連載第三回を掲載!

作家ベニー松山氏による『デモンゲイズ』ショートノベル【第三回】「救世の不死鳥は舞い戻る」_12

 角川ゲームスより発売中のPS Vita向け完全新作ダンジョンRPG『デモンゲイズ』。ダンジョンRPGの制作に定評のあるエクスペリエンスが開発しており、ファンタジーの世界を舞台に、異質の半機械生命体 “デモン” を操る力を持つ“デモンゲイザー”となって迷宮を攻略していく作品だ。そんな『デモンゲイズ』を題材にしたショートノベルを、ダンジョンRPGに縁の深い作家のベニー松山氏がファミ通.comにて連載。今回は、第三回「救世の不死鳥は舞い戻る」をお届けする。

デモンゲイズショートノベル第3回「救世の不死鳥は舞い戻る」

 ミグミィのヒーラー・テュケーは、その日、幼い頃から抱えていた“もしや”という想いを確信に変えた。
 それは、水没した都市遺構――通称“青の旧市街”(◆)の探索を始めた日のことだった。大規模な地盤沈下に見舞われ、流入する湖水に完全に没したグリモダール城下町の一区画に、彼女はデモンゲイザー一行のひとりとして訪れた。あのうさんくさいエルフ――竜姫亭で道具屋を営むレゼルム(◆)が作った水中呼吸を可能にする魔具・息吹のヴェールに生命を預けて。
 彼女の意見としては、この潜水探索は狂気の沙汰だった。レゼルムとは短い付き合いだが、テュケーはあれほどまでに無責任で品のないエルフを知らないと断じている。そのエルフらしからぬ気質ゆえに、一族から追われてこのような辺境、荒廃したミスリッドに流れてきたのだろうとさえ思っている。宿で酒を酌み交わすぶんにはいい。すぐに裸になって騒ぎ、タダ酒が飲めるとあれば朝まで休むことなく場を盛り上げ続ける。しかし、そんなお調子者が作製したアイテムを頼りに、魔法の効果が途切れれば即座に溺れ死んでしまう水中を踏査するとなると話は別だ。事実、この品の試作段階で賞金稼ぎがひとり溺死しているのを彼女は知っている。レゼルムはへらへらと不幸な事故だったとのたまうが、明らかに実験台が不注意な失敗の犠牲になった典型例だった。できれば留守番がしたかった。どのみち水中では魔法は使えず――この重要事項にも能天気エルフはひと言も触れてはいなかった――彼女のもっとも重要な役割であるところの体力回復・傷の治癒は、携行する薬品類で補うほかなかったのだ。
 だが、テュケーは自身が責任を果たすべき身だと考えていた。幼少時、彼女はたびたび幻聴に悩まされた。魂の奥底から響く呼び声。それは無念の声だと彼女は分析した。窮地に立ったしもべたちと隔てられ、救いの手を差し延べられなかった悔恨――そんな想いがなぜ、自分の中にあるのか? 前世の記憶か、はたまた大いなる存在との同調(シンクロ)なのか……すべては幻であり気のせいであるとも考えられたが、それはテュケーの心に微かな焦燥を、負い目を芽吹かせた。何をすべきか、しもべとは何なのかすら解らぬまま、彼女はこの不可思議な感情に導かれ、水が窪みを川となって流れゆくように冒険者を志していた。機会あれば今度こそ救いの手を差し延べるべく、熱心にヒーラーの基礎を学んだ。
 その自分が、デモンゲイザーのパーティメンバーにまでなっておきながら、レゼルムの用意した魔具が恐ろしいなどと弱音を吐いて同行を拒むことがあるだろうか。ヒーラーが水の中でできることと言えば加護の力場・ホーリーシールドを常に形成し続ける程度であったが、それでも獰猛な水棲獣人マーマン(◆)の勢力圏を征くには小さくない助けとなるはずだった。
 そうやって、覚悟を決めて水底を彷徨(さまよ)い始めてほどなく、その奇妙な使者は彼女たちの前に現れた。
「お待ちくださいまフカ」
 磨かれたガラス質の石の両目を輝かせておずおずと声をかけてきたのは、強大な古(いにしえ)の魔法によって疑似生命を吹き込まれた人形だった。新たな神・シャーク様(◆)を崇める教団員だと名乗るそのドールは、預言によってデモンゲイザー一行の訪れを永く待っていたのだと語った。即ち、古き時代の大神・再生と光の象徴たる精霊神(◆)に連なる救い手として。
 この言葉を聞いた瞬間、テュケーの脳髄に天啓とも言うべき衝撃の稲妻が疾り抜けた。そうだったのか! そうだったのだ! 薄々勘付いてはいたが、やはり自分はただのミグミィではなかったのだ。その答がここに示された。恐らく自分は、すでに信仰が廃れかけ力衰えた精霊神の生まれ変わりなのだ。あの言いようのない焦燥は、己の真の姿に気づかぬまま、デモンたちを野放しにして人の世を救済しないでいることへの呵責(かシャク)であったのだと彼女は結論づけた。
 垂れ籠めていた深(フカ)い霧が晴れ、目覚め(ザメ)たような心持ちであった。不完全(フカんぜん)ながらも復活(フッカつ)を遂げたような気分に比例(ヒレい)して、ミグミィの小柄な身体に赫灼(かくシャク)たる力がみなぎってきた。今なら邪悪(ジャーク)なデモンたちを余裕綽々(シャクシャク)で平(ヒレ)伏させることができそうだった。
 かくして、テュケーは強く自覚する。デモンゲイザーが自分の仲間となったのは偶然のことではない。彼女がミスリッドにはびこる闇を打ち祓う、その手助けとなるためにすべての運命は組まれていたのだ。ならばその責務を必ず果たしてみせると、彼女はそびえ立つ巨獣の影のごとき魔城グリモダールに向かって誓うのだった……。

「――と、言うことらしいですよ、プロメスちゃん! オズさんのお仲間のテュケーちゃんは、あの精霊神様の生まれ変わりなんですって!」
「……そうですか」
 地下室の埃を払うかたわら、熱心に話しかけてくる竜姫亭の使用人・ネイ族のピーネに、葬儀屋のプロメス(◆)はオズの土産のドクロを磨きながら釈(シャク)然としない表情で応える。
 そんなわけがないのは彼女が一番良く知っている。だが、テュケーが吹か(フカ)しているのかと言えばそれも違う。物事を俯瞰(フカん)で眺めるのが習性となっているプロメスは、とんだ非礼(ヒレい)だと癇癪(シャク)を起こすことなく、しばらくは精霊神を自称するミグミィを、人形たちの信仰でまさに産み落とされようとしている幼き神・シャーク様の成長とともに見守ることにした。

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 携帯が鳴る。K野は釣竿を片手に、緩慢な動作でスマートフォンの画面を見た。出ないつもりだったのだが、そういうワケにもいかない。それは竜姫亭で言えばフランくらい偉い上司からの着信だった。
「……K野くん? やっとつかまえたぞ。誰がかけても出てくれないと聞いたのでね。それで、君はどうして出社しておらんのだ?」
「あ、どうもわざわざ恐れ入ります。本日は有給もらっちゃおうかなー、なんてハハハハハ……ダメですかね?」
「『デモンゲイズ』発売当日に何がどうなったらそんな休暇が許されると思うのかね! それからさっきサイトの更新を確認したんだが、あのB氏のノベル、後半ダジャレが延々と続いておるのは何だ? 君がOKしたのかねアレは?」
「いや違うんです。私も一応抗議はしたんです。しかも今回のキャラも妄想に取り憑かれた中二病じゃないかって。でももう手直しさせる時間もなくて……で、私も無性にサメが見たくなっちゃって、会社じゃなくて近所の突堤に来ています。釈明(シャクめい)は後日ゆっくりと――」
「K野くん? K野くーん? ちょっと待……」
 大きな弧を描いてから、勢いよく回転するスマートフォンは小さな飛沫(しぶき)を上げて海中へと没する。小さな自由を感じたのも束の間、K野には携帯が沈みゆくさまが、タンカーが黒煙を噴き上げながら沈没していくイメージと重なって見えた……。

作家ベニー松山氏による『デモンゲイズ』ショートノベル【第三回】「救世の不死鳥は舞い戻る」_11
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作家ベニー松山氏による『デモンゲイズ』ショートノベル【第三回】「救世の不死鳥は舞い戻る」_06
◆青の旧市街
湖に水没し、廃墟と化してしまったミスリッド市街の半分。古の時代、街の北側にあるシュメル湖は、この地方の田畑を潤す水源であった。そのため城主は、グリモダール城に大城壁を築かせ、水を堰き止めて巨大な貯水湖を作った。しかし街を襲った災いはこの城壁をも崩壊させ、その結果起きた大洪水で、水中に没したと伝えられる。以来水没した街がどうなったか、見た者は誰もいない。湖では、湖面に浮かび上がる巨大な水棲生物の姿も目撃されており、賞金稼ぎですら湖に近づこうという者はほとんどいない。
◆レゼルム・ランティール
竜姫亭で道具屋を営むエルフ族の青年。お調子者の性分からかトラブルをよく招く。魔法に関する知識は広く、たびたび主人公もその世話になる。カッスルに絡んでよくケンカをする。そして酔うと脱ぐ。
◆マーマン
各地の水中に生息する半魚の獣人。海中洞窟や沈んだ大型船に住み着き静かに暮らす。最近は水中に漂う闇の気に当てられ凶暴化してきた。
作家ベニー松山氏による『デモンゲイズ』ショートノベル【第三回】「救世の不死鳥は舞い戻る」_01
作家ベニー松山氏による『デモンゲイズ』ショートノベル【第三回】「救世の不死鳥は舞い戻る」_02
作家ベニー松山氏による『デモンゲイズ』ショートノベル【第三回】「救世の不死鳥は舞い戻る」_09
◆シャークドール
サメを愛しサメと共に生きるシャーク教団員の一人。その実態は自我を持ち隷属の呪縛から逃れたドール。安寧の願いを込め新たなる神シャーク様を信奉した。
◆シャーク様
永い時を生き、神格化されつつある巨大なエイ。光り輝く姿や独特なヒレなどからシャーク教団の信仰対象になっている。しかし彼女はエイなのである。
◆精霊神様
再生を司る光の象徴。その昔、円卓の騎士の魂に新たな肉体を与え、闇の魔王を打ち倒す為、 円卓の騎士たちを導いた。
※PSP『円卓の生徒 The Eternal Legend』に登場した時の姿。
作家ベニー松山氏による『デモンゲイズ』ショートノベル【第三回】「救世の不死鳥は舞い戻る」_04

◆プロメス
竜姫亭で葬儀屋を営む謎の少女。傷つき倒れた者を復活させる秘術を持つ。いつも眠そうで無気力な発言が多く、何を考えているか全く分からない。女の子としての羞恥心がないのか、下着のまま平気で館内を歩き回ったりする。

【第一回】「終末の鐘声(しょうせい)、魔城に鳴り響く」はこちら
【第二回】「伝説を纏(まと)いし神聖騎士王」はこちら


デモンゲイズ
メーカー 角川ゲームス
対応機種 PSVPlayStation Vita
発売日 2013年1月24日発売予定
価格 6090円[税込]
ジャンル RPG / ダンジョン
備考 PS Store ダウンロード版は5040円[税込]、開発:エクスペリエンス