろう」ということが確かめたくなって。勇気を出して歌いました。
――その反響もまた大きかったですよね。
ナノウ 批判も覚悟の上だったんですが、予想以上に好意的に受け入れてもらえて、うれしかったです。
■VOCALOIDでは、制作者の個性が浮き彫りになる
――2008年から現在にいたるまで、ナノウさんの曲作りへの意識、活動はどのように変わっていきましたか?
ナノウ やっぱり、そのときそのときで手探りですね。バンドをやっていることをカミングアウトしたときも、どんな反応が返ってくるんだろう? と思ったけど、結果的に自分にとってプラスになったし、VOCALOIDの楽曲を投稿していなければ経験できなかったこともたくさんできました。
――昨年、ベストアルバム「andLOIDs -All time best of Nanou-」を発売されましたが、ナノウさんにとって、このアルバムはどのような作品ですか?
ナノウ これまで、人に歌ってもらったCDや弾き語りのCDはリリースしていたのですが、そういえば、一般の流通に乗った、完全なVOCALOIDのアルバムを出していなかったな、と思いまして。初投稿作品から自分が作ってきた音楽をもう1回整理したかったというのもあり、いままでの歴史を振り返り、VOCALOIDでの曲作りの集大成になるようなCDにしました。
――歴史を振り返ったいま、改めて考える『初音ミク』の魅力とは、どんなところでしょうか。
ナノウ 自分がボーカルをやっているからこそ思うのかもしれませんが、歌詞がついている曲、いわゆる“歌モノ”の音楽は、どうしてもボーカルの声質や歌い方、ニュアンスなどがキモになってくると思うんです。たとえ同じ曲を歌っても、人によって千差万別な作品に仕上がりますよね。それとはまったく逆で、VOCALOIDは誰が使っても、ある程度同じ声が出せるのがいい点だと思います。歌モノなのに、誰でも同じクオリティーの曲が作れるのは、制作者にとって心強くもありますし、ボーカルのスタート地点が同じであるからこそ、歌詞の内容や曲調、メロディラインにスポットが当たって、制作者の個性が浮き彫りになります。曲を作る人にとっては、本当にいいツールができた、とつねづね思っています。
――それでは、VOCALOIDを使うことによって、ナノウさんご自身は、どんな個性が現れたと思いますか?
ナノウ 先ほども言った通り、「俺みたいな男の声で歌うのはちょっと気が引けるな」と思い、持ってはいたけど出せていなかった部分――それを素直に出せたのが、個性にもつながったと思います。今回の『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- F 2nd』の曲も、エレクトロのテイストが入ったバンドサウンドなんですが、なかなかやれそうでやれなかった曲調だし、曲の雰囲気も爽やかで明るくて、もうひとりの自分を出せた感じがしますね。
――これから音楽を作っていくうえで、どんなことにチャレンジしたいですか?
ナノウ バンドについて言えば、たとえばもっと大きなところでライブがしたいとか、現実的なこともいろいろあるんですが……バンドもVOCALOIDも関係なく、ひとりの音楽制作者としては、NIRVANAを聴いたかつての自分の人生が変わったように、いまの中高生の人生が変わるような、ガツンと衝撃を与える曲を作りたいです。「この曲があったから救われた」とか、「つらいときにこの曲を聴いて元気になった」とか、「この曲がきっかけで音楽の道を目指そうと思った」とか、その人の人生のターニングポイントになるような音楽を作っていけたら、と思います。
――ちなみに、小さいころによく聴いていたという、ゲームミュージックをやってみたいというお気持ちは?
ナノウ もちろんあります! じつは、バンドに出会う前の夢が、ゲームのプログラマーだったんです。当時は「音楽を仕事に」という発想自体がなかったこともあって、なんらかの形でゲームに関わる仕事がしたいと思っていました。なので、初めて自分の曲がリズムゲームになったときも、今回の書き下ろしのお話をいただいたときもうれしくて。子どものころに自分が大好きだったゲームに関われているということが、すごくうれしいです。機会があれば、ぜひやりたいです。
■“これまでのDIVA←→これからのDIVA”を自分なりに表現した歌
――『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- F 2nd』タイアップソングである「Glory 3usi9」のコンセプトを教えてください。
ナノウ タイアップソングのお話をいただいたとき、曲に対しての指定は基本的にないとのことだったので、「どういう曲がいいのかな」と考えながら作り始めたんです。そして、曲を作りながら、ゲームのテーマである“これまでのDIVA←→これからのDIVA”を自分なりに解釈して広げていこうと考えました。あとは、リズムゲームの曲なので、譜面になったときに楽しめるように、とも考えつつ。歌詞の内容や曲の根本的な部分は、ふだんの自分を出した感じです。
――とくにここを聴いてほしい! というポイントはありますか?
ナノウ さっきも少しお話ししましたが、「Glory 3usi9」は全体的にはバンドサウンドなのですが、シンセやエレクトロな要素もふんだんに入れ込んでいて、その打ち込みチックな部分のバランスが、自分的にすごくうまくいったなと思っています。メロディーや歌詞も、ふだん通りいろいろ考えながら作りましたし。イントロからの疾走感ももちろん聴いてほしいですが、いままで作ってきたボカロ曲のなかでも、いちばんエレクトロな要素が強いので、ゲームをプレイしながら、リズムに乗って楽しんでもらえたらうれしいですね。
――「Glory 3usi9」のリズムゲームPVをご覧になってみての感想は?
ナノウ ニコニコ動画に投稿するときもいつも思うのですが、自分の曲に映像がつくというだけで、本当に感動です。映像がつくと音楽の聴こえかたも変わってくるし、いち作曲者として、幸せなことだと思います。
――モジュール“ナナイロライン”のデザインについて、ナノウさんからリクエストされたことはありますか?
ナノウ 以前動画イラストを描いていただいたこともある、TNSKさんにデザインしてもらったんですが、軽くやり取りしただけで基本的にはお任せです。PVのキラキラ感と七色の衣装がピッタリですよね。
――「Glory 3usi9」のリズムゲームをひと足先にプレイされたとのことですが、プレイしてみていかがですか?
ナノウ 自分の曲でメロディーラインを覚えていたので、なんとか最後までプレイできましたが、初見の曲だったらクリアーは怪しかったかもしれません(笑)。初期の『プロジェクト ディーヴァ』シリーズや『プロジェクト ミライ』もプレイしたことがあるのですが、ゲーム後半で出現する曲は、指の連打が追い付かなくてボロボロだったような……。
――ぜひゲーム発売後に、「Glory 3usi9」をやり込んでみてください! それでは最後に、ゲームの発売を楽しみに待っているファンへ、メッセージをお願いします。
ナノウ 自分もいちユーザーとして『プロジェクト ディーヴァ』シリーズをプレイしていましたので、今回、書き下ろし曲で参加できて、とても光栄だと思っています。「Glory 3usi9」は、リズムゲームになったときに楽しんでプレイできる曲を目指して作りました。ぜひぜひ、楽しんでください。
▲PVの一部は、こちらの動画から視聴可能! 「Glory 3usi9」は最後に登場。
(画像をクリックすると特設サイトに飛べます)
初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- F 2nd
メーカー | セガ |
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対応機種 | PS3プレイステーション3 / PSVPlayStation Vita |
発売日 | 2014年3月27日発売予定 |
価格 | 各7000円[税抜](7350円[税込]) |
ジャンル | リズムゲーム / 音楽 |
備考 | ダウンロード版は各6286円[税抜](6600円[税込]) プレイステーション Vita版はPS Vita TV対応(リズムゲームのみ) ※オプション設定が必要です。 |