2024年1月10日よりシーズン2が放送中の『ゲームゲノム』。テレビゲームを“文化”として捉え、古今東西の名作の魅力を深掘りするNHK初のゲーム教養番組だ。2021年にパイロット版が放送されて話題となり、2022年に全10回のレギュラー番組“シーズン1”がスタートした。

 ファミ通.comでは、そんな『ゲームゲノム』のスタジオ収録の模様を取材。本記事では、『ゲームゲノム』が作られていく過程や、ゲーム愛の詰まりまくったスタジオ収録のリポートをお届けする。

 記事の後半には、『風ノ旅ビト』を取り上げる第3回ゲストの清塚信也さん&結さん、そして番組MCの三浦大知さんのインタビューも掲載しているので、ぜひ最後までチェックしてほしい。

【ゲームゲノム】の創り方

NHK『ゲームゲノム』の創り方。番組に関わるすべての人のゲーム愛とこだわりが詰まりまくったスタジオ収録をリポート。MCの三浦大知さん、第3回ゲストの清塚信也さん&結さんのインタビューも

その作品の“ゲームゲノム”を抽出してまとめた企画書

 スタジオ収録の前に制作されるのが、出演者に見せるVTR。当然だが、さらにその前に取り上げる作品の掘り下げるべきテーマや詳細な構成を明確にまとめた企画書が存在する。紹介する作品の“ゲームゲノム”を抽出して、それを魅力的な番組にできるようにきちんと言語化する必要があり、総合演出の平元慎一郎氏が制作の中でもっともたいへんだと語っていた工程でもある。そんな企画書をご提供いただいた。

 『ファイナルファンタジーXIV』(FF14)を取り上げたシーズン2初回の企画書では、ゲストこそ決まっていないものの、“天地創造”という大テーマのほか、各VTRの構成、スタジオで想定されるトークの内容などが記載されている。

 実際に放送された内容と比較しても、言い回しやブロックの順番こそ変化があるものの、ほとんどそのままで、企画書時点で番組の方向性が明確に定められていたことがわかる。

NHK『ゲームゲノム』の創り方。番組に関わるすべての人のゲーム愛とこだわりが詰まりまくったスタジオ収録をリポート。MCの三浦大知さん、第3回ゲストの清塚信也さん&結さんのインタビューも

スタッフのこだわりが詰まったスタジオ

 収録スタジオには、各回で取り上げる作品にちなんだアイテムが飾られている。今回取材した『風ノ旅ビト』では、印象的なスカーフの柄をイメージした装飾(しかも、サーキュレーターでたなびいている!)や手作りのジオラマに加えて、モニターにもドット絵の“旅ビト”が表示されているなど、スタッフの愛やこだわりが感じられるものとなっていた。

NHK『ゲームゲノム』の創り方。番組に関わるすべての人のゲーム愛とこだわりが詰まりまくったスタジオ収録をリポート。MCの三浦大知さん、第3回ゲストの清塚信也さん&結さんのインタビューも
NHK『ゲームゲノム』の創り方。番組に関わるすべての人のゲーム愛とこだわりが詰まりまくったスタジオ収録をリポート。MCの三浦大知さん、第3回ゲストの清塚信也さん&結さんのインタビューも
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NHK『ゲームゲノム』の創り方。番組に関わるすべての人のゲーム愛とこだわりが詰まりまくったスタジオ収録をリポート。MCの三浦大知さん、第3回ゲストの清塚信也さん&結さんのインタビューも
作中で訪れる、さまざまな場所をイメージしたスタッフ手作りのジオラマ。クオリティーが高い。
NHK『ゲームゲノム』の創り方。番組に関わるすべての人のゲーム愛とこだわりが詰まりまくったスタジオ収録をリポート。MCの三浦大知さん、第3回ゲストの清塚信也さん&結さんのインタビューも
NHK『ゲームゲノム』の創り方。番組に関わるすべての人のゲーム愛とこだわりが詰まりまくったスタジオ収録をリポート。MCの三浦大知さん、第3回ゲストの清塚信也さん&結さんのインタビューも
ドット絵の“旅ビト”は、開発会社の“Thatgamecompany”にも存在しないため、番組で制作したとのこと。
NHK『ゲームゲノム』の創り方。番組に関わるすべての人のゲーム愛とこだわりが詰まりまくったスタジオ収録をリポート。MCの三浦大知さん、第3回ゲストの清塚信也さん&結さんのインタビューも
こちらの砂丘は番組冒頭のスタジオパートの始まりに使われている。砂塵のVFXと相まって、『風ノ旅ビト』をイメージさせる演出だ。
NHK『ゲームゲノム』の創り方。番組に関わるすべての人のゲーム愛とこだわりが詰まりまくったスタジオ収録をリポート。MCの三浦大知さん、第3回ゲストの清塚信也さん&結さんのインタビューも
壁に作中に登場した山のシルエット。ゲーム画面からキャプチャーした山の形に合わせて金型を作製し、照明を投影している。スタッフのこだわりを感じる。
NHK『ゲームゲノム』の創り方。番組に関わるすべての人のゲーム愛とこだわりが詰まりまくったスタジオ収録をリポート。MCの三浦大知さん、第3回ゲストの清塚信也さん&結さんのインタビューも

 また、シーズン2よりMCの三浦さんとゲストが実際にゲームをプレイする“プレイルール”と呼ばれるスペースに番組オリジナルのイメージイラストが新たに飾られているのだが、こちらを描いているのは『ファイナルファンタジー』シリーズでおなじみの天野喜孝氏。

 平元氏の熱い思いにより実現したそうで、詳細は下記インタビューで語られているので、そちらもぜひチェックを。

【ゲームゲノム】シーズン2に向けて

NHK『ゲームゲノム』の創り方。番組に関わるすべての人のゲーム愛とこだわりが詰まりまくったスタジオ収録をリポート。MCの三浦大知さん、第3回ゲストの清塚信也さん&結さんのインタビューも
NHK『ゲームゲノム』の創り方。番組に関わるすべての人のゲーム愛とこだわりが詰まりまくったスタジオ収録をリポート。MCの三浦大知さん、第3回ゲストの清塚信也さん&結さんのインタビューも

現場での空気感や流れを重視する収録スタイル

 収録前には打ち合わせが行われるが、MCの三浦さんとゲストは別々に行うようにしていた。その理由としてはいっしょに行うと、本番前に取り上げる作品の話題で盛り上がってしまうことがあるからなのだそう。もちろん、本番中に同じ話をしてもらうこともできるが、やはり初めて話したときとはテンションや反応が変わってしまうため、打ち合わせを別々に行っているとのこと。

 また、本番中には台本に記載されている三浦さんやゲストへの事前ヒアリングを基にしたトーク内容と異なる話題が展開されることもあった。しかし、スタッフは止めることなく収録をそのまま続行。さらにその話題が盛り上がり、当初予定していた時間より押していたが、「プレイルームの収録時間を削って、このままトークを続けてもらいましょう」と番組班が判断。現在の空気感や流れを大切にしていたのが印象的だった。

 なお、収録後に実施した平元氏へのインタビューでは、「スタジオの空気感でトークがどのように展開されていくかは読めないところがあります。でも、それがこの番組の醍醐味です。僕らが想像もしなかった秘話が飛び出したり、台本にはなかった解釈が生まれることもある。スタジオトークは、ドキュメンタリーだと思って撮影しています」と意図が語られている。

NHK『ゲームゲノム』の創り方。番組に関わるすべての人のゲーム愛とこだわりが詰まりまくったスタジオ収録をリポート。MCの三浦大知さん、第3回ゲストの清塚信也さん&結さんのインタビューも
スタジオの席配置は、三浦さんをセンターに三角形に座ることで、三浦さん以外はトーク中にスタッフやカメラマンが目に入らないようにしているとのこと。
NHK『ゲームゲノム』の創り方。番組に関わるすべての人のゲーム愛とこだわりが詰まりまくったスタジオ収録をリポート。MCの三浦大知さん、第3回ゲストの清塚信也さん&結さんのインタビューも

『風ノ旅ビト』を取り上げる第3回ゲストの清塚信也さん&結さんにインタビュー

 『風ノ旅ビト』を取り上げる第3回の収録後にゲストの清塚信也さんと結さんにインタビューを実施。収録の感想や『ゲームゲノム』の印象などを語っていただいた。

NHK『ゲームゲノム』の創り方。番組に関わるすべての人のゲーム愛とこだわりが詰まりまくったスタジオ収録をリポート。MCの三浦大知さん、第3回ゲストの清塚信也さん&結さんのインタビューも
清塚信也さん
NHK『ゲームゲノム』の創り方。番組に関わるすべての人のゲーム愛とこだわりが詰まりまくったスタジオ収録をリポート。MCの三浦大知さん、第3回ゲストの清塚信也さん&結さんのインタビューも
結さん

――出演のオファーをあったときはいかがでしたか? また、このタイミングで『風ノ旅ビト』を取り上げると聞いたときの印象も聞かせてください。

清塚私は好きなゲームを発売から時間が経った後にまたプレイすることもあるので、時期についてはあまり気になりませんでした。むしろ『ゲームゲノム』は、ゲームをひとつの文化として取り扱っている番組なので、『風ノ旅ビト』が選ばれたことには必然性を覚えました。

 『風ノ旅ビト』はアクションやグラフィックもさることながら、音楽にもかなり深い意味がある作品で、作曲を担当したオースティン・ウィントリーさんは作曲家として注目すべき方だと思いますし、私も尊敬しています。そんな音楽が重要な作品を取り上げる回に呼んでいただけてとても光栄でした。

――収録を拝見していても話したいことがたくさんありそうでした。

清塚ゲームを体験して感じたことなどはもちろんのこと、音楽についてもいろいろなことを話したいと思っていました。そういう話ができるのは私以外にはいないでしょう……というのは冗談です(笑)。

(笑)。私はシーズン1で『This War of Mine』を取り上げた回にも出演させていただいたのですが、そのときは戦争時下における民間人を描くゲームということで、特徴がわかりやすい作品でした。なので、そのときは「これとこれとこれは絶対に話したい」というのをすぐに用意出来たのですが、『風ノ旅ビト』ではどの視点で深堀りするか、いくつかの選択肢が浮かんだので、オファーをいただいてから収録までの2ヵ月間ほどずっと頭を抱えながら過ごしていました。

――すごく悩まれたのですね。オファーがあったときはどういうお気持ちでしたか?

じつは『風ノ旅ビト』を取り上げる回のディレクターさんは『This War of Mine』の回と同じ堀江凱生さんなんです。堀江さんはふだんニュースやドキュメンタリー番組を作られている方で、「このゲームを取り上げるということは、ゲームを“非現実を楽しむもの”で終わらせずに“現実を見つめるもの”として扱ってくれるんだ!」と思い、『ゲームゲノム』という番組の広がりも感じられて「絶対にやりたい!」と即決でオファーを受けさせていただきました。

清塚大知ちゃん(MCの三浦大知さん)がミュージシャンということもあって、『ゲームゲノム』は本当に振り幅がありますよね。『風ノ旅ビト』の回のように芸術性のあるアプローチもできるし、科学的なアプローチもできるし、彼のゲーマーとしてのスキルを活かしたゲームとしての評価もできますし。

――そうですね。教養番組としてゲームにフォーカスして、これだけ深く掘り下げる番組は、ほかにないですよね。

なかったと思います。

――出演者から見て、『ゲームゲノム』がほかのゲーム番組と違うと感じる部分はどこでしょうか?

何もかもが違う気がします。私は収録に臨むにあたって、卒論を書くんじゃないかというくらい、「ああでもない、こうでもない」をくり返して、A4用紙10枚ほどのメモを用意していました。収録直前までそのメモを見て、「これを全部話すぞ!」と戦いに行くような気持ちだったのですが、いざ収録が始まってみると、とにかく楽しくて。私がまとめた内容はひと言も話せなかったとしても、三浦さんと清塚さんといっしょにそれぞれが持ち寄ったことにものについて本気で語り合いたいと思ったんです。

――収録中に心境の変化があったんですね。

そうなんです。あぁそんなに必死にならなくても、ゲーム愛に満ちたこの空間で素直に話せば、きっといい収録になるなぁと安心しちゃって。そういう気持ちになれたのは、『ゲームゲノム』だからこそだと思います。

 ほかのゲーム番組との違いという点については、多くのゲーム番組が「この作品にはこういう特徴があります」、「この要素はほかの作品にない魅力です」とゲームの情報を届けることが主目的になっていると思います。でも、『ゲームゲノム』はそういった情報よりも、番組に集まった人たちがその作品から何を感じたのかということを重要視している、とても贅沢な番組だと思います。

 私もゲームが好きでゲームを紹介する仕事をしていますが、やっぱりそこをいちばん大切にしてますし、そういったエピソードを持ち寄って話せる機会というのはほとんどないので、とても貴重な経験をさせていただいているなと。また、いちファンとして番組を拝見させていただいていると、「ゲームは娯楽だけではない」ということがしっかりが伝ってきて、ゲームを一歩進んだ新しいステージに連れて行ってくれる番組だと感じています。

――そうですね。収録では清塚さんが本当に楽しそうに話されていたのが印象的でしたが、清塚さんはいかがでしたか?

清塚大知ちゃんとはいつもゲームの話をしているので、それの延長線上というか、まさにそれでしかないというか、「収録していたっけ?」くらいの感覚でした。嘘がないのが彼のいいところで、こちらも思ったことを素直に言えるのは、MCとしての素質だと思いますし、それありきの番組だなとも感じました。

 この番組ならではという点については、やはりほかのゲーム番組はゲームをプレイしている様子が中心になっていますが、『ゲームゲノム』はそうではなく、プレイした人たちが考察を持ち寄るというのが特徴ですよね。

 しかも今回で言えば、ゲームから離れて、自分の人生とは何だったのかということを話し合ったりもして。それは、人類が文明を築くうえでコミュニティを作るという大切なところのひとつをゲームが担っていて、そこから何を感じるかということだと思うんですよね。そういう意味では、社会的なゲームの立ち位置を定義してくれている番組という印象もあります。

――台本もいただいていたのですが、台本とは違うことを皆さんが話されていて驚きました。

清塚だって、カンペが出てないんですもん。

そうなんですよ。恐ろしくないですか。三浦さん以外は何も持っちゃいけないと言われて。

清塚私は持つ気もないから(笑)。

(笑)。私はビックリしちゃって。

――スタッフの皆さんも台本と違った流れになっても止めず、その場の空気感を大切にされているみたいでしたね。

清塚そうなんです。なので、私はこの番組に関しては台本やカンペを読む気がなかったです。打ち合わせで言っていたことと違ったことを話したかもしれないですが、私は大知ちゃんと結さんとの会話を大切にしたかったので、まったく気にしていません。結さんも収録前はまとめたものを話そうと思っていたけれど、収録が始まって「そうじゃない。この場を楽しもう」と気持ちが変化したのは、そういうことじゃないかなと。

そうですね。でも、じつは私、相当打ち合わせしたんですよ。というのも、シーズン1の『This War of Mine』の後、『クローズアップ現代』でインディーズゲームと取り上げるときにも堀江さんとごいっしょさせていただいたのですが、ふたりで打ち合わせをして作っていくことがめちゃくちゃ楽しかったんです。おそらく堀江さんもそう感じてくださっているのではないかと思っていて、今回も数えきれないほど打ち合わせをしました。

 その中で、「先週はこう言いましたが、やっぱりこうだと思います」ということを何回もくり返して、台本にも書いていただいていたのですが、本番ではまったく違う話をしているんですよね。

清塚ごめんね。そんなことになっていたことを知らなかったから。

いえいえ! そういうことではなく、私は「ああでもない、こうでもない」ということをやらないと導き出せないんですよ。

清塚なるほど。本当の思いまでたどり着かないと。

そうなんです。本番ではリラックスして楽しく話していましたが、私がそこに至るまで試行錯誤をくり返していたからこそ、本番でああいったお話ができたんだと思います。あとはそれをおふたりがやさしく受け止めてくださったので。

――すごくいいクロストークでしたし、皆さんも収録中にそれぞれ気付きがあって、それをすぐに言語化されているのがすばらしいなと思いました。最後に『ゲームゲノム』という番組にどのような印象を持たれているのかということをお聞きできますか?

清塚私としては今回の放送が物語ってくれていると思いますが、収録で“アートとは何か”というような哲学的な話になったんです。そこから「ゲームをアートと言っていいのか?」という話にもなったのですが、けっきょく私が出す答えというのは、すべての人間の思いや行動、言動にアートや文化、哲学というものは眠っていて、そこをクローズアップするかの問題だと思うんです。

 ゲームはたかだかボタンを押して動かしているだけかもしれないけれど、そこから何を見出すかはゲームをプレイしている人に委ねられていて。それはゲーム以外でもなんでもそうで、たとえばコミュニケーションでも、ひと言の挨拶の重みに哲学を見出そうとしたら、一生分掛かるほど考えられると思うんです。

 だから、私はそうしてゲームを哲学やアートとして定義してくれる番組が『ゲームゲノム』だと思っていて。「ゲームでこれだけ考えられるんだぞ」ということを提示することによって、いろいろなことを顧みられる。ほかでもいろいろな哲学を見出したり、アートを見出したりという可能性がこんなに眠っているんだということを、何かに依存したり、何かにごまをすったりせずに、正面から勇気をもって“ゲームは文化だ”という定義のうえで成り立っているということを示してくれている番組なのかなと思います。

いまの時代はゲームの魅力がたくさん語られ尽くされているなかで、ゲームがそもそも体験であるということを『ゲームゲノム』以上に重きを置いているものはないのかなと。体験であるからこそ、体験した人がどう感じたか、どう思ったか、どう影響されてどう生きているかということなどを知ることによって、むしろゲームをより深く知ることができるのに、そういうことをしようとした番組がこれまではひとつもなかったと思うんですよね。だからこそ、すごく新しくて、「なんでいままでしてこなかったんだろう。もっと早く作ってほしかった」と思うくらいの番組ですし、革新的だなとも感じています。

 タイトルラインアップについても、『デス・ストランディング』(パイロット版として放送)や『ペルソナ5』といったタイトルが並ぶ中でシーズン1で私が出演させていただいたのが『This War of Mine』で、最初の聞いたときは「そうきたか!」と驚かされました。そのゲームがどれだけ知られているかという知名度よりも、その作品で何かを感じ取った人がいるということを重要視してくれているのがすごくうれしいです。

 また、ゲストのキャストディングも絶妙で、今回ごいっしょするのが清塚さんだと聞いたとき、「絶対にお話を聞きたい!」と思いました。じつは私は脳内で「この作品を取り扱うなら、この人がゲスト」というように“私が考える最強の『ゲームゲノム』”をシミュレーションしているのですが、毎回その想像を超えてくれるんです。

 MCの三浦さんもフラットな感覚と言いますか、本当に嘘偽りがなくて、安心して本当のことが言えるんですよね。それこそ今回の収録では、『風ノ旅ビト』の制作者であるジェノヴァ・チェンさんのインタビュー映像があったのですが、その中で「これはこういうことです」と言ったのに、私はそうは思わなかったみたいなことすらも言えてしまって。

 じつは、それってすごく勇気のいることなんですよね。「えっ、制作者が言っているのに?」みたいな空気になっていたら、私も言えたかわらからないですが、それを言ってもいいと思わせてくれる空気がスタジオ中にあったんですよ。そういう空気になっていたのは、その人がゲームをプレイして感じたことを何よりも大切にして、すべてを信じてくれているからこそだと思います。だからこそ、これからもシーズン2以降も番組が続いてくれることをいちファンとしても願っています。

番組の大黒柱とも言えるMCの三浦大知さんにインタビュー

 記事の最後は総合演出の平元氏が“番組の大黒柱”とも語るMCの三浦大知さんのインタビューをお届け。MCとして心掛けていることや『ゲームゲノム』への思いなどをうかがった。

NHK『ゲームゲノム』の創り方。番組に関わるすべての人のゲーム愛とこだわりが詰まりまくったスタジオ収録をリポート。MCの三浦大知さん、第3回ゲストの清塚信也さん&結さんのインタビューも
三浦大知さん

――『ゲームゲノム』という番組について、どのような印象をもたれていますか?

三浦もともと小島さん(小島秀夫監督)の『デス・ストランディング』をパイロット版として放送されていたときに、いち視聴者として観ました。いわゆる情報番組ということではなくて、ゲームに根付いている本質というか、そういったものをしっかり紐解いていくという形だったので、とても素敵な番組だなと思っていたので、途中から自分が関わらせていただけるとなったときはとてもうれしかったです。

――収録を拝見していて、ゲストやクリエイターの方々のお話を引き出すのがすごく上手だなと感じました。

三浦ありがとうございます。『ゲームゲノム』が人生初のMCなので、自分ではうまくできているのかぜんぜんわからなくて、とにかく必死です(笑)。でも、クリエイターの方々にお会いできるのは幸せなことなので、毎回ドキドキしながらも楽しく収録しています。

――初めてのMCだとは思えなかったです。『ゲームゲノム』は、ゲームの本質を引き出すという番組ですが、ゲストやクリエイターの方にお話しを聞く際に意識されていることなどはありますか?

三浦もちろんすべてのジャンルをプレイしてきているわけではないですが、そもそも僕自身がゲームが大好きなゲーマーでもあるので、そのゲーム愛が来てくださった皆さんにしっかり伝わるといいなというのがひとつあります。

 また、毎回特集させていただく作品が決まっているので、その作品をプレイして感じたことなどをフラットに皆さんに届けられるようにしていますし、皆さんにお話しいただく際も楽しく会話ができるように意識しています。

――収録を拝見していて、それはすごく伝わってきました。

三浦それはよかったです。あと、『ゲームゲノム』のスタッフの皆さんは熱量がえげつないんですよ(笑)。『ゲームゲノム』のホームページには、“ゲームゲノムnote”という、その回をディレクションされた方などが書くブログのようなコンテンツがあるのですが、そこには常軌を逸していると思えるほどのゲーム愛があって。でも、それはゲーマーだとすごく共感できるんですよね。

 自分が好きな作品にこのぐらい熱を込めているということがわかるので、ぜひそちらもチェックしてみてほしいのですが、そのスタッフさんの思いや熱量も含めて、ゲストさんとともに意見を交換し合いながら、作品に対しての考えだったりを深めていけるといいなという感覚です。まだまだMCとしてのテクニックなどはないので、とにかく皆さんが楽しくフラットにお話できる場所になるといいなという思いでいつも収録に臨んでいます。

――スタッフの熱量という意味ではセットとして、『風ノ旅ビト』の回のフィギュアはスタッフの手作りという話を聞きました。そういった部分からもすごく熱量を感じますよね。

三浦そうですね。そのほかにも番組中に流すVTR中のゲーム映像はスタッフさんが撮影しているので、たとえば「ゲーム終盤のあのシーンを見せたい」と思ったら、そのシーンまで実際にプレイする必要があるんですよね。

 そうなのにも関わらず映像にも一切妥協がなくて、いつもすごいなと感じています。番組ではそのVTRを基にトークをくり広げていくので、スタッフさんの熱量に応えられるように心掛けています。

――収録では、三浦さん自身のゲームの知識も深いなという印象を受けましたが、番組ではさまざまなゲームを取り扱うため、ときには詳しくないタイトルもあるかと思います。そういった部分のご苦労についてはいかがですか?

三浦たとえば、シミュレーションゲームはあまりプレイしたことがなかったのですが、そういうタイトルを取り扱ことがありました。そのときは、とりあえず触ってみて、「こういう感じなんだな」と自分がプレイした体感みたいなものを収録のときに伝えるようにしました。

 ただ、ゲームに限らず、映画、マンガ、アニメなどのすべてに言えることだと思いますが、それぞれの作品には本当にコアなファンの方たちがいらっしゃいますよね。だから、たとえば自分があまり触れて来なかった作品だったときに知ったかぶりをして、「こういう感じですよね」と言うのは違うと思うんです。

 なので、「ここまではプレイしましたが、その先までは辿り着けませんでした」と誤魔化したりせず、しっかりと説明したうえでゲストやクリエイターの方々とお話しすることが大切なんじゃないのかなと。ただ、できる限りすべてをプレイして、そのとき感じた思いなどを伝えられるように心掛けています。

――今回取材させていただいた『風ノ旅ビト』では“人生という旅”、『ニーア オートマタ』では“罪と罰”というように各回テーマが決まっていますが、テーマは事前にスタッフさんから伝えられていて、プレイする際にもそれを念頭に置かれているのでしょうか?

三浦テーマは収録前にお伝えいただいていますが、ゲームをプレイするときはあまり考えずにプレイしていますね。というのも、できるだけゲーマーとしてフラットにゲームを楽しむ中で「これは何なんだろう?」と気になったことをメモしておいて、これだけは聞きたいと思ったことを収録でお話しできるほうがいいのかなと。なので、テーマはあまり意識せず、いちゲーマーとして楽しみながら、プレイしたときの体感というものを重視するようにしています。

――我々、ゲームメディアもゲームを紹介する役割を担っていますが、『ゲームゲノム』とは少し違ったものだと感じています。三浦さんの中で『ゲームゲノム』の唯一無二のポイントだったり、魅力をアピールするとしたら、どういうところだと思いますか?

三浦ふつうに考えるとおかしいと思うのですが、既に収録済みの回で現在はもうプレイできない作品を取り上げたんですよ(笑)。

※1月31日放送予定のシーズン2 第4回で『甲虫王者ムシキング』、『オシャレ魔女 ラブ and ベリー』を特集。

――確かに(笑)。こういうところがおもしろい、すごいのでプレイしてみてくださいというのがふつうですよね。

三浦そうなんです。そういう話をしても誰もプレイできないんです。ただ、ディレクターさんのその作品にかける思いを聞いたときに「さすが『ゲームゲノム』だな」と思いましたし、それをやってしまうのもすごいなと。

 ただ、この番組はその作品を遊んでどう感じたか、自身の人生にどういう影響を与えたということを語り合いながら、ゲームを紐解いていくことを大切にしているからこそ、ゲーム“ゲノム”というタイトルなのだろうなと。

 ゲームが持っているゲノム(遺伝子)がゲームを通して自分たちに入ってきて、幼少期に見たとあるシーンが忘れられず、大人になったいまもそのシーンを思い出して、こういう風に考えなきゃとなったりするのがゲームだと思うんです。

 それを実際に体験したスタッフさんたちがひとつひとつ丁寧にキーワードを決めて、作品を紐解いていきながら、「なぜ人生に刻まれるような作品になったのか」ということをクリエイターの方を交えて話し合って、その体験や作品の深みを皆さんとシェアしていくのが、『ゲームゲノム』ならではの魅力なのかなという気がしています。

――最後に読者の皆さんにメッセージをお願いします。

三浦シーズン2は全10回ですでに8回分の収録を終えましたが、本当にやればやるほどゲームというエンターテインメント作品が持っている深さやクリエイターの皆さんたちがどんな気持ちで作られているのかということをスタジオで目の当たりしています。

 シーズン2の全10回はかなり濃密なタイトルラインアップは、きっとその作品を知っている方はよりその世界が深くなると思いますし、知らない方にとっては新しいエンターテインメントの扉をノックしてくれるような、とても素敵な番組になっていると感じています。

 ただ、正直にお話しすると何回やってもすごく足りない感じもしていて、「あの作品もやりたい、この作品もやりたい」という気持ちになります。これは自分がMCだからということではなくて、いちゲーマーとしてずっと続いてほしいと思うんですよね。なので、自分自身も関わらせていただいている以上はがんばりますし、それが実現して、シーズン3、シーズン4……と、どんどん続いていったら最高だなと思っています。