2026年6月11日に創業43周年を迎えるカプコンの代表取締役社長・辻本春弘氏。黎明期からゲーム業界に関わり、営業を経て経営の中枢へ。その長いキャリアの中で見てきた業界の激動、そしてカプコンがいまなぜ、世界でこれほどの存在感を放っているのか? これらに言及しつつ、データ経営への転換、新規IPへの挑戦、eスポーツ戦略、マルチメディア展開、さらには日本のゲーム産業の未来まで、縦横無尽に語っていただいた。
辻本春弘氏(つじもとはるひろ)
1987年、大学卒業と同時にカプコンに入社。1997年に取締役に就任し、以後は家庭用ゲームソフト事業の強化に注力。2007年7月に代表取締役社長 最高執行責任者(COO)に就任し、現在にいたる。
(文中は辻本/“辻”はしんにょうに点ひとつ)
おもしろくなければ売れない。創業時から変わらない一本の軸
――カプコンは今年の6月11日に創業43周年を迎えます。これはゲーム業界そのものの激動の歴史ともリンクしますが、辻本さんとしてはどんなことを大切にしながら、ここまでやってこられたのでしょう?
辻本
カプコンの創業当時、私はまだ大学1回生でした。大阪の平野にある倉庫と兼用の事務所で、社員5名・アルバイト1名という規模でスタートしました。アルバイトとして4年間働いて、大学卒業後もそのままカプコンでお世話になって、現在にいたります。
――スタートはアルバイトだったのですね。
辻本
業界全体を振り返ると、創業以来約40年は本当に激動の時代です。当社のスタートは業務用ゲームからで、風営法の規制が入ったり、バブル崩壊の余波を受けるなど、大きな環境変化がありました。そういったなか、創業のタイミングでちょうど任天堂さんが家庭用ゲーム機のファミリーコンピュータを開発されて、“ゲームを家庭で楽しむ”という流れが生まれたのは大きな転機となりました。
その後、SIE(ソニー・インタラクティブエンタテインメント)さんもプレイステーションを出されるなど、今日にいたるまでいろいろと大きな波がありましたが、ゲームというものが主要なエンターテイメントのひとつとして認められ、さまざまな技術やプレイヤー、企業が参画してきたから、いまがあると思っています。
――主戦場がアーケードから家庭用、PCへと変遷しても、カプコンは一貫して“おもしろいゲームを作る”という軸を保っているように思います。その開発ポリシーはどこから来ているのでしょう?
辻本
これは創業者である会長の辻本憲三が最初からずっと言い続けてきたことです。「おもしろくなければ売れない」と。業務用ゲームというのは、BtoBのビジネスモデルです。カプコンが開発したビデオゲーム基板をゲームセンターに購入してもらい、そこで100円や50円といった料金をお客さまからいただくことで、基板コストを回収し、利益を生み出していきます。
基板代を回収し、利益を出していく仕組みです。基板代を回収するためには、お客さんに何度もくり返し遊んでもらわなければならない。ところが、ひとたびつまらないと感じた方からは、もう二度と100円玉を入れてもらえないわけです。
――アーケードならではのきびしさですね。
辻本
だからロケテストを行う際は、開発者がつきっきりでお客様の反応をチェックしました。そうして、どこでゲームが詰まるか、どう改善すべきかを考え続けた。その文化が、いまのカプコンのものづくりの土台になっていると思います。当時は同業他社もどんどん出てきて、お客様の取り合いは激しくなっていきました。きびしい環境の中で、カプコンならではの価値を打ち出し続けてきたことは、やはり大きかったと思います。
――ゲームのスペックへのこだわりも、そこから来ているのでしょうか?
辻本
そうですね。初期のころから会長自身が「ハイスペックなゲームを作らなければならない」という考えを持っていました。他社よりもスペックの高いアーケード基板を自社で開発することで、チップの開発にも着手していました。コストはかかりましたが、そうしたハイスペックな基板があったからこそ『ストリートファイターII』が生まれ、クオリティーを維持したままスーパーファミコンにも移植でき、大ヒットにつながったというわけです。
クリエイターが十二分にゲームを開発できる環境を用意すること。それが、当時から変わらないカプコンの戦略であり、そうした姿勢が現在の“RE ENGINE”の開発につながっていると考えています。

『バルガス』『魔界村』、そして海外へ……転機を振り返る
――43年を振り返って、特に印象に残っている転機はどのタイミングでしょうか。
辻本
会社としてのスタートは、会長がメダルゲーム機を作るところから始まりました。駄菓子屋などに設置されていた、10円玉を入れるとメダルが出てくるようなゲームです。その数年後にはビデオゲームの開発が可能となり、『バルガス』や『ソンソン』といったタイトルを世に送り出しました。
そのようにして、ビデオゲームをビジネスにできたことは大きな転機となり、『魔界村』や『ストリートファイター』といった、いまでも広く知られるタイトルがつぎつぎに誕生しました。先ほども話題に上がりましたが、やはりファミリーコンピュータに参入できたことも大きかったですね。
さらにもう1点挙げるとすれば、弊社では早い段階から「海外で売れなければ利益が出ない」という認識をもっていたことです。そのため、さらなる販売先を求め、アメリカやヨーロッパに基盤を持っていって、現地のディストリビューター(卸売業者)にプレゼンしながら営業しました。私も19歳か20歳のころ営業に同行し、そうしたやり取りを目の当たりにしました。そこで見聞きしたことが、私自身の営業の原体験になっています。
――当時は営業を担当されていたんですね。
辻本
そのころはまだアルバイトで、大学卒業後の最初の配属が販売営業でした。業界自体がまだ成熟しておらず、こちらとしても「これは確実にヒットします」とは言い切れない中、なんとか信用していただき、商品を買っていただく必要がありました。人的な関係を構築しながらゲームを買ってもらう……という状況でした。
属人的な開発からチームへ。組織変革がカプコンを変えた
――話題に上がった『ストリートファイターII』をはじめ、『バイオハザード』シリーズや『モンスターハンター』シリーズなど、カプコンは節目ごとに歴史に名を刻むタイトルを出し続けていますよね。同じ開発者が作り続けているわけでもないのに、各タイトルの特色・強みはなぜ継続できているのでしょう?
辻本
ゲーム業界では一般的にタイトルがシリーズ化すると、特定の開発者に依存した、いわゆる属人的なタイトルになりがちです。この人が作らないとつぎはない。世界観が開発者個人の考えにゆだねられてしまう。
――確かにそうですね。
辻本
そんな状況が弊社でも長く続いていたのですが、上場企業として株主への対応を考えたときに、属人的な開発に依存し続けるのは限界があると感じました。各タイトルの中心となっていた人たちと話し合い、属人的な開発のスタイルはやめようという話になりました。これを受けて、私たちが新しく考えたのは、「どのタイトルも一から作り直そう」ということです。それによって、一時的に売上が落ちてもかまわないという判断で、属人的な体制ではなく、チームでゲームを作っていく方針に切り換えたことでカプコンは大きく変わりました。
それが実を結び、『バイオハザード』は定期的に新規タイトルが出ていますし、『モンスターハンター』も隔年でシリーズ作が出ています。また、『ストリートファイター6』もYear 3まで順調にリリースしました。これらは誰かひとりの考えで動いているのではなく、チームとして開発に当たっているので、そこで蓄積されたノウハウは次の世代へと受け継がれて、今後もシリーズ作は継続していく……というわけです。

『バイオハザード レクイエム』

『モンスターハンターワイルズ』
――カプコン社員の方は、そもそもカプコンのゲームが好きな人が多いですよね。
辻本
そうです。カプコンのゲームを遊んで、「楽しい」、「自分でも作りたい」と思った人たちが集まっています。だからIPのマインドが自然と受け継がれていくんです。
開発であれ、マーケティング、プロモーションであれ、自分たちで作り出し売っていきたいという思いが、属人的ではなくチームで作る環境のもとで、一丸となって取り組めているのが強みです。そういう意味では、2026年4月に発売されたばかりの『プラグマタ』は、まさしく“チームで一丸となってゲーム開発に取り組む姿勢”の象徴ともいえる新規IPです。
――『プラグマタ』の人気はすごいですね。
辻本
全世界での累計販売本数が100万本を達成したとき、通常であればプレスリリースを出すだけですが、それに加えて『プラグマタ』ではX(旧Twitter)上で特別なイラストを公開したり、200万本突破の際には動画を公開したりと、さまざまな形で発信しました。これもまた「いかにして、遊んでくださった皆様に感謝の気持ちを伝えるか?」を、チームで一丸となって考えたからこそ導き出せた施策だと言えるでしょう。

『プラグマタ』
――そういえば本作は開発期間が当初の想定よりも長くなりましたよね。それでも完成に漕ぎつけた、やり遂げた意義は、どのようなところにあるとお考えですか?
辻本
カプコンはもともと、新規IPへの挑戦をずっと続けてきた会社です。『囚われのパルマ』もあったし、『祇(くにつがみ):Path of the Goddess』、『エグゾプライマル』など、さまざまなタイトルを展開してきました。その中で『プラグマタ』は世界観の独自性という魅力に加え、新規IPを育てていくというビジネス上の意義もありましたが、それ以上にカプコンとして「新たなチャレンジをするんだ」という意識のもとで取り組んだタイトルでした。
これに成功することで得られる新たな経験は非常に大きく、会社としてさらなる成長を目指すうえで、絶対にやらなければならない挑戦でした。開発チームが粘り強く取り組んだことはもちろん、品質管理を担う部署も一丸となってブラッシュアップを重ね、その総力の結集が、本作のヒットにつながったのだと思います。
――今回の成功を経て、今後も新規IPへのチャレンジは続けていかれますか?
辻本
もちろんです。弊社ではすべてのタイトルに目標を設定しています。『バイオハザード レクイエム』のときは「いかにして歴代の『バイオ』ファンの皆さんに早期購入していただくか」に注力しました。『プラグマタ』も「新規IPを絶対に成功させる」という目標を持って展開した1作であり、こうしたチャレンジには今後も積極的に取り組んでいきます。
デジタル化への早期転換が、いまの開発の余裕を生んだ
――近年、カプコンは『鬼武者』や『大神』、『ロックマン』といった、過去からある資産のリブートにも積極的に取り組まれていますよね。その意図や今後の展開について、お考えをお聞かせください。
辻本
まずは「なぜいま、こうした展開ができるようになったか」というところからお話しさせていただきます。我々としても以前から、これらの休眠IPを掘り起こしたかったのですが、開発リソースには限界がありました。要は人手が足りていなかったのです。それが変わったきっかけは、2017年ごろからカプコンが“デジタル販売”に本格的に舵を切るようになったからだといえるでしょう。
もともとPS4が出たときにSIEさんから「PS4はインターネットに常時接続するマシンになる」というお話を伺いました。これが軌道に乗ればPlayStation Storeなどで、いままで以上に充実したサービスが受けられるようになる……とのことで、お話をうかがったときから、「ゲーム販売のありかたは180度変わる」と確信していました。
――具体的にはどんな感じでしたか?
辻本
それまでは、リテーラー(小売店)の方々にゲームを買ってもらい、そこで売ってもらう形が主流で、お店が「もう売らない」となったら、そのゲームは店頭から消えざるを得ない……という売りかたが一般的でした。ところがデジタルに切り換えれば自分たちで直接、お客様にゲームをお届けすることができます。
2017年1月発売の『バイオハザード7 レジデント イービル』から、本格的にこうした展開に取り組むようになったのですが、発売から9年目を迎えたいまなお『バイオ7』は売れ続けていて、2025年には年間260万本を販売しました。発売から2年で開発費は償却できており、3年目以降の売り上げ利益として積み上がっています。これがいまのカプコンの利益の源泉のひとつになっています。
――キャッシュフローの安定が新しいことへの投資を可能にした……ということですか?
辻本
そうなります。『バイオハザード』も『モンスターハンター』シリーズも、旧作が売れ続けることで利益が積み重なる。それによって開発にも余裕が生まれます。そうした余裕があるからこそ『プラグマタ』のように、ある程度の期間をかけて新規IPを作り出せますし、休眠IPに人員を割けるサイクルも構築できています。
それに加えて、毎年150人以上の新卒社員を採用しており、その人材が2~3年後には各プロジェクトの中心で活躍する戦力へと成長していきます。いまはまさに人手も増えて、複数の開発ラインを同時に進められる、ベストな体制が築けています。
「データは嘘をつかない」経営判断と数字への信頼
――ちなみに、社内でのデジタル化への転換は、どのようにして行われたのでしょう?
辻本
まずはデータを取るところから始めました。各タイトルの販売本数はもちろん、開発中に発生する細かな数字も、すべてデータで記録するようにしています。
もちろん費用はかかるし、取得したデータのすべてが業務に活用できるとは限らないのですが、あらゆる数字を検証する中で得られた示唆を精査していけば、開発、マーケティング、プロモーションなどにおいて活用できますし、データに基づいた新たな戦略を構築することも可能です。そしてそれは、前述にもある“属人的な開発”からの脱却にもつながっています。
余談ですが3年ほど前、インド市場への参入、という話になりました。これは、それ以前に、ブラジル市場で成功したという実績があったためです。当時のインド市場は数万本規模にとどまっていましたが、総人口においては中国を超えている。これは取るべき市場だということで、徹底的にリサーチしたうえで参入しています。
結果として予想は的中し、いまでは堅調な実績につながっています。この一例のように、正確なデータがあれば開発も積極的に取り組んでくれるし、そうして展開したタイトルは大勢のお客様に遊んでもらって、喜んでいただけている。国内に加え海外でも、いいサイクルができているように感じます。
eスポーツをリアルスポーツに。より白熱する“団体戦”を提案
――近年の大きなトピックとして、eスポーツ、とくに『ストリートファイター6』の盛り上がりがあります。日本のeスポーツシーンは格闘ゲームを中心に展開しているという実感がありますが、どう思われますか?
辻本
盛り上がりに関しては、ある程度のところまではきたと感じています。eスポーツは法律上の問題もあり、日本では長らく賞金付き大会を開催できませんでした。なので、初期のころはアメリカを中心に、タイトル普及のためのマーケティング施策としてやっていた状況でした。
それを何とかしなければいけないということで、JESU(日本eスポーツ協会)を設立して対応できるようにしたのですが、当時から私が思っていたのはeスポーツをリアルスポーツのように、競技としてだけでなくビジネスとしても成立するものにしていかなければいけないということでした。
――リアルスポーツというと……?
辻本
タイトルを売るための単なるマーケティングツールとして捉えてはダメだと。「ゲームそのものが売れているなら、大会は赤字でもいい」という発想では、eスポーツはそれ以上広まらないんです。野球やサッカーのようなプロスポーツと同じように盛り上げていかないといけない。そんな考えから私が提案したのが“団体戦”の導入でした。
――なるほど。昨今のeスポーツの大会で、よく見られるようになった形式ですね。
辻本
リアルスポーツでも団体戦にドラマがあるように、eスポーツも団体戦にすることで、選手育成と競技に広がりが生まれると思ったんです。6人のトップ選手の下に2人の若手選手をつけて、トップが若手を教える。そうすることで選手層が厚くなり、各選手のファンも増え、競技自体もどんどん盛り上がっていくという考えです。
実際に今年の3月、“CAPCOM CUP 12”と“ストリートファイターリーグ:ワールドチャンピオンシップ2025”のファイナルを同じ週末に開催したのですが、どちらが盛り上がっていたかというと、団体戦の後者なんですね。チームとしては敗れても応援している選手の活躍が見られたり、新たなスター選手の登場を間近で体感できたりと、そこにはいくつものドラマがあります。
ファンが増えて、スポンサーもついて、チームとして成り立っていけば、リーグも大いに盛り上がる。最終的に『ストリートファイター6』の販売につながるのは、その先につながることだと考えています。
――そうした実績を踏まえて、海外での展開も検討されているとのことですが、詳しく聞かせていただけますか?
辻本
eスポーツといえば、やはりアメリカが本丸ですから。いまいちど、アメリカリーグのブラッシュアップを考えています。日本がこれだけうまくいっているのは、育成システムが成功して、有名選手がつぎつぎに出てきているからです。アメリカでも選手育成をしっかりやっていかないといけない。日本では両国国技館で大会を開けるようになったので、せっかくアメリカでやるからには、いずれはマディソン・スクエア・ガーデンで大会を開催したいですね。
今回の“CAPCOM CUP 12”と“ワールドチャンピオンシップ”のファイナルは有料配信にチャレンジし、国内では多数ご購入いただけた反面、海外の数字が伸び悩みました。要因の一つに時差があります。日本の大会をリアルタイムで配信すると、アメリカ大陸は夜中なので、もっとも観てほしい地域が観戦しづらい時間帯になってしまうのはどうしても避けられないんですね。これを踏まえ、アメリカで大会をオンタイムに開催することが、グローバルな支持につながるということを改めて認識しました。
ほかにも『ストリートファイター6』に関しては、前作のeスポーツへの適応を踏まえつつ、新キャラクターは今風にデザインしてもらいましたが、その際に私からは「セクシャルな表現はやめてほしい」ということだけリクエストしました。これは、従来のキャラクターたちも過度な演出はせず、純粋に年齢を重ねた設定で登場させれば、ファンの皆さんは受け入れてくださると確信していたからで、このようにして「eスポーツに適応できるゲーム企画とはどういうものか?」を皆で考えた結果が『ストリートファイター6』であり、だからこそ、多くの方に支持されるタイトルへと成長したのだと捉えています。
キャラクター→ゲームの順に興味を持ってもらいたい
――ゲームIPのマルチメディア展開、たとえば『デビル メイ クライ』アニメ化や、『バイオハザード』のパチスロでの展開などについても、辻本さんのご意見をお聞かせください。
辻本
“ワンコンテンツ”という考えかたを、私は20年くらい前から提唱してきましたが、いまではそれがカプコンの基盤戦略になっています。キャラクターコンテンツも、映像も、eスポーツも、パチスロも、アミューズメント施設も全部、こちらの考えのもとで機能しています。
つい先日、スマスロ版『バイオハザード RE:3』が出ましたが、これだけ頻繁に、鮮度の高いIPを展開し続けられるメーカーはなかなかないです。パチスロを楽しまれている方々が家でもゲームをやっているとは限りませんが、少なくともパチスロを通してカプコンのゲームを知ってもらえる。そうして興味を持っていただくことで、新しいユーザーになっていただける可能性もあります。そういった視点で、弊社としても積極的にパチスロを展開している次第です。
アミューズメント施設に関しても同様で、最近のトピックとしては、渋谷パルコで“CAPCOM STORE TOKYO”をオープンしたことは大きいですね。こちらがうまくいったことで、「自社キャラクターでこういうお店が展開できるんだ」という自信が生まれました。また、カプコンの家庭用ゲームを試遊していただける点も、重要な訴求ポイントと考えています。かつては家電量販店の売り場に試遊コーナーがありましたが、近年は減少しています。CAPCOM STORE TOKYOでは『プラグマタ』をはじめ、さまざまなタイトルを体験いただけますので、気軽に立ち寄って楽しんでいただければと思います。
――スマスロ版に関するご意見の中にもありましたが、これらのマルチメディア展開の最終的な目的は、やはりゲームそのものを買ってもらうことなんですね。
辻本
そうですね。カプコンのキャラクターをより多くの方に知っていただき、さまざまなサービスや体験を通して、ゲームそのものにも興味を持っていただければ幸いです。
その延長として、ゲームを手に取っていただければ理想的です。現在は『ロックマン』でこうした展開を検討しており、2027年にシリーズ最新作『ロックマン: デュアル オーバーライド』が発売予定です。それに合わせてアパレル等の展開も積極的に進めていきたいと考えています。これもデータに基づく判断なのですが、ロックマンというキャラクターは、ゲームをしない層にも広く認知されており、根強い人気があります。
また、マルチメディア展開の一環として、最近は弊社タイトルとさまざまな分野のコラボレーション企画も多数展開しています。たとえば、全世界に本数限定で販売したハミルトンと『バイオハザード』のコラボレーションによる腕時計は、完売となりました。ニューヨークのストリートブランド“KITH(キス)”からも、弊社とコラボしたTシャツが発売されるなど、多様な展開が広がっています。カプコンというブランド価値を見出してくださる方が世界中にいらっしゃる……ということを、本当にありがたく思っております。
ゲームが回す経済……CESAの取り組みとゲーム産業のいま
――CESA(コンピュータエンターテインメント協会)の会長としての活動についてもお聞かせください。東京ゲームショウ 2025には26万人が来場したことに加え、今年は初の5日間開催であることも話題になりました。
辻本
まずCESAの業界団体としてのすばらしさは、理事がコミットメントをしっかり持っているところだと思います。「理事会には各社の代表者しか参加できない」というルールが最初から徹底されているからこそ、そこで決まったことを各社が責任をもって実行に移すことができるのです。
――なるほど。
辻本
CESA設立から30年以上が経ちますが、個人的に印象に残っているのは2020年、コロナ禍で“E3”(ロサンゼルスで開催されていたゲームの見本市)がなくなった際、東京ゲームショウはどうするか……という話になったときです。私は「東京ゲームショウをなくすわけにいかない。やめてしまうと、“ゲームの見本市”という文化はそこで終わってしまう。
いまはデジタルでできる時代だから、コロナ禍が落ち着くまではデジタルでやりましょう」と提案しました。そうして理事を務める各社が出展したことで、ほかの企業もデジタルで参加してくださりました。このときの判断があったからこそ、“東京ゲームショウ”の火は消えず、いまこうしてリアルイベントとして復活できました。最後まであきらめずに開催にこだわったことは大きかったと思います。
――そうですね。E3が終了してしまったことを考えると、その判断はまさに慧眼でした。
辻本
あと、私が会長になったときに、従来の“ゲーム白書”をやめて“ゲーム産業レポート”を作るようにしたのも、大きな変革だと思っています。従来の白書は内容が専門的で、長年業界にいる私でも理解しづらい部分がありました。
――もっとわかりやすい実数をベースにしたほうがいいから、ゲーム産業レポートを作成するようになったのですね。
辻本
その通りです。たとえばゲーム業界は2020年前後から、ほかの業界に先駆けて初任給を23~24万円程度に引き上げました。政府による賃上げ要請が本格化する以前から、ゲーム業界では人材への積極投資が進んでいたと言えます。2019年から2024年まで、コロナ禍の期間も各社の業績は伸長を続け、海外でもゲーム産業は大いに盛り上がっていた。そうした実態をわかりやすい数値として整理し、レポートとして提示することにしました。
――業界団体として、そこまで正確に実数を出す業界はなかなかないですよね。
辻本
その結果、経済産業省や文化庁、つまり日本政府に、ゲーム業界の実態を正しく理解していただけました。自動車産業に次ぐ規模の産業という位置づけになり、政府が発表した17分野の成長産業の中のエンターテインメント部門において、ゲーム産業が大きな役割を果たしていると認識されています。こうした評価にも、レポートの存在が大きく寄与していると考えています。
――かつては子どもたちに悪影響を与えるとされていたゲームが、そのような位置づけになるというのは感慨深いですね。
辻本
資源の少ない日本が「何をもって海外と渡り合うか?」ということを考えたとき、エンターテインメントという成長産業はもっとも重要な柱になる。政府関係者の方々とお話しする中でも申し上げているのですが、ゲーム産業に補助金が支給された場合、新たに工場などを作ったりせず、その多くは人材への投資に充てられます。ゲーム産業に携わるクリエイティブな人材への投資となり、最終的には所得税などの形で国に還元されていく。こうした循環こそが、ゲームという産業の大きな特徴であると捉えています。
――“東京ゲームショウ2026”についても、ご意見をお聞かせください。
辻本
例年は4日間のところを今年は5日間開催ということで、この時代にリアルイベントが1日追加されることの意義は大きく、情報を発表して以来、ユーザーの皆様にも喜んでいただけています。日数が増えることで、これまでは都合が合わず参加できなかった方にもお越しいただけるようになります。
逆に毎年参加されていた方にとっては、各日の混雑度が緩和され、興味のあるブースに行きやすくなるメリットがあります。そして何より、ゲーム業界全体が盛り上がっているさまを、より多くの方に間近で体感していただけることこそ、5日間開催に踏み切った最大の理由です。出展される各社がこの5日間をどのように使われるのか? そこも楽しみなポイントですね。
――貴重なお話をありがとうございます。それでは最後に、ファミ通読者へのメッセージをお願いします。
辻本
カプコンはこれからも変わらず、ゲームユーザーの皆様、そしてこれからゲームユーザーになってくださる皆様に向けて、「ゲームって本当に楽しいな」と思っていただけるゲームを作り続けていきます。また、ゲームだけでなく、カプコンのキャラクターやIPを多様な接点をつくることで、弊社に興味を持っていただき、「カプコンはおもしろい会社だ」と感じ、ファンになっていただけるような展開を目指しています。今後の取り組みにも、ぜひご期待いただければ幸いです。
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