ボス戦は「ごめんなさい」

アイドス・モントリオールはいかにして『デウスエクス』を生まれ変わらせたか?【GDC 2012】_08

 先週サンフランシスコで行われたGDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)から、スクウェア・エニックスの『デウスエクス』について、アイドス・モントリオールのFrancois Lapikasが振り返った講演の模様をお届けする。

 なお日本版タイトル『デウスエクス』は、オリジナル版と区別がつきにくいタイトルになっているため、本稿では、2000年に発売されたPCゲーム(『Deus Ex』)をDE、2011年にマルチプラットフォームで発売されたもの(原題『Deus Ex: Human Revolution』)をDEHRとして記述する。

 Lapikas氏は、『スプリンターセル』フランチャイズでゲームデザイナーとして働いたのち、アイドス・モントリオールに2007年に移籍して、『DEHR』にシニアゲームデザイナーとして加わったのだという。そして驚くべきことに直面する。

 「オリジナルであるDEのフィーリングを獲得することが重要だった。我々にとってもっとも大きなチャレンジ……そして我々にはどうやったらそれが可能か、ほとんどアイデアがなかった」なんと、『デウスエクス』という版権に欠かせないものを規定するガイドラインがなかったのだ。

 そしてLapikas氏は、いかにクリエイティブ・コア・チーム(プロダクション・デザイナー、クリエイディブ・ディレクター、プロデューサーら)が、アイデアを話し合う土台を築くためにあらゆるものをかき集めることに没頭にしたかを語った。この前読んだ本、遊んだゲーム、以前見た映画……そして山のようなディスカッション。これからDEHRで新たに世界を生み出すためのありったけの養分を貯えることにしたのだ。

 DEHRの特徴となった、コンバット、ステルス、ハッキング、ソーシャルの4要素は、さまざまなゲームからの影響によって成り立っているという。いわく、『レインボーシックス : ベガス』のカバーシステム、『F.E.A.R.』の優秀な敵AI、『コール オブ デューティ』のヘルスシステム……全体のフィーリングはひとまず“『トゥモローワールド』ミーツ『X-メン』”を目指すことと決まった。

アイドス・モントリオールはいかにして『デウスエクス』を生まれ変わらせたか?【GDC 2012】_01
アイドス・モントリオールはいかにして『デウスエクス』を生まれ変わらせたか?【GDC 2012】_02
アイドス・モントリオールはいかにして『デウスエクス』を生まれ変わらせたか?【GDC 2012】_03

 では、なぜDEHRはDEの前日譚となったのか? まず、DEの時代設定が2052年と、現在より遠い点が挙げられた。もう少しだけ現代の我々に近い近未来……そこで2030年代が選ばれたのだ。DEにとって欠かせない、オーグメンテーション(義体化)技術がその頃には登場すると予測されていたのが好都合だった。

 Lapikas氏はDEをプレイし直してみたりもしたそうだが、DEHRで何をするべきか決定打は得られなかった。そこでチームはオンラインフォーラムを覗いて、プレイヤーがどう「続編はこうあるべき」と思っているかを調べることになる。「我々は、自分たちの考えがプレイヤーの思うものの延長上にあるか知りたかったんだ。そしてそれは当たっていた。ここに来てようやく自分たちがこのゲームを手掛けるのに正しいチームであると感じられるようになったんだ」と当時を振り返る。

 そしてゲームの複合した要素の“青写真”が大きなボードやエクセルシートに記され、チームに共有されて、開発が進められていく。しかし、開発中には衝突もあったらしい。きっかけはプレイテスターがもっとエナジーをもらいたがったことだった。一度無限にしてみたそうなのだが、みんなテイクダウン攻撃ばかりで進むようになり、ふたたびきっちり制限されることになった。「DEはエナジー不足をやりくりするゲームである」とLapikas氏。

 ボス戦も議論の対象となった。「ボス戦については本当にどうすりゃいいかわからなかった。プリプロダクション段階でもまだボス戦のゲームデザインがなかったんだ」と嘆く。結局「十分な弾と武器を用意しておけばプレイヤーがボスを倒すのには十分だろう」という消極的な対応になった点を後悔しているそうで、「出荷してから(何が足りなかったか)すべて理解した、我々はもっとあの部分に労力を割くべきだったんだ。これは本当に申し訳なく思っている」と語っていた。
 結局搭載されることのなかったLapikas氏の考えたハッキングシステム(余りにも複雑だったらしい)など、そのほかの失敗についても明かされた。

 まとめとして、開発過程では、ゲームのコンセプトをじっくりと決めた時期が良かったとのこと。プリプロダクションに移る前にコンセプトを固められたこと、密接に結びついたチームがお互いを尊重し、ともに成長できたことが成功につながったと語っていた。

アイドス・モントリオールはいかにして『デウスエクス』を生まれ変わらせたか?【GDC 2012】_04
アイドス・モントリオールはいかにして『デウスエクス』を生まれ変わらせたか?【GDC 2012】_05
▲説得でのボス戦の初期コンセプト
▲ゲームデザインのチュートリアル用
アイドス・モントリオールはいかにして『デウスエクス』を生まれ変わらせたか?【GDC 2012】_06
アイドス・モントリオールはいかにして『デウスエクス』を生まれ変わらせたか?【GDC 2012】_07