ポップでキュートなゾンビアクションゲーム!
独創的な世界観と、エッジの効いたビジュアル&音楽で、国内外で高い評価を受けるゲームデザイナー須田剛一氏。そんな須田氏を中心に、多方面で活躍するクリエイターたちが作り上げた、ポップでキュートなゾンビアクションゲーム『ロリポップチェーンソー』(2012年6月14日、プレイステーション3とXbox 360で発売)。チェーンソーとチアリーディングによる軽快なアクションで、迫り来る超個性的なゾンビたちをぶった斬る、そんな本作の魅力に、週刊ファミ通クロスレビュアーのババダイチが迫る。
当たりを引いたレンタル映画
たとえばヒマなので、映画でも観ようかとレンタルビデオ屋に行ったとします。来てみたものの、とくに観たい映画もなく、かといって有名作はだいたい借りられているとき、何を借りるでしょうか。そんなもん、人によって当然違うんですが、自分の場合はけっこうな確率で、適当なホラー映画だったりするんですよ。自分みたいないい年になってもゲーム・マンガ大好きなボンクラおっさんだったら、意外とこの行動パターン、共感してもらえるんじゃないでしょうか。
で、そうして借りたテキトーホラー、9割ぐらいの確率で、しょーもない内容です。見終わった瞬間「捨てたなー、時間」と、やや自虐的に笑ったりして。まあ、そんなことは覚悟のうえというか、所詮ヒマつぶしなので、その空しさも含めてワンセットみたいなものなんだと考えています。
だけどですね、残りの1割には、何かしら引っかかるものがあったりするのですよ。たとえば、予算は怖ろしく少ないのに、脚本と編集でやけに引き込まれるものであったり、話はクソみたいだったけど、音楽が妙にカッコよかったり、全体的に残念なんだけど、ヒロインだけは好みだったりと。つまり“当たり”です。
前置きが長くなってしまいましたが、本作の印象は、そんな適当に借りたホラー映画の“当たり”みたいな感じなのです。
隠すつもりもないB級映画感
誤解がないように言っておきますが、本作はそういった“当たり”テキトーホラーのように、いわゆるB級作品ではありません。そこはこれまでに数多くの大作を作ってきたグラスホッパー・マニファクチュアだけあって、ビジュアルは世界観も含めてキッチリ作り込んでいますし、音楽なんて誰もが知ってるオールディーズから、知る人ぞ知る最新アーティストも参加しています。吹き替えだって超人気声優から、まさかのミュージシャンまで幅広く登場。けっこう、お金かかってますよコレ。
けれども、隠しきれない“B級映画感”。いや、恐らくハナから隠すつもりもない確信的B級映画感。それは取りも直さず、キャラクター設定にあります。
だって主人公、チアリーダーですよ。そりゃまあ、マンガや映画では、珍しい職業(?)じゃないですけど、実際に身近にいます? チアリーダー。応援されたことあります? チアリーダー。いや、いるんでしょうけど。いるんでしょうけどね。
性別はおろか、国籍も年齢も違い、ましてやチアリーダーなどという未知の職業の主人公。どうやって感情移入するんでしょうか。もはや笑えてきます。笑えてきて、なんだかおもしろくなってきます。……あれ、おもしろくねコレ? そうです、気がつくと、その主人公との圧倒的距離感が、なんだか楽しいのです。
フィクションで視聴者を感動させるには、感情移入させるのも効果的な手段なんですが、違和感のあるキャラクターを配置したり、設定にするというのも、じつは効果的だったりします。とくに、笑いを起こさせる場合は、かなり有効だと思うのです。
思うに“当たり”テキトーホラーの多くは、そこを意識しているものが多いような気がします。たとえば、あまりにふざけた事態に対し超真剣に向き合う主人公に笑えてきたり、アホみたいな血が出て来て笑えてきたり。ホラーの本分である“怖さ”にしたって、あまりに怖すぎると、笑っちゃいますからね。
本作で圧倒的距離感を感じさせるのは、主人公のジュリエットだけじゃありません。かつて観たアメリカンファミリードラマの“ファミリー感”を、100倍ぐらい肥大化させたうえで、それぞれがあらぬ方向にトンガってしまったジュリエットのファミリー。音楽のジャンルに対するファッション方向からのイメージを、100倍ぐらい肥大化させたうえで、それぞれを腐らせたボスゾンビたち。ほぼ唯一の常識範囲内の性格で、全方向へのツッコミ役を余儀なくされる恋人のニックは、残念なことに首だけという、もはやコスプレも手品を使わないとできないというビジュアル。遠い! みんなが遠いよ!
ところが不思議なもので、たとえ自分とまったく違うキャラクターだとしても、そんなこととは関係なしに、好きになれたりするものなのです。お前たちが考えていることはまったく理解できないし、現実にいたら友だちになれる気はしないが、好き! 観客やプレイヤーがそういった思いを抱けるというのは、フィクションのキャラクターならではです。本作にはそういった意味で、愛すべきキャラクターが敵味方に溢れています
“悪ふざけ”だから真剣に作る
これは持論というか、とても当たり前のことだと思うんですけど、“悪ふざけ”でお金を取る場合は、作る側は徹底的に真剣に、最後までそれを貫き通さなくてはいけません。どこかで冷めてしまったり、手を抜いてしまうと、それはどう隠しても完成したものに出てしまい、観る側、遊ぶ側をガッカリさせてしまうだけです。
とくに映画と違ってゲームは、脚本や音楽、ヒロインの魅力などの一点押しで突っ走るのは、難しいエンターテインメントです。映画と違って、プレイヤーの参加が求められるメディアなので、少なくともゲームとしての楽しさがないと、そのほかの部分をどんなに豪勢に作り上げても、途中でやめられてしまう可能性があるからです。
その点も、本作はキッチリ仕上げています。ザックリとした説明ですが、アクションが爽快で、ゲームが単調にならない工夫がたくさん入っています。アクションゲームの場合、そこさえしっかりしていれば、問題はありません。
そして、そこがしっかりしているから、ブッ飛んだキャラクターたちも、彼らが織りなすイカレた物語も、思う存分味わえるのです。
そして最後に。これは須田さんもとあるインタビューの席で勧めていたのですが、もし機会があるのならば、ぜひ複数の友人といっしょに本作を遊んでみてください。“当たり”テキトーホラーもそうなのですが、そういったものを楽しめる仲間が集まり、みんなでツッコんだり、ウンチクを垂れながら遊ぶ、観るというのは、楽しさを倍増させます。好きな音楽をかけてもいいし、大人ならビールでも飲みながらでもいいし、真剣にゲームをクリアーしてやる! という感じでなく、ゲームオーバーすらも楽しめるような雰囲気で遊ぶのが、本作にはとても似合っている気がするのです。
■著者紹介 ババダイチ
週刊ファミ通でクロスレビュアーも務めるフリーライター。ゲームは全般的に遊ぶが、うまいというわけではない。好きなゾンビ映画は『ゾンビ』と『キャプテン・スーパーマーケット』。
ロリポップチェーンソー
メーカー | 角川ゲームス |
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対応機種 | X360Xbox 360 / PS3プレイステーション3 |
発売日 | 2012年6月14日発売予定 |
価格 | 各7980円[税込] |
ジャンル | アクション |
備考 | 開発:グラスホッパー・マニファクチュア クリエイティブディレクター:須田剛一、プロデューサー:設樂昌宏、サウンドディレクター:山岡晃 |