「長髪じゃなければ開発は1年短縮できた。不安はあったが折れずに努力した」
そう大真面目に語られたのは、2024年4月26日にプレイステーション5(PS5)にて発売予定の『Stellar Blade』(ステラーブレイド)。『勝利の女神:NIKKE』などで知られるSHIFT UPの新作アクション・アドベンチャーだ。
発売までおよそ1ヵ月に迫ったいま、ディレクターであり同社CEOのキム・ヒョンテ氏、テクニカルディレクターのイ・ドンギ氏にインタビューを実施。イラストレーターだからこそのこだわりが詰まったデザイン面について重点的に伺った。
キム・ヒョンテ
SHIFT UP CEO兼『ステラーブレイド』ディレクター。文中ではキム。
イ・ドンギ
『ステラーブレイド』 テクニカルディレクター。文中ではイ。
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アジア人らしさを追求
――初めに、イヴやリリーの年齢を若く設定された理由について教えてください。
キムとくに若い設定にしているわけではありません。アジア人は世界的に実年齢よりも若く見える傾向がありますので、それを考慮したうえでデザインしています。登場人物はみな成人しているので、皆さんの想像よりも歳を取っている可能性もあります。
――年齢の詳細は、ゲームを進めると分かりますか?
キム年齢に関しては、もしかしたら次回作があれば明らかになるかもしれません。
――次回作……!
キムはい。なので、年齢のことが気になる方は、いまの『ステラーブレイド』をたくさんプレイして、愛していただいて、次回作で答え合わせをしましょう(笑)。
――いまを愛せば、つぎにつながるわけですね。しっかり記事に“『ステラーブレイド』を愛せば次作が出る”と書かせていただきます(笑)。
――イヴの肌や衣服はかなり光沢(艶)が強調されていた印象を受けました。何か意図はあるのでしょうか。
キム主人公(イヴ)から見ると、地球は異世界のような感じです。イヴたちのいる環境と地球では、世界観にかなりの差があります。舞台となる地球は滅亡しており、雨が降っていてもどこか乾燥した空気感が漂っています。
キム一方でイヴたちの住むコロニーは文化を持っています。なので、ふたつの世界の違った質感を出したいと思い、キャラクターの外見的な印象を(現代の地球とは)変えたいという意図がありました。
ただすべての衣装において艶が強調されているわけではなく、ゲームをプレイして獲得できる衣装には違う質感やテクスチャーのものもありますので、さまざまなイヴの姿を楽しんでいただければと思います。
もちろん私自身の好みが反映されている部分もあります。
――過去のキム・ヒョンテさんのイラストを見ていたら納得です。ちなみに、装備を脱いだ際のスキンスーツの肌感が革っぽいというか、珍しい質感をしていました。そちらはどのような意図を込めたのでしょうか。
キムスキンスーツは肌色の生地で素肌を覆うデザインになっています。本来の肌の部分と肌色生地の部分では光の反射の仕方が変わりますよね。それによって独特な質感を表現していますが、イヴの設定とは関係のないものです。
キムただ、注意したい点がひとつ。スキンスーツには防御機能がなく、シールドがなくなるのでダメージを多く受けることになり、すぐに死んでしまうこともあると思います。ゲームプレイの難度がぐんと上がりますので、なるべく衣服を着ることをおすすめします。
長髪を安定的に描画するのは難しい。短髪なら開発期間を1年短縮できた!?
――スキンスーツのほか、衣装全般のデザインが独創的な見た目をしています。こういったデザインはどういったものから発想が生まれるのですか。
キムゼロからデザインする場合もあれば、スタジオツアーでお見せした3Dスキャンスタジオで撮ったものをブラッシュアップしていくこともあります。
実在する衣装を始め、アニメや映画の影響を受けたものもあります。デザインにおいては制限なく発想して、主人公の多様な魅力を表現できるように努力しております。
――衣装はもちろん、イヴ自身の身体の揺れにも、並々ならぬこだわりを感じました。揺れに関しての制作秘話やポイントなどを教えていただけますか。
キム私は、人間が直接自分の身体を動かすこと自体も美しいと思いますが、身体に伴ってワンテンポ遅れて動く衣装や髪の揺れ、そういった動きの流れについても魅力を感じております。 衣装の物理表現はだいぶこだわりましたし、主人公を長い髪にしたのも、そういった流れを意識した結果です。
それによって、バトルでの多彩な揺れを表現したいと思いました。その部分に皆さんも着目して楽しんでいただけたらと思いますし、服や髪の動きが綺麗に具現化できたのは、やはりプレイステーション5の機能が充実していたからだと思っています。
キムただ、長いポニーテールを表現することは大きなチャレンジでした。安定して美しく動かすのは非常に難しいのです。(描写が)不安定になりがちな部分ではありましたが、開発チームの努力のおかげで実現できました。
――ちなみにポニーテールとショートカットでは、どれぐらい制作の難度が変わりますか。
キムあの髪型(ポニーテール)じゃなかったら、もしかしたら開発期間が1年ぐらい短縮できたかもです(笑)。
イときどき開発チームからも「もうちょっと髪の毛を短くできませんか」という声が上がってました。
――そこを折れずに長髪を貫いたのですね。
キム正直ちょっと折れました(笑)。なので、オプションでショートポニーテールを選択できるようにしました。
イそれ、折れたって言えますか?(笑)
――クリエイター魂を感じます。
各スタッフのこだわりが各所に健在
――揺れのほかに、服に滴る水の表現にもこだわりを感じました。棒につかまって体を揺らし、勢いをつけるシーンだと水滴が前に飛んで、戻るときだと重力に沿って水滴が落ちたりとか。ここまで繊細に表現した理由を教えてください。
キムじつは『ステラーブレイド』のすべてのものが、細かいところまでディレクションされているわけではありません。水滴みたいなものは、たぶん開発者個人の職人魂によって作られたのでしょう。そういうスタッフの思いが込められたディテールはたくさんあります。
キム水滴だけではなく、いろいろなところでオーバーディテールな部分を見つけることができると思います。スピーディーに物語を進めるのもいいですが、じっくりと細部に目を向けて、こだわりを見つけていただけるとうれしいです。
漢字は視覚的情報が豊か
――衣装にはそれぞれに発光している箇所が見られます。ここまで強調している理由はあるのでしょうか。
キムSFものなので、現実の衣装では作りにくい、実現しにくいものを取り入れようと思いました。光沢ですとか、あるいは発光するライティングの要素とか、そういったものを積極的に活用して、フューチャーリスティックなデザインにしました。
このような衣装はゲームをプレイしていく中で入手できますので、ぜひ楽しみにしていただければと思います。
―― SF感を表していたのですね。SF感と言えばメニューUIのデザインも未来感のある独特な感じですね。こちらも同様にSF感を重視したのでしょうか。
キムメニューUIはプレイに直結するものなので、デザインより動作のスピードや視認性を重視しました。デコレーション的な要素は、ほぼ意識せずにやっています。
ひとつあるとすれば、ゲームのアイデンティティとして、漢字をたくさん活用するようにしています。
キム漢字のデザインはとても魅力的だと感じておりますので、ゲームのいたるところに漢字要素を配置しており、UIについてもなるべく漢字を活用しようと思いました。
――漢字のどういった部分に魅力を感じるのですか。
キム漢字には文字自体に視覚的な情報が含まれていると思っております。なので、その漢字を見たときに頭に浮かぶイメージはほかの言語の文字より豊かなです。
不便に見えるかもしれませんが、デザイン的にはとても魅力がありますし、またアジア的な文化を伝えることができると思っています。
――ここでもアジアらしさを追求されたわけですね。
サブカルチャー要素としてフェチシズムを設定
――ほくろやそばかす、もみあげの毛など、コンプレックスとして受け取られやすい身体的要素が魅力的に描かれている印象を受けます。イヴのほくろの位置だった、リリーをそばかす女子にした理由について教えていただけますか。
キムいろいろな理由があります。たとえばキャラクターを表現するディテールについては、そのキャラクターが住む世界とマッチする必要があります。私も以前関わった『ブレイドアンドソウル』はデフォルメが強い作品で、マンガ的な表現のためにそのようなディテールは省略しておりました。
いまは描写できるディテールの精度も上がっていますし、現実的な光源、光の使いかたやオブジェを取り入れているので、それに合わせてキャラクターの表現もそれに合わせました。
リリーはキャラクター性を考えてそばかすの設定にした部分もあります。赤い髪とそばかすが私にとってはとても魅力的で、そのような要素を与えたいと思いました。
――そのリリーの衣装がへそ出しだったり、絶対領域が見えたりなど、フェチシズムが刺さる個性的な衣装が多いようです。こだわったポイントがあれば教えてください。
キム衣装の表現において、フェチシズム要素を慎重に活用すると、とてもいい効果があると思っております。なのでユーザーが見て「ここがかわいい」と惹かれるような、ある意味サブカルチャー的な要素としても加味しています。これはゲームにとって重要な要素のひとつではありますね。
次世代のゲームに合ったデザインに
――ゲームプレイに関して、イヴが物資ボックスを足で開ける動作が気になりました。なぜ足で開けるように設定したのでしょうか。
キム気持ちよさを求めて足を使うことにしました。手でそっと開けると時間もかかりますし、どうしても表現がありきたりになります。気持ちよく爽快にバーッと開けるような、そういう雰囲気にしたいと思ったので足を使わせています。
キムゲーム全般的に爽快感には気を遣っています。たとえばスピーディーな戦闘をしていて、宝箱のところでそっと開けると、ワンテンポ遅れてしまう。それで細切れ感が生まれるのが嫌だったんです。
――戦闘においてはパリィやジャスト回避など、敵の行動をよく見る必要のあるアクションがだいぶ重視されてると思います。なぜこのようなデザインにされたのでしょうか。
キムハックアンドスラッシュ系のアクションは、一方的に敵に攻撃を浴びせて、いかにコンボを華麗にくり出すかというところに主眼を置いているものが多いと思います。
私はそれよりも、敵の攻撃をしっかりと読んで、戦況を見極めて対応する、この瞬間のこの選択がカギとなるバトルにしたかったんです。なので、ジャストアクションで敵の攻撃の流れをこう止めたり、あるいは事前に遮断したりして、バトルを自分に有利な方向に運ぶというような形が、次世代のゲームには合っているのではないかと思いました。
キムジャストアクション自体ももちろん重要ですが、それによってゲージが溜まったり、それからつながるスキルがあったりなど、ジャストアクションが起点になる部分もあります。慣れればよりスピーディーでスムーズなバトルを楽しめると思います。
――体験版をプレイした後に再度オフィスにあるクレイフィギュアをみたところ、ストーカーの腹部に女性の顔があることに気づきました。そういった隠し要素は各ネイティブに組み込まれているのですか。
キム基本的にネイティブは嫌悪感を感じさせるデザインになっているので、目が変なところについていたりします。ストーカーの顔は、バロック時代の彫刻のデザインの影響を受けています。
その他のネイティブの中にも隠された要素がたくさんありますので、プレイした皆さんの目で見つけていただきたいと思います。
――個人的にフォトモードが欲しいのですが、そういったモードの実装予定はありますか?
キムいまはゲーム本編の開発に集中しているので、フォトモードまでは用意できていません。ユーザーの皆さんからご要望があれば、なるべく答えたいとは思います。
――僕がアンケートをいっぱい書けばいいんですね。
キムいっぱい書いてください(笑)。
――わかりました(笑)。最後に、日本のユーザーに対してメッセージをいただけますか。
キム『ステラーブレイド』は、前作『勝利の女神:NIKKE』とはまったく異なるアクション・アドベンチャーというジャンルになりました。主人公たちのデザインや世界観の魅力はもちろん、ゲームプレイについてもアクションゲームとしてワンランク上を目指したゲームデザインにしました。
ドラマチックな物語の表現など、プレイする中で主人公の魅力をたくさん発見できるようになっています。アクションゲームが得意な方はもちろん、そうでない方にも楽しんでいただけるようなストーリーモードなどもありますので、ぜひクリアーまでイブの旅を楽しんでいただけたらと思います。
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