ついに連載スタート

作家ベニー松山氏による『デモンゲイズ』ショートノベル【第一回】「終末の鐘声(しょうせい)、魔城に鳴り響く」_10
■ベニー松山氏
1988年、DRPGの元祖とされる『Wizardry』を題材にした小説『隣り合わせの灰と青春』(Jicc出版局:現・宝島社)を発表。その後、国産オリジナルWizardryのゲームボーイ用ソフト『ウィザードリィ外伝II・古代皇帝の呪い』(アスキー)のシナリオ・ゲームバランスを担当する等、DRPGとはとりわけ縁が深い。スタジオベントスタッフ所属。

 角川ゲームスより2013年1月24日発売予定のPS Vita向け完全新作ダンジョンRPG『デモンゲイズ』。ダンジョンRPGの制作に定評のあるエクスペリエンスが開発しており、ファンタジーの世界を舞台に、異質の半機械生命体 “デモン” を操る力を持つ“デモンゲイザー”となって迷宮を攻略していく作品だ。そんな『デモンゲイズ』を題材にしたショートノベルを、ダンジョンRPGに縁の深い作家のベニー松山氏がファミ通.comにて連載。今回は、第一回「終末の鐘声(しょうせい)、魔城に鳴り響く」をお届けする。

●デモンゲイズショートノベル第一回「終末の鐘声(しょうせい)、魔城に鳴り響く」

 聴く者を震え上がらせる、凄まじい咆哮(ほうこう)の輪唱が石造りの空間に響き渡った。
 そこはかつては、王に仕える兵士たちを城内で訓練するための大広間だった。ところどころに灯された獣油の明かりが、その周囲の狭い闇だけをか細く払っている。
 だだっ広い訓練場の大部分にわだかまる暗がり――その中をぞっとする迅(はや)さで、より黒々とした影の群れが右に、左に走り抜ける。それらがまとっている金属製の武具が、灯火を反射してぎらつく閃光を網膜に残す。
 その残像が消える間も与えず、暗がりから鋼鉄の塊が飛び出した。
 巨大な、人には扱えぬサイズの、それは大剣であった。乱暴に扱われ刃も潰れかけていながら、重量だけで対象を切断する鉈(なた)のような鉄塊――そんな規格外の武器が、疾風の速度で繰り出される。まともに受けたなら、人間を防具ごと両断するエネルギーを秘めた斬撃であった。
 だが、魔城への侵入者たる五人の冒険者パーティには、すでに不可視の障壁が張られている。メンバーのひとり・ヒーラーが操る特殊技能ホーリーシールドが、聖なる加護の力場を五人の周囲に形成していた。大だんびらの勢いは、先頭に立つプレートメイル姿の冒険者に命中する直前に、まるでぶ厚いゴムのクッションに抱き止められたかのように吸収されてしまう。
 ウォオオオオオオ!
 必殺の一撃を無効化され、剥き出した牙の間から憤怒の遠吠えを轟かせるのは、言うまでもなく人の類ではない。尖った鼻先に憎悪の皺を刻み、双眸(そうぼう)を爛々(らんらん)と輝かせる獣面人身の魔物――人狼と呼ばれる者たちの中でも、とりわけ凶暴で力に優れる上位種ウルフェンナイトがそこにいた。
 獣じみた外見に似合わず、彼らの知能は低劣ではない。先刻からの咆哮(ほうこう)も、ただ抑えきれぬ感情の昂(たか)ぶりを吐き出していたわけではなかった。仲間と連携し、効率良く獲物を狩るための合図を、ウルフェンナイトたちは互いに送り合っていたのだった。
 攻撃を終えた一匹の両肩を蹴って、二匹のウルフェンナイトがほぼ同時に、跳躍から大剣を振り下ろす。先に届いた刃が、もはや衝撃を吸収する余力のないホーリーシールドの障壁を、ガラスを砕くような音とともに消滅させた。間髪を容れず、あの容赦のない斬撃が暴風の勢いで、魔法の盾を失った前衛の冒険者に襲いかかる。
 否、違う。その攻撃は、誘われたものだった。重装備の前衛――パラディンは、あえて自分にウルフェンナイトの狙いが集中するように位置取りしていた。そして、手にした大盾と片手剣を精妙に操り、この斬撃の威力を巧みに殺して受け流してしまう。
 攻めの手をすべて受けきられ、一拍の隙が生じた三匹のウルフェンナイトに、ウィザードが高速詠唱していた攻撃魔法が降り注ぐ。何もなかった空間に目映い炎が生まれ、それは瞬く間に灼熱の帯となって人狼を焼き払った。体表を覆う絡み合った剛毛を燃やされ、広範囲に重度の火傷を負った魔獣たちは純粋な苦悶の悲鳴を上げる。
 その叫びが発された刹那、仁王像の如く仲間を守護するパラディンの背後から、研ぎ澄まされた槍の穂先が火炎魔法の煌(きら)めきを映して出現する。手にしているのは、人狼たちに劣らぬ逞(たくま)しい筋肉で全身を覆った屈強のファイターである。戦士は特に急いだとも見えぬ、しかし実際にはわずかも滞ることのない流麗な動作で、回避を許さぬ雷速の刺突(しとつ)を撃ち出した。それは一匹の人狼の心臓を正確に貫き、絶命させる。
 次の瞬間には、冒険者パーティの最後のひとり・デモンゲイザーの抜き打ちが人狼の首筋を深々と切り裂いていた。
 崩れ落ちる同族から噴出する血(ち)飛沫(しぶき)を浴びて、ただ一匹残った瀕死のウルフェンナイトはようやく理解する。この侵入者どもは、彼らの餌になってくれる愚かで脆弱な賞金稼ぎなどではない。改めて見れば、今しがた仲間を葬った男の右眼は、魔を捕らえる妖しい蒼光を放っている。この連中こそが狩猟者だった。ここミスリッドを魔物はびこる地へと変えた闇の使徒デモンさえも打ち倒す畏(おそ)るべき者たち――自分たちが手を出してはならない“デモンゲイザー一味”が存在することを人狼は聞き知っていた。
 生き延びたければ、逃げるほかに道はない――そう決断したウルフェンナイトの目に、絶望そのものが映った。すでに、破壊の権化が自分の頭上に顕現し、獰猛な笑みを投げかけているのが見えたのだ。
“死にたいヤツはどいつだ?”
 それは魔眼の虜囚(りょしゅう)となり、人間に使役されるものとなり果てたデモンだった。鮫の歯のような無数の刃が外周を高速で巡る禍々しい武器を振りかぶり、竜人のデモンは我慢できぬとばかりに人狼に飛びかかる。もう断末魔の叫びさえ上がらなかった。神さえも殺すであろう凶具は、ウルフェンナイトをただ一撃で原形を留めぬ肉片へと変えていた。
 封印された鍵へと戻っていくデモンの残した哄笑(こうしょう)が、訓練場の外にまで伝播し、魔城グリモダールの内部を満たす澱んだ大気を震撼させる。変化の時至れり。魔を狩る者たちがいずれ、この呪われた城を隅々まで踏査するだろう。永遠に続くと思われた混沌の宴は、ついに終焉を迎えるのだ。
 闇の同胞よ。心せよ。覚悟せよ。
 デモンゲイザーの到来を――。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 

「一回目終了ォ――ッ! ウルフェン可哀想ォ――ッと。さあ飲みに行きますかハハッ」
 上機嫌な様子の作家Bから原稿を受け取ったデモンゲイズ宣伝担当K野は、しかし不安そうな表情を浮かべた。
「あの……もっとおちゃらける予定じゃありませんでした? いきなり最終回みたいですけど?」
「んん? 心配御無用! ここからパーティ過去編に入るからね。デモンゲイザーの仲間になった頼れる四人の華麗なる背景! 笑いあり涙ありですよ」
 Bは一向に意に介さない。「まぁね、ここで主人公を食ってしまうようなキャラ設定とかしちゃうと問題でしょうが、そんなメアリー・スーみたいなお話は書きませんよ。巨大タンカーに乗ったつもりで安心してくださいよ」
 ――本当かなぁ? 考えてみればこの人レベル1でラスボス倒す話とか、迷宮通らずに外壁登ってラスボス倒す話とか書くんだよな。あと、大船って意味なんだろうけどタンカーって座礁したり炎上したりするイメージあるよな……。
「……K野さん今すごく失礼なこと考えてる顔してましたけど?」
「あ、いや、そんなことは決して……」
 男たちを乗せたタンカーはこうして出航する。行く手の霧はまだ深い。
「でもそのほうが面白いよね? うわははは乾杯!」
「いきなり何を言ってんです? 忘れよっと乾杯!」

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※ヒーラー
スペルで傷付いた仲間を癒すの回復の要。非力なため、近接戦には向かない後衛。
※ホーリーシールド
敵の攻撃から仲間を守る障壁を作るヒーラー専用のスキル。
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※ウルフェンナイト
全身を重装備で武装したウェアウルフ。規則や規律を重んじ戦い方にも自らの美学を持つ様は人間の騎士たちと何も変わらないように見える。
※パラディン
主に前衛で仲間たちを守るディフェンダー。重装備で身を固めれば、鉄壁の盾となる。
※ウィザード
攻撃や戦闘補助のスペルに長けた魔法使い。非力なため、近接戦には向かない後衛。
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※ファイター
前衛での近接戦を得意とする生粋の戦士。強力な武器を扱い、瞬間破壊力は最強。
※デモンゲイザー
デモンを使役できる唯一のクラス。前後衛どちらもこなす万能性を持つ。
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※ミスリッド
かつて、ミスリル鉱脈の独占によって、巨大な富を築いた領主が作った地方都市。その領主は、世界中の数々の財宝(この世界では主に武器や防具)を集めて、繁栄を極めたが、過去に起こった謎の災害によって都市は滅び廃墟となった。
 ミスリッドは廃墟になったものの、そこに眠る財宝を目当てに多くの賞金稼ぎたちが集まる場所となっている。特に、かつての領主が建てた巨大な城「グリモダール城」には、巨万の財宝が眠ると言われ、中でも「三至宝」と呼ばれる最強の宝を手に入れる事を、賞金稼ぎたちは夢見ている。しかし数年前から「デモン」と呼ばれる凶悪な魔物が出没するようになり、財宝の入手が難しくなったため、賞金稼ぎたちの数は次第に減っていった。
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※竜人のデモン = マルス
炎に包まれる城下を徘徊する、竜人の姿をしたデモン。街を火の海にした張本人で、非常に好戦的な性格。賞金稼ぎたちを相手に日夜戦いを楽しんでいる。仲間になると、主に攻撃に特化した能力を発揮する。
※グリモダール城
ミスリッドの中心に、かつての領主が建てた巨大な城。城門は完全に閉ざされ、デモンや跋扈する魔物に守られている。賞金稼ぎたちにとっては、まさに難攻不落、前人未到の城。

【第二回】「伝説を纏(まと)いし神聖騎士王」はこちら
【第三回】「救世の不死鳥は舞い戻る」はこちら


デモンゲイズ
メーカー 角川ゲームス
対応機種 PSVPlayStation Vita
発売日 2013年1月24日発売予定
価格 6090円[税込]
ジャンル RPG / ダンジョン
備考 PS Store ダウンロード版は5040円[税込]、開発:エクスペリエンス