インドゲーム開発関連会社の雄に迫る

 躍進著しいインドのゲーム産業。分けてもインド最大のゲームアートサービス会社として規模を拡大しているのがラクシャ・デジタルだ。同社はゲームアートアセットやアニメーションなどを手掛ける会社として、世界中のゲーム関係者から大きな注目を集めている。

 ファミ通では、そんなラクシャ・デジタルに取材をする機会を得た。同社のCEOマンベンドラ・シュクル氏らに、ラクシャ・デジタルとインドのゲーム産業の“いま”について聞いた。(聞き手:ファミ通グループ代表 林克彦)

インド最大手のアートサービス会社ラクシャ・デジタル

 インド最大手のゲームアートサービス会社。2D、3Dを含めあらゆるゲームアートサービス業務を行うが、とくにアートアセットやアニメーション、VFXなどに強みを持つ。2004年に現CEOのマンベンドラ・シュクル氏ら6人によって設立されて以降、着々と規模を拡大。2014年には、ゲーム開発の支援を業務とする世界最大規模の企業であるキーワーズスタジオの傘下に入る。現在世界に7つのオフィスを構え、スタッフは800人以上となる。

 取引のあるゲームメーカーは、Xbox Game Studio、エレクトロニック・アーツ、カプコン、KONAMI、グラスホッパー・マニファクチュア、スクウェア・エニックス、セガ、ソニー・インタラクティブエンタテインメント、プラチナゲームズ、フロム・ソフトウェア、ベセスダ・ソフトワークス、ユービーアイソフトなど多数。

インドゲーム開発関連会社の雄・ラクシャ・デジタルCEOに聞く。「インドゲーム産業はまさに成長の真っ只中」
インドのグルガオンにあるラクシャ・デジタルのオフィス。いわば本社的な存在で、親会社であるキーワーズスタジオのスタッフも含め、ここだけで600人が働いている。
インドゲーム開発関連会社の雄・ラクシャ・デジタルCEOに聞く。「インドゲーム産業はまさに成長の真っ只中」

◉マンベンドラ・シュクル氏
CEO(写真上段中央)

◉ムクンド・バシシュタ氏
カスタマーリレーションディレクター(写真上段左端)

◉パメラ・ヴァルゲーズ氏
通訳(写真上段左からふたり目)

◉マヤンク・ラジパット氏
ラクシャ・プネー スタジオ・ヘッド(写真上段左から3人目)

◉アヌパム・タプリヤル氏
スタジオアートディレクター(写真上段右端)

◉アナンド・パネルジー氏
プロダクション・ヘッド(写真下段左端)

◉アルジュン・アグニホトリ氏
ビジネス開発ディレクター(写真下段中央)

◉マニッシュ・バンダリ氏
スタジオプロジェクトディレクター(写真下段右端)

ラクシャ・デジタル公式サイト

コミュニケーションを重視した開発スタイルで高い評価を獲得

――まず、ラクシャ・デジタル(以下、ラクシャ)がどのような会社なのか、教えてください。

マンベンドララクシャは、ゲーム開発をサポートする会社として、2004年に設立しました。今年で20周年を迎えます。最初は6人からスタートしたのですが、いまは800人強になっています。いま、インドに3つのスタジオがあります。ヘッドクォーターであるグルガオンと、西にあるプネー、そして南インドにあるバンガロールです。インドのほかには、2015年にアメリカのシアトルにスタジオを設立しました。イギリスと日本にもチームがあります。2023年にはフィリピンのマニラにスタジオを追加しました。いま、トータルで7つのスタジオを擁しています。

――ラクシャでは、どのような業務を展開しているのですか?

マンベンドラ言ってみれば、ラクシャは世界中のパブリッシャーに向けて、ゲーム開発に必要なあらゆるサービスを提供しています。おもには、ゲームアートアセットやアニメーション、VFXの制作などですね。ラクシャは、ゲーム開発サポートという面から見ると、規模的には世界トップ5に入ります。

――ゲームに関連するここまで大規模の企業がインドにあることも知りませんでした。競合と比較したときの、ラクシャならではの特徴を教えてください。

マンベンドラひとつのキーポイントとなっているのが“マルチショア”の開発モデルです。“マルチショア”による開発方式を実践できているのは、世界でもほかに類を見ないと認識しています。

――“マルチショア”ですか?

マンベンドラはい。まったく異なる国と地域の企業に開発を委託することを“オフショア”と言いますが、それを発展させたものとして、“マルチショア”というスタイルを私たちは発想しました。

 たとえばですが、ラクシャのビジネスの70%の取引がアメリカのメーカーとのあいだによるものなのですが、先ほどお話しした通りラクシャはシアトルにオフィスを構えておりまして、ほぼリアルタイムでコミュニケーションを取ることができます。実際の開発部隊はインドに集約していて、シアトルのスタッフの役割は、インドの開発部隊と連絡を密に取ることになります。

 インドとシアトルで密に連携することで、ゲームメーカーさんの要望に的確にかつタイムラグもなく応えることができるのです。開発部隊にはベテランが多数在籍していて、まさにゲームメーカーの“延長”として機能します。さらに言えば、インドは人件費が比較的安く済むので、開発のコスト削減につながるというメリットもあります。

――コミュニケーションを密接に取れるというのは大きいですね。

マンベンドラさらに、“拡張性のある制作体制”もラクシャの特徴です。優秀な人材が揃っているので、何か問題点があった場合に、対応する能力が高いです。コミュニケーションとマネジメントが強みと言えます。

インドゲーム開発関連会社の雄・ラクシャ・デジタルCEOに聞く。「インドゲーム産業はまさに成長の真っ只中」

――いま現在ラクシャは、ワールドワイドでどれくらいのゲームメーカーと取り引きしているのですか?

マンベンドラ20年の長い歴史がありますので、グローバルで200〜300のゲームメーカーさんとお付き合いがあります。日本では、2008年に最初にユークスさんとお仕事をしたのを皮切りに、30社以上の日本企業とお付き合いがあります。関わったタイトルは50本以上です。日本のトップクラスのゲームの開発にも参加しています。

 日本はグローバルに見ても、私たちの非常に重要なパートナーです。そして、2024年は日本にさらにフォーカスして、日本におけるラクシャの存在感をもっと高めていきたいと思っています。

――日本語はいささか特殊ですが、日本のメーカーは言語の心配をせずに、ラクシャとやり取りができているのですか?

マンベンドラその通りです。さきほどコミュニケーションに力を入れているとお話ししましたが、ラクシャでは自社で翻訳者と通訳者のチームも作っています。チーム内には日本人もつねにいます。文化的な文脈も理解できるようにしています。日本のゲームメーカーさんには、過去15年にわたって信頼していただけるよう努力してきました。

――ラクシャも、どんどん成長しているということですね。

マンベンドラそうですね。毎日、何かしら新しいことを学んでいます。どのようにすれば物事がよくなっていくかということを日々考えていますね。

――2024年に日本市場での取引を増やすための戦略を教えてください。

マンベンドラまずは、ビジネス領域のスタッフを増やしたいと思っています。もうひとつの戦略は、日本の姉妹会社であるウィズコープとの連携ですね。同社はエンジニアリングの会社なのですが、ラクシャの持つアートアセットやアニメーションでの優位性を活かして、日本のゲームメーカーさんにさらなる有効なサービスが提供できるようにしていきたいです。先ほどお話しした通り、ラクシャの強みは“拡張性”なのですが、両社の強みを拡張して展開していこうと考えています。

――さきほどラクシャ全体のビジネスの7割がアメリカのメーカーとおっしゃっていましたが、今後は日本の比率をもっともっと高めていきたいということですか?

マンベンドラ現在は日本メーカーの比率は約20%ですね。将来的にはそれを35〜40%程度まで引き上げたいです。日本は、それだけのポテンシャルがある大きな市場だと期待しています。

――ちなみに、ラクシャという会社名の由来は何ですか?

マンベンドララクシャはヒンドゥー語で“ゴール”の意味です。ナンバーワンになる、ゴールを目指すという意味ですね。ビジネスのナンバーワンだけではなくて、会社としてもナンバーワンになりたいと思っています。

――2024年はラクシャは日本に注力していくとのことですが、今後に向けての抱負をお聞かせください。

マンベンドラくり返しになりますが、日本のゲーム市場には大きな可能性があります。日本のゲーム開発力はすぐれていますが、ラクシャならば十分なお手伝いができると思っています。気軽にお声かけください。

 一方で、日本のゲームメーカーさんにはインドのゲーム市場にも注目していただきたいです。日本のゲームはインドでも注目度が高いです。日本のゲームはインドで大きな可能性があると認識していますが、その成長を妨げることがあるとすれば、それは言葉の壁です。

 たとえば、日本の国民的なアニメである『ドラえもん』は、それまではそんなに注目されていなかったものが、ヒンドゥー語などにローカライズされた途端、家庭の人気者になったということもありました。『ドラえもん』だけではなく、日本のほかのアニメもヒンドゥー語にローカライズしたら、視聴者数は飛躍的に伸びました。さらには、最近日本語を勉強するインドの若者たちが増えています。それだけ日本に対する関心が高まっているんですね。

 日本のゲームメーカーさんには、ぜひインドにも注目していただきたいです。日本とインドでゲームのさらなる交流が深まれば、これにまさる喜びはないですね。

インドゲーム開発関連会社の雄・ラクシャ・デジタルCEOに聞く。「インドゲーム産業はまさに成長の真っ只中」
社内の様子をちょっぴりお届け。リラックスしながら打ち合わせができるスペース。
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こちらは、娯楽スペース。取材時はちょうど昼休みで、ビリヤードやサッカー盤にはたくさんの開発者たちが集まっていた。
インドゲーム開発関連会社の雄・ラクシャ・デジタルCEOに聞く。「インドゲーム産業はまさに成長の真っ只中」
開発フロアの傍らにある試遊スペースで、休み時間にゲームを楽しむ皆さん。こういった風景は洋の東西を問わず変わらない。
インドゲーム開発関連会社の雄・ラクシャ・デジタルCEOに聞く。「インドゲーム産業はまさに成長の真っ只中」
ラクシャ・デジタルでは新人を対象としたアートのコンテストも行っており、優秀賞に輝いたアートは壁に飾られている。

人材育成のためにゲームの教育学校も設立

――マンベンドラさんは、人材の育成にも積極的に取り組んでいるとうかがいました。そのあたりのこともお聞かせください。

マンベンドラはい。2012年にラクシャ インゲームアカデミーというゲームの専門学校を開校しました。2023年からは、キーワーズスタジオグループのキーワーズ インゲームアカデミーとして、インドの若手人材の育成に努めています。

 私が人材の育成に積極的に取り組むのは、私の経歴も大いに関係しているかもしれません。私は1986年からIT業界に関わるようになったのですが、当時インドにはコンピュータの教育というものがありませんでした。そこで私は会社を設立して、コンピュータ教育に取り組むことにしたのです。教育はとても大切です。数年前までのインドのゲーム業界は、1986年当時のPCに似た状況にあったと思います。

――インドのゲーム業界の成長、発展のためには教育が欠かせないと判断したのですね?

マンベンドラその通りです。もともとインドには、ゲーム企業をサポートするような教育施設がありませんでした。企業から求められるような人材を育てられる教育システムがなかったのです。どの業界でも同じだと思いますが、優秀な人材がいないとその産業は成長できません。ラクシャはインドゲーム産業のリーダーであり、人材の育成は自分たちの責任であると捉えています。

――インドゲーム産業の将来も見据えているのですね。

マンベンドラこの10年間で、私たちは教育環境を整えてきました。いまは400人以上の若者が、アート、QC(クオリティー・コントロール)、プロジェクトマネジメントの教育を受けています。就職率は90%以上で、多くの若者がラクシャに来たがります(笑)。さらに、2023年に新たにマニラにもインゲーム アカデミーを設立しまして、フィリピンの若者の育成にも励んでいます。

インドゲーム開発関連会社の雄・ラクシャ・デジタルCEOに聞く。「インドゲーム産業はまさに成長の真っ只中」
キーワーズ インゲームアカデミーの学生の皆さん。日々勉強に励む。

――マニラスタジオの人材の底上げにもつながるというわけですね。

マンベンドラインドゲーム産業全体の育成という意味では、“インドゲーム開発者カンファレンス(IGDC)”にも注目していただきたいです。これは、言ってみればインドのGDC(※)のようなもので、開発者どうしの技術交流の場ですね。2008年からスタートしたのですが、私も設立に関わりました。ラクシャのスタッフも多数運営に関わっています。

 昨年11月に実施したIGDC 2023は、4000人が参加して、合計130のセッションが開かれています。昨年は、ソニー・インタラクティブエンタテインメントの吉田修平さんにもお越しいただきました。開発者と投資家やパブリッシャーとの交流イベントもあって、業界にとって有意義だったのではないかと思っています。

※GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)は、毎年3月にアメリカ・サンフランシスコで開催されるゲームクリエイターのための世界最大規模のカンファレンス。

※“インドゲーム開発者カンファレンス(IGDC)”公式サイト(英語)

インドゲーム産業はまさに成長の真っ只中

――お話をうかがっていると、ラクシャはまさにインドゲーム産業のリーダーシップをとっていると思うのですが、そもそもいまのインドのゲーム市場はどのような状況なのでしょうか。

マンベンドラインドのゲーム市場は黎明期の段階にあります。いま、インドの人々はゲームがほかのエンターテインメントではできないような大きな可能性があることに気付き始めています。3、4年前までは、ゲームのことはあまり誰も話題にしていませんでしたが、いまゲームは新聞、雑誌、テレビ、SNSなど、あらゆる場所で取り上げられています。そして、インド産業もゲーム産業に可能性があることに気づいたのです。今後の取り組みに関しても盛んに議論しているところです。

――ゲーム開発者も増えているのですか?

マンベンドラそうですね。数年前まではゲーム開発者は少なかったです。いまは900以上の開発スタジオがあって、毎日のようにその数は増加しています。しかも、若者が自分たちでチームを作って、情熱を持って取り組んでいるというケースが増えています。インドのゲーム業界には、いま26000人の関係者がいますが、今後3〜4年で新規で25000人が増えると予測されています。ゲーム産業の波が来ているという手応えがあります。

――着々と成長しているのですね。ゲームをプレイするユーザーも増えているのですか?

マンベンドラいまインドには5億人のゲームプレイヤーがいて、毎年12%ずつ増えています。ご存じの通りインドには14億人の人口がいて、将来的にはゲームプレイヤーがさらに増える可能性が大いにあります。

――5億人! それはすごいですね。インドのゲームユーザーはどのようなゲームを遊んでいるのですか?

マンベンドラ2019年に『PUBG Mobile』が大ヒットして、インドメーカーだとGametion Technologiesのボードゲーム『Ludo King』も人気ですね。いずれにせよスマホゲームの人気が高く、売上ベースで全体の約86%を占めています。PCゲームが9%、家庭用ゲーム機向けが5%です。ほどんとの人がスマホで無料のゲームを遊んでいます。5年前までは、ほとんどの人がお金を払ってゲームを遊ぶことをしていませんでした。ちなみに、数年前にRMTのゲームが流行ったりもしましたが、昨年始めにインド政府が新しい税金のルールを決めたことで、徐々にシェアを下げています。

――PCと家庭用ゲーム機は、そこまでシェアを伸ばしていないのですね?

マンベンドラネックとなるのが価格です。インドでは、プレイステーション5だと50000ルピー以上(日本円だと約89000円)します。これは、インドの平均的な家族の月収の半分くらいなんですね。そしてソフト1本で5000ルピーくらいします。ハードを購入してソフトも買って……となると、相当敷居が高くなりますね。

――インドのゲーム産業の発展のためには、開発者が増えることも必要ですが、インドのさらなる経済の発展も鍵を握りそうですね。

マンベンドラそうですね。そういう意味では、インドの経済はだんだん成長していまして、ゲームプレイヤーの裾野が広がっていることは間違いないです。経済的に豊かな大都市はもちろんですが、もう少し小さな街でもゲームが楽しまれています。あと、家庭用ゲーム機普及のネックのひとつは、インドの親たちですね。PCと家庭用ゲーム機はほぼ同じ価格なのですが、インドの親たちはとても教育熱心で、どちらを買ってあげるかというと、PCを選択するだろうからです。

――なるほど。将来的に、インドのゲーム市場はどれくらいの規模になると想定していますか?

マンベンドラそれは難しい質問ですね(笑)。先ほどもお話ししました通り、いままでインドの人々は、ゲームに対してあまりお金を払ってきませんでしたが、そういう考えかたも少しずつ変わってきています。お金を出してゲームを楽しむことを少しずつ認識するようになったのです。

 少しだけ想像してみてください。5億人もの人がゲームに対して少しずつでもお金を出したらどのようなマーケットになるのか……。ことによったら、ハードとソフトを購入してもらって遊んでもらうというビジネスモデルよりも、5億人のユーザーに少しずつでも出してもらって楽しんでもらったほうが、市場としてはより大きくなるかもしれません。インド市場で存在感を放つためには、今後そういった発想の転換が必要になってくるのかもしれません。

――そんなことを考えさせるほど、インドのゲーム市場は魅力的ということですね。

マンベンドラとあるリサーチ会社によると、2023年のインドのゲーム市場規模は34億ドルで、年平均20%の成長率です。2029年までには72億ドルに達すると予測されています。これからの5年で、インドのゲーム市場は世界のトップ5に入ると思います。今後のインドのゲームにぜひとも注目していてください。

インドゲーム開発関連会社の雄・ラクシャ・デジタルCEOに聞く。「インドゲーム産業はまさに成長の真っ只中」

キーワーズスタジオに見るインドゲーム開発最前線

 ラクシャ・デジタルの親会社であるキーワーズスタジオのスタッフに、QA(品質管理)とローカライズについて聞いた。

【TOPIC 1】QAはとにかくセキュリティ重視

 QAについて教えてくれたのは、キーワーズスタジオで9年以上QAを担当しているというトーマス・ジョージ氏。完成したゲームが仕様に合致しているかの確認を行うQAだが、インドのオフィスでは、過去5年間で400以上のタイトルのQAを手掛けているとのこと。クライアントは世界中にいて、クライアントの希望に合わせて24時間シフト制で対応できる“24by7”というモデルで取り組んでいるという。家庭用ゲーム機向けはもちろん、PCやモバイルゲームもサポートしている。互換性のQAなどもあるようだ。

 QAでとにかく重視しているのはセキュリティ。自社の管理システムもあり、スタッフの意識向上のためのトレーニングなどもしている。センシティブなプロジェクトに関しては、専用のフロアも用意するという。

 アセットの管理もしっかりとしていて、強固なネットワークセキュリティも構築されているそうだ。トーマス氏いわく、「私たちには20年に及ぶ長いQAの経験があり、さまざまなタイプのゲームやプラットフォームなどにも対応していて、経験の蓄積があります。2言語以上を駆使する人材もいまして、高いクオリティーでのサポートを維持しています」とのこと。

【TOPIC 2】ローカライズもしっかり品質管理

 つぎに語ってくれたのはローカライゼーションマネージャーのアミット・チャドハ氏。世界中にスタジオを持つキーワーズスタジオだが、ローカライズは18の拠点で行われているとのこと。インドはマルチリンガルな国で、40以上の言語の翻訳サービスを提供しているというから驚きだ。

 各地域にはプロジェクトマネージャー(PM)と呼ばれる責任者がいて、ローカライズの品質をしっかりと管理しているそう(PMは最低でも2ヵ国語を使える)。翻訳を担当するのは、もちろん現地のネイティブスピーカーだ。PMがカバーできない言語もあるわけだが、ローカライズにあたっては2回のプロセスを踏むことで品質が保たれているとのことだ。ローカライズの組み込み作業は、セキュリティの見地から、すべてラクシャ・デジタルが行っている。

 なお、国の慣習などにより、ときにセンシティブな問題が生じることも。ローカライズでは、そういった文脈も把握して対応する必要もある、とチャドハ氏。ちなみに、キーワーズスタジオインドでは、ニュージーランドのモバイルゲームメーカー、ピッポークが作ったゲームで28言語(!)のローカライズをしたことがあるとか。

日本メーカーのラクシャ・デジタルに対する声

グラスホッパー・マニファクチュア 瀧口 翔氏

 ポートフォリオを拝見し、そこに掲載された作品の完成度に惹かれてご制作を依頼させていただいたのが、お仕事をするきっかけです。制作物に関しては、とくに高い精度の造形を要するクリーチャーやメカニック系アセットにおいて高いクオリティーのモデルを安定して制作していただいております。翻訳の体制が充実しており制作内容のすり合わせは問題なく、さらにデザインやワークフローの提案などもしていただけるため、安心して依頼できるのが魅力的だと感じています。

スクウェア・エニックス 『ヴァルキリーエリュシオン』 齋藤昌大氏

 他部署でのプロジェクトで高品質なモデルを作られていたのがラクシャ様でした。その後、2018年にプライベートでインドのデリーに行く機会があり、ついでにスタジオを訪問させていただきました。とても充実した環境で仕事をされており、いつかいっしょに仕事がしたいと思い、その後、依頼するにいたります。お仕事をするにあたっては、日本語でのやり取りにほとんどストレスは感じませんでした。丁寧なコミュニケーションと、徹底したスケジュール管理に安心して、仕事を依頼することができました。こちら側の意図を丁寧に汲み取っていただき、根気強く何度もフィードバックにも対応いただけた結果、アセットのクオリティーもすばらしいものになったと思います。

記者の目“ゲーム大国”になる可能性を大いに秘めたインド

 インドでのラクシャ・デジタルの取材に同行させてもらった。記者は寡聞にしてこれまでインドゲーム業界の事情に触れる機会はほとんどなかったが、取材をして実感するのはスタッフの皆さんのゲームに対する熱量の高さ。ゲーム開発をしていることに対する喜びをひしひしと感じることができた。ことにインドのゲーム産業を語るときの口調は熱く、「インドのゲーム事情を知ってもらいたい」との気持ちに溢れていた。

 インタビューでも触れている通り、現在インドではPCゲームや家庭用ゲームはまだそこまで遊ばれてはおらず、Nintendo Switchもインドでは公式に発売されていない。まさに“黎明期”といったところだが、ラクシャのような高い開発力を持つ会社の存在がインドのゲーム産業を引っ張っているようだ。マンベンドラ氏によると、ラクシャ自体は「自社開発タイトルには興味がない」とのことだが、インドにはインディーゲームクリエイターも増えているとのこと(なにしろ人口が14億人!)。今後、インドクリエイターが作ったゲームに接する機会も増えそうだ。世界有数の“ゲーム大国”となる可能性を持つインド。これからどのような道を歩んでいくのか……大いに注目したい。(編集部/古屋陽一)