これは思い出補正問題へのひとつの回答だ!

 2012年6月30日、7月1日の2日間にわたり、東京ビックサイトでカプコン主催のイベント“CAPCOM SUMMER JAM~カプコン サマージャム~”が開催されている。会場内には初プレイアブルタイトルも複数出展されており、なかでもとくに高い注目を集めていたのが、2012年11月1日に発売が予定されているプレイステーション3用ソフト『大神 絶景版』だ。

名作は色褪せない……どころか色鮮やかに。『大神 絶景版』プレイリポート【CAPCOM SUMMER JAM】_01

 絵巻物のようなグラフィック、“筆しらべ”と呼ばれる特徴的なシステム、そして日本神話にまつわる登場人物たちが織りなす奇想天外なストーリーなど……我ながら陳腐な表現になってしまい恐縮だが“いままでになかった”ゲームとして、日本のみならず世界でも高い評価を得た、プレイステーション2用ソフト『大神(おおかみ)』。『大神 絶景版』は、タイトルにもある通り『大神(おおかみ)』をHDリマスターして1080pのフルHDに対応させ、さらに追加要素として“PlayStation Move”での操作、トロフィー機能の搭載などを行った作品だ。今回CAPCOM SUMMER JAMに出展されたバージョンでは、残念ながらPlayStation Moveでの操作は用意されていなかったが、いいように考えれば、これはオリジナルのプレイステーション2版と比較がしやすいということだ。

 『大神 絶景版』をプレイして、最初にもっとも大きな変化として感じたのは、じつに当たり前のことだが、HD化にともなって16:9に変更された映像比率の効果だ。とくに、大地のタタリを祓った後に訪れる“大神降ろし”はそれがもっとも効果的に感じることができた。花や緑といった生命力が大地に広がっていく様は、16:9のパノラマビューで見ると良質なアニメ、いや映画クラスの美しさ。『大神(おおかみ)』ファンの方は、これを見るためだけでも『大神 絶景版』を手に取っていいと思う。そのほかグラフィックで気付いたのは、キャラクターたちの輪郭がよりクッキリした点。これもまあ、HD化したんだから当たり前と言われれば当たり前なのだが、ご存知の通り本作のグラフィックは筆で描いたような作りである。このようなテイストのグラフィックで輪郭がクッキリするというのは、一般的なCG映像がクリアーになるのとは若干違うと思う。HD化された『大神(おおかみ)』キャラクターの輪郭からは、いままで以上に筆圧というか、筆の勢いというものが感じられるようになっており、より芸術性が増した印象を受ける。まあここら辺は個人の感覚に拠るところが大きいが、個人的にはこの筆表現の進化に、今回もっとも驚かされた。

名作は色褪せない……どころか色鮮やかに。『大神 絶景版』プレイリポート【CAPCOM SUMMER JAM】_03
名作は色褪せない……どころか色鮮やかに。『大神 絶景版』プレイリポート【CAPCOM SUMMER JAM】_02

 さて、冒頭で“プレイステーション2版と比較”なんて偉そうに言ったが、システムに関しては実際のところオリジナル版と違いはない。そのまんまである。会場で『大神 絶景版』に関わるスタッフの方に話を聞いてみたところ、本作はオリジナル版ファンの気持ちを尊重し、あえてほとんどいじっていないのだという。それは操作だけでなく映像に関しても同様で、HD化によって美しくはなったものの、独特の色合いや空気感を出すための映像フィルターは、プレイステーション2版と同様のものを使っているのだという。これを“物足りない”と考えるか、それとも“変わらないのがいい”と考えるかは遊ぶ人次第だが、記者個人としては断然後者である。

 昔のゲームと向き合う際、“思い出補正”というのは避けて通れない問題だ。かつて夢中になって遊んだゲームをひさびさに遊んだとき、ほとんどの人は、思い出の中のソレと、いま目の前にあるソレに何かしらの齟齬を感じるだろう。オリジナル版の『大神(おおかみ)』は間違いなく名作だが、発売されたのは2006年。もう6年も前のことだ。そしてこの6年のあいだ、ゲームのグラフィック表現は恐ろしいほどのスピードで進化していった。名作は色褪せない……とはよく言うが、ドット絵の時代ならともかく、CGグラフィック全盛の現代においては、少なくともグラフィックは間違いなく色褪せる。これを補完してくれるのがHDリマスターだ。そして、名作はいつの時代も名作であり、語り継ぐべきもの。これがハードの世代交代などで手に取りにくい状況になったり、「昔のゲームでしょ」、と遊ばれないのは、じつに不幸なことである。そういった意味で、『大神 絶景版』はじつに正しい! と記者は強く主張する次第である。値段も3990円[税込]でお手ごろだし! というか、今回本作を遊んで、改めて“HDリマスター”という文化を激しく応援したい気持ちになった。HDリマスターで“思い出補正”をぶっ飛ばそうぜ!

 以上、最後は興奮してしまったが、『大神 絶景版』のプレイリポートをお届けした。

名作は色褪せない……どころか色鮮やかに。『大神 絶景版』プレイリポート【CAPCOM SUMMER JAM】_04
▲HDリマスターサイコー! と言わんばかりの1枚。