ソラが“ふつう”なのは、誰もが“ふつう”だからです。

 『キングダム ハーツ』シリーズ10周年に発売されたニンテンドー3DS用ソフト『キングダム ハーツ 3D[ドリーム ドロップ ディスタンス]』。その開発者インタビュー第3弾はディレクターの野村哲也氏へのインタビュー。ネタバレを含むので、まだクリアーしていない人は注意!

※本インタビューは、週刊ファミ通5月24日号(5月10日発売号)で掲載しきれなかった内容をプラスしたものです。

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プレイヤー=ソラであってほしい

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――発売から1ヵ月以上が経ちましたが、ユーザーの反応はいかがですか?

野村 やはり、今回はストーリーが難しいというご意見はいただきましたね(苦笑)。

――確かに、いままでにない設定で、トリックもありますしね。今回の旅は、けっきょく、本来行くべき“眠りに閉ざされた世界”とは、違う世界が舞台となっていたのでしょうか?

野村 眠りに閉ざされた世界はほかにもあり、どの世界に行くかが最初から決まっていたわけではないんです。イェン・シッドも、彼らがどの世界へ行くかは知りませんでした。そのなかで、XIII機関がふたりを誘導し、“存在しなかった世界”へと導いていきました。

――では、リクが茶色いローブの人物を見て、ほかの世界にダイブしたのは、XIII機関としては想定していたことなのでしょうか?

野村 先に起きることは知っていたわけで、そういう意味では想定の範囲内でしたが、機関がそう誘導したわけではありません。また、彼らは完全にリクを諦めてはおらず、リクを機関に引き入れようとしていましたが、リクに闇への耐性ができたため、けっきょくは諦めることになりました。

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――リクは、とくに終盤のバトルがすごく盛り上がりましたね。「まだあるのか!」というくらい畳みかけてきて。

野村 終盤の物語のテンションとして、バトルがないと盛り上がりに欠けると感じ、予定されていないボスをどんどん追加してしまったんです。シナリオを書き進めては大阪の開発チームに電話して、「追加できる?」と。最後のダイブの後にある鎧とのバトルも、戦わないで解決してしまうのはしっくりこないなと思って追加してもらいました。

――リクは今回、大活躍でした。リクはソラと比べて、ダークヒーロー的な魅力がありますが、野村さんとしてはいかがですか?

野村 リクは、いろいろと悩みを抱えながら成長する(旧)スクウェアのゲームっぽいヒーローかなと。『FF』っぽいというか。逆に、ソラは(旧)スクウェアのゲームにいなさそうなキャラクターとして作りました。

――ソラはふつうの少年ですよね。あえてヒーローにしなかったのはなぜですか?

野村 「プレイヤー=ソラであってほしい」という想いはあります。当然ながら、ソラそのまま、という人はいないでしょうけど(笑)、ソラの持っているような心は、プレイヤーの皆さんの中にも存在する、という前提があります。ソラが“ふつう”なのは、誰もが“ふつう”だからです。“ふつう”であっても、大切なもののために、皆さんもソラのように特別な力を発揮できるのだと思いますよ。

存在しなかった世界の謎

――存在しなかった世界についておうかがいします。あのワールドは、現実世界なのでしょうか? それとも、眠りの世界ですか?

野村 ワールドのロゴが出るタイミングが、夢と現実の境界です。ソラは来訪時は現実で、そこから眠りの世界へ。リクは来訪時は眠りの世界で、進むと途中でワールドロゴが表示され、そこからが現実世界になります。

――ふたりとも、現実のパートで体がもとに戻っていませんが、これはなぜでしょうか?

野村 イェン・シッドの魔法で昔の姿になっているからです。イェン・シッドのところに戻らないと、姿は戻りません。ちなみに、新しい衣装は、最初にソラが予想していた通り、イェン・シッドの魔法で授かったものです。“異端の印”のみ、XIII機関がつけ加えました。

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――リクの背中のマークは……?

野村 あれは、リクがスピリットの役割を果たすことの象徴です。誰かが足した、というわけではなく、自然に現れました。

――じつは最初からネタバレだったと!

野村 そうです。いつバレるかと、ヒヤヒヤしていました(笑)。

――そのリクは、この世界で黒コートのナイトメアと戦いましたが、あれは何者ですか?

野村 ソラが見ている悪夢が、具現化した存在です。なお、あのとき眠っていたソラは、実体ではありません。

――確かにこのとき、リクはソラの姿を見ています。トラヴァースタウンでは、ソラとリクが互いの姿を見ていますが?

野村 トラヴァースタウンでは、まだ旅が始まったばかりでソラの眠りが浅かったので、ああいった半透明の姿で見えていました。

――なるほど。再訪時に見えなかったのは、眠りが深くなっていたからなんですね。では、ゼムナスやアンセムらが、本来は誰も入れない、眠りの世界にいた経緯とは?

野村 まず、青年ゼアノートは、茶色のローブの人物……つまり、アンセムを名乗るゼアノートと接触したときに、彼から能力を移されていました。マスター・ゼアノートは肉体を捨てた結果、時を超えられるようになり、その力を茶色のローブの人物を通じて、同一人物である青年ゼアノートに移したんです。そして、その能力を持った青年ゼアノートがポータルの役目を果たすことで、その都度ゼムナスやアンセムを呼び出していました。だから、青年ゼアノートがいるときだけ、登場していたんです。なお、青年ゼアノート自身は、ソラとリクが眠りの世界に落ちるとき、同時に眠りの世界へ入っています。

――ヴァニタスはどうなのでしょうか?

野村 ヴァニタスは、ゼムナスやアンセムと違って、実体があったわけではありません。ソラの中のヴェントゥスが反応して、そう見えたということです。

――ゼムナスとアンセムは、発生してからソラに倒されるまでのあいだのどこかで、時を越えてきているのでしょうか?

野村 そうなりますね。

――彼らは一度、それぞれの時間軸に帰るようですが、この先、闇が完成するとき、再度時を越えてくることに?

野村 どうでしょう。いまの段階では、お答えできません。

マスター・ゼアノートに連なる者

――ソラの決めゼリフと同時に、背後に仲間たちが見えるシーンは鳥肌が立ちました。

野村 トレーラーでも、あそこだけは使わないように、隠していました(笑)。

――あの後、ブライグ(シグバール)が苦しそうな様子で姿を消すのはなぜですか?

野村 彼には、ソラの背後にああいった人物たちが見えたので、動揺してひるみ、強く出られなくなったんです。

――それでゼムナスに押しつけたと(笑)。

野村 そうです(笑)。

――ブライグは、『KH バース バイ スリープ』(以下、『KHBbS』)の時点で、マスター・ゼアノートと取り引きし、器になることを了解しているということですよね。

野村 ブライグには、ある目的があり、得意げに「俺はすでに、半分はゼアノートだ」と言っています。アイザ(サイクス)含め、経緯については、いずれわかると思います。

――マスター・ゼアノートの心を植えつけられた側の心は、どうなるのでしょうか?

野村 徐々に飲み込まれていきます。マスター・ゼアノートとしては、完全に支配するつもりでしょうね。植えつけられた側の心は、なくなるというより、取り込まれてしまう感じです。

――王様が時を止めたとき、青年ゼアノートが途中で動き出しますが、彼に時を操る力があったから、魔法を破れたのでしょうか?

野村 あれは、青年ゼアノート自身の力ではないんです。王様の魔法を破ったのは、このとき、マスター・ゼアノートが青年ゼアノートに同化していたからです。

――玉座に姿が現れかけているときですよね。

野村 そうです。マスター・ゼアノートは、実体化する途中で時を止められました。そこで、青年ゼアノートの体に意識を移したんです。王様はそれに反応して、「まさか! あれは!?」と言っています。青年ゼアノートが、本来扱えないキーブレードを持っているのは、マスター・ゼアノートの力があったからです。キーホルダーは違いますが、マスター・ゼアノートのキーブレードを出しているんですよ。

――なるほど。青年ゼアノート自身は、まだデスティニーアイランドにいて、キーブレード使いにはなっていなかったわけですよね。

野村 はい。『KHBbS ファイナル ミックス』の追加ボスとして登場したときも、キーブレードは使っていません。

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リアが今後もキーマンになる

――意外な活躍をしたのがリア(アクセル)でした。どうしてキーブレード使いになろうと思ったのかが気になるところです。

野村 人間に戻ってしまったので、連れ戻したい人たちを助けに行くには、それなりの力を手に入れないとダメだと思ったんでしょうね。チャクラム投げてても通用しないわと(笑)。

――炎は出せてもダメですか(笑)。以前同様、闇の回廊は通れるんですね。

野村 ディズも人間でありながら、闇の回廊を渡っていました。リアはアクセルだったころの記憶があるので、アンセムが書いていたレイディアントガーデンの壁のメモを見て、その方法しかないと考えたんです。もちろん、多用は危険ですが。

――その後、イェン・シッドのもとへ来て、修行をつけてくれと。

野村 はい。不思議な塔の場所はわからないので、まずは王様の世界を経由しています。その後、時を越えられる“偉大な魔法使い”のマーリンと妖精たちに託され、時の流れの異なる場所で鍛えられました。

――そもそも、素養があったんですか?

野村 キーブレードを使うには、“強い心の持ち主”という部分が一番の条件になるので。いい心、悪い心問わず、強い心が必要です。リアはいま、取り戻したいものが多い。それが、心の強さにつながっているんです。

――アクセルは『KHII』で一度消滅していますが、そのときから、人間に戻ったリアを登場させようと考えていたのでしょうか?

野村 そこは悩んでいました。このままにしたほうがいいか、もう1回暴れさせるか。しかし、リアが連れ戻したいと思っている人たちのことを考えれば、彼の存在は大きいなと。リアは、引き続きキーマンになると思います。

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――ところで、ヴェントゥスは、体は忘却の城で、心はソラとともにあるんですよね?

野村 はい。『KH3D』の最後で少しだけ登場しますが、あれはドリームイーターに囲まれてほほ笑んだ、というイメージです。

――なるほど。そのドリームイーターが満載のシーンの意図も気になったのですが?

野村 あれは、開発の終盤で追加したシーンなんです。みんな一生懸命育ててくれるだろうに、何も区切りがないままというのは嫌だなと。今回の旅で、眠りに就いた世界の扉を開く力を手に入れたので、その力を使う場面をお見せする意味もありました。

――ソラに突進するワンダニャンのダッシュぶりが秀逸だと思うのですが、野村さんはペットとして犬や猫を飼っていたりは?

野村 両方飼ったことがあって、どちらも好きなので、合体させたのがワンダニャンなんです。ちなみに、開発名は“イヌネコ”です。

――Co.ディレクターの安江(泰)さんは、最初にデザイン画を見たときドン引きしたとか(笑)。

野村 そういえば、確かに「本当にコレでいくんですか?」と言われました(笑)。

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つぎは超変化球!?

――先の作品のお話は、いつごろから考えているものなのですか?

野村 それは段階ごとですね。『KH』の制作時は、『KHII』と『KH チェイン オブ メモリーズ』の流れを何となくですが、考えていました。『II』と『KH チェイン オブ メモリーズ』を制作していたときは、つぎの3作品……『KH 358/2 Days』、『KH コーデッド』、『KHBbS』の流れができていた、という感じです。

――『KH3D』は、その3作品の制作中に?

野村 『KH3D』は、比較的急に作ることになって、構想中だったお話を急遽持ってきたんです。

――それは、『KH BbS ファイナル ミックス』のシークレットムービーにあった……?

野村 どうでしょう(笑)。ちなみに、あのシークレットムービーの“A fragmentary passage”という表記は、“断章”という意味です。あそこから、『KH』につながる話というのは存在しているのですが、今後語られるかどうかはわかりません。

――『KH3D』のシークレットメッセージやシークレットムービーも、気になることが満載でした。いよいよ『KHIII』ですか!?

野村 それは、皆さんの思うところにお任せします。超変化球かもしれないですけど(笑)。

――では最後に、読者へメッセージを。

野村 『KH3D』の体験版を北米で配信するのにあたり、日本での配信も決定しました(編集注:現在は配信されています)。ソラを操作してトラヴァースタウンの物語を一部楽しめますので、ぜひまだ遊んでいない友だちに勧めていただければと思います。そして、製品版の“フリックラッシュ”で対戦してみてください。また、軽めのものですが、未発表のタイトルも控えています。『シアトリズム FF』の楽曲の配信もまだ続いていますので、そちらもよろしくお願いします。

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