くっ、してやられたぜ……!
ただでは終わらないと思っていたが、そう来るとはな……。
2017年6月にサービスを開始したバトルファンタジーRPG 『SINoALICE -シノアリス-』(以下、『シノアリス』)。そんな本作が、2023年12月26日に“エンディングに関わるアップデート”を経て、2024年1月15日12時をもって全サービスの提供終了を発表。約6年間にわたって綴られてきた物語に、幕を下ろすこととなった。
それから約1週間を経た2024年1月24日に、“『シノアリス』サービス終了記念座談会”が新宿バルト9にて開催された。
本イベントは、抽選で選ばれた140人のユーザーを招き、『シノアリス』のキーマン4名が積もる想い出を語り合うというもの。
……のはずだった!
おれは座談会の軽快なトークを聞いていたと思ったら、サイコーに上質なモノガタリを観させられていた。な……何を言って(略)
詳細は下記に。
ステージには、ポケラボのプロデューサー前田翔悟氏、スクウェア・エニックスのプロデューサー藤本善也氏、ILCAの映像ディレクター・アオキタクト氏、原作・クリエイティブディレクターのヨコオタロウ氏が登壇。
前田氏が司会を務める形で、キーマン4名による座談会はスタートし、最初の話題は『シノアリス』のエンディングについて。
『シノアリス』では、エンディングを迎えたユーザーの名前が“お墓”に刻まれるシステムが採用された。詳しく言うとサービス終了後にもサーバーにユーザー自身の各種データが残り、アプリから閲覧可能になるという仕組みが実装されていた。アオキ氏が来場者に向け「お墓に入ったひと~?」と声をかけると、ほぼ全員が挙手。さすが、コアなファンが集まっている。
前田氏によれば、述べ約3万1800人がお墓に入った(エンディングを迎えた)とのこと。この前例のないエンディング方法に向け、うまくいくか不安だったと振り返り、終了発表後にユーザーが殺到することを見越してログイン制限機能を実装したものの、実際に使うことはなかったというエピソードで会場の笑いを誘う。それでもエンディング実装初日はサーバーが落ちる寸前だったようだ。
エンディングはサービス開始前の7年前から想定されていたもので、当時ヨコオ氏が書いたプロットの通り、そのままの形で実装したという。
サービスが終了し、現在の心境を聞かれた藤本氏は、「やっと終わった気持ちと、終わってしまったという気持ちが入り混じって複雑です。コンサート第2弾を実現したかった」と心残りがあることを打ち明けた。じつは、サーカスのテントを使った大掛かりな企画を考えていたらしい。
ヨコオ氏から「やり残したことは?」と聞かれた前田氏は、「結婚です。オフラインイベント会場でも“シノアリス婚”をしたというファンの方の声をたくさん聞きました。でも、僕は『シノアリス』で幸せをつかめませんでした」と答え、会場は大爆笑。
一方、アオキ氏は「やり残したことはひとつもない!」と強く返答。初期段階でエンディングの構想を聞いたときに、ぜひエンディングムービーも作らせてほしいと即答したとのこと。1~2年でエンディングを迎えると思いきや、7年かかるとは考えていなかったといい、「やっと終われた」という心境だという。
サービス終了後もデータ閲覧が可能なアプリ“シノアリスだったナニカ”を実装した経緯について、ヨコオ氏は「ソーシャルゲームにおいて、サービスが終了すると課金やプレイが無意味だったと思えるとの意見もよく聞きます。そこで『シノアリス』では、プレイしたことの意味が形で残るようにしたかった」と語り、『シノアリス』らしさを考えたとき、その答えが“お墓”だったとのことだ。
と、ここで前田氏から、サービス終了に際してアオキ氏が、記念(?)PVを作ってくれたと発表。「ちょっとしたものですが、御覧ください」とアオキ氏から紹介があり、そのまま会場のスクリーンで上映の運びとなった。
そしてPVが始まり、観終わったときには1時間以上が経過していた。
え……?
よくもだましたアアアア!
うれしすぎる!
PVと紹介された映像は、じつは“一番最後のモノガタリ”と題された、劇場公開用のファンムービーだったのだ!
このファンムービーの概要やあらすじについては、こちらの記事を参照してほしい。
その内容はもちろんネタバレになるので書けないのだが、全編3DCGで描かれ、アリス、赤ずきん、スノウホワイト、いばら姫、シンデレラなどおなじみのキャラクターズが登場し、狂気と絶望、エロとグロにまみれた『シノアリス』節が全開のモノガタリが展開。陰鬱で目を背けたくなるようなシーンの連続、不気味でコミカルなギシンアンキ、そして怒涛の展開から迎えるエンディング……これも『シノアリス』のひとつの形だと言える圧巻のものだった。
よくもだましたアアアア!(喜)
上映後にはステージに再び4名が登壇し、本イベントが座談会ではなく“ファンムービー完成披露試写会”であることが告げられた。アオキ氏は「これでやっとオレの『シノアリス』が終わりました。やっとこのファンムービーをお披露目することができました」と感慨深くコメント。
この作品について、構想はサービス開始前からあり、ゲームに携わっているスタッフがふだんの仕事の合間にコツコツと制作を進めていたものだという。「本当に自主制作で、自分の声もいろんなところで使っています」とアオキ氏が制作の背景を語った。
そしてイベントの終了に際し、アオキ氏は「会場にはいっしょに『シノアリス』を作ったスタッフも来ています。壇上の4人ではなく、いちばん拍手を贈ってほしいのはこのスタッフたちです」と述べると、会場は大きな拍手に包まれ、そのまま本イベントもフィナーレを迎えた。
本当にただでは終わらない。前例のないことを仕掛けてくる『シノアリス』らしい、ラスト(なのか?)イベントとなった。ファンムービーの劇場公開や、コミック最終巻の発売など、まだもう少し『シノアリス』の楽しみが残されている。サービス終了発表からの怒涛のサプライズ&メタ展開はまさに『シノアリス』の集大成と言えるものだった。