「今後も、ゲームの常識を覆していきたいです」(安江氏)

 『キングダム ハーツ』シリーズ10周年に発売されたニンテンドー3DS用ソフト『キングダム ハーツ 3D[ドリーム ドロップ ディスタンス]』。ここでは、『キングダム ハーツ バース バイ スリープ』(以下、『KHBbS』)でもCo.ディレクターを務めた安江 泰(やすえ たい)氏のインタビューをお届け。体験版をプレイしてこれから始めようと思っている人は、プレイしてからお読みいただくと、より楽しめると思います!

※本インタビューは週刊ファミ通2012年5月10日・17日号(4月26日発売号)に掲載されたものです。

悔しさがあってこその達成感

『キングダム ハーツ 3D』遊びの詰まった完成度の高い箱庭の秘密――『KH3D』インタビューその1_01

――『KH3D』の開発において、印象深いエピソードをお聞かせください。

安江 開発終盤の、独特の熱気が強く印象に残っています。まったく家にも帰れず、想定外のバグが出たり、ドリームイーターの触れ合いで動作がどう見てもおかしいのを、みんなでツッコミを入れながら修正していくなど濃い時間を過ごしましたね。開発序盤の爽やかさからは想定できない混乱でした(笑)。

――もっとも苦労した点はどこですか?

安江 忘れているのもあると思うのですが、あまり苦労と思わないんですよね。忙しかったものの、開発はスピーディーで順調でしたし……。ああ、ドロップは苦労しました。

――ソラとリクを交互に操作するドロップシステムは、野村(哲也氏。ディレクター)さんの発案だったとおうかがいしています。

安江 野村から「操作キャラを強制的に切り換えるシステムにしてほしい」と言われたときは、恐怖を感じました(笑)。これまでの『KH』のテンポを変えてしまうものなので。これについては、プランナー内で、かなり話し合いを重ねましたね。縛りがあるだけではきびしいということで、ポジティブ感を出すために、ソラとリクでドロップポイントを介して協力ができるようにしたのが、成立させるための大きなポイントだったと思います。

――ボス戦でドロップすると、つぎに戻ってきたときに最初からになるのが悔しいです(笑)。

安江 (笑)。ゲームって、「悔しい」と感じる部分がないと、達成感がないんですよね。まさに、そういうものを入れたかったんですよ!

――確かに、ギリギリで倒せたときは格別の達成感があります。ちなみに、ゲーム中でドロップの回数がカウントされていますが、あれは意味があるのでしょうか?

安江 ドロップのカウント数は、プレイ時間みたいな目安として表示しているだけで、何かに影響するわけではありません。どちらかというと、ドロップすることでワールドの状況が変わることのほうが重要ですね。

――ワールドの変化の予報を確認できるイベントフォーキャストも、おもしろい試みですね。

安江 あれは"天気予報システム"として提案したものでした。台風が来る日とか、興奮するじゃないですか(笑)。先々の状況の変化が見えることで、メリハリをつけたかったんです。

アクションからアクションへ

――アクションとしては、フリーフローアクションの導入が、大きなトピックでした。こちらは、どういう経緯で導入されたのですか?

安江 野村と話すなかで、マップを自由に駆け巡るという方向性が見えてきて、それに合わせて壁やポールを利用するアクションを提案しました。最初は、『KHBbS』のデータを使って作り始めたんです。企画が2~3日くらいで固まって、作り始めて1~2週間経ったときには形になっていました。そこで決まった方向性は、その後もブレることはありませんでしたね。途中で、ブロウオフを追加したり、細かな調整を入れるということはありましたけれど。これが、『KH』の自然な進化の形かなという印象でした。

――移動だけでなく、攻撃にも使えるというのは、最初から盛り込まれていたのですか?

安江 そうですね。バトルが気持ちいい作品なので、移動だけでなく攻撃にも使える、バトルに使ってほしいアクションとして考えていました。また、フリーフローアクションがあると、たいていの場所に行けますし、移動量が多くなりますよね。それに合わせて、マップは立体的に、広くしていきました。さらに、宝箱の配置をちょっとひねったり、行きにくい場所を作ったり。

――確かに、今回は宝箱をすべて回収するのがけっこう難しいです。

安江 なかなかひどいですよね(笑)。なお、マップについては、動くギミックも大事にしています。『KH』は、プレイヤーがギミックに接して、どういうアクションに発展させられるかも大事なので、トラヴァースタウンではロープを張ったり、存在しなかった世界ではパイプで上っていったりという仕掛けを入れたりしました。ひとつのアクションだけではなく、ポールからジャンプして、壁を蹴ってブロウオフへ……という、流れでギミックを活用したり、アクションからアクションにつながることも重視しています。

――では、リアリティシフトは、どういった経緯で採用されたのでしょうか?

安江 野村から、下画面でしっかり遊べるようにしてほしいと言われていたので、各ワールドの世界観に合った遊びと、"夢っぽさ"を意識してリアリティシフトを考えました。いままで、タッチやスライド操作を使うゲームを作ったことがなかったので、プランナーとしては使ってみたかったというのもあります。

『キングダム ハーツ 3D』遊びの詰まった完成度の高い箱庭の秘密――『KH3D』インタビューその1_10
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ドン引きワンダニャン

『キングダム ハーツ 3D』遊びの詰まった完成度の高い箱庭の秘密――『KH3D』インタビューその1_14

――ドリームイーターはいままでのシリーズの敵と毛色が違いますが、どのようなコンセプトがあったのでしょうか?

安江 これは野村のこだわりの部分で、ブサイクだけどかわいい、媚びないかわいさというものを意識しています。行動も、プレイヤーを完璧にサポートするのではなく、サボるなどちょっとダメなところがあるような、キャラクター性が感じられるものを心掛けています。ちなみに、最初に野村からワンダニャンの絵を見せられたとき、僕はドン引きしたんです。野村はコレをマジメに描いているのかな? って(笑)。足はあるけどお腹で跳ねるとか、動きの指定もその時点でありましたね。その後、足をピクピクと動かす、虫っぽい気持ち悪い動きをする時期もなぜかあったのですが(苦笑)、仕上がってみたら愛嬌があってかわいくて、「さすが野村!」と思いました(笑)。

――(笑)。育成システムも、性格変化など、楽しめる要素が詰め込まれていますね。

安江 育成画面ではスピリットをつついたり、なでたりしますが、僕は意地悪をするのが好きなので、最初からつつく部分をプッシュしていました。やさしい人はなでると思うのですが、ワンダニャンを見ていると、どうしてもつつきたくなるんですよね(笑)。それで、接しかたの違いによってマイナスになるようなことはなく、成長や性格変化が気楽に楽しめるシステムにしました。

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――ミニゲームのフリックラッシュについて、コンセプトをお聞かせください。

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安江 最初に、通信機能を使ったバトルで、相手の写真を撮り、それを使うというのを企画したのですが、野村にNGを出され、トランプの"スピード"のような方向にシフトしました。野村からはそのとき、鉛筆でサラサラッと画面構成を描いたものをもらいましたね。そこから何回か作り直しながら、いまの形にしていったんです。個人的にはミニゲームを作るのが好きで、できればミニゲームをずっと作っていたいほどやり甲斐を感じました。フリックラッシュは、現場でいろいろ試しながら、意見を聞いて改善できるので、作り手として楽しかったです。

――フリックラッシュに向いている、オススメのドリームイーターを教えていただけますか?

安江 ナルバードかなぁ。上空から爆弾を落としまくれるので。あと僕が好きなのが、ワンダニャン……をガブガブと噛むボウクンレックスです。ワンダニャンだと、ちょうどいい具合に歯に挟まるんですよ(笑)。

――執拗にワンダニャンをいじめますね(笑)。ところで、安江さんは、アクションについてどういったこだわりをお持ちなのでしょうか?

安江 難しいですね……。『KHBbS』では、バトル中にスタイルが変化することによる気持ちよさを意識していたんですが、今回は"突き抜けるスピード感"でしょうか。それに加え、"アクションとアクションがつながる気持ちよさ"です。毎回同じものを目指すというよりは、違う路線を探っていきたいですね。今後も『KH』を作る際は、その都度アクションのコンセプトを変えていきたいと考えています。

――以前、野村さんから、『FF ヴェルサスXIII』や『FF零式』、『KH』シリーズは、それぞれアクションの方向性が違い、『KH3D』は『KH』シリーズの今後の方向性を示すものになるというお話がありました。安江さんとしては、どうお考えですか?

安江 『KH』シリーズは、丁寧に作り込まれた箱庭的な世界の中で、ダイナミックに遊べることが特徴だと思いますが、そのなかで、行ける場所だったり、できることの制限を全部取っ払って、とことん自由に、ぶっ飛んだ形で遊べるようにしたいですね。『KH3D』は、フリーフローアクションで屋根の上を自由に駆け抜けることができるようになったことで、ゲーム性や技術的な問題にぶち当りましたが、今後もそういうハードルを乗り越えて、ゲームの常識を覆していきたいです。

――では、最後に、読者へメッセージを。

安江 さまざまなシステムを詰め込んで、『KHBbS』以上の傑作と言えるゲームに仕上げています。遊びの幅があるので、開発側ではフリックラッシュばかりプレイしたり、フリーフローしか使わなかったり、ひたすらスピリットをなでたりと、さまざまなプレイをする人がいました。ユーザーの皆さんも、自分なりの遊びかたや、好きなプレイスタイルを発見して、とことん遊び尽くしてほしいですね。